2004年以降、セキュリティへの関心が高まる
加山恵美
2008/6/19
@IT自分戦略研究所およびJOB@ITでは年に2回、読者調査を実施している。各回の調査内容に多少の変化は見られるものの、ITエンジニアの保有スキル動向や転職意向に関しては定点観測が行えているといえる。過去15回の読者調査レポートを参考にしながら、ITエンジニアの保有スキル動向およびキャリア観の変化を調べた。 |
■回答者は30歳前後のエンジニア
@IT自分戦略研究所およびJOB@ITでは、その前身であるEngineer Lifeフォーラムも含め、2001年7月から2007年11月まで15回の読者調査を実施してきた。初回の有効回答数は145だったが次第に数を増して2005年11月には1000を超し、以来ほぼ安定している。
実施年月 |
有効回答数 |
主な項目 |
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2001年7月 |
145 |
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2001年11月 |
249
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2002年3月 |
314
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2002年7月 |
392
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2002年11月 |
455
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2003年3月 |
452
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2003年7月 |
512
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2004年8月 |
914
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2004年11月 |
467
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2005年4月 |
502
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2005年11月 |
1109
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2006年4月 |
964
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2006年11月 |
912
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2007年5月 |
742
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2007年11月 |
996
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表1 2001年7月〜2007年11月の読者調査、有効回答数と項目一覧 |
回答者層を見ると、ほぼ一貫して中堅のITエンジニアが中心となっている。年代では常に20代後半が最も多く、加重平均では30〜33歳で30歳を少し越える。業務内容ではITの開発や運用にかかわるエンジニア、就業形態は一般社員というのが一般的な回答者のプロフィールとなる。同時にこれを@ITの読者層として考えていいだろう。
■保有スキルのトップはWindowsシステム管理
@IT読者はどのようなスキルを保有しており、どのようなスキルを伸ばしたいと思っているのか。まず保有スキルだ(図1)。多少変動はあるが、順位はほぼ安定している。常にトップを維持しているのがWindowsシステム管理で、数値で見ると常に半数弱ある。これは同じOSに関するスキルであるUNIXやLinuxの倍近くはある。WindowsはUNIXやLinuxと比べ敷居が低いというのも理由にあるだろう。
Windowsシステム管理に続くのはデータベース、ネットワーク、Javaである。それぞれ分野は違うが、これらはITスキルの基本であり、多くのITエンジニアが「たしなみ」として保有しているもののようだ。
図1 現在の保有スキル(2003〜2007年調査、複数回答可) |
■スキルアップ希望のトップはセキュリティ
では今後スキルアップしたい分野はどうだろうか(図2)。近年の傾向ではセキュリティがトップに躍り出たと考えていいだろう。ただセキュリティのスキルといっても具体的に何をマスターすればいいか、どこまで防御すれば安全か、その判断基準は難しいところだが、上場企業を中心に内部統制が一般化するなど必要性が高まっているのは確かだ。何が脅威となるか、普段からまめに情報収集してセキュリティの知見を高めようと努力しているITエンジニアの姿が浮かぶ。
近年、人気が定着しているのはネットワークやXML/Webサービスだ。Webアプリケーションの普及とともに必要になるスキル群である。またデータベースは成熟した分野であり近年下降気味だったが、2007年で少し回復した。これは2006年以降XMLデータベースの人気が再燃しているため再注目されたと見られる。
Linuxやオブジェクト指向は数値が下降気味である。ただし保有スキルとしては着実に伸びている分野である。ITエンジニアがこれらのスキルを習得したことにより、「希望」から「保有」へとステイタスが移行したのかもしれない。習得済みというと、最も進んでいるのがWindowsシステム管理、次いでクライアント/サーバシステムだ。
図2 今後伸ばしたいスキル(2003〜2007年調査、複数回答可) |
「保有」と「希望」の対比で考えると、「保有」が多いスキルほど、ITエンジニアが基本的に身に付けているスキルといえる。逆に「希望」が多いとなると、ITエンジニアがこれから学ぼうとするスキル、新しい分野や高度な分野であると考えることができる。
典型的なのがセキュリティである。セキュリティは、「希望」が保有の倍はある。同じく「希望」が「保有」の倍から3倍ほどあるのがXML/Webサービスである。これらはスキル習得意欲の高い分野だ。取得の必要性が高まるなど後押しもあるので、今後スキル保有者が伸びそうな分野だ。UNIXやLinuxは、「保有」と「希望」の間が縮まる傾向にあるが、依然として「保有」よりも「希望」が若干高い。
今後の動向で興味深いのはAjaxである。データとしては2006年以降2回分しかないが、「保有」も「希望」も急上昇している。最新の2007年時点ではWeb 2.0ブームもあったせいか、スキルアップ希望の4位に躍り出ている。
■「いい話があれば転職してみたい」が半数弱
転職についてはどうだろうか。まずは転職をしたことがあるかないか(図3)。「ない」と答えた転職未経験者は半数弱で最も多いが、減少傾向にある。一方、転職経験者は着実に伸びている。回答者の中心がおおよそ30歳ということを考えると、この年齢までに転職を経験するITエンジニアが増えているのかもしれない。または@ITで転職に関する記事やコーナーが増えたことで転職に関心を持つ人も読者に増え、こういう結果となって表れているということも考えられる。
図3 転職経験(2005〜2007年調査) |
なお参考までに総務省統計局が2002年に調査した「就業構造基本調査」の全体概要によると、「転職経験者は約5割」とある。ただこれは年代や職業の分類はなく、また比較するにはデータが少し古い(2007年実施の調査結果は現段階では未発表)。
さて次に転職の意向についてはどうだろうか(図4)。全体としてみると明確な予定はないが転職には前向きであるケースが多い。「現在は転職を考えていないが、いい話があれば考えてみたい」(4割強)、「時期は未定だが近い将来の転職を考えている」(2割弱)である。現時点で具体的な転職の予定はないが、転職に多少の興味を持っているといえよう。
逆に「半年以内の転職を考えている」と「1年以内の転職を考えている」など、転職が具体性を帯びているのは全体で14〜20%程度だ。この中でどれだけ転職先が決まっているかは不明ではあるが、転職の時期が決まっているということは少なくとも転職の意思があり転職活動中である可能性が高い。
図4 転職の意向(2003年、2005〜2007年調査)※2006年以降は「半年以内の」に「現在転職活動中」を加えています。 |
2003年から2007年の間で見ると、転職に関する意欲が最も高かったのは2005年と考えられる(図4)。「転職はまったく考えていない」の回答率が最も低く、その分転職に前向きな項目で回答率が上がっているからだ。
私感ではあるがこの時期を思い浮かべると、不景気で待遇がよくないとか、「成果主義の導入初期で混乱があり会社の評価に嫌気がさした」などの社会的な要因が転職への動機につながったように思う。ITエンジニアにとってあまり恵まれた時代ではなかったのかもしれない。これ以降となると景気が多少上向きになり「いまのままで転職しなくてもいい」と転職を思いとどまる人もいれば、逆に好景気で募集も増え「いまならよい会社に移れるかもしれない」と転職に意欲を持つ人が増えたように思う。方向性としては相反するが、景気が良くなれば働く側にとっても明るい材料が増えるのだなという印象を持った。ただしこれらは調査結果から直接導き出されることではなく、あくまで筆者の私感である。
■まとめ
スキル動向を見ると、保有スキルで最も多いのがWindowsシステム管理、これから身に付けたいスキルではセキュリティが多かった。また、まだ調査データは少ないが、今後保有者が増えると考えれるスキルはAjaxだ。Ajaxアプリケーション開発に必要となる、DOMやJavaScriptは勉強をしておいて損はなさそうだ。転職動向では、転職未経験者が年々減少傾向にあり、転職経験者が着実に増えていることが明らかになった。
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