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ITアーキテクトが見た、現場のメンタルヘルス

ITアーキテクトが見た、現場のメンタルヘルス

第4回 会社に行くのが怖い。どうしたらいいの?

樋口研究室
樋口節夫
2007/11/27

常にコンピュータ並みの正確さを要求されるITエンジニアたち。しかし、ITエンジニアを取り巻く環境自体に、「脳を乱す」原因が隠れているという……。ITアーキテクトが贈る、疲れたITエンジニアへの処方せん。

 仕事は、楽しいことばかりではありません。時にはつらいこともあるでしょう。ITエンジニアは、それを乗り越えながらスキルと経験を蓄積します。

 でも、もし嫌な仕事が延々と途切れなく続いたとしたらどうでしょうか。スキルや経験が蓄積されることなく、ただ消費するばかりの消耗戦になってしまいます。今回は、そういう現場にはまり込んでしまったとき、なんとか自力ではい上がるためにはどうすればよいかを考えてみます。

会社が怖い

 いつも樋口研究室のオフィスを訪れる技術リーダーがいます。このリーダーと、メンバーへうまく仕事を依頼する方法について話をしていたときのことです。突然リーダーの顔色が曇りました。とても嫌な経験を思い出したようです。そしてこういいました。「あのとき、会社に行くのが怖かった……」

 会社に行くのが怖い? そんなふうに思ってしまうなんて、どんな強烈な経験があったのでしょうか。尋ねてみました。

 リーダーは一度、転職を経験しています。以前の会社はミドルウェアを開発する会社でした。入社と同時に指導役の先輩が割り当てられたそうです。先輩はベテランのITエンジニアでした。リーダー(当時はリーダーではありませんでしたが)はスキルの高い先輩と仕事ができることを喜びました。でもここから、大変な経験が始まったのです。

 入社してすぐ、リーダーは先輩からソフトウェア導入の仕事を任されました。もちろん初めての経験です。先輩から数冊の手順書を手渡され、リーダーはお客さまのサーバ室に連れていかれました。「手順書どおりにやればうまくいく」、先輩はそういって立ち去り、リーダーは1人取り残されました。

 リーダーの周りには無数のサーバやラック群。チカチカと点滅するランプ。うなるエアコンの低い音。ここで1人、作業をしないといけません。寒くて孤独な環境です。とにかくまずテープを読み込ませる必要があります。でもそれ以前に、サーバの電源の入れ方が分かりません。手順書のどこかに書いてあるはずなのに、見つけ出すことができないのです。

 どうしよう。もっと分からないことが出てくるかもしれない……。「心臓の鼓動を耳で感じるほど、緊張しました」

こんなの分かりません!

 当時は、サーバ室に携帯電話の持ち込みができました。何度も電話をかけて指示を受けました。電波が弱くて声が途切れます。やっと指示を聞き出して作業を始めても、また分からなくなって電話します。

 電池が切れてしまうかもしれない。失敗したらどうなるのだろう。先輩がこの作業をやればいいのに。でも私がやらないといけない……。こういう仕事が、その後も続きました。

 こんなこともあったそうです。リーダーが少しプログラムを書けるようになったころです。お客さま先で、プログラムの処理がとても遅くなる現象が発生しました。リーダーは先輩から、お客さま先に行けと指示されました。

 到着すると、お客さまが待ち受けていました。そして問題のプログラムを見せ、「早く悪いところを直してほしい」というのです。当時のリーダーはそれほどプログラムを書いた経験がありませんでした。しかもお客さまが作ったものなので、内容がさっぱり分かりません。

 リーダーは心の中で叫びました。「こんなの、分かりません!」。でも目の前にお客さまがいるのでいえません。リーダーはずっと、プログラムを見るふりをしていたそうです。

 ぼう然としかけたころ、データベースエンジニアが来て設定を変更すると、問題は改善しました。リーダーには強い焦燥感が残りました。「私はお客さまに、どう見えているのだろうか……」

 こういう経験が何度も続いた結果、「また嫌な仕事がきて窮地に立たされるのではないか」、常にそういう気持ちを持つようになってしまったそうです。

担当者がいないのでできません!

 さらに試練は続きます。会社のミドルウェアが原因で、お客さまの業務が中断してしまいました。リーダーは先輩の指示で現場に行きました。現場は大混乱です。早急に、原因や対策を説明しないといけません。しかしミドルウェアの開発拠点は海外にあります。そして海の向こうは深夜です。

 リーダーはまたしても心の中で叫びました。「担当者がいないので、できません!」。でもお客さまから見れば自分が担当者です。決してそんなことはいえません。

 リーダーは四苦八苦しながら状況説明のメールを作成し、海外の拠点に送信しました。そして一晩中、いつ来るか分からない返信を待ち続けたそうです。ついに明け方、返信がありました。リーダーはこう感じたそうです。「た、助かった……」

 指導役の先輩は、これは教育だといいます。しかしリーダーは、教育ではなく「拷問」だと感じていました。会社に行ったら、またつらい指示をされるかもしれない。リーダーの心にはこんな思いが渦巻くようになりました。「一体いつまで続くの、この仕事……」

 ここまでくると仕事に恐怖感が出てきて、会社に行くのが怖くなってしまったそうです。入社3年目、リーダーはこの会社を退職しました。

ITエンジニアに「事故」が起こる瞬間  

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