第1回 子育てと仕事の両立、悩むよりまずチャレンジ
長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
2007/9/10
多様化するITエンジニアのワークスタイル。その時々の背景や希望によって、さまざまな働き方を選び取るITエンジニアたち。その姿を追う。 |
ITエンジニアのワークスタイルは多様化している。資格取得、子育て、私生活の充実などさまざまな理由により、そのときの自分に合った働き方を選ぶITエンジニアたちがいる。
その時々の人生における背景によって、また希望によって、ワークスタイルは変化する。ひたすら仕事に打ち込む時期もあれば、仕事以外の何かを優先する時期もあるだろう。
今回は出産と、その後の子どもの成長につれて働き方を変化させていった、アクセンチュア アウトソーシング本部 石原夏子氏に登場していただいた。
■いつか来るブランクに備え、短い年数で実績を挙げたい
アクセンチュア アウトソーシング本部 石原夏子氏。育児休業後、社内トレーニング担当を経て、今年4月コンサルティングの現場に復帰 |
石原氏が大学で学んでいたのは法学だったが、卒業後の就職先として選んだのはIT業界だった。その理由は、「短いうちになるべく厚みのあるキャリアを築けるような」業界や会社を望んだからだという。「当時はっきりと意識していたわけではないですが、いつかは結婚して出産するだろうということが頭の中にありました。アクセンチュアを選んだのは、短い年数で濃い体験ができるのではないかというのが一番大きな理由でした。いろいろな業界のクライアントを見ることができるのも魅力だと思いました」
とはいえ、出産などのブランク後、仕事に復帰するためにキャリアを積んでおこうという明確な考えがあったわけではないという。「もし出産すればキャリア上のブランクができるとは思っていました。そのため、なるべく短いうちに実績を挙げておくことが得策と考えていたのかなと思います」
アクセンチュアにコンサルタントとして入社したのは1998年。クライアントの業務プロセスを見直し、必要なシステムの構築や導入を行うプロセスコンサルティンググループに所属し、希望していたようにさまざまな業界に接し、経験を積んだ。「化学石油会社、都市銀行、半導体メーカーなどのクライアントを担当しました。ある業界で当然と思っていたことがほかの業界では全然違う、そういうのを間近で見られるのは面白かったですね」と石原氏は語る。
■妊娠中は体に負担がかからない仕事を
石原氏は2002年に結婚。その後妊娠が分かったことから、ワークスタイルに変化が訪れることとなった。
妊娠が分かったとき、石原氏はあるプロジェクトの立ち上げの準備に参加していた。そのプロジェクトの顧客は九州にある会社で、出張を伴うかなりハードな仕事になることが予想された。「妊娠中は激務や、出張の多い仕事はできないと思ったので、移動が少なく体に負担がかからない仕事がしたいと人事に相談し、紹介してもらいました」。プロジェクトでの上司も理解のある人だったという。「そういうことなら残念だけど仕方がないね」ということでスムーズに異動できたそうだ。
新しい仕事は新人研修のトレーナー。妊娠が分かったのが2〜3月であり、ちょうど4月から始まる新人教育を実施するチームが、企画や準備のための人材を探しているところだった。
社内の研修に関する仕事なら、外部の顧客を持っているわけではなく、激務は避けられる。「出産まではそういう仕事をしようと決めました」という石原氏だが、このころはまだ、出産後の復帰ということは考えていなかったそうだ。「出産する前は、出産後もこの会社でずっと働き続けられるとも、働き続けようとも思っていませんでした。何カ月で復帰して、何カ月でこうなってということを明確に考えていたわけではないんです」という。
「それまで経験した仕事の帰宅時間などを考えると、子どもが生まれ、どこかに預けて働いたとして、間に合うように迎えにいけるとはとても思えなかった」と、石原氏はその理由を語る。「例えば子どもを預かってもらえるのが19時までとすると、18時ごろには会社を出なければいけない。そんなことはまったく想像できず、やっていけると思わなかったんですね。ほかのメンバーにも迷惑をかけますし。こういう職種(コンサルタント)で、そういう働き方はあり得ないのかなと思っていました」
コンサルタント時代、石原氏の業務が終了する時間はだいたい21〜22時くらいだった。早く帰宅する社員は、周囲に「見たことがなかった」という。「出産後復帰して、コンサルタントを続けたという人も当時はあまりいませんでした。現在は状況が変わって、そういう人もすごく増えているんですが」ということだ。
従って、当時は社内の産前産後休暇、育児休業制度についてはそれほど意識していなかったそうだ。アクセンチュアでは、子どもが1歳6カ月に達するまで育児休業を取得することが可能だ。「制度として取れるのであれば、産後どうするかは考えていなかったのですが、猶予期間をもらって休業中に考えようかなという感じでした」と石原氏は当時を振り返る。
■育児休業には「とても満足」
石原氏は2002年8月から産前6週間、産後8週間の休暇を取り、その後1年6カ月の育児休業に入った。「産前はたまっていた有休を使い、早めに休みに入りました」という。
実際に制度を利用して、石原氏は「とても満足できた」そうだ。「育児休業が1年半というのは長い方ですよね。もともと仕事と子育ての両立ということをあまり想定しておらず、自分自身の育った家庭でもそうだったのですが、何となく子どもを育てる間は子ども中心にしたいという希望がありました。
その点、育児休業制度を利用したことで、1歳半になるまでは子どもと密度の濃い時間を過ごせたので、とても満足することができました」
休業中の会社とのメールのやりとりなども、まったくなかったそうだ。「業務はプロジェクト単位で行います。その業務がすべて終わったところで休業に入ったので、連絡することは何もありませんでした。休んでいる間に社内のメールシステムが変わり、メールが見られなくなったくらい、全然PCとは縁のない生活でした」と石原氏は笑う。
■経済的に自立していることの大切さを知り、復帰を決意
そんな石原氏の復帰のきっかけは、考え方が変化したことだった。「経済的に自立していることの大切さが分かったのです」という。
たいていの場合、育児休業中の会社員は「育児休業基本給付金」の支給対象となるが、支給は子どもが1歳に達するまで。石原氏も休業中の最後の半年は無給だった。そのことに非常な心細さを感じたという。
「それまでは毎月毎月お給料が入ってきていて、休業中も給付金がありますけれど、1年たつともらえなくなり、半年は無給でした。それまで定期的に口座に入っていたお金が全然なくなってしまう、出ていくばっかりで入ってこないというのは、想像していた以上に大きな不安でした。結婚相手に経済的に依存するのもリスクが高いと思ったし、『経済的に自立していること』が自分の精神的な安定にすごく大事だったということが、お金が入ってこなくなって初めて分かりました」。今後も経済的に自立していたいと強く感じた石原氏は、職場への復帰を考え始めた。
もう1つの理由は、「仕事とのかかわりをずっと保っていたい」ということだった。「自分の労働が評価され、対価としてお金をもらうという経験が、子どもが大きくなってからも必要だろうと思ったためです」
育児休業の終了する少し前に、石原氏は人事に復帰を相談した。「会社に籍を置いておいて良かったと思いました」
育児休業が明けた2004年4月、石原氏は復帰。SAPやOracleなどのパッケージを活用したコンサルティングを提供するグローバルビジネスソリューションという組織に所属し、SAP導入に関する人材育成を社内向けに行うチームの一員として仕事を再開したのだ。
復帰はとてもスムーズにいったという。「これもとてもタイミングが良かった」と石原氏は語る。「ちょうど社内のトレーニングチームが立ち上がるところで、メンバーを募集していたんです。コンサルタントは、やはりクライアント先に出てキャリアを早く積みたいと思う人が多く、社内向けの仕事を希望する人はあまりいません。それで人を探しているところにいいタイミングで復帰したので、スムーズに入れました」
ほかにも人事関連など、いくつか復帰先の候補があったそうだ。「複数の選択肢があったのもうれしかったです」
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