自分戦略研究所 | 自分戦略研究室 | キャリア実現研究室 | スキル創造研究室 | コミュニティ活動支援室 | エンジニアライフ | ITトレメ | 転職サーチ | 派遣Plus |


エンジニアの将来への不安にこたえる
特別企画:
エンジニアのための確定拠出年金(401k)入門


山田静江(執筆)
片岡真理(監修)
2002/6/27

日本の年金は、いまだに60歳や65歳の定年まで同じ会社に勤めることを前提として構築されているシステムだ。スキルアップやキャリアアップする手段としての転職は、一定のプレゼンスを持ち、当たり前になりつつある時代というのに、年金制度だけは旧態依然のまま。その制度にちょっとだけ穴を開けたのが、今回取り上げる確定拠出年金(通称日本版401k)だ。転職や独立にも対応した年金制度と聞けば、まさにエンジニアに最適な年金といえるだろう。では、それはどんな年金制度なのか。それを分かりやすく解説しよう。読者の皆さん、老後に備え、ちょっとだけ将来のことを考えてみませんか。

I まずは確定拠出年金の基本と種類を知る

老後資金は自分で準備する時代

 友人の結婚祝いとして6人の仲間で1人5000円ずつ資金を出し合って、3万円のプレゼントを買うとします。しかし、資金を出す仲間が2人しかいなかった場合はどうでしょうか? この場合、1人1万5000円ずつ資金を出すか、1人当たりの金額を変えずに、プレゼントの価格を下げてしまうことになると思います。

 公的年金(国民年金や厚生年金)も、現在同じような事態になっています。年金を受け取る高齢者が増える一方で、子どもの数が減っているため、近い将来、高齢者の年金(プレゼント)を支える現役世代(プレゼントをあげる仲間)の数が大きく減りそうなのです。そこで、年金制度を守るため保険料負担(仲間の負担)を増やしつつ、高齢者が受け取る年金(プレゼント)額を減らしていく方向で制度の見直しが検討されています。

 現在の20〜30歳代の人が年金を受け取るころには、「公的年金で定年退職後は優雅に暮らす」というのは夢のまた夢になっているでしょう。老後の生活は国が何とかしてくれるという時代はもう終わりと考えておいた方がいいのです。

 こうした背景のもと登場したのが確定拠出年金(Defined Contribution=DC)で、通称日本版401kプランとも呼ばれるものです。DCは加入者自身が拠出金(掛け金)を積み立てて金融商品を選択・運用し、その結果が年金額に反映される仕組みの年金制度です。税金の面で優遇するので、公的年金だけで不足する老後資金は自分で何とかしてね、というのがこの制度の骨子です。運用リスクは加入者が負うことになるなど、わたしたちの老後の生活設計を大きく変えるかもしれない新制度です。

転職の多い技術者に有利な制度

 DCの大きな特徴は、「ポータビリティ」があること、つまり転職したり独立したりしたときに個人別管理資産(DCの積立金)を持ち運べることにあります。拠出金を企業が負担する「企業型」と個人で負担する「個人型」があるので、会社勤めをしているときも独立して会社を興したときも、ずっと1つの制度で年金資産を管理できるのです。

 例えば図1の男性A氏のケースを見てみましょう。国民年金に加入したのは20歳(大学生)のときです(1)。このとき国民年金の保険料を払っていれば個人型DCに加入することもできます。

図1 ある男性(A氏)のライフステージごとの年金の変遷

 大学卒業後、A氏はサラリーマンになり厚生年金に加入しますが、就職先には社員全員が加入する企業型DC(これについては後述します)があったためこれにも加入します(2)。そして27歳で転職。転職先には厚生年金基金(企業年金の一種)があり、企業型DCは導入されていないので、DCの加入資格を失います(3)。そのため、それまで積み立てた個人別管理資産は個人型(運用のみ、拠出はできない)に移し、運用を続けます。さらに32歳で今度は企業年金も企業型DCもないベンチャー会社に転職しました(4)。今度は個人型DC(従業員型。これについても後述します)への加入資格があるので、個人型のまま新たに拠出しながら(掛け金を払いながら)運用できます。

 A氏は35歳で念願の独立を果たします(5)。独立して自営業者になると個人型(自営業者型。これについても後述します)の加入者になります。個人別管理資産はそのままですが、拠出限度額は大幅にアップします。そして40歳で会社を設立して企業型DCを導入したので、企業型DCの加入者となります(6)。個人型の個人別管理資産を企業型に移して、拠出・運用していきます。

 A氏が60歳になると、DCの受け取り(老齢給付金)を開始することができます(7)。65歳には公的年金の受け取りも始まります(8)。このように転職を繰り返しても独立しても、ずっと同じ制度で老後資金を運用できるのがDCの大きな特徴です。

 サラリーマンには厚生年金基金や適格年金、自営業者には国民年金基金や小規模企業共済など、これまでも公的年金を補完する制度はありました。しかし、これらはそれぞれが独立した制度で、1つの会社や仕事をずっと続けることを前提としています。加入できる年金制度が変わったときには、年金資産を移動することはできないのです。

 終身雇用制度が崩壊しつつある日本では、従来の年金制度は現在の雇用制度に合わなくなってきています。仕事が変わっても1つの制度で年金資産を管理していけるDCは、今後年金制度の中心的な役割を果たすようになっていくのではないでしょうか。

拠出金を企業が払う企業型と個人が払う個人型

 こうした特徴を持つDCには、企業型と個人型の2つがあります。

 企業型は、会社が従業員の退職金制度として導入するもので、拠出金は企業が負担します。管理手数料なども企業が負担するのが一般的です。企業型に加入できるのは、企業型DCを導入している会社のサラリーマン(1)ですが、会社の規定でパート社員や試用期間中の社員は利用できないこともあります(図2)。

図2 DC制度の全体像

 個人型は、自営業者などの国民年金の第1号被保険者(2)が加入できる「事業主型の個人型」と、企業年金も企業型DCも利用できないサラリーマン(3)が加入できる「従業員型の個人型」があります。どちらも拠出金や管理手数料は加入者本人が負担し、加入するかしないか、拠出金をいくらにするか、60歳以降の年金の受け取り方法をどうするかは、自由に決めることができます。

 ここに挙げた(1)から(3)に該当しない人は、原則としてDCに加入できません。例えば、同じ専業主婦でも、自分や夫が国民年金の保険料を払っている自営業者の妻(第1号被保険者)は加入できますが、サラリーマンの妻(第3号被保険者)は加入できません(4)。公務員(5)や、企業年金制度があってDC制度がない企業のサラリーマン(6)、国民年金の保険料を減額・免除されている人(7)も対象外となります。なお、国民年金の減免対象にならないにもかかわらず保険料を払っていない人も、加入資格はありません。

 ただし、DCに加入したのに転職や退職で(1)〜(3)に該当しなくなった人は、「運用指図者」となって年金資産の運用だけを続けることができます。

就職や転職した会社に制度があれば加入可能[企業型]

 勤めている会社に企業型のDC制度がある人は、企業型に加入できます。60歳未満の従業員は原則として全員加入することになります(図3)。DCに加入するか、拠出金相当分を給料に上乗せして受け取る(退職金前払い制度)かを選択できる会社もあります。それまで個人型に加入していた人や、転職前の会社でも企業型に加入していた人は、個人別管理資産を新しい勤め先のDC制度に移します。

図3 企業型の仕組みと限度額

 企業型では拠出金は企業が負担し、会社が選んだ運営管理機関を通じて金融商品を選んで運用・管理をします。管理手数料もほとんどの場合会社負担です。拠出額の決め方には定額制、定率制などがありますが、仕事の実績が給与に反映される仕組みの会社で拠出額を給与比例制にしておけば、社員のやる気も高まるかもしれません。

 従来の企業年金や退職金制度では、従業員が将来受け取る額を保証しているため(確定給付型)、運用利回りが低ければ、保証した利回りとの差額は企業が負担しなければなりません。現在のような超低金利時代は、「退職金や企業年金が払えなくて倒産」する会社が出てもおかしくない状態なのです。

 DCは従業員が自分で運用する制度なので、企業にとって運用リスクがなくなるメリットがあります。従業員にとってもポータビリティがあるため、転職しても不利になりにくいこと、会社に何があっても自分の年金資産を確保できるというメリットがあります。

 拠出金の限度額は、すでに厚生年金基金や適格年金などの企業年金制度がある会社では、毎月1万8000円(年額で21万6000円)、DC以外の企業年金制度がない会社では、毎月3万6000円(年額で43万2000円)です。

独立したら、個人型DCで老後資金づくりが可能[個人型(事業主型)]

 自分や家族が保険料を払って国民年金に加入している人(第1号被保険者)は、事業主型の個人型のDC制度に加入できます。加入するかどうかはその人の自由です。自営業者だけでなく、自営業者の妻なども対象となります。

 加入は国民年金基金連合会(国基連)を通じて行いますが、実際の手続きは銀行や郵便局、保険会社といった金融機関が窓口となります。個人型(事業主型)の拠出限度額は、国民年金基金の掛け金と合わせて月6万8000円(年額81万6000円)で、拠出額は限度額の範囲内で自由に決められます。国民年金基金に目いっぱい加入している人は、加入資格はあるものの限度額を超えてしまうため、DCは利用できないということになります(図4)。

図4 自営業者と企業年金や企業型DCがない企業のサラリーマンが加入できる個人型の仕組みと限度額

 拠出金は自己負担ですが、全額が所得から控除できるので所得税や住民税はその分安くなります。ただし、個人型では管理手数料などは加入者負担で、毎月の手数料(月550円〜600円程度)は拠出金から控除されますから、拠出額が少額だとメリットは少ないかもしれません。

 なお、国民年金に加入していない人、加入していても保険料を払っていない人、あるいは所得が低いため保険料を免除されている人はDCに加入できません。すでにDCに加入して拠出している人でも、国民年金保険料未納の期間があれば、その期間の拠出金(手数料控除後の金額)は後で払い戻されます。なお、拠出金が払い戻される際に数百円から数千円の払戻手数料がかかるので、その点は注意しておく必要があります。

転職先にDC制度がなくても、個人型で継続可能な場合[個人型(従業員型)]

 勤め先に厚生年金基金などの企業年金制度がなく、企業型DCも導入されていないサラリーマンが加入できるのは、従業員型の個人型です。

 事業主型の個人型同様、拠出金と管理手数料などは加入者負担です。拠出額は自分で決められ全額所得から控除できますから、その分所得税や住民税の負担は少なくなります。加入手続きは個人型を扱っている金融機関で行いますが、拠出金の払い込みは原則として勤め先の給与からの天引きとなります。

 拠出金の限度額は月1万5000円(年額18万円)とほかのタイプより少なめです。毎月の手数料(月550〜600円程度)は拠出金から控除されます。

 
1/2
こんなときにどうなる確定拠出年金?

Index
エンジニアのための確定拠出年金401k入門
I まずは確定拠出年金の基本と種類を知る
  II こんなときにどうなるあなたの確定拠出年金?

 

自分戦略研究所、フォーラム化のお知らせ

@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。

現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。

これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。