エキスパートに聞く ぼくのスキルを支えた本
第1回
今回のエキスパート:館野武正氏(コンパック)

遠竹智寿子
2001/5/22

 「最前線で必要なスキルとキャリアを知る!」でインタビューしたITエンジニアに、自分のスキルとキャリアを語るうえで欠かせない本を挙げてもらった。その本について熱く語るITエンジニアの姿から、ITエンジニアの仕事への情熱が本を通して垣間見えるはず。

館野氏の机の蔵書の一部。日本語と英語の技術参考書がごく普通に並ぶ

 今回お聞きしたのは、コンパックコンピュータ ビジネスアクセス統括本部 eCommerceビジネス推進本部プロジェクト推進部の館野武正氏。

 コンパックに入社するまでは、某大手警備会社、日本シリコングラフィックス(現日本SGI)と、まったく別の製品や技術を経験してきたキャリアを持っているだけに、今回選択した本は、多種多様なジャンル。

 紹介したい本は何十冊もあるという館野氏に、無理やり5冊に絞ってもらおうとしたが、結局どうしても紹介したい本は6冊あるというので、ここで6冊すべて紹介しよう。

  この1冊がぼくのインターネットのバイブル

インターネットユーザーズガイド(改訂版)

Ed Krol著/村井純 監訳
オーム社
1994年
ISBN4-900718-12-2
4900円

  米国での発行部数は、初年度だけで25万部もあったインターネット本の大ベストセラー『Whole Internet: User's Guide and Catalog』の日本語版。 インターネットの基本(電子メール、ニュース・グループ、FTPアーカイブほか)から最新技術にいたるまで、入門者が抱く疑問を解き明かしてくれる。

 ただし、現在日本語版は入手できないため、原書を購入するしかない。

館野氏: インターネットのエンジニアとして進もうと決意したころに、読んで衝撃を受けた本です。UNIXやインターネットの入り口へと導いてくれた貴重な1冊です。

 初心者のころは何度も読んでいましたね。経験を積んだいまでも読み返すことがあるのですが、読むたびにエンジニアとして、ユーザーとして新たな発見があります。百科事典として、バイブルとして、手放せない1冊。

  ブラウザやWebアプリケーションの基本を学んだのがこの本

Official Netscape Technologies Developer's Guide

Luke Duncan、Sean Michaels著
Ventana
1996年
ISBN1-56604-749-8
39.99ドル

 

 ネットスケープコミュニケーションのオフィシャル・ブック。

 Netscape Oneテクノロジーの基本的な知識や既存のプラットフォームに依存するコードを、Netscape Navigator向けのプラグイン(Plug-In)に変換するテクニック、イントラネット/インターネット向けのJavaアプリケーション開発の概要が詳しく解説されている。

館野氏: 日本シリコングラフィックスで、ぼくの仕事の必須キーワードの1つとなったのが「ネットスケープ」でした。

 この本からは、Webブラウザだけではなく、ネットワーク・アプリケーションを構築するための知識を学びました。インターネット・ブラウジングの仕組み、ブラウザのGUI、プラグインの開発、そしてWebベースのアプリケーション開発の実例などが参考になりました。

 実際に開発にとても役に立ちました。特にセッション・マネージメントやJavaScriptについては、あまり知識がなかったので、基本から学ばせてもらいました。

 Internet Explorer(IE)が主流になったいまでも、基本的な考え方やブラウザの構造や目に見えない動きについては、この本で学んだことが役立ってますよ。

  データマイニングを初めて学んだ思い出の1冊

Data Mining Techniques: For Marketing, Sales, and Customer Support

Michael J. A. Berry、Gordon Linoff著
John Wiley & Sons, Inc.
1997年
ISBN0-471-17980-9
54.99ドル

 データマイニングについて、さらに深く理解したいビジネスアナリストや、顧客データ分析の実務家向けの本。データマイニングの基礎知識はあるが、各種手法を実務的に利用しきれていない人向け必須の参考書である。

 データマイニングの基本手法や手法ごとの論理的背景と、著者が経験してきた豊富な事例を解説。

 さらに、各手法の長所と短所、それに適用場面を明らかにしている。なお、原書全18章中の第7章から第14章と第17章を抜き出した日本語版が発売されている(『データマイニング手法』海文堂)。注文ページから購入できるのは、日本語版。

館野氏:日本シリコングラフィックスで、エンジニアとして任されたのが、まったく新しい分野の製品・技術。それが「データマイニング」でした。

 それまで、その分野での数学的理論、統計学的知識にほとんど触れたことがなく、製品を覚える以前に壁にぶちあたってしまいました。

 そこで米国でのデータマイニングに関する情報を集め、さまざまな実例や事例を学びました。しかし、エンジニアとして製品と技術を得るため、もう少し深い演算手法やアルゴリズム、データマイニングの定石などを知る必要性を痛感し、米国本社のエンジニアリング・マネージャに勧められて購入したのが、本書の英語版です。

 その後、日本国内でも高く評価され、読者からの多くの要望をもとに『データマイニング手法』が発行されたので、こちらも購入しました。

  データウェアハウスの知識とDBの復習をこの1冊で

The Data Warehouse Toolkit:Practical Techniques for Building Dimensional Data Warehouse

Ralph Kimball著
John Wiley & Sons, Inc.
1996年
ISBN0-471-15337-0
54.99ドル

開発者とマネージャを対象に、効果的で有益なデータウェアハウス(DWH)のデザイン、構築、運用の実現のため、データウェアハウスの入門から実用までをステップごとに解説したデータウェアハウスの基本書。多次元データウェアハウスを設計するためのノウハウが詰まっている。

 従来のデータベースとデータウェアハウスとの相違点から、各業界(食料雑貨店、倉庫業、金融業、旅行業ほか)の事例を紹介した後、データウェアハウスを実際にデザインするプロセスを解説。

館野氏:データマイニングの担当になって統計学を学んだ後、さらにデータウェアハウスに関する本格的な勉強が必要になりました。

 当時、データウェアハウスを学ぶための時間が十分なかったのですが、日本シリコングラフィックス(現日本SGI)の本社エンジニアと同じ視点でコミュニケーションする必要があると感じました。そこで、いち早く同じレベルに近づく近道として、彼らが持っていたバイブル(本書)を入手して読んだのがこの本でした。

 いままで習得してきたデータベースの知識についても、ケーススタディを読みながら基本を復習できたという、副次的な効果もありましたね。その意味では、よくまとまった書籍だと思いますよ。

  作るという楽しみを教えてくれたVRML本

The Annotated VRML2.0 Reference Manual

Rikk Carey、Gavin Bell著
John Wiley & Sons, Inc.
1997年
ISBN0-261-41974-2
39.95ドル

VRML(Virtual Reality Modeling Language)のリファレンス決定版。既存の手引書を補足する目的で、Webマスター、プログラマー、グラフィック・デザイナーを想定して、VRML 2.0の使用方法を紹介した本。

館野氏:日本シリコングラフィックス時代、インターネット・サーバ構築の仕事とともに守備範囲となったのが、VRML技術でした。

 これはSGIが提唱し、コンソーシアムをリードした技術です。その技術と製品(Cosmo製品)担当となったときに未知の世界の興味を最大限に引き出し、作ることの楽しさを教えてくれたのがこの本でした。

 当時のPCはまだまだ非力で、結局VRMLを世に広く知らしめることができませんでした。そのため、日本シリコングラフィックスはVRML技術を製品群ごとに他社に売る運命となったのですが、この技術の楽しさ、考え方はいまでも十分に通用するものです。

 いまならば、目を見張るほど進歩したPCのパワーで、きっと日の目を見たに違いなく、ブロードバンド・ネットワーク時代の幕開けにVRMLにまた浸ってみたいですね。

  初めて手にしたUNIX入門書がこの本

楽しいUNIX-UNIXへの招待

坂本文著
アスキー
1990年
ISBN4-7561-0785-0
1900円

UNIX初心者にお勧めの1冊。『UNIX MAGAZINE』(アスキー)の連載記事をまとめたものだが、ログインの方法からファイル/ディレクトリや各種コマンドの使用方法などまで、初めてUNIXに触れる人向けの入門本。

館野氏:これは最初に働き始めた大手警備会社時代に助けられた本です。当時は、インターネット・サーバを自社で保有すること自体がまだ珍しいころ、突然顧客からFree-BSDでDNSサーバを立ち上げてくれと依頼を受けました。そのためにUNIXを学ぶ必要に迫られ、初めて手にした入門書がこの本かな。

 BSD UNIXがベースの本ですが、その後メーカーのSystem V系の仕事をするときにもとても役立ち、それまで抵抗が大きかったUNIXを楽しく学ぶきっかけとなりましたね。

 難しい専門書やマニュアル、そしてUNIXマシンを売るという、その後のキャリアへの入り口をこの本が作ってくれたようなものです。いま、この本の続編(『続・楽しいUNIX−シェルへの招待』坂本文著 アスキー)も買おうと思っているところなんですよ。

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