エキスパートに聞く ぼくのスキルを支えた本
第4回
今回のエキスパート:小山弘樹氏(日本オラクル)
吉川明広
2001/8/31
「最前線で必要なスキルとキャリアを知る!(4)」でインタビューしたITエンジニアに、自分のスキルとキャリアを語るうえで欠かせない本を挙げてもらった。その本について熱く語るITエンジニアの姿から、ITエンジニアの仕事への情熱が本を通して垣間見えるはず。
今回お話を伺ったのは、日本オラクル株式会社エデュケーションサービス本部の営業部ディレクターを務める小山弘樹氏。
小山氏は、有力なベンダー資格である「オラクルマスター」の国内総責任者としてらつ腕を振るう一方、電気通信大学大学院で博士号の取得を目指して電磁波工学を専攻しているという、2足の“大”わらじを履く人物。根っからの理系人間である彼は、若いころから文学書よりは技術書・専門書を好んで読んできたが、最近は仕事柄ビジネス書にも目を通すようになったという。ご紹介いただいた本は、そんな現在の彼の意識を反映してか、極めて高度な基礎理論の専門書と、マネジメント関連のノウハウ本がそれぞれ1冊ずつとなった。
私の精神的なよりどころの古典的理論書 |
ELECTROMAGNETIC THEORY(International
Series In Pure and Applied Physics) Julius Adams Stratton著 McGraw-Hill, Inc 1941 ISBN-0-07-062150-0 120ドル |
初版の発行が1941年という、電磁気学理論の古典的名著。現代物理学の基礎を成す“場”の概念をベースに、電磁気現象の基礎を体系的に解説したもので、長年にわたり世界中で“バイブル”的な扱いを受けてきた。
内容としては、マクスウェルの方程式をはじめとする電磁界の基礎方程式に始まって、電磁場における力とエネルギー、静電場、静電磁場、平面波、円筒波、球面波、電磁放射、境界値問題など、非常に高度な基礎理論に関するトピックがずらりと並ぶ。総ページ数は600ページを優に超え、そのほとんどが多数の数式を交えた解説となっている。当然ながら、なまはんかな知識では到底歯が立たない難物中の難物である。
日本でも古くから専門家や学生の間で読まれてきたが、なぜか邦訳は存在しない。おそらくは、内容の高度さ、情報量の多さ、そして密度の濃さから、翻訳の機会に恵まれなかったのだろう。いずれにしても、変転著しい技術の分野において、これほど長く読み継がれている本も珍しい。時代を超える“本質”というものが備わっているのだろう。
小山氏:
「IT業界の中にいると、先端の技術や流行の技術に触れる機会は確かに多いのですが、そういった技術は表面的だったり一過性のものだったりすることも多いですよね。だから、上っ面の技術知識だけを身に付けて自己満足してしまう人も出てくる。でも、私としてはもっと技術の本質的な部分をしっかりと押さえておきたいんです。私自身は、現在はビジネスマンとしての仕事をしていますが、常に技術者あるいは科学者の端くれであるという自負を持っていたいし、それが自分の精神のよりどころにもなっていますから」
「実は、大学の教授から、“こういう本と真剣に取り組みなさい”と勧められました。これを読み始めてもう7年になりますが、読み返すたびに奥の深さを感じさせられますね。数式もタップリと入っているので、1ページを理解するのに1週間以上かかることもザラです(笑)。でも、いつかはこの本の内容をすべて理解して、それを自分の口から語れるようになりたいですね」
合理的で実用的なヒントが詰まった“バタ臭い”ビジネス本 |
リーダーシップIQ 7つの行動指針と8つの役割 データ エメット・C・マーフィー著、新 将命訳 日本実業出版社 1997年 ISBN-4-534-02704-4 1800円
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著者のマーフィー氏が社長を務めるE・C・マーフィー社は、IBM、GM、AT&Tのような世界有数のトップ企業をクライアントに持つコンサルタント会社。同社は、リーダーのあり方と仕事の本質を科学的に究明することを目標に、20年以上にわたってコンサルティング事業を続けてきた。本書は、その活動の中から生まれたもの。1万8000人にも及ぶ現役のリーダーたちの行動や信条を詳しく調査した結果に基づいて編まれているだけあって、非常に客観性が高く、説得力に富んでいる。
本書によれば、これまで幅を利かしていた“リーダーシップ能力の優劣は個人が持つカリスマ性や性格に依存する”という考え方は幻想にすぎず、調査結果から導き出された“7つの行動指針”を身に付けて“8つの役割”を果たしていけば、だれでもリーダーシップ能力を確実に向上させることができる、という。そのための方策として、本書では問題分析のためのワークシート、合意交渉ガイド、紛争管理ガイドといった数々のシカケが用意されており、これらを駆使することで目的を達成できるように構成されている。とにかく合理的で実用的なのだ。ただ、心をいやすための要治療分析表、などというものまで出てくるあたり、よくも悪くもアメリカ的な発想といえるかもしれない。
小山氏:
「ちょっと“バタ臭い”ですけど、この本には“こういうときにはこうあるべき”といった精神論的な内容ではなくて、例えばメモや資料などのツールをどうまとめ、どう活用するかといった実際的な技術がたくさん盛り込まれています。いうまでもなく、ビジネスシーンでは1人の力など微々たるものです。だから、ものごとを成し遂げるためには、部下や同僚といかに協力するか、どう力を集結するかが非常に重要になってきます。とはいっても、ついついその場限りの感情や周囲の雰囲気に流されて仕事をしてしまうことも少なくないですよね。私自身、日ごろビジネスマンとして高いマインドを持ち続けたいと考えてはいますが、それが欠落してきたなぁと思ったときに、繰り返し読むのがこの本です」
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連載:エキスパートに聞く ぼくのスキルを支えた本 |
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