エキスパートに聞く ぼくのスキルを支えた本
第5回
今回のエキスパート:古川正寿氏
吉川明広
2001/9/20
「最前線で必要なスキルとキャリアを知る!」でインタビューしたITエンジニアに、自分のスキルとキャリアを語るうえで欠かせない本を挙げてもらった。その本について熱く語る姿から、ITエンジニアの仕事への情熱が本を通して垣間見えるはず。
今回お話を伺ったのは、有限会社フルネスの代表取締役を務める古川正寿氏。
肩書きから分かるように、古川氏は一企業のトップである。しかし、彼はビジネスの経営者というよりは、独立自営のエンジニアという方がふさわしい。実際に彼は、DelphiやJavaのようなオブジェクト指向言語を自在に操りながら、各種コンピュータシステムの設計・構築・保守までを、ほぼすべて1人で請け負うという“職人”的なSEである。しかもその傍らで、各種プログラミング講座の講師を務め、さらにはプログラミング言語関連の書籍の企画や執筆も手がける多才ぶり。まさに“プログラミング”を中心に生活が回っているような人なのである。
当然というか、その古川氏が推薦してくれた本は、すべてコンピュータプログラミングに関連するものとなった。その中には彼自身の筆による書籍も含まれているが、これには少々ワケがある。インタビュー記事を参照すると分かるのだが、彼はコンピュータ関連の教育に深い関心を持ち、エンジニアだけでなく管理職の人々にも伝えるべきメッセージがあるという論客である。セミナー講師をやり、また本を書き下ろしているのは、そうしたメッセージを世に伝えたいため。彼が自信を持って自著を薦めてくれた背景には、そんな彼の深い思いがあるのだ。その意味で、彼の本を単に技術書としてだけでなく、彼の意見書として読んでみるのも面白いかもしれない。
Javaの基礎知識ならこの本で決まり |
Borland JBuilder 4 オフィシャルコースウェアファウンデーション 古川正寿著 アスキー 2001年4月 ISBN-4-7561-3730-X 3200円(税別) |
JBuilderは、Windows、Linux、あるいはSolarisなど、主要な複数のOSに対応したマルチプラットフォームのJava開発ツールである。Java言語を使ったプログラム開発では、JDK(Java Development Kit)を使って一から書き起こす方法が基本だが、オブジェクト指向言語独特の作法などが難しく、敷居が高い。その点、JBuilderを使えばプログラムインターフェイス部分の作成をGUIで簡単に行えるため、手間を大幅に軽減でき、開発効率を向上させることができる。
本書は、そのJBuilderの開発元であるボーランドから認定を受けた“公式解説書”。全38レッスンから構成されるチュートリアル形式で、各レッスンは「学習のポイント」と「演習」に分かれ、順を追って自習できるようになっている。JBuilderのプログラミングスタイルについての話をはじめとして、JBuilderウィザードの基本操作、Java言語の基本、コンポーネント作成、レイアウト制御、例外処理、スレッド、ファイル操作などを網羅。読了すれば、Java言語とともにJBuilderの扱い方も習得できるという欲張りな構成になっている。もちろん、オブジェクト指向言語の特徴であり、かつ理解の難しい継承や多態性などもしっかりと解説。このていねいさは、まるでコンピュータスクールで手取り足取りの講義を受けているかのようだ。きっと、各種セミナーの講師を務める筆者(古川氏)の実体験が生かされているのだろう。
ちなみに本書の付録CD-ROMには、フリー配布されているJBuilder Foundationのほか、Enterprise版Inprise Application Serverの60日トライアル版が収録されている。
古川氏:
「本当に基礎の基礎を扱っている本です。Javaに初めて触れるという人には、ぜひ使ってみてほしいですね。大切なのは、掲載されているサンプルプログラムをちゃんと実際に打ち込んで実行してみること。読むのは簡単ですが、やはり興味を持ったことは現実に試してみないと。JavaというとすぐにJDKが思い浮かびますが、JBuilderのような新世代の開発ツールもぜひ試してみてください」
いまなお通用するDelphiの基礎知識を盛り込んだ教科書的な存在 |
Delphiデベロッパーズトレーニング 滝口信哉、古川正寿著 アスキー 1997年3月 ISBN-4-7561-2217-5 3600円(税別) |
1995年にボーランドから発表されたDelphiは、業界の内外から大きな注目を浴びた。当時としては非常に先進的なビジュアル開発環境を備え、しかもそのプログラミング言語として、新しく作られたオブジェクト指向言語であるObject Pascalを採用していた。Delphiは、扱いやすさだけでなく、アーキテクチャの美しさ、パフォーマンスの良さなどが高い次元でバランスがとれており、現在でも大いに人気がある。
本書は、その宣伝文句に“Delphiを基礎からやり直したいユーザーに最適の1冊”という表記があるとおり、入門レベルから、もう少し上のレベルまでを対象としたレンジの広い本である。そのため、例えばVisual Basicのような他ほかのオブジェクト指向言語からの“乗り換え”需要にも十分にこたえ得る内容となっている。特徴としては、本文構成がトラブルポイント、チェックポイント、解説のように分かれており、学習の目的や方法、疑問点などを明確に把握できるようになっていることが挙げられる。これにより、無駄のない効率的な学習を実現できるとともに、FAQ的な使用にも対応できる。本書自体はDelphi 2向けであるが、内容が基本的なので、上位のバージョンにも十分に役立つだろう。
古川氏:
「この本は、初心者向けだけじゃなくて、もう少し掘り下げた内容になっています。一時期結構話題になりましてね。Delphi専門の会議室(BBS)でもよく取り上げられていました。少し古くなりましたが、内容的にはいまでも十分に通用すると思います」
Javaの本質をとらえたい人に最適のノウハウ集 |
Javaの格言 より良いオブジェクト設計のためのパターンと定石 ナイジェル・ウォーレン、フィリップ・ビショップ共著、安藤慶一訳 ピアソン・エデュケーション 2000年4月 ISBN-4-89471-187-7 2400円(税別) |
Javaは、アーキテクチャ的に洗練されたスタイルを持ち、文法も比較的覚えやすいため、現在ではオブジェクト指向言語の中でもトップクラスの人気を誇っている。一時はその将来を危ぶまれたこともあったが、ここ数年で“サーバサイド”と“モバイル”"いう新たな道が開け、事態は急速に好転。Javaの人気はさらに不動のものとなりつつあるようだ。
だが、いくら人気があっても、本当にJavaを使いこなせている人は意外と少ない。ある程度Javaのプログラミングができるようになった人でも、なかなか本格的な大物アプリケーションを作れるまでには至らないのが実情なのだ。その理由はやはり、オブジェクト指向プログラミングの本質をとらえきれていないことにある。
本書は、まさにそんな人にぴったりの解説書である。前半の章では、オブジェクト指向プログラミングの特徴である継承や多態性、カプセル化などの概念を“格言”の形で明快に教えてくれる。また後半の章には、オブジェクトファクトリやコレクションのような、柔軟性や拡張性の追求を旨とするオブジェクト指向プログラミングならではの実際的な設計ノウハウが満載。具体的なコード例も多数掲載されており、非常に参考になる。レベル的にはかなり高度な部類に属する本だが、初心者からの脱却を目指す読者なら、挑戦のしがいがある好著といえるだろう。
古川氏:
「これはお薦めの本ですね。何度も読み返しましたが、読むたびに新しい発見があるんです。私自身、非常に勉強になりましたし、影響も受けました。実は、この本を読まなかったら、サーバサイドのプログラムは組めないんですよ。それほど、本質的な内容が含まれているんです。だから、Javaを勉強する人すべてに、ぜひ読んでほしい。この本さえ理解できていればもう、C#が出てこようが、もっと新しい言語が出てこようが、ぜんぜん怖くなんかないですよ」
JavaとCORBAの連携を提唱した先駆けの本 |
Java & CORBA C/Sプログラミング 第2版(上・下) ロバート・オーファリ、ダン・ハーキー著、並河 英二、水野 貴之、池浦 規之訳 日経BP社 1999年1月 ISBN-4-8222-8049-7(上) ISBN-4-8222-8050-0(下) 4400円(上) 3900円(下)(いずれも税別) |
CORBA(Common Object Request Broker Architecture)は、OS(プラットフォーム)や言語の違いを超えて、プログラム部品(オブジェクト)間での通信ができる仕組みを定めた、分散オブジェクト技術の仕様である。OMG(Object Management Group)という団体が策定し、仕様の維持と管理を行っている。ただ、CORBA自体は概念的なものなので、その具体的な実装は、Javaなど実際のプログラミング言語の助けを借りて作成しなければならない。
本書は、CORBAの概念に準拠しながら、Javaを使ってクライアント/サーバシステムのプログラムを構築するための手法について解説した本である。CORBAについての概要、JavaとCORBAを融合させることの利点、プログラミングの詳細、導入に際しての注意点などが、豊富な例題とともに扱われており、理論から応用までのひととおりがそろったオールラウンドな内容。DCOMやHTTP/CGI、Servletなどほかの類似技術との比較や、JDBC、Enterprise JavaBeansなどの詳細も紹介されている。
JavaとCORBAの連携は、最近でこそ当たり前になった感があるが、その先駆的役割を果たしたのは本書。あまりに抽象的であるがゆえ、それまでは一種のプロパガンダのようにさえ思われていたCORBAに、Javaという具体化した手段を与えた功績は大きい。従って、その意図に沿った読み方をする人、つまりCORBAをプログラミングという実体の観点からとらえたいと考えている人には、実に好適な本ということになるだろう。
古川氏:
「CORBAというものを勉強するときに、これは非常に役に立ちました。(私の持っている本を)ご覧になれば分かると思いますが、勉強したときの書き込みが結構すごいんですよ。内容としては、特に知識的なところがきちんと押さえられているという印象です。それに、例題が多いのもいいですね。ただ、原文のせいか翻訳のせいかは分かりませんが、全体的に表現が分かりにくい気がします。まったくの初心者よりは、CORBAにある程度の前提知識を持っている人に向いていると思います」
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連載:エキスパートに聞く ぼくのスキルを支えた本 |
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