スキル創造研究室 Book Review(1)

自分の思考を強化するために読みたい6冊

阿出川真広(ゼロソフト)
2003/7/16

今回紹介する6冊
ソフトウェアテスト293の鉄則
一般システム思考入門
新ネットワーク思考 世界のしくみを読み解く
クリティカルシンキング 実践篇 あなたの思考をガイドする
思考をひらく 分断される世界のなかで(思考のフロンティア 別冊)
思考の整理学(ちくま文庫)

 技術というものを扱いながらも、いつのまにか自分の思考方法が固定化し、それにこだわってしまっている自分に気付いたことはないだろうか。その考え方は本当に正しいのか。科学的な根拠はあるのか。ほかにどんな考え方があるだろうか。そんなところから、自分の思考を柔軟にし、強化することができるのではないだろうか。そのためにお薦めしたいのがこの6冊だ。

  上流工程に携わるエンジニアも必読を

ソフトウェアテスト293の鉄則

Cem Kaner、James Bach、Bret Pettichord著、テスト技術者交流会訳
日経BP社
2003年4月
ISBN4-8222-8154-X
2400円(税別)

 「思考」をテーマにした書籍紹介の最初に、この「ソフトウェアテスト」の本を挙げたい。その理由は「第2章 実践的テスト担当者の思考法」を思考へのガイドとして紹介したいからだ。

 この本をお薦めしたいのは、いわゆる「テスト屋さん」だけではない。「テスト」を「要求分析」や「設計」に置き換えて読んでもよい。そのため、上流工程に携わる人にもぜひ読んでほしい。

 さて、本書の第2章は、認識論と認知心理学から始まっていることに留意してほしい。「それは知っている」「分かりきったこと」そして「そんなのは常識」という思い込みが思考を停止させる。不正確な認知が要求の抽出を妨げ、設計・プログラムにバグを作り込み、その検出を妨げてしまうのではないだろうか。

 認識・認知から始まる(第2章の)32個の鉄則が、新しい思考の切り口を見せてくれるはずだ。32個のうち、ちょっとだけ鉄則のタイトルをここで掲げておこう。これを見て、この本を読んでみたいと思わないだろうか。

  • テストには推理力が必要となる
  • テストとは探求することだ
  • 仮説的推論の技法を使え
  • 要求仕様書をあてにするな
  • 慣れは見落としの素、新鮮な眼をいつも絶やさずに

  あなたが信じていることは本当に科学的?

一般システム思考入門

ジェラルド・M.ワインバーグ著、増田伸爾訳
紀伊国屋書店
1979年6月
ISBN4-314-00254-9
3592円(税別)

 『ソフトウェアテスト293の鉄則』の中でモデリングの技術全般を身に付ける良い方法は、システムシンキングを勉強することだと、本書『一般システム思考入門』を挙げている。紹介されているのは25周年版で邦訳版は旧版であるが、思考のすそ野を広げてくれる良書として推薦したい。

 ただ、本書は20年以上前の翻訳のため、引用や警句、メタファーに抵抗を覚える方が多いだろう。しかし、それにめげずにじっくりと吟味して読んでほしい。科学的だと盲目的に信じていることへの多くの勘違いや思い込み、そして限界に気付くことができるだろう。

  システム間の関係性を考える

新ネットワーク思考 世界のしくみを読み解く

アルバート=ラズロ・バラバシ著、青木薫訳
日本放送出版協会
2002年12月
ISBN4-14-080743-1
1900円(税別)

 1つのシステムの中にも多くの複雑な相互関係があり、それはそれで必要なことだが、いまやシステム間の関係を考える時代へ変化しているようだ。『Linked:The New Science of Networks』、これが『新ネットワーク思考』の原題であり、インターネットを対象とした研究が大きな部分を占める、関係を中心にした科学だ。

 「成長」と「優先的選択」、そして「ベキ法則」「スケールフリー・モデル」。複雑系を解明する新たな鍵を示してくれる1冊だ。ネットワーク(インターネット・通信に限らず、マーケティング、エイズの拡散やたんぱく質の代謝まで)を幅広くとらえ、その構造の共通項と成り立ちを解説している。現在を読み解く書としてお薦めする。

  クリティカルシンキングを身に付ける

クリティカルシンキング 実践篇 あなたの思考をガイドする

E.B.ゼックミスタ、J.E.ジョンソン著、宮元博章ほか訳
北大路書房
1997年9月
ISBN4-7628-2093-8
1900円(税別)

 「メタ認知」と「マインドフル」をキーワードにした「批判的思考法」の実践編です。本書は、以前に紹介した『クリティカル進化(シンカー)論―「OL進化論」で学ぶ思考の技法』の本編ともいえるもので、上下巻に分冊された下巻に当たる。本書は、「クリティカルシンキング」の中核をなす「メタ認知」と「マインドフル」を中心に扱った「6章 自分は何を知っているかを知る」から始まるが、上巻である『クリティカルシンキング 入門編』を読んでいなくても十分理解できる。

 翻訳者が「訳書まえがき」に書いているように、「批判的」という言葉にはネガティブな印象がある。しかし、自分の認知を常に評価し、判断の材料と過程を評価することを忘れないという態度は、決してネガティブなものではないことを銘記してほしい。

  ソフトウェア開発の現場にも通じる話

思考をひらく 分断される世界のなかで(思考のフロンティア 別冊)

姜尚中ほか編
岩波書店
2002年2月
ISBN4-00-026437-0
1200円(税別)

 ハードやソフトを問わず、コンピュータにかかわる開発から利用までのすべてに国際化の波が押し寄せながら、それと同時にさまざまな格差が拡大する現在。そんな時代状況を読み解くためのの1冊だ。とはいえ、本書はコンピュータやインターネットとは関係なく、また思考法の本でもない。思想・哲学の各種テーマを扱った『思考のフロンティア』全16冊の別冊に当たる。

 あとがきに「多くの人々が、実際にあるよりもはるかに少ない選択肢しか見ず、極端にいえば、最初から結論を決めてしまっている」とある。これは、ソフトウェア開発の現場でもよく遭遇することだ。システム内の相互関係、システム間の関係を現実の社会と人間の関係で読んでみることをお勧めする。

  アイデア想像の参考に

思考の整理学(ちくま文庫)

思考の整理学(ちくま文庫)
外山滋比古著
筑摩書房
1986年4月
ISBN4-480-02047-0
460円(税別)

 この本は、アイデア創造への「思考本」としてお薦勧めしたい。

 本書の初版は1983年で、文庫化されたのは1986年である。その文庫本のあとがきである『思われる』と『考える』の出だしを引用したい。

 「日本に来たばかりのアメリカ人から、日本人は二言目にはI think ....というが、そんなに思索的なのか、と質問されて、面食らったことがある」

 これは、われわれが日常的に使う「〜と思う」を、英語でそのままI thinkと訳してしまっていることを指す。著者はここで、「〜と思う」は「It seems to me」に近いものだと書いている。この違いを常に意識することが必要ではないだろうか。ソフトウェア技術者の日常に置き換えれば、「仕様書に思うって書くなよ!」ということに近いだろう。

 前述したように、本書の初版は20年前であるが、その中に「コンピュータ」の章がある。そこでは、記憶と再生(検索)でのコンピュータの絶対的優位性を唱えている。人間の思考は記憶と再生から解放され、創造へと向かうだろうとある。コンピュータの能力はこの想定をすでに超えているが、人間の方はどうであろうか。

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