成果を生み出すコーチング

第5回(最終回) プロジェクト活性化の鍵は笑いと視点

小田美奈子
2006/9/9

コーチングやファシリテーションは、IT業界でも積極的に取り上げられ、活用している企業や個人も多い。そこで本連載では、コーチングやファシリテーションなどのヒューマンスキルを活用している人と、その事例を紹介していく。

 今回は、HRM(ヒューマン・リソース・マネジメント)、金融を中心とした自社開発パッケージビジネスを展開するブレイニーワークスの事業戦略室に在籍する傍ら、XMLコンソーシアム(=XML・WebサービスおよびSOAの普及を目指す団体。会員企業約170社)の関西部会でリーダーを務める芦田尚人さんにお話を伺いました。

芦田尚人氏のプロフィール:ブレイニーワークス 事業戦略室 シニア・マーケティングディレクター、XMLコンソーシアム エバンジェリスト。1988年ブレイニーワークスの前身である鐘紡(現カネボウ)に入社。DOS、OS/2、Windowsで多くのシステム構築を経験するほか、パッケージの企画・開発を行う。その後、さまざまなWebシステムの構築に携わる。現在は、パッケージ戦略、技術戦略を中心に担当している。また、XMLコンソーシアムでは、エバンジェリストとして活動する。

表情を観察、背景を探る

 芦田さんは、現在パッケージソフトウェアの企画、マーケティング戦略、技術サポートなど幅広い業務を担当されています。システムを構築するうえで必要な、基盤技術であるXML技術を調査するため、2002年よりXMLコンソーシアムに参加。活動の普及促進を図るエバンジェリストに任命され、2005年より関西部会の立ち上げに参画、リーダーとしての活動がスタートしました。部会の企画・運営、ファシリテーターとしてリーダーシップを発揮している芦田さんですが、リーダーとしてどんなことを意識しているのでしょうか。

芦田 会ではお互いを知る場になるよう意識しています。部会活動のメリットは、さまざまな企業の人と会えて、いろいろな考え方を聞けることにあります。もちろん、私も同様です。参加している人は、技術的なスキルを伸ばしたいのはもちろん、いろいろな人の情報を知りたい、説明の方法を学びたいなど、さまざまな目的を持っています。その人たちが社内に伝えられるような情報を会で提供したり、個人が会に参加したいと思わせるようにしています。

小田 具体的にはどのような取り組みをしているのですか。

芦田 当たり前なんですが、会を進行するときは、発言している、していないにかかわらず、参加者の顔を見ながら行うようにしています。これはどの会議でも同じだと思うのですが、部会では、全員が参加者の方々のお仕事を知らないだけに、特に気を付けるようにしています。顔を見ているといろいろなことが分かります。例えばこれは面白いなという発言を誰かがしたときに、表情が変わらない人がいることがあります。そういう人は、何か引っ掛かるところがあるのかもしれないので、確認するようにします。

 あとは、「○○さん、どう思います?」「どこか疑問ですか」など、気軽にしゃべってねという形で、参加者全員になるべく話してもらいます。参加者にとって満足のある会にしないと、来てもらっている意味がないし、次は来ていただけないと思うからです。

 そのほか、会議の前や休憩時間に「いじり」をしますね。例えば、「しんどそうやな〜」「どうしたん?」と個人的に話し掛けることで、その方の背景が見えてくることがあります。

 「いま、ものすごく忙しいんです」という反応があったときに、仕事の内容を知るのはタブーなのでしないんですが、「忙しい」イコール「コンソーシアムの活動がしづらくなっている。その背景には、活動とマッチしていない部分がある」という場合も想定できます。もちろん、単に仕事がしんどい場合もありますが。このような形で、参加者の背景をつかんでいくと、次はこうしてあげようというアクションが分かります。

 時には芦田さん自身も周囲に「しんどいわー」と伝えることで、「大丈夫ですか」「私もなんですよ」と、そこから会話が広がることもあるそうです。この「いじり」はあくまでも顔を見て行うとのこと。電子メールでは、言葉だけなので誤解を受けることがあるためしないそうです。

芦田 顔を見て話すのは、コミュニケーションの主要要素ですよね。顔を見て「どう思う?」と聞く、表情の奥に何があるかを考えるのは、活性化につながるし、何かを運営するときやリーダーシップを発揮するときには、とても重要だと考えています。

 表面的な報告や状況の奥にある中身をつかむには、雑談だったり、いじりだったり、表情の変化を見るのが大事だと思います。背景を知ることで、どういう努力をしてきたのかも分かるし、これらを加えることで厚みがある話ができます。

 ただ、私の場合はいきなり雑談、いきなり本題への復帰になる場合があるので参加者も注意が必要です(笑)。

「笑い」でプロジェクトを活性化

 コンソーシアムにはさまざまな役職や立場の人たちが参加しています。芦田さんは、「運営・進行・活性化はリーダーの責任だが、立場上は並列である」とのスタンスを持っています。さまざまな人をまとめるために、どんなことに気を付けているのでしょうか。

芦田 その人の会社での立場は考えずに、相手が誰であっても同じような形で話をします。年齢は気にしますが。この人はこういうことに詳しいなとか、こういうことを知りたがっているなというときは、話を振ることはあります。技術的に詳しいから教えてということもあります。立場ではなくて、その人の特性ですよね。実際、私も知りたいことがいっぱいありますしね。

小田 1人1人の特性を把握しているんですね。

芦田 どこまで把握できているかは、分からないですが、ある程度は把握しています。また、把握するように努力していますね。

 僕は人が好きなんです。いろいろな人がいると楽しい。もちろん、楽しいことだけでなく、しんどいこともありますが。同じような人がいたら簡単でしょうけれど、いろいろな人がいるから活性化することも大きいわけですよね。それだけ幅が広がるわけです。その中で、みんなの共通は笑いだと思っています。いろいろな人がいても、笑いは共通の土壌だと思うんですよね。

小田 一体感が生まれますよね。

芦田 それはあると思います。趣味は別だけど、笑いは一緒。笑うポイントはバラバラだけど、笑うという行為は同じなわけです。笑いは、太陽のようにあらゆるものを照らしているもので、自然とあるものだと思います。太陽が木々や土や海を照らすように、プロジェクトや会社、個人生活を照らすものが笑いだと思います。

 芦田さんは仕事で満足感を得るには、楽しいことが大事と考えているようです。

小田 芦田さんにとっての「楽しさ」とは?

芦田 楽しいというのは、楽をするのではなく、活性ということです。しんどかったけど、後から考えると楽しかったよねといえることはあると思います。その楽しさを出せるのが、笑いだと思います。

 徹夜が何日も続く仕事をしていても、30秒の笑いで救われることがあります。笑う=まじめじゃないというのとは違う。30秒の笑いの後に、仕事量が伸びればいいことですよね。30秒の笑いがないために、テンションが落ちれば効率は上がらないわけです。

 なので、単純に進ちょくといっても、そういう要素が加えられる場合と、ない場合では大きな違いになるのではないかと思います。笑いの要素があることで、もうちょっと頑張ってみようかという気持ちになると思うんです。

 気分転換に休めといっているわけではなくて、笑う要素を入れるだけで、効率が上がったり、プロジェクト自体がうまく進むのであれば、そういう要素は重要ということです。笑いはIT業界を救う(笑)。

   

今回のインデックス
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