>>インデックス
プロカウンセラーに学ぶチームビルディング

プロカウンセラーに学ぶチームビルディング術

第3回 優れたPMは、プログラマの相談にすぐには解決策を示さない

ピースマインド
カウンセラー 石川賀奈美
2010/7/29

チームビルディングとカウンセリングには共通点がある。「人の話をきちんと聞く」「相手の立場になって考える」――口でいうのは簡単だが、実行するのは難しい。訓練を受けたプロカウンセラーからカウンセリングで使うコミュニケーションスキルを学び、メンバーとの信頼関係構築、チーム内のモチベーション維持、すみやかな情報伝達のために生かそう。

第2回1 2次のページ

 第2回「オープンマインド――チームがまとまらないときの処方箋」では、「心を開いてメンバーが話しやすい“構え”をつくる」ことについて説明しました。さて、今回は「部下が悩みを打ち明けてきたときにどうすればいいか」を考えます。キーワードは「アクティブ・リスニング」です。

きちんと話を聞いて助言したのに、なぜ?

 プロジェクトマネージャのSさんは、メンバーと個別に話す時間を積極的に取ろうと日々努力しています。あるとき、女性プログラマのNさんが「話したいことがある」とやって来ました。小さい会議室で、マンツーマンで話を聞くことにしました。

Nさん:仕事にミスが多くなってA先輩から注意されました。今回の仕事は、新しい言語なのでわたしには難しくて……。自分でもなんとかしたいのですが、どうすればいいか分からないのです。

Sマネージャ:そうか。その新しい言語を、もう少し勉強した方がいいんじゃないのかな。今回のプロジェクトだけでなく、今後も使えると思うし……。勉強方法はBさんに聞いてみたら分かると思うよ。

Nさん:はい。(うつむきながら)……なんか、やっていけるか自信がなくて。

Sマネージャ:大丈夫だよ。Nさんには十分やれる能力があるから。頑張れ!

Nさん:はい……。分かりました。

 しかし、この後Nさんは仕事を休みがちになりました。出社しても元気がありません。

 Sマネージャは「ちゃんと話は聞いた。アドバイスもした。元気づけたのに……」と困ってしまいました。

解決策を提示するよりも、相手に話してもらうことが大事

エンジニアライフ
コラムニスト募集中!
あなたも@ITでコラムを書いてみないか

自分のスキル・キャリアの棚卸し、勉強会のレポート、 プロとしてのアドバイス……書くことは無限にある!

コードもコラムも書けるエンジニアになりたい挑戦者からの応募、絶賛受付中

 Nさんが相談に来たのは、日ごろSマネージャが話しやすい雰囲気づくりを心掛けていたためだと考えられます。Nさんは、うまくやれていないことや先輩に注意されたこと、自信がないことなど、自分にとってのマイナス要因をやっとの思いでSマネージャに話したのでしょう。

 相談を受けた人は「これらの思いをどう受け止めるか」が大切です。Sマネージャはスキル不足が問題なのだと考え、解決策を提示しました。さらに、その行動に踏み出せるように励ましたのです。

 確かに、Nさんは「どうすればいいか分からない」といっています。Sマネージャはこの言葉に対して「こうしたらいいよ」と答えを返したわけです。解決策としては間違っていないと思われます。ただ、もし次のように最初に反応していたらどうなるでしょうか。

Nさん:仕事にミスが多くなってA先輩から注意されました。今回の仕事はわたしには新しい言語なので難しくて……。自分でもなんとかしたいのですが、どうすればいいか分からないのです。

Sマネージャ:そうか。ミスが多くなってAさんから注意されたのか。……それでNさんは、いま使っている言語が難しくてどうしたらいいか悩んでいるんだね。

 もし、NさんがA先輩に注意されたことに傷ついていたら、「スキルを上げること」よりもむしろ「自信がなくなってしまった気持ち」を十分に話してもらった方がいいかもしれません。または、「悩んでいるんだね」といわれたことで、スキルの問題以外で悩んでいることを話してくれるかもしれません。相手が思っていることを自由に話せたとき、その情報を活用できるのです。

気持ちを受け止める“アクティブ・リスニング”

 上記の例で、 Sマネージャは「事実を把握しました」→「あなたの気持ちはこういうことでしょうか」と確かめています。「なんだかまどろっこしい」と感じたでしょうか。

 日々、課題の解決を求められるマネージャは、解決案を提示することに慣れていると思います。しかし、こうした“悩み”に対しては「解決策を提示するよりも、気持ちを受け止めることが優先」と切り替えてください。このような聞き方をアクティブ・リスニングといいます。

【カウンセラー用語辞典】 アクティブ・リスニング
 「積極的傾聴」ともいう。言葉以外の表情や態度を含めて注意深く話を聞く、相手の真意を理解しようと心をこめて聞く、という態度。非指示的カウンセリングで有名なカール・ロジャーズが提唱した(高橋修『ひとりで学べるメンタルへルス・マネジメント検定 II種ラインケアコース』ナツメ社、2008年)。

解決案をすぐに出さない、それがコツ  

第2回1 2次のページ

自分戦略研究所、フォーラム化のお知らせ

@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。

現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。

これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。