IT Architect連動企画]
真の価値をクライアントへ届けるために
危険な技術への盲信から目を覚ませ!

第2回 いま必要とされる真の技術スキル

ウルシステムズ 代表取締役社長 漆原茂
2004/4/16

最新の粋を集めたプロジェクトが、大きなトラブルで頓挫(とんざ)したり、予定より大幅に遅れることは珍しくはない。いま、ITエンジニアに求められていることは何か。ウルシステムズの漆原氏が、思いのたけを語る。

仮説を無視した無謀な技術


本記事は、「ITアーキテクト」と@ITの各フォーラムが展開する、分析/設計工程に焦点を絞った『ITアーキテクト連動企画』記事です。

 先日、某製造業のお客さまを訪問した。あるITベンダの素晴らしい提案を受けて、数年前から全社統合IT基盤のプロジェクトが進んでいた。いままで事業部ごとの縦割りで推進していたITを、業務含めて共通化し効率を上げて統合しよう、ひいては経営管理を一括で行えるようにしよう、というものである。よく聞く理想的なITを追求するプロジェクトであり、大変大掛かりなダウンサイジングプロジェクトとして、業界の注目も集めていた。

 結局どうなったかというと、ベンダのいうとおりに進めたIT統合であるが、各事業部の業務はバラバラであり統合不可能という結論が出された。共通部分を抜き出す、という一見ありがたそうな話も現実的には机上の空論でしかなかった。無理やり情報基盤だけ作っても、当初期待していた経営効果はゼロ。よくよく冷静に考えれば分かることで、このお客さまの場合、もともと共通部分がほとんどない事業部間の業務を「統合する」ことに無理があったのだ。

結局は大失敗

 それをあたかもできそうに「きれいごと」を提案してきたベンダのことを鵜呑み(うのみ)にし、前提をすべて無視して情報システムの基盤統合をすすめた結果の大失敗。当時の情報システム部のトップは左遷され、ITベンダはそのお客さまからは撤収してしまった。当時の現場の方々は本件の収束に大変な苦労をされており、話を伺っていても本当に頭が下がる思いである。余談だが、そのITベンダはまた懲りずに別のお客さまに同じ提案をしているようだ。

業務統合の前提となる仮説とは

 上記の業務統合プロジェクトの場合、いくつかの大事な前提がある。

 例えば複数の業務を統合して効率改善するというならば、「事業部間で共通業務が多く、共通化しても業務効率を逸しないこと」が事前に証明されていなければならない。「多くの業務を事業部間で共通化できる」ことは仮説にすぎない。この前提を黙殺したまま、仮説が正しいだろうという前提でプロジェクトが突っ走ってしまった。結局1年以上にわたる大規模な設計とIT統合の基盤開発の結果、それほど統合できない(=仮説が間違っている)ことがようやく分かっただけである。

 新しい技術を導入する場合、当然ながらその効果とリスクを踏まえたうえで判断しなければならない。しかしながら、技術を提供する側が、さまざまな前提やリスクを隠ぺいしたうえで、あたかも万能であるかのように技術効果を過剰なまでに唱えているのが現実である。前述のお客様さまから「全社統合をこういう理由で行うので手伝ってくれ」といわれた場合、果たして何人が「いや、それは失敗する可能性が高いので、見直した方がいいですよ」といえるだろうか。ほとんどの人は、喜び勇んで「それには弊社のこういう技術と、ああいう製品がぴったりで、間違いありません」といってしまうのではないか。

技術屋として真の成果を発揮する

 「戦略と業務とIT」の融合という永遠の課題について、多くの議論がなされている。しかしながら、実行力を伴わない机上の空論や仮説を無視した技術の神格化が公然とまかり通っているのもまた事実である。戦略と業務を技術屋が語るならば、どれだけの戦略立案経験と業務ノウハウを保有しているのか、ぜひその技術屋に聞いてみて欲しい。すぐにホンモノかどうか分かるはずである。

 技術を理解しているということは、その技術を効果的に使う術を心得ている、ということである。すべての技術には、その真価を発揮するための前提条件がある。業務統合もオブジェクト指向もフレームワーク技術もプロジェクトマネジメントも開発方法論も、解決すべき課題とその前提を見失ってしまっては本当の貢献ができない。目的を見失わずしっかりと実行していく力、仮説を仮説として認め、愚直なまでに誠実にお客さまに相対していくスキルこそが、いま求められているプロフェッショナリティなのである

筆者プロフィール
漆原 茂(うるしばらしげる)●1987年東京大学工学部卒業。同年沖電気工業入社。同社在籍中1989年より2年間、スタンフォード大学コンピュータシステム研究所客員研究員。オープンシステムでの大規模トランザクション処理システムおよび、Webアプリケーションサーバによる大規模インターネットシステムを多数手掛ける。2000年7月にウルシステムズを設立、代表取締役社長に就任。

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