図解言語実践テクニック〜実例から覚えよう

実例から覚えよう
図解言語実践テクニック

第1回 会社に提出するレポートで考えよう

開米瑞浩(アイデアクラフト)
2004/9/4

図解言語を実際に身に付けるには、実例を挙げながら図解することだ。そこで本連載ではさまざまな場面を想定し、それを図解することで、図解言語の実践テクニックを学んでもらいたい。

図解は基礎学力

 @IT自分戦略研究所で連載していた「図解言語入門」ですが、本連載ではそれを読み、理解したうえでの実践テクニックをお伝えしたいと思います。

本記事を読む前に読んでおいてほしい記事:図解言語入門
第1回 図解言語はSEの現場で役に立つ
第2回 最初の一歩はマトリックスから
第3回 マトリックスの課題をレビューする
第4回 ピラミッドには執念が必要
第5回 ピラミッドの課題をレビューする
第6回 サーキットで論理を体感しよう

 筆者は図解は高校生ぐらいの段階で習慣づけておくべき基礎学力だと考えています。また、情報整理をするあらゆる機会に使えるほど応用範囲は広いのです。が、広いとかえって漠然としてしまうのも事実です。

 そこで、誰もが会社でよく使い、作成するビジネス文書を例にして、図解の技術の実践例を見てみましょう。今日この瞬間から、ビジネス文書を作る視点が変わると思います。

工場で火事、そのレポートは?

  2004年○月○日、電子部品メーカーD社の工場に火災が発生した。そのため、多くの社員がその収拾に走り回っていた。騒ぎが一段落したところで、マネージャの稲垣は、現場でともに事態の収拾に当たったスタッフの石井に、事故の経緯についての報告書の作成を命じた。

 石井が作成した草案は次のとおりだった。

火災事故報告書
件名
・塗装工場からの出火による火災事故の経緯
事故原因
・製品塗装工程で、何らかの原因により火花が溶剤に引火し、炎上した。
・原因は目下調査中、現時点では不明。
事故による影響
・近くにいた従業員2名がやけどを負い、救急車で病院に運ばれた(軽傷、2日で職場復帰)。
・塗装工程の炎上に対して、いちはやく従業員が消火活動を行ったため、爆発は免れたが、工場内は水浸しになった。生産の再開は半月後になると思われる。
収拾方法
(1)事故原因・問題点を追究し、その原因を確認後、善後策を講じること。
(2)それに基づいて、工場内の清掃および整備後に、従業員および機械メーカーの技術者に依頼し、早急にライン復旧に取り掛かる。
(3)総務部長が近隣住民を訪問し、謝罪と説明を行った。
再発防止措置
社内安全対策委員会を設置して、下記のような再発防止措置を行う。
(1)安全性に関する事前評価:塗装作業の危険要素を抽出し、それに関する対策を検討し実施する。
(2)より安全な設備への改善と管理:設備の見直しを行い、設備を改善するとともに、設備・機器などの点検・管理に対する社内ルールを確立し、全員で対応する。

 この草案を読んだ稲垣マネージャは、しばらく考え込んだ後、石井を呼んでいった。

稲垣 あのなあ、石井、これに3行の要約を付けてくれるか?

石井 3行ですか、えーっと……。

マトリックスにすると……

稲垣 これ、書く前にマトリックス化してみたか。

石井 マトリックスっていうとあの、あれですか、この前の……。

稲垣 図解の実習やっただろう。何でも取りあえずマトリックスにしてみると役に立つんだ。

石井 すみません、これはマトリックスにしていません。

稲垣 まあいいか。時間もないから書いてみるか。……こんな感じになるかな(図1)。

図1 火災事故の経緯マトリックス

稲垣 石井の草案だと、事故原因、事故による影響、収拾方法、再発防止措置と、大まかにいうと4項目になっているよな。それはそれで悪くない。だが実際はもっと細かく分けて考えた方がいい場合が多いんだ。今回の事故の場合だと、このチャートの左端の列にあるような6項目のところだ。

石井 処置と、復旧や対策を分けるんですね。

稲垣 原因と事象はいいよな。原因はまだ不明。起きた事象は火災だ。これが居眠り運転による交通事故だったら、居眠りが原因、事象は交通事故、ってことになる。そしてこの事象に伴って損害が発生するわけだ。今回は2名のやけどと、塗装工程の損害だな。

 で、通常損害は元に戻さなきゃならん。それが「復旧」だ。それに対して「処置」は、事象を止めるためのものだ。火事は取りあえず消火しなきゃならん。復旧はその後の話だ。というわけで、事象・処置・損害・復旧は別物と考えた方がいい。

 ところで、「対策」っていうのは何をすることだ?

石井 まずは原因調査ですから、……あぁ、まだ分かっていない。「不明」の原因を調べて、善後策を考えて実行、ということですか。

稲垣 そうだな。大体この、原因→事象→処置→損害→復旧→対策、の順番で進むのがセオリーだろう。ただ、復旧と対策には別に依存関係はない。復旧は損害に対応するものだし、対策は原因へ対応するものだ。だからそれが分かるように損害と復旧のアイテムはちょっと横にずらして書いた。これがマトリックスになっているのは分かるだろう。

石井 はい。

4項目をまとめると……

稲垣 で、最初に戻る。最初の報告書に3行で要約を書くとしたら何を書く? このチャートを見て考えると?

石井 3っていう数字に何か意味があります?

稲垣 大ありだよ。

石井 じゃあ、ひょっとしてこうですか。

 石井はチャートを3つのブロックに分けて稲垣マネージャに示した。

石井 つまり、原因→事象→処置で1ブロック、損害と復旧で1ブロック、対策で1ブロック。この3ブロックに分かれるような気がするんですが……。

稲垣 そのとおり。後はそれを文章化するとどうなるか。

石井 じゃあ

(1)原因不明の火災が発生したが、消火活動により鎮火した。
(2)損害は、従業員2名やけど(軽傷)、塗装工程の損害(半月)である。
(3)原因を調査し善後策を講じたうえでラインを復旧させる。

というところですか?

稲垣 粗削りだけど要はそういうことだ。こうやってチャート化しとくと、全体像が一目で見て取れるから、要点を抜き出しやすいことが分かるだろう。しかもこれ、手法としては別に難しくも何ともない。タテとヨコに並べただけのマトリックスなわけだよ。だから、どんなときでも、情報整理するには必ずマトリックス化できないかと、それを考える習慣をつけるといい。

石井 そうか、いつでも使えるものなんだ。

稲垣 まあ形は単純でも、例えば今回なら、原因→事象→処置、というタテの項目見出しを見つけるのは難しい。でもそれをいつも考えていると分かるようになる。

石井 ところで、(S1)のところが不自然に空いてますけど、何かあるんですか。

稲垣 いいところに気が付いたな。そう、ここは草案には書かれてないところだ。さっきの要約にもなかったね。近隣住民へおわびと説明に行った、というのを復旧の作業とすれば、それに対する損害が何かあるはずなんだが、それは一体何か。

 で、一体何だと思う? チャートを書くと、こういう空白ができ、それが目立つ。だから抜けていることとか、新しい視点に気が付きやすいのさ。その効果を実感できれば、単純なマトリックスがもっと生かせるようになる。

 なお、S1についてはここでは明らかにしません。簡単だと思うので考えてみてください。


  石井は稲垣マネージャの指導の下、マトリックスチャートの活用に一歩踏み出せたようですね。

 マトリックスは図解の技術の中でも基本中の基本。単純なだけに応用範囲は広いのですが、慣れないと最初は何から手を付けていいか五里霧中になりがちなようです。項目を見つけるカンをつかむには、実践の練習を何回も積む必要があります。しかし身に付ければあらゆるビジネス文書をまとめる能力が一段階上がることは間違いありません。

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