図解言語実践テクニック〜実例から覚えよう

実例から覚えよう
図解言語実践テクニック

第4回 表を見たら図解する

開米瑞浩(アイデアクラフト)
2005/3/3

図解言語を実際に身に付けるには、実例を挙げながら図解することだ。本連載ではさまざまな場面を想定し、それを図解する。その中から、図解言語の実践テクニックを学んでもらいたい。

 突然だが、英会話は得意だろうか。英語はただの道具だが、簡単なものから使い始め、場数を踏まないとうまく使えるようにはならない。同様に図解表現力もただの道具だが、やはり場数を踏まないと、図解のイメージがつかめるようにはならない。

 場数を踏むためには、図解向きの事例をたくさん見つけることが重要だ。今回は表に注目し、実際の図解のプロセスを紹介する。

本記事を読む前に読んでおいてほしい記事:図解言語入門
第1回 図解言語はSEの現場で役に立つ
第2回 最初の一歩はマトリックスから
第3回 マトリックスの課題をレビューする
第4回 ピラミッドには執念が必要
第5回 ピラミッドの課題をレビューする
第6回 サーキットで論理を体感しよう

図解のネタは表にあり

 ややこしいことを表現するときに図解で解決したいというニーズは根強い。とはいえ、10ページぐらいの文章を読んで図解しようとしても、どこから手を付けていいか分からず、困ってしまう人が多いようだ。

 英会話は場数を踏んでいないとスムーズにできない。図解も慣れないと、文章のどの部分を図に描けばいいのかさえ分からない。分からないから何もやらないでいると、いつまでたっても図解に慣れないという悪循環に陥ってしまう。

 そこで今回は「まずはここから!」というガイドラインを1つ提示したい。

 「何からやればいいんだろう」と迷うだけでは一歩も前に進まない。時間を無駄にしないためにも、図解向きのネタを見つけてはとにかく書いてみる、という経験を積むといい。そのネタを身近で見つけるいい方法がある。それは

 表になっているところに注目

することである。

 表、つまりタテヨコにマス目で区切ったテーブルのことだ。情報を表形式に整理することはよくある。表自体がマトリックスという図解の一種でもあり(図解言語入門 第2回 最初の一歩はマトリックスから)、表形式にまとめられた情報は、うまく図解できるケースが非常に多いのだ。

 私は経験的にこのことに気が付いた。昨年以来、勉強のためにいろいろなセミナーに出掛けていくと、大抵どのセミナーでもプロジェクターで「PowerPoint」のスライドを投影してプレゼンテーションをしている。単純な表形式はその種のスライドの定番中の定番で、誰も何の疑問も持たずに使っているが、そこでぐっと精神を集中して考えると、表よりもうまい図解の方法が見つかることは意外に多い。

 まさに表は図解の狙い目である。表を見たら、図解できないかどうか考えてみてほしい。おそらく7、8割の確率で何らかの方法が見つかるはずである。

表を図解せよ

 実例を紹介しよう。

 IT業界ではプロジェクトマネジメントのスキルが重要だ。そのプロジェクトマネジメントの標準であるPMBOKには、コミュニケーションマネジメントという分野がある。コミュニケーションマネジメントの範囲は次のように定義されている(表1)。

プロセス
説明
コミュニケーション計画
誰が、誰に、どのような情報・メッセージをいつ、何を使って伝えるのかを計画する
情報配布
関係者が必要な情報をタイムリーに提供する作業。この作業に伴ってプロジェクト記録が残る
進ちょく報告
目標達成に向けてどの資源がどのように使われており、どんな成果が得られているかを関係者に知らせる作業。出来高報告と今後の予測を織り込むことが重要
完了手続き
プロジェクト、またはその各フェイズの終了時に行う。終了には「目標達成」の場合も「中断・中止」の場合もある
表1 PMBOKのコミュニケーションマネジメント

 このような表が悪いわけではない。だが、このまま丸暗記する前にちょっと集中して考えてみよう。もっとビジュアルなイメージを描くことはできないか? すぐには思いつかないだろう。だが、あきらめずに粘っていると、ふと手掛かりが見えてくることがある。この表1枚に30分は悩んでみたいところだ。

 ちなみに私はこの表を見てから手掛かりをつかむまでに2分ぐらいかかった。慣れればそのぐらい早くなるが、最初は30分ぐらいかかっても当然と思って粘り強くいこう。

変化する項目に注意せよ

 具体的にはどう考えればいいのか。何かを図解しようとする場合、着目すべき点の1つは、変化にかかわる部分だ。特に、時間とともに変化する項目は図解の手掛かりになることが多い。

 表1を見ると、進ちょく報告というプロセスがある。説明部分を読むと、資源・成果・目標達成という概念がある。ここで私はまず、このようなチャートをイメージした(図1)。

図1 進ちょく報告のチャート

 プロジェクトとは、お金や時間などの資源を使って何らかの活動を遂行し、成果を出すものであると定義するチャートだ。「成果」の「達成」が100%になれば目標達成である。ただし、資源の消費と成果とは必ずしも比例しないので、その差を把握するために進ちょく報告が必要になる。

 ちなみに、「活動」は私が追加した。表1にはなかったが、「資源」と「成果」だけではちょっと飛躍しすぎではないかと思ったためだ。活動したが成果が出なかった場合と、活動せずに成果が出なかった場合とを厳密に区別するなら、「活動」も必要になるだろう。図解するときにはしばしばこうした追記を行う必要も出てくる。

一部を図にし、それを手掛かりにして追記せよ

 ここまでで、表1の進ちょく報告のプロセスだけをチャートにしたことになる。

 図解する場合、最初から全体を図にするのではなく、最初に一部分を図にして、そこに追記する方が往々にしてやりやすい。まずは特定部分でイメージを固めて、それを手掛かりにしていくわけだ。1つの表としてまとまっている情報はたいてい相互に何らかの関連があるので、追記できる場合が多いのである。

 残る情報を追記しよう。完了手続きのプロセスの説明には「プロジェクト、またはその各フェイズの終了時に行う」とある。これを図1に追記するとこうなる(図2)。

図2 完了手続きを追記したチャート

 フェイズというのは成果で区切られるはずだ。そこで、成果のグラフのところどころにポイントを置き、完了手続きと結び付ける。

 残るはコミュニケーション計画と情報配布であるが、これを図1・図2と一緒にするのは難しい。別の種類のチャートが必要になる。以下は最終形の例である(図3)。

図3 すべてを盛り込んだチャート

 簡単に説明すると、図2に次のような概念を加えたのが図3である。

  • プロジェクトの資源・活動・成果は関係者によって消費・遂行・達成される
  • 関係者は適切な情報配布を行う
  • 情報配布はコミュニケーション計画によってコントロールされる
  • 進ちょく報告は関係者に対して行われる

 このような関係を図3はうまく表していることが分かるだろうか。図3を見たうえで表1を見ると、非常に分かりやすいはずだ。

 結果として、図3は上下で別の種類のチャートになる。表1全体を一度に図にしようとするとうまくいかない。そこで、最初は一部分に注目する。一部分だけでイメージを作って、それを手掛かりにしてまた別の部分でイメージを作り、最後に組み合わせるという方法を取るとよい。

 以上、今回はよく使われる表を図解する事例を紹介した。表ならば誰でも10枚や100枚は書いたことがあるだろう。どんな雑誌にも大抵十数枚は出ているので、場数を踏むにはそれらの表を片っ端から図解してみることをお勧めする。

<今回のまとめ>

 ●表(テーブル)に整理された情報は、さらに図解できることが多い
 ●変化のあるところに注目する
 ●いきなり全体を描こうとせず、
  まずイメージしやすい部分だけを描いてから追記するとよい

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