図解言語実践テクニック〜実例から覚えよう

実例から覚えよう
図解言語実践テクニック

最終回 分かりにくい文章を図解で分析すると

開米瑞浩(アイデアクラフト)
2005/5/27

図解言語を実際に身に付けるには、実例を挙げながら図解することだ。本連載ではさまざまな場面を想定し、それを図解する。その中から、図解言語の実践テクニックを学んでもらいたい。

 図に描くことは、他人に分かりやすく説明するための手段なのだろうか。いやそれ以前に、自分自身がきちんと状況を理解するための手段なのだ。普段私たちが読む「情報」には、非常に紛らわしいものが多い。その紛らわしさ、「意味の揺らぎ」を見つけるために、「3枚1組一直線」の図解手順を心掛けよう。

本記事を読む前に読んでおいてほしい記事:図解言語入門
第1回 図解言語はSEの現場で役に立つ
第2回 最初の一歩はマトリックスから
第3回 マトリックスの課題をレビューする
第4回 ピラミッドには執念が必要
第5回 ピラミッドの課題をレビューする
第6回 サーキットで論理を体感しよう

携帯電話の説明書を読み解く

 今回は早速出題といこう。下記のテキストは、実際にある携帯電話の説明書に書かれていたものだ。このテキストを、マトリックスを使って整理してほしい。

携帯電話は無線を利用しているため、トンネル・地下・建物の中など電波の届かない所、屋外でも電波の弱い所およびサービスエリア外ではご使用になれません。また、高層ビル・マンションなどの高層階で見晴らしの良い場所であってもご使用になれない場合があります。なお、電波が強くアンテナマークが3本表示されている状態で移動せずに使用している場合でも通話が切れることがありますので、ご了承ください。

 わずか数行のテキストだし、内容もごく当たり前のことで、簡単なように見えるが実はそうでもない。これをきちんと整理できない人は意外に多い。

 典型的な間違いは、下記のように「電波が届かない」「電波が弱い」「電波が強い」という3項目を対比させてしまうものだ(表1)。

場所の性質
その場所での
使用可否
場所の例
電波が届かない所
使えない トンネル・地下・建物の中など
電波が弱い所
使えない場合がある サービスエリア外・高層ビル・マンションの高層階
電波が強い所
通話が切れる場合がある アンテナマークが3本表示されている場所
表1 間違って整理された例

 間違っているのは、「電波が弱い所」での使用可否である。原文をよく読むと「屋外でも電波の弱い所およびサービスエリア外ではご使用になれません」となっている。つまり、正しくはこうなのだ(図1)。

図1 正しく整理された例

 「電波が届かない所」と「電波が弱い所」はまとめて「ご使用になれません」と書かれている。そして「ご使用になれない場合があります」に対応する電波の状態は記述されていない。

 原文を正しく読むとこのような構造になるのだが、これを読み取るのはかなり難しい。というのも、「電波が届かない」「電波が弱い」「電波が強い」、ちょうどこの3つがセットになっているように見えるためである。

 ストレートに読めばそれがひとそろいだと思うのが当然で、本来は原文が分かりにくい書き方になっていることの方に問題がある。しかし繰り返すが、これは実際に使われていた説明文だ。世の中にはこの種の「紛らわしい説明文」が非常に多い。それを正しく読み解くために、また自分がそんなものを書かないようにするために、今回の記事を参考にしてほしい。

表現の不統一に注目

 さて、この文について詳しく考えていくとしよう。まずは以下の例を考えてみてほしい(図2)。

図2 3段階セット表現のいろいろ

 3段階で1セットを構成するようないい回しを集めてみた。水について「ない・少ない・多い」、火について「ない・弱い・強い」、ここから類推して「電波が○○・弱い・強い」の○○の部分に何がくるかを考えてみてほしい。

 答えは単純で、「電波がない」が正解である。

 最初の原文では、電波について「強い」「弱い」という強さに注目した表現と、「届かない」という、いわばリーチに注目した表現が混在していた。これが混乱を招いた理由の1つである。もっとも、電波が「ない」といういい回しは普通しないので、「届かない」という表現を使ってしまったのだろう。気持ちは分かる。

 それだけならよかったのだが、混乱を招いた理由はもう1つある。それを含めて混乱の原因を図に描くと、下記のようになる(図3)。

図3 リーチの表現と強さの表現の不統一

 つまり原文では、リーチでの表現と強さでの表現が混在し、統一されていなかったのに加え、本来なら「電波が届かない」と「電波が強い」の中間に位置するはずの「電波が弱い」を「電波が届かない」と同レベルにしてしまい、中間は空欄という状態だったわけだ。

 このような理由がいくつも重なると、人間は「一番自然に見える方向に」解釈をそろえようとする。

 すると、どうしても「電波が弱い」を中間レベルに持ってくるのが自然に思えてしまう。その結果、「サービスエリア外」までひきずられて中間レベルに落とされて、原文に書かれていたのとは違う整理をしてしまうわけだ。

 繰り返すが、もともとは紛らわしい説明文が問題なのである。しかし現実の世界にはこんな紛らわしい説明があふれている。だから、それに惑わされないためには強力な読解力が必要だ。そしてそのために使えるのが「3枚1組で意味の揺らぎを見つける」という手法である。

3枚1組で意味の揺らぎを見つけよう

 私が図解講座を開くときに必ず指導するのが、「付せんにキーワードを書き出し、並べ替えて図の原案を作れ」という方法だ。その並べ替えをするときのコツとして勧めているのが、「3枚1組を一直線に並べてみる」という方法なのである。

 手順をざっと説明するとこういうことだ。

 まず、情報源であるテキストを読んで、その中からキーワードを拾って付せんに書き出していく。何十枚か書き出したら、その中から適当に3枚選んで、何かの理由を付けて一直線に並べてみる。うまく一直線に並ぶものを発見できたら、それを手掛かりとし、周辺に残りのキーワードを配置していくことで図解原案を作る。

 その過程で時々、「揺らぎを探す」という作業をするのである(図4)。

図4 3枚1組で意味の揺らぎを見つけよう

 3枚1組を取りあえず一直線に並べた後、それが「本当に厳密に一直線になっているか?」と自問自答するのだ。そうすると、「確かに順番は合っているけれど、一部が微妙に横にずれている」というケースがよく出てくる。今回の出題で「強さ」と「リーチ」という2つの視点が混在していたように、本来は別の観点なのに、文章にはそれが入り交じって書かれている、ということが非常に多い。

 これは文章をそのまま読んでいてもまず分からない。「3枚1組一直線」の状態にして構図を単純化したうえで、「何かおかしくないか?」と精神を集中してしばらく考え込まないと、なかなか気が付かないのだ。

 「図解」が必要なのはそのためである。図に描くと、「これは一直線に並んでいてよい情報か?」という観点でチェックをしやすくなるため、文章のままでは分からない「意味の揺らぎ」に気が付きやすくなる。図解は人に説明するためよりも、まず自分が情報を理解するための、最大の武器といってよい。

 ただし、図解によってその効果を得るためには突破しなければならない壁がある。

 まずは、「一直線」にこだわること。図解するとき、同じ直線上に並べるものには何か同じ意味がなければならない。それを厳密に追求して、執念を持って一直線に並べる姿勢が必要だ。

 次に「揺らぎ」に気付くための国語力と専門知識である。これがないと「強さ」と「リーチ」という視点の違いに気が付かず、「揺らぎ」を発見できないことになる。

 以上を踏まえて、「3枚1組一直線で意味の揺らぎを見つける」という手法を今日から活用していただきたいものだ。それが、IT技術者に必要な読解力や表現力を磨く方法なのである。

<今回のまとめ>

 ●現実の世界の情報には紛らわしいものが多い
 ●紛らわしさを見極めるために、「3枚1組一直線」で図解の原案を作ろう
 ●「一直線」が厳密に成り立つかを執念深くチェックすることで、
  意味の揺らぎを発見できる

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