テンアートニ 海老原護
2006/3/23

プロジェクトでは自社の社員だけではなく、パートナー企業の社員や派遣社員、そのほかのメンバーと仕事をすることもある。そんなとき、特に気を付けなければならないことはあるのか。それはどんなことだろうか。ある若手エンジニアに、自分の経験を基に語ってもらった。

 IT業界に飛び込んでから約8年。28歳になる私も、そろそろ中堅といわれるようになってきました。立場もプロジェクトメンバーからリーダーになり、小さいプロジェクトながらプロジェクトマネージャも経験するに至りました。

 開発を経験する中で、パートナーとして何社かでお世話になったこともありますし、パートナーにプロジェクトへ参画していただいた経験もあります。

 パートナーとの付き合い方がプロジェクトの成功を左右する場合もありました。これらをどのように乗り越え、何を学んだかを、いくつかの経験を挙げながら紹介したいと思います。

 プロジェクトの規模や会社の方針などはそれぞれ異なるでしょうし、そのまま皆さんのケースに当てはめるのは難しいかもしれませんが、何かの参考になれば幸いです。

放っておかれるのは寂しい

 とある常駐先でのことです。私の所属していたプロジェクトでは、先方の社員とパートナーとの交流がほとんどありませんでした。

 新しい場所で交流がないのは結構寂しいです。パートナーとしてしばらくの間常駐する場所では、特にそうだと思います。

 単に寂しいだけならばよいのですが、プロジェクトに与える影響が大きいとなると大変です。というのも、そのプロジェクトでは先方の社員の作業が多く、パートナーとの交流もほとんどないため、社員はパートナーの状況を細かく把握できずにいました。そのため、パートナーは自然と放置されている時間が多くなっていたのです。

 パートナーの方も、作業がない状態が続いても放置されているままで、自分からアクションを起こすことはありませんでした。長時間ネットサーフィンに興じている人もいましたし、中には堂々とスポーツ新聞を広げている人もいました。

 実は私も同じような状況でした。先方の社員との交流もなく、パートナーということで社員との間にある種の線引きがされている状態で、自分がプロジェクトの部外者のように感じていました。プロジェクトメンバーとしてのモチベーションが上がらず、積極的にプロジェクトにかかわっていくのが難しいと感じていました。実際、担当している作業が早く終わっても、指示待ち状態で自分からは動かないことが多かったのです。

 結局、コミュニケーション不足によって、実装フェイズになってから設計段階での認識不足や漏れが判明し、スケジュールへ大きな影響を与えてしまいました。

 プロジェクト終了後の反省点として、自分がパートナーとして参加したときは、常駐先の社員とのコミュニケーションを積極的に取ることの大事さを痛感しました。

立場が変わって

 その後、私も数年の経験を経て、プロジェクトリーダーとしてパートナーと仕事をするようになりました。

 プロジェクトリーダーとして仕事をするようになった当初は、社員のみでのプロジェクトがほとんどだったのですが、あるときメンバーの半数がパートナーであるプロジェクトを担当することになりました。私は当時、経験や教訓はそれなりに身に付いていると思っていたので、特に何かを意識して行おうとは考えていませんでした。

 プロジェクトはスケジュールが短く、作業量も多いものでした。パートナーも全員が初対面で、まったくコミュニケーションがない状態からのスタートでした。

 プロジェクト開始当初は、私自身の作業が多かったこともあり、積極的にパートナーとのコミュニケーションを取ることができませんでした。唯一のコミュニケーションの場が進ちょくミーティングで、私はそれで十分だと考えていました。

 もちろんそれでうまくいくはずもなく、当然のように問題が発生します。

プロジェクトに問題続出

 まず発生した問題は、進ちょくの大幅な遅れです。プロジェクトも実装段階に移り、進ちょくミーティングにて毎回進んでいるとの報告を受けていたのですが、テストフェイズ直前になって、あるメンバーの作業がほとんど進んでいないことが判明したのです。

 彼はパートナー企業の1年目の社員でした。仕様や実装方法について分からないことがあったのですが、周りに気軽に聞くことができずに1人で悩んでいました。進ちょくミーティングでも遅れているとなかなかいい出せず、周りの皆が気付いたときには大変な状態になっていたのです。

 次に発生したのがテストフェイズにおける仕様の相違と抜けでした。担当したのはある程度の経験を積んだITエンジニアだったのですが、実装フェイズから参加していたためか、全体の仕様を把握しきれていなかったのです。こちらもミーティング時に確認するだけで、細かいやりとりをしなかったのが災いし、仕上がったものは顧客の要求と違うものになってしまいました。

 このような状況で、残りのスケジュールに対してあまりにも多すぎる作業をどのようにメンバーに割り振ってクリアしていくかを考えなければなりません。

 均等に作業を割り振ればよいのですが、パートナーとのコミュニケーションが取れていない状況では、必然的に社員に重要な作業を数多く割り振らざるを得ませんでした。その結果、一部のメンバーがボトルネックとなり、プロジェクト遂行がより大変なものになってしまったことはいうまでもありません。

 プロジェクトが一段落したとき、自分が経験から得た教訓とはまったく逆のことを行っていたことに気が付き、私はがくぜんとしました。

まずは会話から

 それまでのやり方を反省した私は、パートナーとの積極的な交流を図るようにしていきました。とはいってもいきなりすごいこともできないので、まず声を掛けることから始めました。仕事の話はもちろんですが、それ以外のことでも普段から会話をするように心掛けました。

 だんだん慣れてくると、パートナーの方から話し掛けてくるようになり、それまで悩んでいたことなども気軽に相談してくれるようになってきました。普段から話をしているおかげで、ある程度の進ちょく状況などもつかむことができ、テスト時に実装が終了していないことや、仕様の勘違いが判明することなども少なくなっていきました。

 コミュニケーションによってプロジェクトはスムーズに進行するようになりましたが、仕事はなかなか減りません。しかし以前なら社員に割り振っていた作業などもパートナーに割り振ることができるようになったため、メンバーの誰かがボトルネックになることも少なくなってきました。

 なるべく顧客先へ同行してもらうようにもしました。仕様の把握をしやすくするだけでなく、実際に使うエンドユーザーを意識して仕事に臨んでもらいたいと思ったからです。

 このように進めることによりプロジェクトを立て直すことができ、顧客から評価されるシステムを納品することができました。

すべてのメンバーをプロジェクトへ巻き込む

 これらの経験から、私もパートナーを含めたプロジェクトをうまく進めることができるようになりました。社員だからパートナーだからと線を引いてしまうのではなく、プロジェクトメンバーだからという意識を持ち、全員を巻き込んでしまう「巻き込み型」の考え方が必要ではないかと感じています。

 とはいえ、自社の社員とパートナーでは立場が違いますので、そこはお互いに理解しましょう。時には、社内事情が聞こえてしまっても、あえて聞こえないふりをすることも大切です。

 さまざまなプロジェクト管理手法があるように、技術や数字で管理することも必要です。でないとプロジェクトはあらぬ方向にいってしまいます

 社員のみで構成されたプロジェクトであっても、パートナーとともに行うプロジェクトであっても、結局は人と人との作業です。そこをよく考え、うまくコミュニケーションを取っていくことが必要だと思います。

 皆さんも、まずは会話から始めませんか?

筆者プロフィール
テンアートニ プロダクト&SIビジネスユニット Webソリューション エンジニアリンググループ 海老原護●1977年東京都生まれ。1998年東京都立航空工業高等専門学校電子工学科卒業後、ベンチャー系ソフトウェア会社に入社するも4カ月で倒産。1998年8月テンアートニ入社。基幹系業務システム開発案件をメインに、トレーニング講師も経験。現在は品質保証チームの立ち上げに従事。週末は某Jリーグチームのゴール裏に生息。
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