e-Learning WORLD 2001レポート
eラーニングに新しい潮流はあるか?

野々下裕子
2001/8/8

   eラーニングのビジネスに必要なことは?
eラーニングのイベントとしては、日本で最大規模となった「e-Learning WORLD 2001」

 7月26〜28日の3日間、東京ビッグサイトを会場に「e-Learning WORLD 2001」が開催された。eラーニングをテーマにした国内イベントとしては過去最大規模のもの。同期間中には、東京ファッションタウンにて「e−Learning Forum 2001 Summer」も開催され、企業や学校での導入事例などを中心とした38のセッションが行われた。

 これまで国内でのeラーニング業界の集まりといえば、情報交換を目的としたセミナーや学会報告などが中心だった。eラーニングが盛んなアメリカでは、「e-learning Conference & Expo」のような本格的な展示イベントが開催されているが、日本では今回のような形式は初めてとのこと。出展内容は、プラットフォーム、コンテンツ、サービス、ラーニングマネジメント、システムインテグレータ、そのほか書籍など、合計6カテゴリーに分かれ、そこに学校や協会団体などが加わり、市場全体の動きを見るにはいいチャンスであった。参加企業および団体は計210に上ったが、第1回目のイベントとあって会場規模はこぢんまりとしていた。開催者側が目標としていた入場者数は2万人だったが、3日間の展示会の総入場者数は1万7421名、そのうちフォーラム参加者は2749名で、目標にはわずかに届かなかった。

7月26日(木)

6483名
7月27日(金) 7417名
7月28日(土) 3521名
合計 1万7421名
e-Lerning WORLD 2001の入場者数

 その理由としては、出展内容に目新しさが欠けていたことも影響しているだろう。会場を回ってみても、eラーニングならではのインパクトや独創性を感じられるブースはごくわずかだった。システムベンダーが自社製品の売り込み先の1つとして教育分野を加えただけというようなものや、教育ビジネス関係者が、とりあえずインターネットを利用したサービスメニューを設けたという程度のものがほとんどであった。時流に乗って参入してみたが、まだまだ試験段階で、本腰を入れるかどうかはこれから見極めようという企業も少なくない。

「ビジネスの課題は、人材育成の環境づくりとサービスと標準化」と、e-Learning WORLD 2001実行委員長の岡本敏雄氏。

 開催日初日、e-learning WORLD 2001実行委員長の岡本敏雄氏(電気通信大学大学院教授)は、基調講演に先がけて行ったあいさつで、「eラーニングの登場で、旧態依然とした教育ビジネスの中身が大きく変化している」といい、「与えられるのが当たり前だった教育に付加価値が求められるようになってきた。ビジネスチャンスが生まれるのはこれから」と強調。日本では、ISO SC36などの標準規格の整備もようやく始まったばかり。ビジネスモデルの開拓も大切だが、それと平行して業界のルールづくりを進めていくことも、業界成長のかぎといえそうだ。

 続く基調講演では、昨年、中小企業向けの投資会社インスパイアを創立した成毛眞氏が、マイクロソフト時代から変わらぬ自身の教育論について語った。インスパイアでは、業績を伸ばしそうなベンチャー企業ではなく、あえて業績の低迷している中堅株式会社を投資対象としている。また、金銭的な投資だけではなく、コンサルティングや企業教育といった投資も行い、メニューの中には人材開発も含まれている。「IT時代の営業は、インテリジェンスのあるブルーカラーであることが求められる。一律的な教育はある程度の効果をもたらすかもしれないが、それ以上の人は育たない。会社が与えるべきは学ぶチャンス。eラーニング以前に、環境の整備や会社のモラルを向上し、何を学びたいかを自分で発見させることが必要である」という。

   展示会場での注目ソリューション

 会場で来場者の注目を集めていたのが、日本ではまだ数少ないeラーニング専業企業のブースである。国内No.1シェアのイーキューブ・ラーニングでは、プラットフォームからマネジメントまで、eラーニングの総合的なソリューションを紹介していた。また、マイクロソフトや東芝といった大手企業向けIT教育プログラムなど、同社が手がけてきた導入事例を紹介していた。同社は先日、マイクロソフトと業務提携を行い、「Learning Workstyle」を発表したばかりだが、さらに8月より世界No.1シェアのeラーニング専業企業であるSmartForceと提携。人材マネジメント機能を備えた学習管理システム「Global LMS」の販売を開始する。35カ国で約2500社のeラーニングを提案しているSmartForceのノウハウが、どのような形で日本市場に取り入れられるのか、今後が気になるところだ。

 eラーニングの中身となる学習や研修メニューを提供するコンテンツベンダーは、専門学校や英会話学校など、教育関連のビジネスからの参入が多い。取り扱っているコンテンツは企業によって異なり、技術を中心としたIT関連のスキルを学ばせるものと、英語や経理といったソフトスキルを学ばせるものとが、ほぼ半々といったところ。企業を対象にしているところが多いのは、BtoCでは料金設定や会員獲得の面でなかなかビジネスモデルがつくりにくいという現実があるからだろう。

果敢にBtoCのeラーニング事業に挑戦する日本メディアサポートのeラーニング学習教材の「インターネットアカデミー」

 そうした中で、あえてBtoCのeラーニング事業に取り組もうとしているのが、日本メディアサポートである。同社はもともとBtoCでパソコン・語学教室を展開していたが、1999年1月から、同社が開発したインターネット用の学習教材「インターネットアカデミー」を販売したところ、これが好評だったのをきっかけに、本格的にeラーニング市場へ参入した。同社の強みは、現場で培ってきた指導力にある。テクニカル・アドバイザーと呼ばれるスタッフは、場合によっては受講者宅を訪問してパソコンの環境設定も行う。最初からすべてをオンライン化するのではなく、状況に応じて相互の良さを取り入れていく方法は、確かにコストや時間はかかるが、日本の市場にはマッチした戦略であろう。

 しかし同社は、事業の採算性の面からしばらくBtoBでの展開を続けていたが、常時接続が一般に普及してきたのを機に、再びBtoCビジネスに挑戦。手始めにADSL接続サービスをスタートするDION(KDDI)と提携し、接続用CD-ROMにeラーニング無料体験サービスソフトを収録している。現時点ではアドバイザーからのコメントは、動画や音声データを再生する方法によっているがブロードバンド時代にはリアルタイムでの動画や音声をサポートしていきたいという。

 日本ならではのeラーニング戦略といえるのが、携帯電話やPDAなどをプラットフォームにしたコンテンツ開発だ。i-modeやEZwebメニューでは、学習コンテンツは定番の1つで、英会話や国家資格試験などメニューは充実している。次世代携帯サービスのFOMA(NTT DoCoMo)のようなブロードバンドサービスが実用化されれば、さらに参入企業は増えるだろう。

 問題はいかに簡単にユーザー環境に合わせたコンテンツを配信するかである。イリンクスは、自社で開発しているPalm OS対応のWebブラウザ「Xiino」にソニーのCLIEを組み合わせて、動画や音声を使ったeラーニングを手軽に実現するシステムを提案している。eラーニングのコンテンツ制作においては、国際標準化が進みつつあるため、今後のマルチプラットフォーム化は容易になるであろう。とはいえ、問題はやはりコンテンツの中身、この点については、今後、多くのクリエイターの参入に期待したい。

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