千葉大輔(@IT自分戦略研究所)
2007/6/19
ぐるなびは5月10日、同社が運営する情報サイト「ぐるなび」で提供している約4万件の飲食店情報を利用するためのAPIの公開を開始した。同社の持つデータを広く公開し、マッシュアップなど、外部のWebサイトに活用してもらうことでユーザー層の拡大を狙う。
APIを公開するまでの経緯や、開発時の苦労など、ぐるなび 企画department 第1グループ グループ長 福岡祥行氏に聞いた。
■新しい流れに乗る
今回ぐるなびが提供するのは店名やジャンル、最寄り駅、座標などの飲食店情報。ぐるなびはそれまで、ポータルサイトなどに飲食店情報を提供することはあったが、広く一般向けに自社の情報の提供は行ってこなかった。
ぐるなび 企画department 第1グループ グループ長 福岡祥行氏 |
「技術担当者や企画担当者の間では、かなり前からAPIを作って広く公開したいという考えを持っていました」と福岡氏。APIがまだそれほどメジャーでなかったことや、会社として情報を広く一般に公開することの是非など、難しい部分があったという。ポータルサイトなどへの情報提供は、そのWebサイトの目的や規模などの状況を聞きながら話を進めていたという。
しかし、ここ最近のWeb 2.0サービスの盛り上がりによって、さまざまな企業がAPIを公開し、また関連書籍が出版されるなど、APIの認知も徐々に拡大してきた。そうした状況を背景にして「新しい流れに乗り、広く情報を扱えるAPIの提供は会社として必要だろうという判断になりました」(福岡氏)という。
APIの公開の狙いは、APIを利用した質の高いマッシュアップコンテンツによるトラフィックの拡大と、集まった幅広いユーザーにぐるなびの情報や検索を体験してもらうことによって、ぐるなびのポテンシャルを感じてもらうことだ。
「利便性の高い良いサービスが生まれることにより、ぐるなびに情報を掲載している加盟店のページにより多くの人が集まるだろうと。また、企業の場合、APIを使ってもらって『もっと詳細な情報を活用したい』という場合があれば、あらためてお話をして一般向けとは違った形で利用いただくこともできるのかなと考えています」(福岡氏)
発表後いくつかの企業から、「使ってみたい」という問い合わせがあっただけではなく、発表したその日のうちに、マッシュアップしたサービスが出てきたりするなど、予想を超えた反応があり、驚いたという。
■加盟店を第一に考える
実際にプロジェクトを開始したのは約1年前。開発者以外にも、APIについてアイデアを出す人や品質管理のための人もかかわるなど、社内横断的にプロジェクトが進められた。広く一般に公開するのか、契約した企業のみの提供にとどめるのかというターゲットの部分やどういう機能が必要か、どこまでの情報を提供すべきかなど、コンセプトをまとめることに時間を多く割いたという。
「このAPIを使って、どんな利用を想定しているのかということをディスカッションしながら、考えをまとめていきました。例えば旅行に行くことを考えたとき、『自分たちが行く宿と周辺の飲食店などを載せたしおりみたいなものを作れるといいね』とか、『その場合、緯度・経度の情報は必要だ』といったように、自分たちが持っている情報のどの部分を提供するのかというよりも利用シーンを想定して、そこから提供するデータを考えていきました」(福岡氏)
また、プロジェクトを進めるに当たり、加盟店が提供する情報など、情報の取り扱いを重要視したという。
「ぐるなびの強さの1つとして、豊富な飲食店情報があります。その精度を保っているのは加盟店自身が情報を更新しているという部分です。そのため、加盟店には、API公開によって生じる影響を説明して、きちんと理解をいただいてから公開したいというのが、社としての考え方でした」(福岡氏)
■どこまでの情報を提供し、集めるのか
「情報の取り扱い」については、かなり議論を重ねたという。不便だと使ってもらえない、しかし、便利すぎても「ぐるなびがもう1個作れてしまうという状況になる」(福岡氏)というジレンマもある。
こうした「情報の取り扱い」をめぐる議論は開発工程にも大きな影響を与えたという。広く使ってもらいたいとはいえ、加盟店から預かっている大切な情報なので、変な形で使われると問題になる。そのため、自由に使える形式から登録型のサービスに途中で切り替えた。その切り替えに多少時間がかかったという。
「ただ、ユーザー登録をしてもらうときに、あまり細かく情報を登録してもらうと敷居が高くなりますし、その辺りの情報の精査や、どのように情報を管理するのかといった部分に注意しました」(福岡氏)
また、提供したいと考えている機能と開発スケジュールの兼ね合いも悩みどころだったという。「今回、座標検索を提供していますが、『この機能は便利だけど、工数が増えるかもしれない』という部分が悩みどころであり、苦労した部分です。そのかいあって、座標検索については好評をいただいています。これから追加していく情報や機能もなるべくニーズに応えつつも、慎重に対応したいと思います」(福岡氏)
■システム面の工夫は?
APIを含め、開発で工夫している点にはどんなものがあるのだろうか。
「社内で活用しているXMLやデータベースなどの技術ノウハウを、ふんだんに盛り込んでいます。また、一般公開によってアクセスが増大し、通常のサービスに影響が出ることも想定して、サーバやインフラ面も通常のぐるなびのサービスに影響が出ないように切り分けるなどの工夫をしています」(福岡氏)
ぐるなびのサービスの特徴は、提供する情報の多さだ。登録している飲食店の数に加え、場所やジャンルといった豊富な情報を素早く検索するための工夫も行っている。「検索エンジンの部分に手を入れています。ここは開発者がかなり苦心した部分です」(福岡氏)
現在は、1つのフィールドに対して1つのパラメータで検索するといった形の機能を提供しているが、今後は1つのパラメータで複数のフィールドに対する検索をできるようなフリーワードでの検索の提供も検討したいという。
■自分が必要とするサービスを実現してほしい
飲食店の場合、料理のジャンルや業態、食事シチュエーションなど、さまざまな軸で検索が可能だ。「ぐるなび自体では提供できないような新しい検索方法なども出てくるのではないかと思います」と福岡氏も期待する。
福岡氏自身は、どんなふうにぐるなびのAPIを使ってもらいたいと考えているのか尋ねてみた。
「自分が飲食店を探すときに『こういうふうに探したい』と思うものを実現してもらえれば。ぐるなびのAPIを使ったら、お店探しがもっと便利になるというように考えていただけるとうれしいですね」(福岡氏)
ぐるなびのAPIを、ITエンジニアはどのようにとらえるだろうか。同社が今後、さらにAPIに関して、どのような方針、施策を打ち出すかに注目したい。
関連リンク
ぐるなびWebサービス
ぐるなび
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