特別企画 改定されたPMBOK PMBOKの最新バージョンとは?

瘟ェ充宏スカイライト コンサルティング
2005/3/24

PMBOKが改定され、「PMBOK 3rd Edition」に!

 昨今のプロジェクトマネジメントへの関心や注目の高まりに伴い、PMBOK(the Project Management Body Of Knowledge)も急速に普及してきている。発行元のPMI(Project Management Institute)が認定するプロジェクトマネジメント資格である「PMP」(Project Management Professional)だが、日本における取得者数を見ると、2000年末には約1000人だったのが、2004年10月末では約6800人と急増している。現在すでに7000人を突破していると考えられ、この数字は、アメリカ、カナダに次ぐ世界第3位である。

 このようにプロジェクトマネジメントへの関心が高まる中、@IT自分戦略研究所で連載中の「プロジェクトマネジメントスキル 実践養成講座」の「第7回 PM最大の武器、コミュニケーションスキル」でも少し触れたように、昨年の10月に新しいPMBOK、「PMBOK 3rd Edition」(PMBOK第3版)がリリースされた。

 そこで本記事では、「PMBOK 3rd Edition」についてお伝えする。その内容は以下のとおり。読者のさまざまな関心に幅広く応えたいと考えている。
  • 改訂の背景
  • 入手方法
  • 主な特徴
  • 具体的な変更点
  • PMP試験への影響

 ところで、「PMBOK 3rd Edition」の解説に入る前に1つだけご理解いただきたい原則がある。それは、PMBOKは「単一のプロジェクト」をマネジメントすることに焦点を絞っている点である。これはPMBOK初版から今回の第3版まで継続して貫かれており、複数プロジェクトをマネジメントする(プログラムマネジメント)については、その概念についての言及はされているが、その知識体系は含まれていない。あくまで「単一のプロジェクト」をマネジメントするための知識体系なのである。

 参考までに述べると、プログラムマネジメントは、日本発のプロジェクトマネジメント標準であるP2M(Project & Program Management)でカバーされている。興味のある方は、そちらを学んでいただければと思う。

改訂の背景

 PMBOKの発行元のPMIでは、より最新のプロジェクト環境に合った内容とするため、またより理解を促進する内容とするために4年に1度バージョンアップすることを定めている。

 1996年に第1版が刊行されて以来、2000年の「PMBOK2000」に続き、2004年の「PMBOK 3rd Edition」がタイトルどおり第3版となる。話は少しそれるが、この改訂をするためのプロジェクトのマネジメントを少しイメージすると、期間は3〜4年と長期にわたり、体制も全世界から多種多様なメンバーが関与しているとみられる。

 難易度が非常に高いプロジェクトであることは容易に想像できる。そんな中、これまでスケジュールどおりリリースしてきたことは、さすがにお見事といえよう。

「PMBOK 3rd Edition」入手方法

 次に「PMBOK 3rd Edition」の入手方法について触れておくことにしよう。

 入手方法についてだが、PMI会員、PMI東京支部会員以外の一般の方は、オンラインの書店である「Amazon」で入手できる。価格はいずれも4000円程度である。ちなみに筆者も日本語版をAmazonで購入したが、これはなかなか見つけにくく、ほかのものと間違いやすいので注意点をお伝えしておく。

 例えば、Amazon上でPMBOKの書籍はどのような状況になっているかというと……

  • 日本語版も洋書として登録されている
  • 「PMBOK 3rd Edition」と「PMBOK2000」が両方売られている
  • 各国語翻訳版も併せて売られている
  • 本だけでなくCD-ROM版も売られている

のである。ということで、検索方法次第では、同じようなタイトルのものがずらっと並んでしまい、一体どれが「PMBOK 3rd Edition日本語版」なのかさっぱり分からなくなるかもしれない。ちなみに、「3rd.Edition」とか「第3版」は、Amazonのタイトルとして登録されていない。一番確実なのは、「洋書」の中で「A Guide To The Project Management Body Of Knowledge: Official Japanese Translation」で検索するとよい。

「PMBOK 3rd Edition」の主な特徴

 「PMBOK2000」と比較した場合の、「PMBOK 3rd Edition」の特徴を解説する。

・「プロセスグループ(群)」の解説を充実
  「プロセスグループ」は、プロジェクトマネジメントで実施する各プロセス(例:スコープ定義など)を、その特性に応じて「立ち上げ」「計画」「実行」「コントロール」「終結」に分類したものであるが、今回「監視コントロール」グループと他プロセスグループの関係が大きく変更された。

 従来は、「立ち上げ」→「計画」→「実行」→「監視コントロール」という時系列の流れで解説されていた(図1)。

図1 従来の「プロセスグループ」の解説

 しかし「監視コントロール」は、「立ち上げ」プロセスが始まった時点から必要で「計画」「実行」段階はもちろん、プロジェクトが終了する「終結」プロセスまで一貫して必要なプロセスグループである。いい換えれば、「立ち上げ」から「終結」まで各プロセスグループの中でもPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルが回っていることをより強く意識したものに変更された(図2)。

図2 「PMBOK 3rd Edition」での「プロセスグループ」の解説。出典:PMBOK 3rd Edition

 図2のモデルは、一見分かりにくくなったという意見も巷(ちまた)では聞かれる。しかし、筆者はいいたいことを正しく伝えるための細部へのこだわりとして、この変化を前向きに理解している。よく見てみると「立ち上げ」と「終結」の部分に交わる「監視コントロール」の線が途中までなだらかな曲線になっているのがお分かりいただけると思う(図2の注1の部分)。これは「監視コントロール」が徐々に必要性が増して、「終結」に向けては徐々に必要性が減少していくことを表しているのである。

「立ち上げ」プロセスの扱いを拡大

 プロジェクトの成否は「立ち上げ」が大きく影響する。身近な例でいえば、無理な見積もりと分かっていながらプロジェクトを開始してしまう、または、仕様があいまいなまま金額とスケジュールだけが先に決まったなどの理由で、失敗したプロジェクトも多いのではないだろうか。

 「立ち上げ」の重要性は万国共通で認識されており、今回内容が拡充されたと考えられる。

内容の統一性を改善

 全体を通して、あいまいな表現や文法的なバラつきが改善された。

 例えば、従来は、プロセスの名称を見ても語順が「目的語+動詞」であったり「動詞+目的語」であったり、はたまた「能動態」であったり「受動態」であったりとバラつきが見られた。

 今回は、このようなバラつきを改善し、読者が理解しやすいようになった。上の例の文法でいえば、原則として「動詞+目的語」かつ「能動態」で統一された。

「PMBOK 3rd Edition」の具体的な変更点

 ここからは、具体的な変更点に触れていくが、全体を通していえることは、「理解しやすく」なるよう配慮されている点であろう。例えば、「統一性の改善」(上で述べた語順の問題)のほかにも、従来分かりづらかった各プロセス間の依存関係や、各プロセスにおけるINPUT、OUTPUTの依存関係を整理したチャートやフロー図が追加されて読者の理解を促進している。

 今回の変更点は、「構成的」変更も「内容的」変更もある。またその変更内容もまったく新規のテーマが追加されたものから単語レベルの細かな修正まで非常に多岐にわたる。結果としてページ数では「PMBOK2000」と比較すると約1.5倍にもなっており、変更点をすべて紹介することはできない。ここでは基本的なマネジメント単位といえる「マネジメントプロセス」のレベルでどのような変更が見られるかに焦点を絞って解説する。

マネジメントプロセスの変更ポイント

  • 7つのマネジメントプロセスが新たに追加(一方で削除が2つあり)
  • 従来のPMBOKには、9つの知識エリアに39のプロセスが定義されていた
  • 今回の変更を経て、差し引き5つのプロセスが増え44となった
  • 追加・削除されたプロセスは、以下のとおり(表1
プロセスグループ
知識エリア
マネジメントプロセス
変更
区分
立ち上げ
統合
4-1 プロジェクト憲章作成
追加
統合
4-2 暫定版プロジェクトスコープ記述書の作成
追加
スコープ
立ち上げ
削除
計画
スコープ
5-3 WBSの作成
追加
スケジュール
6-3 アクティビティ資源見積もり
移動
実行
(変更なし)
監視コントロール
統合
4-5 プロジェクト作業の監視コントロール
追加
人的資源
9-4 プロジェクトチームのマネジメント
追加
コミュニケーション
10-4 ステークホルダーマネジメント
追加
終結
統合
4-7 プロジェクトの終結
追加
コミュニケーション
完了手続き
削除
表1 追加・移動・削除があったマネジメントプロセス

 上表の変更における背景や意図を以下に解説しておくので、併せて理解してもらいたい。

(1)プロセスグループ「立ち上げ」

 従来は「スコープ」マネジメントで記述されていたが、内容的にスコープだけではなく、時間やコストや人的資源などほかの知識エリアとも密接にかかわることを踏まえて、「統合」マネジメントとして扱うことになった。また、「プロジェクト憲章作成」「暫定版プロジェクトスコープ記述書作成」という、従来はOUTPUTの1つとして記述されていたものが、その重要性を強調する意味でもそれぞれ単独のプロセスに格上げされている。

(2)プロセスグループ「計画」

 「WBSの作成」が新たにプロセスとして追加された。従来は、WBSは「スコープ定義」プロセスの中の1OUTPUTとしての記述であったが、WBSの重要性から単独で1つのプロセスとして追加したものと考えられる。また、「アクティビティ資源見積り」の知識エリアが、従来の「コスト」より「スケジュール」の方に強く関連するという見解から当該エリアに移動した。

(3)プロセスグループ「監視コントロール」

 3つのプロセスが新たに追加されている。「統合」エリアでは、従来は「統合変更管理」のプロセスのみが定義されていたが、実際のプロジェクトでは、プロジェクト作業自体もマネジメントすることから「プロジェクト作業の監視コントロール」が追加された。また、「人的資源」エリアでは「チームマネジメント」、「コミュニケーション」エリアにおいては、「ステークホルダーマネジメント」が追加されているが、いずれも非常に重要なテーマであり、納得感のある追加といえよう。

(4)プロセスグループ「終結」

 従来の「コミュニケーション」エリアの「完了手続き」に変わるプロセスとして、「統合」エリアに「プロジェクト終結」が新たに追加された。

(5)知識エリア別の変更ポイント

 変更ポイントは、「統合」が大きく拡充されている点である。このエリアだけで4つの新規プロセスが追加されるなど内容の拡充が目立つ。これは、「PMBOK 3rd Edition」では、プロジェクトの立ち上げから終結まで一貫して「統合」してマネジメントすることが重要との考えが強く表れているためと考えられる。

 今回はマネジメントプロセス単位での変更点を中心に解説したが、これ以外にも「プロジェクト」と「定常業務」の違いの記述を拡充、「PMO」(Project Management Office)に関する議論の追加や、「プロジェクトチーム(マネジメント)に必要とされる専門スキル」として、従来の「プロジェクトマネジメント知識体系」「プロジェクト分野の専門知識」「一般マネジメント(ビジネス)スキルと」に加えて「人間関係スキル」「プロジェクト環境の理解」が追加されるなど多岐にわたって変更されている。そのため「PMBOK2000」の内容で勉強した方は、「PMBOK 3rd Edition」を一読されることをお勧めする。

PMP試験への影響

 最後にPMP試験について触れておく。現在「PMBOK2000」の内容から多く出題されているが、今年の秋ごろから「PMBOK 3rd Edition」の内容に合わせた試験問題に変更される予定だ。現在までの準備状況や受験予定時期など個々の状況に応じてどちらを勉強するかを考える必要があるだろう。ただし、注意していただきたいのは、この変更時期については、2004年11月の「PMI東京フォーラム2004」というセミナーにおける関係者の話によるものであり、予定が変更される可能性がある。当該時期に受験を考えている方は、本部、支部からの公式情報の収集に努めて判断してほしい。

筆者プロフィール
瘟ェ充宏(すぎおかみつひろ)
スカイライトコンサルティング シニアマネジャー。米国PMI認定PMP。関西学院大学商学部卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経て現職。製造業や流通業のCRM領域において、業務改革やシステム構築のPM(プロジェクトマネジメント)の実績多数。特に大規模かつ複雑な案件を得意とする。外部からの依頼に基づき、プロジェクトの困難な状況の立て直しにも従事、PMの重要性を痛感。現在は、同社においてPMの活動そのものをコンサルティングの対象とするサービスを展開している。

 

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