CMM以上に注目したい
新しいソフトウェア開発プロセス改善PPA

堀田勝美NTTソフトウェア ISO/IEC TR 15504 PPA Lead Assessor
林章浩NTTソフトウェア ISO/IEC TR 15504 PPA Lead Assessor
2002/4/12

3 PPAとは──CMMと何が違うのか──

ISO/IEC TR 15504とは

 ISO/IEC TR 15504(ソフトウェアプロセスアセスメント)は、アセスメントを実施するときの要求事項を定めたもの。1993年にISOで検討が開始され、5年後の1998年に発行された。日本では、標準情報 TR X 0021として翻訳され、1999年に発行されている。

 検討当初は、世界で共通に使用できるCMMなどに相当するアセスメントモデルを開発することを狙った。しかし、すでにCMMが米国内では定着し始めており、移行が困難になったなどの事情によって、抽象度を高め、アセスメントモデルに対する要求事項と、アセスメント手順として守るべき事項を定義するにとどめることになった。もともとの狙いが、応札した複数企業のアセスメント結果を相互に比較できることであったため、アセスメントモデルが守るべきフレーム、すなわち、プロセスそのものとプロセス能力の枠組みを定め、ISO準拠のアセスメントモデルは、プロセスそのものとプロセス能力の枠組みによるアセスメント結果を、ISO/IEC TR 15504が定めるプロセスと能力のフレームに変換できることを求めている。

 ISO/IEC TR 15504に準拠したモデルとして現在知られているのは、PPA、SPICE、eSPAなどがあり、CMMIは準拠に向けた検討が進められている状況である(図4)。

図4 参照モデルとアセスメントモデル

 ここでは、これらの中で最も実績があり、今後日本でも拡大するであろうPPAについて紹介する。

PPAの起源とモデル構造

 PPAは、ISO/IEC TR 15504に準拠したモデルの1つとして開発されたプロセスアセスメントモデルである。英国を中心とした欧州で主に利用されている。MOD(英国国防省)、ブリティッシュエアロスペース、TRW、ブリティッシュテレコム、ノーテルなど、政府、通信、金融、一般IT分野などの主要企業や中小企業で、主としてプロセス改善用に使われている。欧州にあるIBMやシティバンクなどの米国系企業でも使われている。PPAの開発は、広い範囲でビジネスに実際的に使用されることを意図して、UPAC(United Kingdom Process Assessment Consortium)により行われた。

 PPAの前身はSTD(Software Technology Diagnostic)というモデルで、1992年に中小向きのプロセス改善モデルとして運用が始まっている。STDの開発者はISO/IEC TR 15504の検討に当初から中心的に参画しており、STDはCMMと並んでISO/IEC TR 15504の主要なインプットの1つとなった。並行してSTDをISO/IEC TR 15504準拠にするように強化を図ったものがPPAである。CMMに比べてビジネスプロセス志向である。

 ISO/IEC TR 15504に準拠したPPAは、次のようなモデル構造を有する。

(1)プロセスとプロセス能力レベルの二次元構造
 PPAはプロセス座標(process dimension)を横軸に、プロセス能力レベル座標(capability dimension)を縦軸に持つマトリックス型の構造を有している。横軸には6つのカテゴリと約60のプロセスを有し、縦軸には0−5の6段階の能力レベルがある(図5)。

図5 PPAの二次元構造

(2)プロセスの種類
 PPAのプロセス座標(横軸)には、組織の役割との関係で必要とされる購入、供給、エンジニアリング、支援、管理、組織の6つのカテゴリが存在する。このカテゴリは階層構造を有し、各カテゴリの基本プロセスとその要素プロセスからなる約60のプロセスを有する(図6)。

図6 PPAの二次元構造

(3)プロセス属性
 縦軸のプロセス能力レベルには、0〜5までの6段階がある。レベル0を除く各段階には、プロセス属性と呼ばれる、プロセス能力の評価可能な特性が定められている。主に、レベル1ではプロセスの実施、レベル2ではパフォーマンス強化、レベル3〜5ではプロセスマネジメントのプロセス属性など、能力水準に対応したプロセス属性が定められている(図7)。

図7 PPAの能力水準と属性

(4)プロセス能力の4段階評定
 プロセス座標(横軸)にある各プロセスについて、プロセス能力座標(縦軸)に定められた各プロセス属性の達成度を、F、L、P、Nの4段階の評価尺度で評定している(図8)。

図8 4段階のプロセス評定

(5)プロセス能力レベルの判定
 一連のプロセス属性評定結果に基づき、アセスメント対象に選択したプロセス能力を6段階で判定するようになっている。能力判定は下位レベルからの積み重ねであり、上位レベルだけでの能力判定は行われない(図9)。

図9 6段階のプロセス能力レベルの評定

(6)アセスメントモデルと手法
 PPAを用いたプロセスアセスメントは、アセスメントモデルとアセスメント手法を用いて実施される。その構造を図10として示す。

図10 アセスメントモデルと手法

PPAの狙いとメリット

 PPAの主な特徴を整理すると次のようになる。

(1)マトリックス構造を用いたアセスメント適用範囲の自由な設定
 PPAは、プロセス座標(横軸)とプロセス能力レベル座標(縦軸)のマトリックス型の構造を有しているため、現場で必要とされるプロセスに集中した改善を実施することができる。CMMのステージ型モデルでのプロセス改善は、最初の段階から6つのKPAを対象とするため、やや大掛かりであるのに対して、PPAではアセスメントの適用範囲を自由に設定して、融通性があり小回りの利くアセスメントを提供することができる。

 ソフトウェアの開発は、多数の企業が共同して作ることもあり、その場合、プロセスも分担されることがある。下請けも含めて、全体の能力を把握し調整するうえで、CMMはその方法を提供していない。PPAはプロファイルを合成することにより、それができる(図11)。

図11 適用範囲の自由な設定

(2)情報技術やビジネス分野に適用できる豊富なプロセス
 PPAでは、ISO/IEC TR 15504のプロセスを修正して、さらに情報技術やビジネス分野における多くの主要なプロセスをエンハンスして、ビジネスプロセスを含む約60のプロセスから構成されている。CMMではソフトウェア調達向けに作成された経緯があり、ソフトウェア分野の18のプロセスしか提供していない。

(3)プロセスごとの能力レベル評価
 PPAのマトリックス型モデルでは、プロセス属性を用いて、すべてのプロセスに対してプロセスの能力レベルを評価することができる。CMMは組織を評価対象としているため、プロセスごとの能力評定方法は提供していない。

(4)4段階のきめ細かなプロセス能力評価
 PPAのプロセス能力評価では、評定尺度に4段階(F、L、P、N)評価を採用し、より木目細かな洞察を得ることを支援している。CMMやISO9001のような、○×評価(Satisfied、Unsatisfied)よりも、弱い部分をビジブルに特定しやすく、組織に必要なプロセスを効果的に改善するために有効な評定方法である。CMMなどは満足か不満足かを判断するが、どの程度の改善余地があるか提示していない。

3/4
PPAの適用事例

Index
新しいソフトウェア開発プロセス改善PPA
  1 SPAが注目される理由
  2 ソフトウェア開発のプロセス管理とは
3 PPAとは──CMMと何が違うのか──
  4 PPAの適用事例
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