
―― プロフィールを読むと、中学時代はまずC言語に出合い、その後LuaやFlash、SDL、OpenGLといった画像・映像系の技術に手を伸ばしていますね。その間、音楽の方も並行して取り組まれていたんでしょうか。
misky いえ、中学時代は特に音楽の創作活動はしていませんでした。耳コピしてピアノで弾いて……くらいはしていましたが、どちらかというとプログラミングに本気で取り組んでいましたので。本格的にDTMに手を出すのは、高校に入ってしばらくしてからですね。
―― もともと音楽に触れていたという背景と、プログラミングでコンピュータというものに親しんでいったという2つの方向性が次第に合わさって、DTMという形になったんでしょうか。
misky あくまでもプログラミングと音楽は自分の中でまったく別物でした。だけど、あるとき「音色のプログラミング」という言葉を聞いて、「んんっ!?」って思いましたね。
パッチをいじったり、色んなパラメータをチューニングしたりして音を作るわけですが(筆者注:シンセサイザーは、パッチと呼ばれる設定ファイルを追加することで音色を作りこむことができる)、それもある種のプログラミングなのか、と衝撃を受けました。そのとき、それまで自分の中で全然つながっていなかった2つ、音楽とプログラミングが結びついたんです。それが高校2年のころでした。音声の再生にOpenAL(筆者注:プログラムから3D環境の音声を操作するためのAPI)を使ってみたり、Reasonをいじってみたりし始めたんです。最初がReasonというのはちょっと珍しいかもしれませんが。
―― 珍しいといえば、同時期、プログラミングではD言語を使うようになっていったそうですね。これはどういうきっかけで?
misky D言語、珍しいですよね(笑)。未踏ユースでD言語を使ったプロジェクトは初めてだったんじゃないかな。D言語を使い始めたのは、浜地慎一郎(id:shinichiro_h)さんの影響です。高校1年のときにSDL-offというイベントに誘ってもらったのが始まりです。D言語に限らず、プログラミングという点で彼の影響はすごく大きいと思います。
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miskyさんと同じく「音楽好き」で「プログラミング好き」な筆者 話は盛り上がり、取材時間は2時間を超えた |
―― 未踏ユース採択の“みけ”についてお伺いします。「音楽的表現における技術的問題を解決するエキスパートシステムの開発」ということですが、Web上の情報を読ませていただいたところ、簡単にいえば、「たとえ楽器が弾けなくても、PCのキーボードを叩けば、その時々のコード(和音)に合った音が出せるシーケンサー」という理解でよいでしょうか。まず、なぜこういったソフトを作ろうと思ったんですか?
misky 自分自身のことなんですけど、僕、鍵盤を弾くときに、移調が苦手なんですよ。長調、短調あわせて24の調性があって、それぞれの調の音階を練習する、という指の訓練は大変だと思うんです。僕の場合、理論やちゃんとした練習法の指導を受けていないせいもあると思いますが。
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―― その点、ギターは演奏するフレットをずらせばいいので、鍵盤に比べて格段と移調が楽ですね。いざとなったらカポタストというチートアイテムもあります。
misky あれ、ズルいですよ、本当に(笑)。でも、まさに狙ったのはそこなんですよ。そういうチートアイテムを鍵盤楽器でも使えないかな、と思ったのがきっかけです。
―― なるほど、自分自身のニーズがあったわけですね。その後、どういう経緯で未踏ユースに採択されたんでしょうか。
misky ダメもとで応募してみたら、書類審査が通ったんです。その後、資料を作ってプレゼン選考を受けました。
―― プレゼン資料というより、デザイナーが作ったパンフレットみたいですね。“みけ”の音階選択にはバークリーメソッド(筆者注:バークリー音楽大学発祥の、『和音とメロディに使うべき音階』を対応させるという音楽理論)が取り入れられているという説明を読んだのですが、こういった音楽的な理論は、それこそ調性や音階、和声学といった知識が必要になると思います。“みけ”を作りながら勉強されたのですか?
misky そうですね。といっても、まだ全然(ソフトウェアは)完成していませんし、現在も引き続き修行中ですが……。特に音楽の資料って、日本語化がすごく遅いんです。だから、音楽理論に関することを調べるために英語の文献にあたる必要があって、苦労しました。
―― あまり知られていないことだと思うのですが、プレゼン選考を受けた後、どういうフローで合格・採択が決まり、開発に入るのでしょうか。
misky 実は僕自身、プレゼン選考を終えて、合格通知が来て、「やったぁ!」と喜んで、「……えっ!? この後、どうすればいいんだろう」ってなりました(笑)。
プロジェクトが始まると、最初に月単位のスケジュール(ロードマップ)を決めます。例えば、夏休みは多めに開発するから8月は100時間、とか。その後は、プロジェクトマネージャの先生と定期的にレビューをしつつ、そのスケジュールに従って開発を進めていきます。このあたりはプロジェクトごとに違うかもしれません。僕のプロジェクトでは、他にチームメンバーもいなくて、1人でした。
―― チーム開発ではなかったんですね。miskyさん個人で開発するのと未踏ユースプロジェクトで開発するのと、一番大きく違うのはどういう点ですか?
misky やはり、研究のための環境や援助が提供される、という点が大きいと思います。例えば僕の“みけ”の場合、プロのピアニストの方にさまざまなサンプル演奏をしてもらって、そのデータを取らせてもらいました。
―― それは確かに個人ではできないですね。研究に必要なものは援助・提供されるから、その分、研究に集中して成果をあげることが求められる、ということでしょうか。
―― 先ほど「まだ全然完成していないので、現在も引き続き修行中」とおっしゃっていましたが、今はどのような機能を開発中なのですか?
misky 「ベロシティサンプラー」という機能を作りこんでいます。これは機械的な音のデータに自動的に強弱をつけて、人間的なニュアンスを再現しようというものなんです。だけど、実はいま、プログラミングからは少し離れているんです。
―― そうなんですか。何か技術的な問題ですか?
misky いえ、技術よりも感性の問題ですね。人間的で有機的な打鍵を再現する、芸術的な強弱を自動でつけるプログラムを作るには、まず自分の感性がそれを理解できる程度にまで磨かれていないと無理だな、という問題に直面しました。
―― “みけ”で表現したいモノ自体が、まず自分の中にしっかりあるべきということですか。
misky そうです。技術、つまりプログラミングのスキルは、それを表現するための「手段」なので、「目的」となる自分の感性がまず土台としてしっかりとしていないと、“みけ”は次のステップには進めないと感じました。「修行中」という言葉には、そういう意味も込めています。
―― センスの部分ですか。難しいですね。そして、それを表現するためには技術も必要になってくるわけですね。
misky ええ。そう考えていくと、最終的には芸術と技術の境目って、だんだんあいまいになっていって、単純に切り分けられるような関係じゃなくなっていくんじゃないでしょうか。「芸術と技術」は、当面の僕の研究テーマです。
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「本名」「顔出し」NGなmiskyさんの後姿 |
―― 今日、こうやってお話を伺うまでは、技術一直線な方なのかと思っておりましたが、想像していた以上にアーティストとしての側面もお持ちなんですね。miskyさんご自身は、自分のことをどういう人間だと思いますか?
misky 僕は飽き性だと思います(笑)。でも、「飽き性という気質に恵まれている」と思っているんですよ。もともと音楽が好きで、その後いろいろなテクノロジに手を出して、またテクノロジから離れて、今度は音楽の別の一面に夢中になっちゃっている。この行ったり来たりしているのが、実は良い効果をもたらしているんじゃないか、と思っています。飽き性を発揮して、面白そうなものに直感的に飛び付いていくのは悪いことではありません。飽き性は武器。僕はヒューリスティック(筆者注:探索的な手法による問題解決)を肯定的にとらえています。
―― そういう人間性は、どうやって養われたんでしょうか。
misky この気質の始まりは、幼稚園時代の「自由保育」にあると思います。自由保育って、「あれをやって遊びましょう、これをやって遊びましょう」って指示があるんじゃなくて、「遊び道具はあるから、自由に遊んでね」という育て方なんです。だから、何か工夫して楽しもうとか、楽しいものを探して見つけようという意識が育つ。基本的な気質は、そのときに形作られたんじゃないかなと思います。
―― 能動的に、自分から興味のあるものを見つけていくことができるようになったんですね。プログラミングにしても音楽にしても、ただ「飽き性」では済まないくらいに、力を入れて取り組んでいますよね。
misky そうですね。なんていったらいいのかな……「情熱」ですね。学生って、「情熱を行使する」ことができると思うんです。それは、時間があるという意味だったり、好きなことをやっていてもいいという意味だったりします。僕は飽き性だから、いろいろなものに興味を示しながら、その都度、情熱を持って取り組んできたといえるかもしれませんね。
一方で、人の方向性を決定付けるのは「興味と境遇」だと思うんです。「環境」じゃなくて「境遇」。例えば、環境に恵まれなくても、何かに興味を持ったときに周りがそれを加速してくれるような境遇があれば、それでいいと思うんです。興味と境遇、そして情熱が合わさったとき、「言語の壁を超える」んです。バークリーメソッドのために英語の文献を調べまくる、とか。
―― やっぱり、単なる飽き性じゃありませんね(笑)。毎回、目標に向かって真摯(しんし)に取り組みながらも、視野を狭くしてしまうことなくいろいろなものに興味をもつ、という感じですね。「ポジティブな飽き性」?
misky いいですね、「ポジティブな飽き性」! でも、実際は高校のころの僕は「ネガティブな飽き性」だったと思います。「自分はこんなに興味がころころ変わってしまって、大丈夫なんだろうか」「何も身についていないんじゃないだろうか」と心配になっていました。
でも、いま振り返ってみると、間違ってなかったな、と思えるんです。だから、この記事を読んでいる中で、もし同じような悩みを持っている人がいたら、ぜひ「ポジティブな飽き性」を目指してほしいです。1つのことだけに固執して、いろいろなことを知る機会を逃してしまうと、もったいないですから。
―― 経験から出た言葉には説得力がありますね。ありがとうございます。
―― では最後に、miskyさんの今後についてお聞きしますね。これまでに音楽、プログラミングと興味の遷移を経験してきたわけですが、今後の進路は何か定まりそうですか?
misky 現時点では、具体的に将来、何をするかは考えていないですね。これからも、興味が別のところへ遷移していく可能性があると思います。例えばヤマハやプロペラヘッドといった会社でシーケンサーを開発するというのも面白そうだし、院に進む道だってもちろんあるわけだし……。しっかりと飽き性を発揮したいです(笑)。
―― そうですね、まだ大学2年生ですから、どんどん「飽き性」を発揮していただきたいと思います。でも1つだけ、「芸術と技術」というテーマは「軸」としてmiskyさんの中にあるのかな、ということを、今日お話ししていて感じました。
misky 確かに、そうだと思います。職業としてはいろいろな形があると思いますが、「芸術と技術」を追求していくことができたら幸せです。
―― 本日はありがとうございました。
misky ありがとうございました。
「ライバルに学べ! 学生スターエンジニアに聞く」第3回はいかがでしたか? miskyさんのなぞめいた雰囲気は出ていたでしょうか?
「飽き性は武器」「興味と境遇」「言語の壁を超える」「芸術と技術」など、数々の名言を残してくれたmiskyさん。筆者の言葉でまとめると、
という感じでしょうか。お話ししていて、非常にエネルギッシュな人であると感じました。
ご本人は「飽き性」といっていましたが、インタビュー中にもあるとおり、決して単なる飽き性ではありません。自分の軸(価値観、考え方の基準)をしっかりと持っているように感じました。
読者の皆さまにとっても、きっと刺激的な言葉がたくさんあったことと思います。miskyさん、最後までお読みいただいた皆さま、どうもありがとうございました! また次回をお楽しみに!
この取材、かなり長時間だったのですが、miskyさんも筆者も、そして同席した編集担当M氏も、全員が音楽好きだったり、日本語好きだったりと共通点が多く、取材趣旨とは離れた部分でも話が大いに盛り上がりました。印象的な言葉をいくつかお届けします。
こういった、一見関係ない会話も楽しい、興味深い取材でした。
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