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意志決定フレームワークとは

〜3つの視点、6つのステップで導き出す〜

起-動線 for atmarkIT
エバンジェリスト
堀内浩二
2003/9/27

ITエキスパートが自分戦略をつかみ、実現するための1つの手段として、@IT自分戦略研究所が提供する「起-動線 for atmarkIT」は、ある方法論を中核に据えている。それが株式会社アーキットの提唱する「意志決定フレームワーク」である。同社の代表で、起-動線 for atmarkITのエバンジェリストでもある堀内浩二氏に、その概要を語ってもらった。。

「選択しない」という選択肢がない時代に必要なもの

 ある調査によると、起業を考え始めてから実際に事業を開始するまでの平均準備期間は、約4年だそうです。その4年間で一番大変な作業は何だと思いますか? それは資金調達でも事業計画でもありません。3年はほぼ「志を固める」ことに費やしているといっても過言ではないそうです。

 一方、「お父さん、今度はいつ帰ってくるの」と子供からいわれ、いまの職を辞することを一瞬のうちに決断した方がいます。しかし、一瞬の決断のように思えても、実は(意識するしないにかかわらず)葛藤を感じ、心の中で準備作業をしていたからこそ、「その一言」に背中を押されたのだと思います。

 自発的に起業という選択をするまでの3年間、あるいは「その一言」に背中を押されて転職を決めるまでの期間、人はどんな損得勘定をし、どんな選択肢を考えたのでしょうか。

 いま私たちは多様な生き方を選ぶ機会を手にしています。大企業を選ばない、出世を目標としない、持ち家を持たない、結婚しない、子供を作らない……。これらの選択肢が「例外」扱いでなくなってきたのはつい最近のことです。

 「選択しない」という選択肢がなくなる時代となり、自分の責任で判断を下す(=意志決定する)ための「軸」「中心」「羅針盤」を持っている方にとっては、この上なくエキサイティングな時代になっていく一方、持っていない方にとっては常に選択を強いられる居心地の悪い時代なのかもしれません。

 「意志決定フレームワーク」とは、このように人生の大事な局面において、選択できる(=意志決定できる)ための方法論なのです。具体的には意志決定するために「何を」「どうやって」考えていけばよいかを体系化した枠組みです。

「何を」考えればよいか?……3つの視点

 例えば転職の是非を意志決定するとしましょう。上司や部下に迷惑はかからないか? 転職によってどんなスキルを磨くチャンスがあるのか? 家庭(内の人間関係)へのインパクトは? どの程度の年収ダウンであれば家計上問題ないか? など考える要素が多いにもかかわらず、決断までの時間は限られています。

 転職に限らず、結婚や家の購入など、人生において重要な意志決定を要する場面で、「何を」考えればよいかをあらかじめ明確にしておき、短期間で意志決定を行うために「意志決定フレームワーク」では3つの「視点」を定義しています。

●個人の視点=『自分を知る・伸ばす』

 個人の視点とは、内面的な視点です。自分の置かれた社会的な状況などからいったん自分を切り離して、自分の価値観を知り、さらにその価値観に沿ったこと(仕事でも子育てでも)ができるように、自分の強みを伸ばすことについて考えます。

●社会人の視点=『自分を活かす』

 ここでいう社会人とは、他者との関わりのすべてを指します。すなわち家庭人として、職業人として、あるいは地域社会への貢献者として自分を活かすことについて考えます。

●生活者の視点=『基盤を豊かにする』

 心身の健康や健全な家計を築くことなく、あれこれやりたいといっても始まりません。健康や経済の基盤についての視点です。

 どの視点が特に重要ということはありませんが、「自分を知り・伸ばし」「活かし」「基盤を豊かにする」という順序で考えると、頭の中を整理しやすいようです。

図1:意志決定するために考える3つの視点

  順序といいましたが、この考え方のフローは一巡して終わるものではなく、これらを「循環」して考えていきます。循環といっても同じところをぐるぐる回るのではなく、循環するたびに考えが昇華していくので、好循環といえます。最初のサイクルで仮説を立て、その仮説をもとに、次のサイクルを考えていくのです。

 また、3つの視点は、それぞれ3つのポイント、合計で9つのポイントに細分化できます。その9つのポイントは下図を参照してください。「意志決定フレームワーク」では、この9つのポイントを好循環させて考え、意志決定することを提案しています。

図2:9つのポイントを好循環させて考えて、意志決定する

「どうやって」考えるか?……6つのステップ

  意志決定するために、まず9つのポイントを好循環させて考えることを説明しました。次はより具体的に「どうやって」考えれば、意志決定できるかを説明します。そのためには、下図の6つのステップをベースにします。

図3:意志決定するための6つのステップ

 次に、転職についての意志決定をすると想定して、6つのステップを解説します。

☆チャレンジの設定

 意志決定したい事項をここでは「チャレンジ」と呼んでいます。ここでは例えとして「転職」をチャレンジとします。

 転職以外では、「起業」や「結婚」など人生における具体的な重大事、「子供から尊敬される父親になる」という漠然としたテーマなども該当します。これから何をしたらよいか分からないような場合には、「5年後にオブジェクト指向分析設計のエキスパートになる」など、まずは仮のチャレンジを設定します。

☆情報収集

 何事においても、情報収集は重要です。「チャレンジ」を意志決定するためには、次の2つの情報が必要になります。

 【外的情報の収集】Webサイトや本で収集できる情報
 【内的情報の収集】自分の価値判断の基準、健康状態、経済状態、能力などの情報

 転職というチャレンジに対しては、業界研究や求人企業の情報収集が外的情報の収集にあたります。これも重要なのですが、より重要なのは、そもそも自分はなぜ転職したいのか、転職してどうなりたいのかをじっくり考えておくことです。これが内的情報の収集にあたります。

 この内的情報を収集するうえで、考えるポイントが先に紹介した9つのポイントになります。『自分を知る・伸ばす』『自分を活かす』『基盤を豊かにする』の3つの視点とそれぞれをブレイクダウンした9つのポイントから内的情報の収集と整理を行うわけです。

☆判断基準

 集めた情報をもとにいくつかの代替案などを考えたとして、どういう視点から比較して、何を優先順位とするのか、ということです。「チャレンジ」を意志決定するには現在の自分の判断基準となるものを明確にしていなければなりません。

 転職でいえば、企業の将来性、年収、転勤の有無といった、「自分の外にあるもの」だけが判断基準ではありません。いちど「人生の中で仕事をどう位置づけるのか」という高い視点から、自分の内なる判断基準を考えてみる必要があります。

☆ロジック

 このステップにおいても、先に紹介した9つのポイントが重要になります。転職を意志決定するにあたって、多くの人が抱くモヤモヤとした感情は、望みが叶うだろうという「期待」(チャンス)、多少のマイナスがあってものみ込む「覚悟」(リスク)、そしてそのどちらでもない「不安」、この3つに分類できると思います。9つのポイントのそれぞれについて、「期待」「覚悟」「不安」を洗い出します。「不安」については、その正体が具体的になれば、解消の手立てが見つかることもあります。

 例えば「仕事力を伸ばす」というポイントで、「期待」するものは何か、「覚悟」が必要なものは何か、「不安」な点は何か、などをそれぞれリストアップします。

☆決断

 いままでのステップで得た材料をもとに、転職の意志決定をするかどうか決断します。決断というステップによって、自分が主体的に選択したことを意識します。例えば、結果として「意志決定しない」という決断もあり得ます。

☆コミットメント

 決断しただけでは、現状は何も変わりません。決断には実行が伴います。主体的に選択をしたからには、その結果に対し、興味を持ってモニターし、自分へフィードバックしていく必要があります。転職することを意志決定したならば、「不安」を解消するためにスキルアップの計画を立てる、「期待」を最大化できる企業探し、「覚悟」によるマイナス影響を軽減する手立てなど、やるべきこと(アクション項目)を明確にします。

 重要なのは、良い刺激を受けて自分の判断基準が変わったかもしれないと感じたら、もう一度このステップをなぞってみること。モノサシが変わればチャレンジだって変わるかもしれません。転職を決断したのちに、異動になった場合などは、もう一度このステップで意志決定を確認してみます。

 そう考えると、意志決定のステップも、「循環」という考え方が必要です。それを図式化したものが下図です。

図4:意志決定のための6つのステップ

 チャレンジを「転職」に設定したとして、意志決定のための6つのステップを解説しました。このような準備をしっかりして転職活動を始められたら、申し分ないのですが、実際は突然知人から誘いを受けたり、会社が倒産したりと、「決断までの時間が少な過ぎる!」ケースも多いと思います。

 特に、皆さんが身を置くIT業界は変化の激しい業界です。転職に限らず、意志決定を早急に迫られることが多いと思います。変化に対し、素早く対応するためにも「意志決定のフレームワーク」に基づき、日ごろから自分自身で選択基準を明確にしておくことを勧めます。

 とはいえ、フレームワークという方法論があるだけでは、なかなか実行できないのも人の常。実際に書きながら考え、動きながら修正していける、実体のあるものを提供したいと考え、「自分ナビ作成プログラム」というツールを開発しました。

 このツールは、今まで述べてきた意志決定のフレームワークに沿って、Webサイト上のシートに書き込みながら考えていくことで、自分のチャレンジに対する決断を引き出すことが目的です。現在、このツールをアットマーク・アイティの読者向けにカスタマイズしているところです。

 近日中には「自分ナビ for atmarkIT」として@IT自分戦略研究所のサービスとして提供予定です。ご期待ください。

筆者紹介
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。大学卒業後、コンサルティングファームにて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国にてITベンチャーの技術評価プロジェクトやSCM改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国後ベンチャー企業に転職し、技術および事業開発を担当。2002年にアーキット設立、現在に至る。
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