ITシステム全体のアーキテクチャを正しく構築できているかどうかは、システム開発の成功を左右する大きな要素である。その重責を負うのが「ITアーキテクト」という役職だ。そのような、システム開発におけるITアーキテクトの重要性を強く認識し、IT業界において、いち早く社内に「アーキテクト部隊」なる特別チームを立ち上げた企業がNTTデータだ。圧倒的な規模と技術力を誇る巨大SIerで重責を担うアーキテクト部隊とは、どのような部隊なのか。また、その独自性や技術力などNTTデータならではの優位性とは。その実像を浮き彫りにしてみよう。 |
経験豊富なITアーキテクトが プロジェクトを支援する |
NTTデータのITアーキテクト部隊は、官公庁の大規模システムなどを手がける「公共システム事業本部」に設置されている。同事業本部の「オープン技術推進担当」という部門名が、アーキテクト部隊の正式名称だ。部門を統括するのは、同事業本部・技術統括部・オープン技術推進担当部長の斉藤信也氏。現在の人員は約30名。オブジェクト指向の開発経験者、開発手法やモデリング手法に詳しいITエンジニアなど、社内の人材はもちろん、外資系コンサルティング会社や国内大手SIer、ベンチャー企業など社外の人材も含め、社内外の様々な分野から集まった選りすぐりのプロフェッショナル集団である。
公共システム事業本部・技術統括部・オープン技術推進担当部長の斉藤信也氏 |
アーキテクト部隊の具体的な業務は、NTTデータが手がけているさまざまなプロジェクトを成功させるための「支援」である。それぞれのプロジェクトを担当している部署や部門、プロジェクトチームからの要請を受け、主に要求定義から設計にかけてのフェーズでプロジェクト遂行のネックとなっている問題の解決にあたる。斉藤部長は「NTTデータといえば巨大で官僚的な組織というイメージかもしれません。しかし、アーキテクト部隊の存在に代表されるように、開発現場に新手法を取り入れていこうという先進的な気風を持った部署も多いのです」という。
ITアーキテクトたちは、プロジェクトのメンバーとして活動し、プロジェクト立ち上げ時のアーキテクチャ設計などを支援する。プロジェクトが動き出し、軌道に乗ってきた段階で、徐々に作業を他のプロジェクトメンバに引き継ぎ、次のプロジェクトの支援に向かう。
「一般に、システム開発において最もITアーキテクトの知見が必要とされるのは、プロジェクト初期の要求定義から設計のフェーズです。その部分にピンポイントで人材を送り込み、集中的な支援でプロジェクトを軌道に乗せる。それが任務です」(斉藤部長)。いわば社内の「タスクフォース」なのである。
要求定義から試験・検証の各フェーズに 新たな方法論を確立して適用しようという意気込み |
そのNTTデータのアーキテクト部隊では、要求定義・設計・実装・検証の各フェーズに新たな方法論を導入してモデル化し、自動化する試みを進めている。例えば、要求定義の段階で「MOYA(モヤ:Model-Oriented Methodology for Your Awareness)」と呼ばれる独自のビジネスモデリング方法論を構築し、活用している。ITアーキテクトたちは現場にMOYAを持ち込み、現場で得られた知見やノウハウをもとにさらにブラッシュアップして方法論としての精度を高めている。
斉藤部長は言う。「要求定義の段階ではMOYAを、設計や実装の段階ではTERASOLUNAと呼ばれるNTTデータ社内の開発体系を応用するなどして、モデル化指向開発の実践を進めています。さらに、試験や検証などのテストの段階にもモデルを導入して自動化に取り組む予定です。要求定義の『ビジネスモデリング』、設計や実装の『システムモデリング』、そして『テストモデリング』と3領域において、それぞれ新たなモデル指向の方法論を策定します。」
具体的には、「Web系やリッチクライアント系の3層アプリケーションを開発する場合の手順」というように対象範囲ごとに設計方法論などを明確に定め、それをベースに現場で効率的な作業を進めるという。さらに、それらの方法論にMDA(モデル駆動アーキテクチャ)の技術要素を取り込み、さらなる効率化を図るという。
「さらに、それら方法論のプロセスを検証して自動化可能なタスクを抽出し、その自動化を実現するツールを整備して、現場に配備します。それによってシステム開発全体の劇的な効率化を図りたいと考えています。とりわけテストモデリングはテストの自動化に結びつく取り組みで、私ども以外でその分野に注力しているところは少ない。既にこの構想を実現するために、ユニークな独自要素技術を持つ複数の海外企業との協業を始めています。世界の最先端技術を、現実の開発現場にいち早く導入したいですね」(斉藤部長)。
この取り組みにより、従来比でコーディング量を約40%も削減することに成功した例もあるという。NTTデータのアーキテクトは単に個々人の技術力をベースにプロジェクトの支援をするだけではなく、各フェーズごとに体系化された方法論を導入しシステム開発プロセスの改善を行い、また、それを再検証することで方法論の精度向上を図っている。その結果、NTTデータのシステム開発力の向上に大きく貢献しているのである。
複数のレベルでのモデリングを実現することで、システム開発全体の効率化を図る |
技術に裏打ちされた「説得力」こそが アーキテクトに求められるコミュニケーション能力 |
アーキテクト部隊の支援業務は、要求定義から設計、実装、検証までのさまざまなフェーズにまたがる。斉藤部長によれば、そこに求められる能力とは「個々の要素技術とそれらを俯瞰的に捉える知識を兼ね備えた総合的な『技術力』が不可欠です。あわせてコミュニケーション能力が重要になります」とのことだ。さらには「新しい方法論や技術を導入した自分の設計、あるいは判断について、プロジェクトのメンバー、クライアントに対してきちんと説明し『納得』してもらわねばなりません。コミュニケーション能力とは、つまりは『技術に裏打ちされた説得力』なのです」(斉藤部長)。
ITアーキテクトに求められる能力はそれだけではない。「設計フェーズより川下の工程を考えるのであれば技術力とコミュニケーション能力が大事でしょう。しかし、要求定義から前の段階となるとクライアントのビジネスを正しく理解する力も求められます」。それは、単なる業務知識ではない。「ITのプロとして、ビジネスを正しく理解した上で『ビジネスをITでいかに改善』できるのか。それを提案できる力が求められます。要求定義よりも以前の工程に対しても踏み込んでいける論理的思考能力とコミュニケーション力が求められます」(斉藤部長)。
上流工程になればなるほど、ITアーキテクトに求められる技能もシビアになるのだ。
アーキテクト部隊の出身者といえば IT業界で一目置かれるように実績を積みあげる |
NTTデータのタスクフォースとして機能し、さまざまなプロジェクトの問題解決を遂行するアーキテクト部隊。要求定義・設計・実装・検証の各フェーズで新たな方法論を構築するという取り組みは、従来のNTTデータとは異なる手法での開発を提案することにも結びつく。その視点に立てば、アーキテクト部隊の人材には「NTTデータの開発手法を内部から変えていくという気概」も必要かもしれない。
斉藤部長は、「私たちの取り組みは大きなチャレンジです。NTTデータだからこそ、このような大きな技術的挑戦のためのリソースを用意できたと考えています。これで世界に誇れる成果を出すつもりです。将来、NTTデータのアーキテクト部隊の出身者と分かるとそれだけで一目置かれる、そんな組織にしたいですね」と言う。
このビジョンを実現するために、アーキテクト部隊では、現在も引き続きアーキテクトを募集している。アーキテクトとして活躍している人材はもちろん、アーキテクト的な志向を持ったエンジニアなども対象になる。NTTデータでは、今後も引き続き社外から優秀な人材を招へいしていきたいとのことである。
■インタビュー
最先端を走るNTTデータのアーキテクト部隊は、日々どのようなミッションを抱えているのか、オープン技術推進担当の平岡正寿課長に伺ってみた。平岡課長は、国内のSIerから外資系コンサルティング会社、ベンチャーを経て2004年7月に入社。前職でもITアーキテクトとして活躍していたが、NTTデータがアーキテクト部隊のスタッフを集めていることを知って転職に踏み切った。「私自身、ベンチャー企業に在籍していたくらいですから、『大きな会社は自分には向かない』と思っていたのです。ところが、アーキテクト部隊の設立の理念を聞いてみると、まったく『NTTデータらしくない』と直感しました」(平岡課長)。 平岡課長の心に響いた「理念」とは、「NTTデータを内部から変革するぐらいの気概を持って、新たな開発方法論の構築に取り組む」というものだ。「日本最大級のSIerが変われば、必ず日本のソフトウェア開発も変わる。その大きなうねりを肌で感じられるかもしれない。ワクワク感がありました」(平岡課長)。 現在、平岡課長は、複数のプロジェクトの支援を手がけている。それぞれのプロジェクトで、たとえば販売システムの設計フェーズの支援やWebアプリケーションの要求定義の支援というように担当する業種や業務も異なってくる。しかも、「設計フェーズの支援要請であっても、問題点を詳細に探っていくとプロジェクトのマネジメントに無理があったり、リソース配分に問題があるなど、設計以外の部分に問題の原因が隠されている場合もあります。現場に入り込み、問題点を洗い出してから初めて具体的な支援内容が決まってくるのです」(平岡課長)という。プロジェクトの現場に行ってみないことには、何が起こっているのかわからないのだ。 平岡課長が当初に抱いた「ワクワク感」は、今も薄れてはいないという。「NTTデータは公共システムのような大規模なシステム開発から、短期間で回すWebアプリケーションの開発など、じつにさまざまなプロジェクトを抱えています。とりわけ大規模なシステム開発の進め方には他社にはないノウハウがあります。さまざまなプロジェクトの支援を通じて、現場でもっと『方法論』に意識を向けてもらえるように心がけています。方法論を意識し理解できれば、次に同じようなプロジェクトが立ち上がったとき、その方法論を応用して同じミスを繰り返すことなく開発を進められるのです」(平岡課長)。究極的には、現場でさまざまな方法論を蓄積し、「アーキテクト部隊の支援は『もう必要ありません』と言ってもらえるようにすること。そうなったときNTTデータのシステム開発も姿を大きく変えているはずです」(平岡課長)。アーキテクト部隊のミッションは「壮大」だ。 |
NTTデータ
企画:アイティメディア 営業局
制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2005年6月30日
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■ITアーキテクトフォーラム ・ マーチン・ファウラー特別ラウンドテーブル 現場レポート [前編] ・ マーチン・ファウラー特別ラウンドテーブル 現場レポート [後編] ・ 正しい設計と理想的なモデル ・ モデル推敲に有効ないくつかの手法 ・ いまさら聞けない要求管理の基本 ・ ソフトウェア要求の詳細な分類 ・ システムが解決すべき問題を整理する ・ システムを定義する 初歩編 ・ 要求管理プロセスの全体像 |