ネット証券各社がサービス競争を繰り広げる激戦区に、GMOインターネット証券が参入したのは2006年5月。この時期に参入した理由は、同社の「もっと楽しく、もっと自由に」というシンプルなコンセプトにあるという。業界の常識を破り、システムの開発・運用を内製化、しかもそれをオープンソースを中心に短期間で実現した。そんなGMOインターネット証券を設立した同社の代表取締役社長 高島秀行氏が、これまでの開発の道のりと今後の挑戦について語った。 |
「もっと楽しく、もっと自由に」が開発コンセプト
GMOインターネット証券は、数多くあるネット専業の証券会社のうちの1社だが、他社とまったく異なるのは、そのシステムに対する考え方だろう。
同社の証券取引システムの開発では、Ajaxを駆使することで、板情報をクリックすると売買の別、数量、株価が自動的に入力され、ボタンやキーボードの上・下キー、マウスのスクロールで売買単位数を変更できるようにするなどして、少しでも注文完了までの操作時間を短くしようという工夫がなされている(画面1)。ここまでユーザーの使い勝手に細部までこだわったインターフェイスを持つ証券取引システムはなかなかないだろう。
画面1 GMOインターネット証券の取引画面の一部。マウスカーソルが見えている部分が板情報で、ここをクリックすると、その右の画面のように自動的に売買の別、数量、株価が自動的に入力されるようになっている。これも注文完了までの時間を短くするために工夫されたものだ |
サービスを開始してから1年後の今年(2007年)5月には、口座数2万6122、月間売買代金1兆8326億円に達した。口座数は確かに大事だが、GMOインターネット証券は頻繁に売買を繰り返すユーザーが多いことを踏まえて、同業他社に先んじてAPIを公開した。すでにAPI経由での注文が全注文の約10%に達しているという。
GMOインターネット証券の設立者である代表取締役社長 高島秀行氏は次のように語る。
「私たちはコンセプトとして『インターネットユーザーにもっと楽しく、もっと自由に使ってもらいたい』を掲げています。当たり前に聞こえるでしょうが、ここ最近のネット証券は、口座数を集めるために手数料引き下げを優先し、利便性などは置き去りにしているように思えます」
高島氏は、利便性を犠牲にしている原因として、多くのネット証券が外部にシステムを委託している点を挙げる。
「グーグルがシステムを外注することが有り得ないのと同じで、私たちもシステムの仕組みで勝負をするのですから、自ら作るのは当然です。システムを委託することで、『機敏に動けない』『独自性を出せない』となるのは致命的です」
同社の金融サービスを提供するシステム、その基盤こそが、ビジネスの成功をも左右する。GMOインターネット証券はそう考え、システムの内製化に踏み切った。機敏に動けるための、独自性を打ち出すには、自社製のシステムこそが一番。そんな信念と自負がうかがえる。
オープンソースにこだわった理由とは
GMOインターネット証券 代表取締役社長 高島秀行氏。オープンソースを徹底的に活用することで、短期間かつ低コストでシステムを作り上げた。オープンソースは、社内のITエンジニアも慣れていた。その点について、「使い慣れた言語、ツールで構築することが1番安全であり、1番品質がいいシステムができると考えています」と語る |
システムの構築・運用の内製化にこだわるGMOインターネット証券。証券会社としてはそれだけでも「型破り」といえる。だが、さらに同社はオープンソースを徹底活用し、通常の証券会社の3分の1程度の開発期間でシステムを構築したのも驚きだ。
約60台ある業務サーバのOSはLinuxで統一。Webアプリケーション・サーバにはTomcatとJBossを、フレームワークにはSpringとStrutsを、そしてO/Rマッピング・ツールにはHibernateとiBATISを採用し、オープンソースの利用に徹底的にこだわった。オープンソースではないのは、データベースに利用しているOracle Database 10gぐらいだろうか。ただし、一部のデータベースにはMySQLも利用している。
オープンソースにこだわる理由は何だろうか。「なぜ、オープンソース中心で作るのか。システム的なメリットがあったわけではありません。問題が発生するリスクは、オープンソースを使う、使わないにかかわらずそう変わりませんから。オープンソースを利用する最大の理由は、オープンソースはすでにデファクトスタンダードであり、コスト面はいうに及ばず、社内の開発メンバーが扱い慣れていたためです。使い慣れた言語、ツールで構築することが1番安全であり、1番品質がいいシステムができると考えています」というのが高島氏の回答だ。
だが、それだけではない。オープンソースを開発の中心に据えることで、業界最安値レベルの手数料も実現できたのだ。何と標準的な開発費用の数分の1程度で証券取引システムを構築できたのである。自社ですべてを開発するからこそ、安い手数料も可能となったのだ。一般の証券会社のようにシステムを外部に委託してしまうと、開発費用は膨らみ、安い手数料の実現は難しい。
オープンソース開発の背景にあるものは
独創的なサービス提供と低コストを同時に実現できたのは、もちろん偶然ではない。それは、高島氏の金融システム構築の幅広い知識と経験によるものでもある。
高島氏は1992年に大学卒業すると新日本証券(現・新光証券)に入社した。大学で学んだ金融工学を駆使してディーラーとして活躍する夢を持つが希望がかなわず営業部に配属される。その後3年で同社を退職して渡米。1997年に帰国するが、当時日本では山一證券が破たんし、証券業界が混迷していた時期である。結局証券会社に再就職せずにシステムインテグレータ(SIer)に就職した。
これがその後の高島氏の道を決めた。このSIerで松井証券のオンライントレードシステムを手掛け、その後次々に証券各社のシステムづくりに参画。この経験を生かし、外資系コンサルティング会社に籍を移し、証券業界・銀行業界のコンサルティングを手掛けた後、IT系のベンチャー企業に転職。そしてその後、GMOインターネット証券を設立した。
これらの経験があったからこそ、これまでに日本国内でさほど実績がなかったオープンソースを用いた金融システム構築に踏み切り、さらに成功をも収めることができたのだ。
API公開、Ajaxの駆使、このアイデア発想は?
「自分で何かをやってみたい、アイデアを試したかった」と会社設立の理由を語る高島氏。高島氏の「社長ブログ2.0」からは、自らがアイデアマンとして活躍する様子がうかがえる。
「社員54名のうち、半数以上がシステム開発・運用に携わっており、新しいテクノロジの中からビジネスアイデアが出ることに大いに期待していますし、実際に数多くのアイデアが出ています」
例えば、これまでに遂げたシステムの進化の1つに、シームレスな金融サービスが挙げられる。ほかのネット証券では、株や外国為替などの異なる金融サービスを利用する場合、それぞれの商品ごとにログインする必要がある。しかし同社では、1度ログインするだけで1つの取引画面からすべての金融サービスを利用することが可能だ。
冒頭でも紹介したが、Ajaxを駆使することで、もともとリッチではなく、本来はさまざまな操作を行うには向いていないWebブラウザを使いやすく工夫してきたことも特筆すべき点だ。こうした取り組みは、金融業界では珍しい。
ユーザーを意識したシステムの提案は、社内でコールセンターを運営し、お客さまからの厳しい意見や指摘などもダイレクトに返ってくる同社ならではのことだ。自らが作ったシステムが世の中の人にどのように使われているのか、反応を見ながらスピーディに改善を加えていくことは、開発するITエンジニアにとって大きなだいご味だろう。
必要なシステムは、どんどん自分たちで設計し、構築し、運用する。まさにネット企業の姿である。「目指すはGoogleの証券会社版」という言葉は、高島氏の本音だろう。
開発チームの実力とその真価
今年中に、現在の株式・先物・FXといった金融サービスのほかに、新しいサービスを2〜3リリースすることを予定している。例えば直近では、9月7日から夜間取引を開始すると発表した(画面2)。
画面2 夜間取引用に開発された取引画面。夜間取引タブが追加された。画面をクリックすると拡大して表示されます |
今後、お客さまへの究極のサービスとして目指すのは、証券だけにとどまらず、金融サービス全体を見据えることだ。いってみれば金融サービスをさらにシームレス化し、証券も銀行もカードもネットを介して、便利に使えるサービスの実現を可能にするシステムの構想を練っている。
この構想を実現するためにも、GMOインターネット証券は新しい開発メンバーを募集する。
「現在の社内開発メンバーは約30名です。これらのメンバーはSIerやベンダ出身者が多く、半数は証券取引システムの構築を経験したことがありますが、残りのメンバーは未経験者でした。それでも自らシステムを作って運用しています。そのため、この分野の経験者よりも『いいシステムを作りたい』という思いを持って極限までクオリティと効率を高められる能力と気概のある人材が欲しいと考えています。私たちは、納得いくものが作れるまではサービスを提供しませんし、中途半端はできません。SIerとは違い、納期は自分たちで決めることができますが、品質に対しては金融サービスなので厳しいものがあります。しかし、徹底的に技術にこだわりたい人、斬新なアイデアを形にしたい人には最適な環境ではないでしょうか」と熱く語る高島氏。
自由な発想をしてもらうために、常に社員には「どんな言語を使ってもいい」「どんな技術を使ってもいい」と声を掛けているという。また、技術の自由さのほかに、非常にフランクに意見やアイデアを発言しやすい自由な雰囲気もある。この雰囲気があるからこそ、さまざまなディスカッションが生まれ、斬新なアイデアを形にしやすい環境をつくっているのだろう。
開発のスタイルも、グーグルに似ている。開発は大きなプロジェクトにせず、数人のグループごとに行う。そうした開発スタイルを取り入れることで、機敏に、柔軟にシステムを構築できると考えるのである。大きなプロジェクトチームになれば、さまざまな調整などで開発のスピードが遅くなる可能性がある。そんなリスクを避けているのだ。そうした開発スタイルも、通常の証券会社のシステムづくりとはまったく異なる、同社ならではのスタイルだろう。
だからこそ、ビッグプロジェクトのプロジェクトマネージャなどよりも、数人のプロジェクトリーダークラスや、そのようなプロジェクトで働いたITエンジニアを求めている。自分が設計し、コーディングし、運用も行う。こうした現場にこだわり、技術力にこだわりたいITエンジニアに適した環境だろう。GMOインターネット証券の開発現場で、金融システムの開発に携わってみないか。
システムエンジニア採用情報(募集職種/応募資格) |
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ソフトウェアエンジニア |
システム基盤エンジニア |
データベース管理者 |
オブジェクト指向言語での実務経験3年以上、または同等の経験をお持ちの方 (望ましい技術:Java、.NET、インターネット) |
大規模ネットワークの設計・構築の経験 大規模インターネットサーバの設計・構築及びカーネル・チューニングの経験 UNIX系OSに関して3年以上の管理・運用の経験または同等の経験をお持ちの方 |
データベースの設計・構築、運用及びチューニングの経験をお持ちの方 |
年齢25歳以上/学歴不問/業務上の要件を分析する能力 |
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応募方法はクリック証券採用情報ページをご覧下さい |
クリック証券株式会社(GMOインターネット証券株式会社)
企画:アイティメディア営業本部
制作:@IT自分戦略研究所編集部
掲載内容有効期限:2007年9月30日
会社概要 |
■会社名 クリック証券株式会社 (英字表記:CLICK Securities, Inc.) 2007年12月3日 GMOインターネット証券株式会社からクリック証券株式会社へ社名変更をいたしました ■登録番号 関東財務局長(金商)第77号 ■本店所在地 〒150-8512 東京都渋谷区桜丘町26番1号 セルリアンタワー ■代表取締役社長 高島 秀行 ■設立 平成17年10月28日 ■従業員数 54名 ■事業内容 証券取引法に基づく証券業 金融先物取引法に基づく店頭金融先物取引業 ■資本金 20億4,000万円 |
募集職種・募集要項 |
システムエンジニア仕事内容 証券システムの開発、運用 新サービスの企画、開発、運用 望ましい知識や研究分野 グループウェア、エージェントシステム、ユーザーインターフェース、Webサービス、セキュリティ、データベース、分散システム、トランザクション処理、メッセージング、インターネットプロトコル、パフォーマンス&スケーラビリティ SJC-D(Sun Certified Developer for the Java 2 Platform)レベルの知識、RHCE(Red Hat Linux Certified Engineer)レベルの知識、CCNP (Cisco Certified Network Professional)レベルの知識、ORACLE MASTER Platinumレベルの知識 ■ソフトウェアエンジニア プログラミングの経験、オープンソースソフトウェア(OSS)プロジェクトへの貢献 プログラミング言語:Java、C、Ruby, Python 技術分野:J2EE、J2ME、XML関連、AJAX ■システム基盤エンジニア 大規模ネットワークの設計・構築の経験 大規模インターネットサーバの設計・構築、及びカーネル・チューニングの経験 ■データベース管理者 データベースの設計・構築、及びチューニングの経験 |
採用情報 |
勤務地 東京都渋谷区桜丘町26-1セルリアンタワー 交通 各線渋谷駅より徒歩3分 雇用形態 正社員 勤務時間 10:00〜19:00(内休憩1時間) ※職種・所属部署ごとに異なります。 給与 年俸制 ※経験・能力により優遇いたします。 昇給・賞与 昇給年1回 待遇 各種社会保険完備、交通費全額支給 休暇 完全週休2日制(土日)、祝日、GW、夏季、年末年始、有給、慶弔 |
選考プロセス |
選考プロセス 【STEP1】履歴書による書類選考 【STEP2】事業責任者との面接 ※ご応募から内定まで、10日〜2週間と考えてください。
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関連リンク |
目指すはGoogleの証券会社版 (@IT NewsInsight 2006/4/14) Web 2.0的「インターネット証券 2.0」登場 (@IT NewsInsight 2006/4/18) GMOインターネット証券、ジョブ管理ツールで証券業務バッチを安定稼働 (@IT情報マネジメント NewsFlash 2006/8/8) |