ITエンジニアの仕事は東京近郊に集中、それ以外の地域では案件が少なく、スキルアップの機会も得にくいといわれる。だが、本当にそうなのだろうか。Uターン/Iターンという働き方を選択したITエンジニアのインタビューを通じて、その実情と魅力に迫る。 | ||
東京以外の地域も、求人の絶対数は増加傾向
システムは、ネットワークさえつながっていればどこからでも使うことができる。しかし、そのシステムを作るITエンジニアの仕事は、東京に集中しているのが実情である。
例えばIPA(情報処理推進機構)が提供している統計情報を見ると、情報処理技術者試験の合格者が東京近郊に集中していることが分かる(参考:IPAの「統計情報」のページ)。ITエンジニアの多くが東京近郊に住み、東京近郊で働いているということだ。
そうしたITエンジニアの中にも、東京から離れた土地を故郷とする人がいる。実家の都合、自分の育った土地で子どもを育てたいなどの理由で、Uターン転職を望むITエンジニアは多い。またそのほかのさまざまな理由で、故郷以外の土地での就業を希望する人もいる。しかし上記のような理由で、「Uターン/Iターンは募集が少なく、困難」というイメージを持つのは自然なことだろう。
現実はどうなのだろうか。ITエンジニアのUターン/Iターンの実情に詳しいアデコ 人材紹介サービス部 コンサルタントの大田耕平氏に聞いた。
アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント 大田耕平氏 |
「確かに全体の募集件数に占める割合で見ると、東京近郊以外はかなり少なくなります。しかし最近は全体の求人数が増えているので、数としては増える傾向にあります。実績で比べると今年は昨年より1〜2割ほど増えています。特にITエンジニアは、ほかの職種と比べて伸びています」と大田氏は説明する。
ただし、気を付けておくべき点もある。例えば収入面について、大田氏はこう指摘する。「統計から見ても、東京近郊を離れれば年収は下がると覚悟した方がいいでしょう。どうしても下げたくないなら、UターンやIターンを狙うのは難しい選択です。しかし年収が下がっても、生活費を低く抑えられる可能性はあります」
東京近郊を離れるなら、それまでの給与水準を維持するのは厳しいということだ。しかし必ず下がるとは限らない。中には東京近郊の前職とほぼ同じ水準を維持できる人もいる。「東京に本社がある企業への転職、または東京で採用され、勤務地だけ郊外という場合」などだ。注意深く探せば、そうした募集もあるという。
「『いずれは故郷に』という気持ちが少しでもあるのなら、普段からアンテナを張っておくといいですね。東京近郊以外はどうしても求人数が少ないので、いい案件に巡り会うためには、気長に探す姿勢が必要です」と話す。
結婚が縁で、Jターンでキャリアアップ
Uターン/Iターンでは、就職活動のハードルも少し高くなる。移動時間の確保が難しいからだ。大田氏は「最近では東京の人材を取り込むのに熱心な企業もあり、面接官が東京のオフィスまで選考にやってくることもありますが、多くのケースでは採用される土地に直接足を運ばなくてはなりません。実際、応募する側としても一度は転職先のオフィスを自分の目で確かめておきたいところでしょう。しかしITエンジニアはたいてい忙しいので、秘密裏に行う転職活動中に遠方に足を運ぶのはなかなか困難です」と指摘する。
奈良県出身の関谷氏(仮名)も、遠方への転職活動に苦労した1人だ。東京近郊で働いていたが、最近名古屋に転職した。いわゆるJターンである。関谷氏にとって、名古屋は暮らしたことも働いたこともない土地だったが、「当時婚約者だった現在の妻が『地元に戻りたい』と希望していたので」という理由で名古屋への転職活動を開始した。
転職を考えたきっかけは、通勤時間の長さと待遇の悪さだった。東京で働き始めた直後に勤務地が横須賀になり、耐えかねて横須賀に引っ越しをしたとたん、今度は東京が勤務地となってしまった。「1日に5時間は通勤に取られていました」と関谷氏。派遣として働いていたため、「給与は伸びる可能性がなく、スキルアップも望めなかった」そうだ。さらに「当時の職場ではキャリアビジョンが見えない、伸ばせないのも問題でした」という。
転職活動を始めたものの、業務の調整がうまくいかず、一度は転職のチャンスを逃した。途中まで選考が進んでいた企業があったが、業務が急に忙しくなって面接に行くこともままならなくなり、活動を一時休止せざるを得なかったのだ。
数カ月後に業務は落ち着き、転職活動を再開。少しすると勤務地が名古屋となる会社との交渉が始まった。もともとITエンジニアとして働いていた関谷氏だが、実際は営業に近い仕事も担当しており、名実ともに技術に専念できる仕事を求めていた。そんな気持ちもあり「技術の最高職である部長を目指している」と面接官に答えた。その意気込みが認められたのか、見事内定を得ることができた。
転職先は以前より小規模な会社であるため、プログラマ、システムエンジニアを包括するような立場を任されることになった。幸いなことに、給与は大幅にアップした。
情報収集を怠らず人脈を保てば、東京以外でもやっていける
収入面、転職活動の難しさに加え、東京を離れる不安としてよく挙げられるのが「スキルアップや情報収集の機会の減少」である。出身地である広島にUターン転職を果たした井浦氏(仮名)は「確かにそういう面はあります。(日本の)ITは東京が本場ですからね」と話す。
そうした実情を理解していながらも、井浦氏には「自分なら東京でも、それ以外の地域でもやっていける」という自信があり、広島へのUターンを決めた。だがこの自信は一朝一夕に得たものではない。それまで井浦氏がさまざまな苦労と経験をしたからこそのものだ。事実井浦氏は、「こう思えるようになったのは最近ですけれどね」と笑う。
井浦氏の最初の就職先は、福岡の比較的大規模な企業だった。その後、大阪、広島、東京へと仕事の場を移すことになった。2つの住居を構え、移動と仕事に明け暮れていた時期もある。つらい思いもしたが、これらの経験から東京とそれ以外の地域差というものを実感することができた。
給与面だけではない。仕事の内容や進め方、土地の雰囲気まで、さまざまな違いがある。「やはりIT系なら東京の方が情報は早いです。またプロジェクトの統括は東京で行われることが多いので、それ以外の地域では上流工程の仕事になかなかありつけないということもあります」
しかし、井浦氏はこうも話す。「東京以外の土地でベンチャーを興し、東京の企業に影響を与えている人もいます。仕事で大事なのは人脈と情報なので、常にアンテナを張っていれば『スキルアップや情報収集の機会の減少』というデメリットは克服できるのです」
先の関谷氏も、工夫によってデメリットを克服しようとしている。具体的には、ネットを通じた情報収集、人脈の維持と開拓などだ。「東京以外となるとIT系のイベントに足を運ぶ機会は減りますが、常にネットから最新情報を得るように心がけています。これまで仕事で縁のあった人たちとも、たまに連絡を取り合っています」という。
Uターン/Iターンという選択の魅力
ITエンジニアがUターン/Iターンを選択した場合、不利なことが増えるかもしれない。しかし関谷氏や井浦氏のように、それを克服することは可能だ。
それにUターン/Iターンには、東京にはない可能性もある。井浦氏はこう語る。「逆にチャンスもあると考えています。いまでこそITの中心は東京ですが、今後はそれ以外の地域に波及する可能性もあります。それに東京だと誰かの後を追うことになりますが、広島なら自分がフロンティアとして先頭を歩いて道を切り開けるかもしれません。それが醍醐味(だいごみ)であり、楽しみです」
アデコの大田氏は、Uターン/Iターンの魅力についてこう話す。「通常の転職と比べると、UターンやIターンは給与アップ、キャリアアップ、スキルアップ、これらすべてを満たすことはなかなか難しいのが実情です。しかし故郷に戻る安心感や、家族のそばにいられること、その土地ならではの魅力などは、何にも代えがたいものです。UターンやIターンで成功する人は、仕事だけではない生き方や幸せを持っている人のようです」。仕事だけではなく、生活をも楽しむための「Uターン/Iターン」。選択肢の1つとして検討してみてはどうだろうか。
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提供:
企画:アイティメディア営業本部
制作:@IT自分戦略研究所編集部
掲載内容有効期限:2008年6月27日
マイクロソフト株式会社 | ||||
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