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市場価値を高める社会人大学院の選び方
ITエンジニアが市場価値を最大限に高める方法の1つとして、いま注目を集めているのが「社会人大学院で学ぶ」ということだ。しかしひと口に社会人大学院といっても、制度や環境はいろいろ。学びの場を選ぶ際のポイントや、確実に合格をつかむための対策を伝授しよう。

ITエンジニアの66.6%が社会人大学院に興味

 @IT自分戦略研究所およびJOB@ITが2006年11月に実施した読者調査によると、回答者の6.6%が社会人大学・大学院での就学経験を持ち、66.6%が興味を示した。実に3人に2人が興味を持つほど関心は高いが、実際に就学した経験があるのはその10分の1ということになる。

図1 社会人大学・大学院就学状況

 多くが興味を抱いていながら、実際の経験者が少ないのはなぜだろう。その理由の1つに、「情報不足」ということがあるのではないだろうか。

 一度就職した後に大学院への進学をするとなると、多くの疑問や不安がつきまとう。現在の職を辞さなければならないか、就学中の生計はどうするか、卒業後に復職または再就職はできるのか、など。加えて卒業後のメリットも明確ではない。大学院で学ぶことが今後のキャリアや人生にどんな恩恵をもたらすか、それを語れる人がITエンジニアの身近には少ないのかもしれない。

 つまりITエンジニアには社会人大学院の具体的な姿が見えず、踏み込めないというところが実情ではないだろうか。それなら社会人大学院を覆うベールを取り去ってみることにしよう。以下では、社会人大学院がもたらすメリット、そして実際に入学を検討する際のポイントを探る。

大学院で新しい価値観を得て、次のステージへ

 社会人大学院で学ぶメリットを考えると、まず学位の取得が思い浮かぶ。4年制大学を卒業すれば学部の「学士」が得られるが、大学院では「修士(マスター)」や「博士(ドクター)」が得られる。これらの学位の違いには何があるか、東京大学 大学総合教育研究センター 准教授の中原淳氏に聞くことにしよう。中原氏の専門は教育工学で、近年では「大人の学びを科学する」をテーマに研究を続けている。

 中原氏は大学院で学ぶ本質について、「大学院とは『お勉強』、つまり知識を蓄積するだけの場ではありません。知的なものを創造するための思考法や方法論を研究する場です」と説明する。これは大学院で学ぼうとするうえで重要な前提といえる。大学というと講義を受講するイメージがあるが、そうした受動的なスタイルの延長に大学院があるわけではない。知識の習得よりも、研究が主軸になる。研究で深められる洞察力や思考力こそが、大学院で得られるメリットとなるだろう。

 研究を経験すると「価値観が変わるでしょうね」と中原氏はいう。これまで上司の指示でプログラミングやシステム構築をする世界にいたITエンジニアも、大学院で研究を経験すると違う世界が見えてくるという。研究を通じて社会を違う角度から眺め、知的で創造的なことを経験すると、元の職場では飽き足らなくなる人が多くなるというのだ。

 こうした意識の改革が起こると、元の職場を窮屈に感じるようになるのかもしれない。それは新しいステージへと飛躍するチャンスでもある。

10年後、なりたい自分になっているためには何が必要か

 中原氏は社会人大学院に進む人のタイプを分類してくれた。大きく分けて「キャリアチェンジ派」と「キャリアアップ派」になる。前者は前職に何らかの不満がある人が別世界へと進むケースで、後者は現職に必要な専門知識や能力を得るケースだ。ITエンジニアが別業界・別職種を目指すなら前者、システムやビジネスモデルの方法論やセキュリティといった特殊分野を深く研究してキャリアアップを図るなら後者となるだろう。

 実際に大学院を通じて人生を変えた人として、どんな例があるのかを中原氏に聞いた。「あるITエンジニア経験者は大学院卒業後、研究した思考法を生かして有名企業のコンサルタントとなり、別の公務員経験者は大学院で専門知識を学んで臨床心理の専門家になりました。いろいろなケースがあります」

 まさに十人十色だが、社会人大学院を経由すると人生に何らかの変化が訪れるのは確かだろう。そうなると大学院とは未知の世界に飛び込むようなイメージがある。「清水の舞台から飛び降りるようなイメージがありますね。大学院に進むかどうかを考えるなら、自分の10年後や20年後を想像してみるといいですよ」と中原氏はいう。

 自分は10年後、20年後、何をしているだろうか。どんな分野の業界で、どんな仕事をしているだろうか。例えば「部を率いる立場になりたい」「○○の技術を究めたい」などの希望が浮かんでくるだろう。その希望をかなえるには何が必要か。大学院で学ぶことがそれに役立つなら、大学院を目指してもいいだろう。

 「大学院で行う研究といっても、社会人を経験しているならそんなに難しくはないはずです。ITエンジニアも技術動向を調査したり、顧客のシステムを提案したりしていますよね。こうした仕事と研究は意外と類似点が多いのです」と中原氏。

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ITエンジニアに効く、大学院選択のポイント

 では、大学院入学を考えたとき、どのような点に気を付けて学校を選択すればいいのだろうか。具体的に見ていこう。

 まず大学院で学ぶ課程だが、学士卒なら次は修士となり、修士課程なら一般的に2年かかる。しかし学校によっては1年で済ませられる場合もある。実際には成績次第でもあるが、1年での修了が可能かどうかだけはチェックしておくといいだろう。

 重要な問題として学費のことがある。入学金と授業料は各大学のWebサイトを見れば分かるが、中原氏は「社会人向けに減額制度があるか、分納が可能か、奨学金制度があるか、教育訓練給付制度があるかは調べておいた方がいいでしょう。社会人向けにこうした制度が充実しているかどうかで、大学が社会人学生に対してどれだけ熱意があるかが分かります」と指摘する。

 教育訓練給付制度とは雇用保険の給付制度で、一般被保険者が厚生労働大臣の指定する教育訓練を受講し、無事に修了すれば教育訓練施設に払った金額の一部をハローワークから支給するものである。大学によってはこの制度の対象となる講座もある。

 「まずはWebサイトで下調べをして、実際に大学に足を運んでみるといいですよ。説明会があれば、まずはそこから始めるといいでしょう」と、中原氏は大学の説明会を足掛かりにすることを強く推薦する。加えてこう指摘する。「意外とこの下調べをおろそかにする人が多いです。少なくとも自分が目指す研究室の指導教員は誰か、どんな研究をしているかは把握しておくべきでしょう」

 大学院の受験は転職活動に似たところがあるようだ。たとえ就学期間が数年であろうとも、その間は多くの時間を研究に費やすことになり、その後の人生に大きな影響を与える。転職先の企業を調べるように、大学や指導教官についてもよく調べておくことが大事だ。

 また、受験対策の重要なポイントとして、応募時に提出する「研究計画は他人に読んでもらうこと。研究では専門的なことを誰にでも分かるように説明しなくてはなりませんから」と中原氏はいう。

大学院で得た人脈は一生の宝

 さらに余裕があるなら、研究室に足を運ぶようにと中原氏は勧める。「機会があれば研究室に行き、教官と話をしてみるといいでしょう。研究室の学生とも話をしてみてください。過去問など有効な試験対策や、教官の人柄などが分かります。また研究室の先輩は自分の数年後の姿と思ってください。先輩の研究内容や進路をよく聞いておくと、将来のイメージがつかめます。

 意外に大事なのが環境面です。文系の研究室だと研究室が狭い場合があります。学生用のロッカーがあるかないかで、通学時の荷物量が違いますよ」と中原氏はアドバイスする。

 Webサイトである程度目星をつけたら、実際に学校に足を運び、自分がそこで研究する姿を想像して周囲を見渡してみるといいようだ。最寄り駅から近いかどうか、図書館の使い勝手はどうか、研究室の雰囲気はどうか。就職活動ではここまで自由に先方を訪問することはできないが、大学院ならある程度は可能だ。希望の大学院を自分の足で訪問し、自分の目で見てみれば、その大学院に進むべきかどうか、おのずと気持ちが固まってくるのではないだろうか。

 最後に中原氏は、大学院で学ぶ最大のメリットを「そこで得られる人脈でしょうね。一生の宝になると思います」と語った。

 大学院の研究を通じて得られるものは思考力、洞察力、価値観、人脈など、どれも有形ではないが、本人の気概や努力次第でいくらでも価値のあるものになりそうだ。もし社会人大学院に興味があるなら、まずは大学に目星をつけ、説明会に足を運ぶことから始めてみよう。

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提供:金沢工業大学大学院
情報セキュリティ大学院大学
産業技術大学院大学

企画:アイティメディア営業本部
制作:@IT自分戦略研究所編集部
掲載内容有効期限:2007年10月31日

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