「提供できないのは経験だけ」 |
常に新しい潮流をウオッチし、勉強を続けていないと、たちまち時代に取り残されてしまうIT業界。しかしながら、独学で身につけられるスキルやノウハウには限界がある。もう一度、専門教育をきちんと受けるというのはどうだろうか。産業技術大学院大学は、IT業界に携わる向学意欲の高い社会人に幅広く門戸を開いている。その特色は、業務遂行能力習得を目的としたプロジェクトベース型の教育だ。 |
勉強し続けなければ、生き残れないIT業界 |
現状維持は、実質的に後退を意味する。これは、IT業界に身を置く者にとって普遍的な実感ではないだろうか。カバーすべきテクノロジ領域は幅広く、新しい潮流が次から次へと現れる。それらの中には泡のように消えるものもあれば、やがて本流となって時代を塗りかえてしまうものもある。常に流れを追いかけ、これはと思うものについて深掘りしていかなければ、たちまち時代に取り残されてしまう。
しかし、独学で身につけられるスキルやノウハウには限界がある。熱心に技術セミナーや見本市に出かけても、いくら書籍をむさぼり読んでも、「埋めきれない穴」を感じている人は多いはずだ。
このあたりでもう一度、専門教育をきちんと受けるというのはどうだろうか。昨今は、大学や大学院といった最高学府機関が社会人向けに本格的な教育カリキュラムを提供するケースが増えている。なかでも、IT業界に携わる向学意欲の高い社会人に広く門戸を開いているのが、産業技術大学院大学だ。同学には、社会人が夜間に通うことのできる情報アーキテクチャ専攻が設置されている。
必要なコンピテンシーを習得するための「PBL」 |
学長の石島辰太郎氏は、産業技術大学院大学のコンセプトを次のように語る。
「本学は、専門的知識と体系化された技術ノウハウを活用して、新たな価値を創造し、産業の活性化に資する意欲と能力を持つ高度専門技術者の育成を目的に、2006年4月に開学された新しい大学院です。これからの高度専門教育のあり方を徹底的に追求して創設しました。そのため、教育理念も教育手法も、従来の大学や大学院とは一線を画しています」
石島氏が語る教育理念や教育手法とはどのようなものか。情報アーキテクチャ専攻では、マネジメント能力を備えた高度なIT技術者である「情報アーキテクト」の育成を目標としている。そこには必ず求められる業務遂行能力(コンピテンシー)がある。産業技術大学院大学では、それを「3つのメタコンピテンシー」と「7つのコアコンピテンシー」として整理し、これらのコンピテンシーが2年間の教育を通じてもれなく強化されるよう、全体のカリキュラムが設計されている。
それぞれのコンピテンシーは以下の通り。
産業技術大学院大学 学長 石島辰太郎氏 |
「3つのメタコンピテンシー」
- コミュニケーション能力
- 継続的学習と研究の能力
- チーム活動
「7つのコアコンピテンシー」
- 革新的概念、アイデアの発想力
- 社会的視点およびマーケット視点
- ニーズ分析力
- モデリングとシステム提案
- マネジメント力
- ネゴシエーション力
- ドキュメンテーション力
これらのコンピテンシーを実践的に身につけるため、産業技術大学院大学が採用しているのが、PBL(Project Based Learning=問題解決型学習)だ。複数の学習者が協力し、明確な目標を掲げて1つのプロジェクトを完成させていくことで、IT業界で真に役立つスキルやノウハウを身につける。2007年度に行われたテーマは、「東京都港湾局の業務改革提案」「産業技術大学院大学における情報セキュリティポリシーの策定プロジェクト」など。机上の空論ではなく、地に足のついたテーマ選びが特徴だ。しかも、同学では学生が5名程度のグループに分かれ、そのグループそれぞれに対して3名の指導者がつく。ぜいたくな学習環境といえるだろう。
「そうしたところが、結果として何か身につくかもしれないというだけのOJT(On the Job Training=職場内教育)とはまったく違う点です。まずゴールを掲げ、そこに至るに必要な道筋を明確に示しました。正直、カリキュラム設計は楽ではありません。しかし、教育成果を確かなものにするには、この方法が最善だという結論に至りました。本学には、この趣旨に賛同し、新しい高度専門教育の実践に燃える教授が集結しています」(石島氏)
高度なIT人材に求められるスキルをカバー |
産業技術大学院大学では、2008年度向けに設計した新カリキュラムを対象に、ITスキル標準(ITSS)ver.2で定義された知識項目との対応関係を調査した。情報アーキテクチャ専攻を履修した後の進路として、ソフトウェアデベロッパー、アプリケーションスペシャリスト、ITスペシャリスト、プロジェクトマネージャ、ITアーキテクト、コンサルタントなどの職種が想定できるが、それらの職種に求められるスキルを同学の提供するカリキュラムがどのくらいカバーしているかを探るためだ。その結果を示したのが図1である。一部、学外での補足が必要な職種もあるが、全体としては高いスキル充足率を示しているといえる。
図1 職種ごとのスキル充足率(産業技術大学院大学全体) ※クリックで拡大 |
実際、産業技術大学院大学の学生は、卒業後にどのような道へ進むのだろうか。今年、産業技術大学院大学は、情報アーキテクチャ専攻で初めて卒業生を送り出している。全員で42名。そのうち、5名が大学卒業後に産業技術大学院大学に入学した新卒者で、37名が既卒者だ。既卒者のうち30名は、そのまま所属する企業内でキャリアアップする道を選んでいる。新卒者4名は就職、既卒者4名は転職した。新卒者の就職先はいずれもIT業界。既卒者については、中堅ベンダから大手ベンダに転職した人、ユーザー企業からベンダ企業に転職した人、特殊法人職員から情報系コンサルタントになった人など、いずれも劇的な転身を遂げている。このほか、新卒者1名は非営利団体へ進み、新卒者1名と既卒者3名は、条件の合う職種を求めて現在求職活動中だという。社会人が再び学習を志す動機はさまざまで、彼らの進路がそのまま教育の成否を物語るものではないが、少なくとも、その先の職業選択肢が大きく開かれることは確かだろう。
産業技術大学院大学は、2年間の履修期間ばかりでなく、卒業生に対して配慮を手厚くケアするという点でも特徴がある。例えば、卒業してから10年間、履修した授業に対してビデオという形で繰り返しアクセスすることができる。また、同じ期間、情報系書籍が幅広く網羅された図書館も利用でき、卒業生として電子メールのアドレスを持つこともできる。
さらに、社会人大学院ならではの特徴として、何かの分野でコアコンピタンスを持つ卒業生が、同学の認定講師になる制度が存在する。学内審査が必要ではあるが、現在、1期生のうちの数名が申請しているという。
年齢もバックボーンも異なる仲間が財産 |
小川嘉孝氏
産業技術大学院大学産業技術研究科情報アーキテクチャ専攻 2年 小川嘉孝氏はこれまで、いくつかの非情報系企業のユーザー部門で、システムアドミニストレータの役割を担ってきた。しかし、そのスキルやノウハウは独学で身につけたものであり、それらがいつまで通用するか、常に不安な気持ちにとらわれていたという。そんなとき、@IT自分戦略研究所に掲載された記事を見て、産業技術大学院大学の存在を知った。実は、もう1つ検討した大学院があったが、産業技術大学院大学の方が情報分野全般を幅広く学べることと、授業料が年額52万800円と財布にやさしかったことから、同学を選択した。
同級生の阿部聡氏は、SIベンダーの共通技術部門で、共通技術の確立や標準化推進といった業務にかかわるエンジニアだ。システム開発に従事する傍ら、必要と思われる勉強をしてはいたものの、専門分野を離れると十分な知識を持っていないとあるとき気付いた。もう少し幅広く勉強したいと思っていたところへ、会社の勧めもあり、同学に入学した。
1年次はIT基礎科目群、システム開発系科目群、エンタープライズ系科目群、マネジメント系科目群などの中から、履修単位を満たすよう科目を選択し授業に出席する。平日の夜と土曜日は、ほぼ大学にいるという日々。仕事との両立は正直、大変だ。しかし、苦労をするだけの価値があると2人は声をそろえる。
「1年次も、教授の話を聞くだけの単純な座学じゃないんですよ。ドキュメントを書いて、レポートを提出して、それをみんなの前で発表して、質疑を受ける。カリキュラム上では2年目にPBLがスタートすることになっていますが、1年目からそんな感じなんです。ここでは、自主的に学んでいるという実感を心ゆくまで味わえます」(小川氏)
阿部聡氏
「年齢もバックボーンもまったく異なりながら、ITにかかわる社会人が集まっていて、さまざまな視点からの意見をぶつけあえるのが貴重だと思います。業務ではどうしても開発系の人間だけで世界を閉じがちなので、議論をするたびに、『ああ、そういう見方もあったのか』と、視野が広がります。しかも、会社に帰ればお互い競合関係だったり、発注者と受注者の関係だったりするのに、ここでは純粋に同級生。こういう多彩な仲間を得たのは大きいと思っています」(阿部氏)
実は、2人は2007年12月に発足した、産業技術大学院大学学生会の会長と副会長も務めている。すでに卒業した1期生と連携しながら、同学を中心とする人脈ネットワークづくりに尽力していく予定だという。
2人は、未来の後輩へのメッセージとして次のように語った。
「社会人にとっての高度専門教育とは、結局『なりたい自分になる』ためのものだと思います。まだ自分が何になりたいのか分からない人は、まずここへ来ることからスタートしてみてもいいのではないのでしょうか。道はきっと見つかります」(小川氏)
「忙しく仕事をしていると、どうしてもeラーニングなどですませてしまいがちです。しかし、それだけだと、どうしても小手先の技術に頼りがちで、視野が狭くなります。一度、体系づけられた集合教育で学ぶと、その後に学習を続けていくときにも、計画や実行がやりやすくなると思いますよ」(阿部氏)
産業技術大学院大学では、2009年度の大学院説明会を行う。事前申込は不要なので、まずは説明会に足を運ぶことから始めてみてはどうだろうか。
提供:産業技術大学院大学
企画:アイティメディア営業本部
制作:@IT自分戦略研究所編集部
掲載内容有効期限:2009年2月25日
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