IT人材が足りない! |
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IT人材の不足が叫ばれて久しい。労働環境が悪いというイメージや現場の不満が、人材不足に拍車を掛けている。
こうした状況の中で、企業の人材育成部門は多くの課題に向き合わなければならない。労働環境の問題はそんな課題の1つだ。
現在の日本のIT人材を取り巻いている課題とはどんなものなのか。そして、企業の人材育成部門はそれらの課題をどのように解決していけばよいのか。東京大学名誉教授、多摩美術大学教授を歴任し、現在はサイバー大学 IT総合学部の学部長である石田晴久氏と、IT関連資格・認定を行っているCompTIA本部 Vice President 兼 CompTIA日本支局支局長・専務理事 岸田正寿氏の対談を通じて、IT人材育成の現状と課題について考えてみたい。
IT業界の「根本」を変えることが必要 | |||
岸田氏 私がCompTIAを始めた8年くらい前から比べると、日本国内のIT人材の不足が懸念されています。石田先生は、IT業界の人材育成に関する課題をどのように考えておられますか。
学部長 石田晴久氏
石田氏 IT人材の不足は今に始まったことではなく、以前から続いている問題です。学生を含め、今後ICT業界に就こうとする人材が減少してしまっている1つの理由は、IT分野があまり待遇の良い職場と思われていないということです。改善のための施策がうまくいかない。その根底には、仕事を発注する側の問題があると私は考えています。システム開発案件を発注する側は大手企業に依頼するものの、実際の開発を担うのは中小企業という「下請け、孫請け構造」が問題なのです。発注側が、中小の企業でも実力やスキルのあるところに直接仕事を依頼するよう、流れを変えることが必要です。しかし、発注側に十分な知識がないため適切な発注ができない。
この構造の改善はとても難しい取り組みです。10年以上続いているこの構造はすぐに変わるものではありません。改善のための第一歩としては、発注側が規模にかかわらず、実力のある企業に仕事を依頼できるだけのITスキルを高め、十分な知識を持つことが必要です。諸外国との取引を試みることも1つの手でしょう。仕様書の書き方を例に挙げます。日本では仕様書をあいまいにしておいて、もし問題が発生したら協議の上で対処するのが慣習となっています。しかし、外国とのビジネスでは通用しません。仕様書に書かれていないことは一切やらないのが彼らのルール。オプションとされ、大幅なコスト高になってしまいます。
また、単に開発を海外にアウトソースするのと異なり、他国の優秀な人材を社員に迎え入れると、待遇改善を強く求めてくる可能性が考えられます。スキルを持っている人は高い待遇を要求します。それに合わせて、日本人も待遇の改善を求めてくるでしょう。刺激を与えるという意味でも、他国の人材を登用することで、IT業界の活性化には良い方向に働くと思います。
岸田氏 ところで、日本では人材不足が問題ですが、韓国はそうではありません。年間5万人をエンジニアとして日本や米国など海外市場に送り出す、という方針を打ち出すほど、優秀なIT人材が豊富な状況です。彼らに、日本で活躍できる場を提供することで、日本国内のIT業界を盛り上げるというのも1つの手ですね。
石田氏 そうなってくると、日本人が他国の人材と一緒に仕事をする際に、CompTIA認定資格のように世界共通で通用し、レベルを確実に保証する資格は大いに生きてくるでしょう。十分なコミュニケーション・スキルも不可欠となってきます。
学生のえり好みと企業の平等主義の双方が問題 | |||
CompTIA日本支局支局長・専務理事
岸田正寿氏
岸田氏 韓国の学生は日本の学生に比べて非常によく勉強しています。ITの企業への就職希望者であれば、4年制の大学を出た後で、さらに2〜3年制のIT系の専門学校で学ぶ学生が多い。それだけの教育を受けた人材ですら就職できないのが現状のようです。
石田氏 韓国の専門学校は、日本で考えられている専門学校と位置付けが違うわけですね。
岸田氏 はい。韓国の場合、新入社員を企業が一から教育することはあまりありません。その分、専門学校が職業訓練の場として考えられています。入社時にはすでにある程度の実務ができることを求められるため、大学卒業後、修士、博士課程と進む学生もいますが、その後、さらに専門学校に進んでから就職、という学生が当たり前のようにいます。兵役もあるので、30代の新卒も珍しくありません。
石田氏 日本では企業が大学院卒の学生をあまり歓迎していないという傾向もあります。大学院の教育が、企業の実務からすると中途半端なためです。
ただ、日本の大学院生の意識にも問題があります。自分の学生時代の専攻以外のことはやりたがらない。そうした考えは企業からはわがままに映ります。会社に入ったら、与えられた仕事を一生懸命にやるということも必要ですよね。この辺りが、あまり良い循環になっていません。企業の側も、まだまだ年功序列などの平等主義が残り、本当に能力のある人が、若いという理由だけで高い待遇が与えられないこともあります。このため日本の社会では個人の能力が十分に生かされません。ただ、ベンチャー企業の台頭や、先ほどお話しした諸外国からの人材登用によって、日本人の意識が変わっていけばいいなとは思います。
日本人はイメージやブランドに弱い | |||
岸田氏 今後は大企業も今以上に人材が足りなくなることが懸念されます。人事面、待遇面にどのようなことを求めることが必要だとお考えですか。
石田氏 明治時代は、外国の技術者を破格の待遇で雇い入れていたようです。今の日本も優れた人材を破格の待遇で迎え入れるくらいのことをすればいい。本当に能力のある人は、仕事の効率が10倍違うこともあるので、それなら10倍の給料を払っていい。ただ、日本は自国だけで変わることは難しいかもしれません。日本での海外人材の登用や日本人の海外での活躍があってこそ、さまざまなスキルが磨かれていき、業界が成熟していくのだと思います。明治維新もペリーによる外圧が始まりでした。
岸田氏 今の状況は鎖国と同じです。外資系企業の参入が進んでいるのは、金融分野と小売業の企業です。他の業種は拒んでいるが、気が付けば日本企業といえども資本は外資という状況になってしまうでしょう。
石田氏 起業も少なくなってしまいました。ベンチャーが社会的に評価されないことも原因の1つです。日本は小さい企業をあまり信用しません。それなのに、シリコンバレーのベンチャーの製品は購入します。イメージやブランドに弱いのです。社会全体の意識が変わらないことには、人の待遇は変わらないでしょう。この状況を破るには、海外との交流を深めることが大事になってくるでしょう。その意味でも、海外で通用する資格として、CompTIA認定資格は強い武器になると思います。
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CompTIAは8月29日に、「CompTIA Breakaway Japan 2008」と題したイベントを開催する。人材育成について検討し、人材の活性化を目的としている。今回初めて日本で開催することとなった「CompTIA Breakaway」は、米国CompTIAでは、毎年大規模なイベントとして開催され、今年で24回目を数える。ITスキルのみならず、コミュニケーション・スキルやプロジェクトマネジメント・スキルにもフォーカスしている。認定資格の体験ができる模擬試験コーナーや、企業人材のモチベーション向上に関するパネルディスカッションも行う予定だ。また、上記の対談の全容も、イベント当日に会場で配布されるパンフレットで読むことができる。
企業で人材育成について悩んでいる担当者や、部下のマネジメントに困っているマネージャは、足を運んでみるといいだろう。課題解決のヒントが見つかるかもしれない。
※本記事は、CompTIA Breakaway Japan 2008のパンフレット記事を、許諾を得て 再構成したものです。 |
提供:CompTIA 日本支局
企画:アイティメディア営業本部
制作:@IT自分戦略研究所編集部
掲載内容有効期限:2008年8月27日
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