基調講演を務めたのはスキルスタンダード研究所の高橋秀典氏。30代のエンジニアが考えるべき今後のキャリアプランとその具体的な実現方法を解説した。セミナーの後半に実施した公開インタビューでは、Red Hat認定資格の保有者に、キャリアと資格の実務的なかかわりを聞いた。
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■企業視点と自分視点でキャリアデザインをしよう
スキルスタンダード研究所 代表取締役 高橋秀典氏 |
基調講演では、数々の資格試験制度の確立・普及に尽力し、2006年に「IPA賞人材育成部門」を受賞したスキルスタンダード研究所 代表取締役の高橋秀典氏が壇上に立った。高橋氏は現在、人材育成コンサルティングを営んでおり、「キャリアデザインについて考えるには、企業側・ITエンジニア側両方の視点を持つことが必要です」と述べた。
企業側からいえば、社員のスキルアップに投資するのは、自らの組織力を強化するためだ。「こういうサービスができる組織でありたい」というニーズがあり、その目的に基づいた人材育成プランを立てる。
一方、ITエンジニア側は、企業側の戦略を理解した上で「自分の現在位置」と「将来像(目的)」を明確にすることが求められる。ところが案外、この2つを明確にできていないITエンジニアが多いようだ。その際に指標として有効なのが、経済産業省が定めた「ITスキルスタンダード Ver.3」(以下、ITSS V3)だ。
■ITSS V3を使えば自分の職種とレベル感が確認できる
もともとITSSは、中国・インドなど迫り来るアジアの経済的な脅威に対し、国が「国際競争力を付ける人材育成」を目的に定めたスキル/キャリアのフレームワークだ。諸外国は、IT力の向上が経済力を担うとし、国策としてIT人材の強化に当たっている。このITSSも、国際競争力のある高度なITスキルを持つ人材育成に向けた枠組みであり、IT人材の職種を11職種に分解し、それぞれの能力に応じてレベル1〜7でクラス分けしたものだ(図1)。スキル体系は、「新入社員レベルから、独力ですべての仕事をこなし、指導もできる」というレベル1〜3と、より「実務経験重視」のレベル4〜7と大きく2つに分けられる。30代前後はまさにこのレベル3〜4の間に位置することが多い。
図1 ITSS V3キャリアフレームワーク(出典:ITスキル標準ユーザー協会) ※クリックで拡大 |
レベルを客観的に評価する指標として、ITSS V3では、情報処理技術者試験制度とのマッチングを強化した。このため、ITSS V3を自社の人材育成プログラムに採用しようという企業が増加しているのだ。レベル4以上は、実務や実績重視ではあるが、やはりこれらの資格試験に通っているかどうかも大きな判断基準となる。
レベル判断の基準になっているのは、情報処理技術者試験だけではない。ITSSのユーザーが集まって活動している「特定非営利活動法人 スキル標準ユーザー協会」でも、各ベンダ資格試験とITSSのレベルについてマッピングを行っている。例えばLinux分野であれば、世界・国内でシェアトップのRed Hat認定資格は、図2のようにマッピングされる。キャリアデザインの手段として、ITSS V3ならびに資格取得が非常に有効なのは、このためだ。
図2 ISV資格のマッピング。画像をクリックすると、「ITSSのキャリアフレームワークと認定試験・資格とのマップ(Ver3)」(PDF)にリンクへ飛びます。(出典:ITスキル標準ユーザー協会) |
自分の立ち位置と目標が決まれば、キャリアデザインも具体化してくる。一段上のレベルに上がるために、資格取得を目指すのも一手だ。高橋氏は「一般に、職位が上がるほど、ヒューマニティやコミュニケーション能力が求められる『コンピテンシー』(自分の置かれている状況を把握し、相手の期待を把握し、それに応える能力)の熟達が必要になりますが、それにはまず専門能力を付けなければなりません」と語る。また「現在の専門能力のレベルがどれくらいあり、何を目標とするのか考えるのは、ほかならぬ自分自身。その手段として、ITSS V3を使いながら、RHCEのような資格取得を目指してほしい」として講演を締めくくった。
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■他言厳禁! これがRHCE試験の内容だ
本セミナーでは、資格保持者にノウハウを聞く公開インタビューも行った。壇上に招かれたのは、日本IBM アドバンスト・テクノロジー・センター Linux/OSSサポートセンター アドバイザリーITスペシャリストの新井真一郎氏、エクシード 取締役 システム技術部部長の千葉則行氏、レッドハットでシニアインストラクターを務める川崎達夫氏の3人。彼らがRed Hat資格について、試験内容・実務への応用やキャリアとのかかわりを語った。
――RHCE(Red Hat Certified Engineer:以下、RHCE)とはどのようなものですか。
レッドハット シニアインストラクター 川崎達夫氏 |
川崎氏 1999年より始まったレッドハット社のLinux技術認定資格で、国内外のメディアや調査機関から高評価をいただいております。現在世界120都市以上で試験を実施しており、ワールドワイドで7万人、日本国内では3500人以上がRHCEを取得しています。
――試験体系はどのようになっているのでしょうか。
川崎氏 体系としては、下から「エンジニア」「エキスパート」「スペシャリスト」「アーキテクト」という4段階に分かれ、それぞれのレベルをカバーする資格試験があります。エンジニア層に相当する資格は、「RHCT」(Red Hat Certified Technician)と「RHCE」(Red Hat Certified Engineer)です。なおRHCEは、RHCTを包含する上位資格ですが、RHCE受験に当たっては必ずしもRHCTを持っている必要はありません。ただし、上位のレベルになると話は違ってきます。アーキテクト、スペシャリストに必要となるエキスパート試験を受験するには、RHCE資格保持者であることが条件です。図3にあるように6つの専門領域が用意されています。さらに上の「スペシャリスト」には、「RHCSS」(認定セキュリティスペシャリスト)と「RHCDS」(認定データセンタースペシャリスト)という2つの体系があり、エキスパート認定の特定の3領域に合格する必要があります。5科目に合格すると、最上位の「RHCA」(Red Hat Certified Architect)に認定されます。
図3 Red Hat認定資格試験の体系 |
――RHCAは国内では5〜6人しかいない最難関資格で、川崎さんはその資格保有者の1人です。RHCE試験は非常に難易度が高いと伺っていますが、試験内容はどのようなものなのでしょう。
川崎氏 最大の特徴は、実技試験であるということです。Linux資格試験には、ほかにも特定非営利活動法人/Linux技術者認定機関(LPI)が認定する「LPIC」(Linux Professional Institute Certification)がありますが、LPICは選択式なので、LPICとRHCEを合わせれば、知識・技術力を総合的に証明できるでしょう。試験は午前・午後に分かれており、午前中は2時間半かけてトラブルシューティングを行います。午後は3時間かけて、与えられた要件に基づき、システム構築を行います。なお午前中は数問の「必須問題」が与えられ、1時間以内に全問正解しなければなりません。合格基準は、実技試験で、午前80%、午後70%以上であること。受験者には、米Red Hatから点数と合否の結果がメールで送られます。記憶を問うものではないので、オンラインマニュアルやヘルプを参照しても構いません。より実務に近い試験内容になっています。なお、試験時間・合格基準は、予告なく変更となる場合もありますので、最新の情報はWebサイトでご確認いただくか、メールでお問い合わせください。
■RHCE必勝のコツとは?
――実際に受験なさったおふたりにおうかがいします。試験はいかがでしたか? 合格の秘訣を教えてください。
千葉氏 やはり、いかに早く手を動かせるかがポイントになるでしょう。トラブルシューティングは、普段からLinuxに触れていないと、障害特定だけで思わぬ時間を消費することになります。
新井氏 わたしは受験直前に、レッドハットのトレーニングを4日間受けてから臨んだのですが、トレーニングで徹底してLinuxに触れたことが合格につながったと思います。自分でも、古いノートPCを初期化して、一からシステムを組む練習を積みました。
川崎氏 おっしゃるとおり、記憶に時間をかけるより、その部分はあえて捨て、徹底してLinux構築の実践を積むことが合格への近道ですね。手を動かすこと、反復することに尽きると思います。
エクシード 取締役 システム技術部部長 千葉則行氏(左)、日本IBM アドバンスト・テクノロジー・センター Linux/OSSサポートセンター アドバイザリーITスペシャリスト 新井真一郎氏(右) |
■Linux実務に携わるエンジニアこそRHCEを目指すべき
――RHCEの取得は、実務にどれくらい貢献していますか。
新井氏 わたしは現在、Linuxの技術支援要員としてさまざまなプロジェクトに参画していますが、ほとんどの案件はRed Hatです。製品知識を付けるためにRHCEへの挑戦は不可欠であり、それがより良いサービス提供へとつながっています。取得したのもそのためです。実際にわたしが所属している部門ではRHCE取得が事実上必須となっています。
千葉氏 RHCEは、お客さまへ技術力を証明する拠り所として大きな価値がありますし、信頼性も高くなります。また、わたしもRHCE試験前にレッドハットのトレーニングを受けたのですが、ここでは普段使わないコマンドなどについても実践的な解説があり、実務でも大きく役立っています。実技試験だからこそ、実務現場で応用できるのでしょう。一般的に「資格は実務で役に立たない」と言われますが、RHCEに関しては、Linux技術者であれば取得すべき資格なのではないでしょうか。
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以上、このレポートが将来を真剣に考えるアラサーエンジニアの一助となれば幸いである。
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提供:レッドハット株式会社
企画:アイティメディア営業本部
制作:@IT自分戦略研究室
掲載内容有効期限:2009年4月7日
主催 |
レッドハットはオープンソースのソリューションベンダとして、エンタープラ イズ市場向けのプラットフォーム製品であるRed Hat Enterprise LinuxやミドルウェアのJBossを提供します。またそれら製品に関するトレーニングやコンサル ティング、 サポートを展開しております。 オープンソースによる技術革新を行うお客様、 開発者(コントリビューター)、パートナー の橋渡しとなることが、レッドハットのミッションです。 ●Red Hat 世界標準 トレーニングコース Linuxおよびオープンソースソフトウェアにおける、最新のトレーニングと認定プログラムを提供します。 実機を一人一台以上用いた実戦的なトレーニングが特徴で、業務の即戦力となる「生きた知識」を身に付けることができます。 また、実機を用いた実技試験に合格することで本当の実力が証明されます。 |
プログラム |
13:30〜13:40(10分) 開演のご挨拶 レッドハット株式会社 代表取締役社長 廣川裕司 |
13:40〜14:30(50分) 【基調講演】 自己実現を目指すエンジニアのためのキャリアパスとITスキル エンジニアとして理想のキャリアプランを実現するには、社内の評価だけでなく、IT業界全体の中で自分のレベル感を把握する必要があります。自分に必要なスキルや資格は、業界全体における自分の立ち位置を俯瞰的に把握することで初めて可能になるのです。スキルスタンダード研究所 代表の高橋秀典氏が、あなたのIT業界での位置付けを把握する方法、キャリアプランの描き方、実際に必要なスキルや資格についてアドバイスします。 なお、本講演ではITSSのスキルマップを用います。ITSSのスキルマップとは、ベンダ/非ベンダのIT系資格を、「ITSSスキルフレームワーク」で業種とレベルごとにマッピングしたものです。資格と職種から、あなたのIT業界におけるいまのレベルが分かります。本講演に参加することで、ぜひ、次に学ぶべきスキルを持ち帰ってください。 1993年日本オラクル入社。研修ビジネス責任者としてオラクルマスター制度を確立させ、システム・エンジニア統括執行役員を経て2003年12月にITSSユーザー協会を設立。翌年7月にITSSやUISSを企業で活用するためのコンサルティングサービスを提供するスキルスタンダード研究所を設立。 関西電力、三菱UFJ証券、ファイザー、リクルート、アフラック、プロミス、エプソン販売などへのコンサルティングで成功へ導く。 ITSSやUISS策定などIT人材育成関係の委員会委員を歴任し、2006年5月にIPA賞人材育成部門受賞。 現在はUISS活用支援WG委員、ITSS推進委員。著書に「ITSS V2が分かる本」、「UISSガイドブック」など。
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14:30〜14:40(10分) 休憩 |
14:40〜15:30(50分) 【公開インタビュー】 Red Hat資格取得者に聞く“Red Hat資格の市場価値” Red Hatの資格試験の特徴は、実技試験にあります。知識の暗記ではなく、実際に“できるかどうか”が問われる資格試験なのです。 Red Hat資格で最もポピュラーなRHCE(Red Hat CertifiedEngineer)保持者(2人)と、Red Hat最高資格のRHCA(Red Hat Certified Architect)保持者であるRed Hat社のインストラクターを交え、パネルディスカッションを行います。 「挑戦の動機は?」「取得後はどんなメリットがあったか?」「難しかったか?」「最短で合格できる勉強方法は?」などなど、皆さんが聞きたいであろう質問を合格者に直接ぶつけます。 ・ パネリスト 保有資格: RedHat7.3、RHEL4のRHCE、 VMware Certified Professional on VI3、Citrix XenServer Enterprise Edition Administration 4.0 主な業務: Linuxおよびオープンソースソフトウェアのマルチプラットフォームセールスエンジニアを担当 保有資格: RHCE (RH7.3、RHEL4) 主な業務: エンジニアのマネージメント、及び主にOSSを使ったシステムの提案から設計・構築 。 20代のほぼすべてを物理学の研究に捧げていたが、30歳の時に突然Sierに就職。以来、Linuxエンジニアとして開発業務に従事。 主な業務:
研修部門に属し、Linuxの上位コース(クラスタリングやチューニング等)、開発者向けコース(カーネルやデバイスドライバ)の講師を担当。それ以前は、Unix/Linux用ソフトウェアの開発やシステム構築等を行っていた。 ・ モデレータ
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