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ものづくりは名人芸だけでは足りない
「日本の『ものづくり』にはアーキテクトが必要なんです」
産業技術大学院大学
産業技術研究科長
川田誠一教授
産業技術大学院大学 産業技術研究科長の川田誠一教授はそう語る。「感性と機能の統合デザイナーとしてイノベーションをもたらす『ものづくりアーキテクト』の育成」という目的を掲げて産業技術大学院大学 創造技術専攻は設立された。ものづくりアーキテクトとは果たしてどんな存在なのだろうか。
「アーキテクト」とはもともと建築家を指すが、IBMのジョン・A・ザックマン氏が1987年にエンタープライズ・アーキテクチャの元となった「ザックマン・フレームワーク」を提唱して以降、情報処理分野においてもアーキテクト(情報アーキテクト、ITアーキテクトなどと呼ばれる)の必要性が叫ばれるようになった。川田氏によれば、「それはものづくりの世界でも同じ」なのだという。
「情報産業も、ものづくり産業も、名人芸だけではだめなのです。顧客はどんなものを必要としているのか、対話しながら把握し、価値を提供できる人材が求められています」
機能とデザインを統括できるアーキテクトを
アップルのiPhoneを例に出そう。現代の優れた「ものづくり」は、優れた機能とデザインの両立によって実現する。iPhoneのユーザーインターフェイス・テクノロジーは、エンジニアによるものなのか、デザイナーによるものなのか、もはや判別不能である。それはつまり、双方のアプローチが高次元で融合しているということを意味する。
「エンジニアは機能のことを考えても、使いやすさは考えない傾向があります。でも、顧客が必要とするものには機能とデザインの両方が必要なのです」
もちろん、設計のスペシャリストやデザインのスペシャリストは必要で、必ずしもアーキテクトが両方の専門的な知識を持つ必要はない。だが、マーケティング、企画、デザイン、設計、そのすべてをある程度把握している人間がプロジェクトを統括しなければ、優れた「ものづくり」はできないのだ。産業技術大学院大学が提唱する「ものづくりアーキテクト」とは、そうした人材のことだ。
「ものづくりアーキテクトを育成するために、さまざまな分野の教授陣を取り揃えています。 優れた研究業績を持つエンジニアリング系の教授陣はもちろん 、デザイン畑の素晴らしい教授もいますし、ビジネスという観点からMOT(Management of Technology、技術経営)の教授もいます」
特にデザイン分野は、高速新幹線N700系の設計開発で知られる福田哲夫教授、トヨタで自動車の形状デザインに携わっていた小山登教授、大手家電メーカーで家電機器のデザインを担当していた國澤好衛教授など、実際の現場を知る実践的な教員がそろっている。
こうした教授陣が最大の魅力である、と川田教授は自信をのぞかせる。
千差万別な学生たち
社会人大学院として運営されている産業技術大学院大学。創造技術専攻は30代の社会人が中心だが、大学卒業後にそのまま入学してくる20代はもちろん、40代の学生もいる。授業ではグループワークの機会が多く、年齢差のあるチームがいくつも編成される。社会人学生からは「いろいろな人がいるので、居心地が良い」という感想が多いそうだ。
川田教授いわく、学生は実に千差万別である。携帯電話の端末を作っていたが、企画が通らないことに業を煮やし、デザイン面の提案力を身に付けるために入学した文系社会人。高校時代は理系の道に進み、大学で経済を学んだ後、専門学校でバイク作りに従事、自動車のサスペンションや制御システムを作りたいと大学院の門を叩いた若者。デザインについて学び直したいと入学してきた建築系の学校の先生。産業技術大学院大学のもう1つの専攻、情報アーキテクチャ専攻を修了後、さらに創造技術専攻に入学したエンジニア……。
「日本の大学では、社会人の『学び直し』は無理だと思っていました。アメリカだと結構あるんですがね。ところがこうして(大学院を)作ってみたら、毎年多くの方が入学したいと集まってくれる。日本には、ちゃんと学びたいと考えている社会人がたくさんいるのだな、と感じました」
デザインや経営を学びたいエンジニアから、工学を学びたい文系社会人まで幅広く受け入れ、文系と理系のブリッジとなるような人材を育成しようとする創造技術専攻。川田教授は求める学生像を次のように語る。
「何でもいいのです。具体的な形を持った『モノ』を作りたい、という思いを持った人であれば、誰でも歓迎します」
バックグラウンドの異なる人たちと、刺激を与え合う
「ものづくりに必要な技術やデザインに、以前から興味を持っていました。でも、学生時代に専攻したことを、日々の業務で扱うことがなかったので、学びの場を探していました。そんなときに見つけたのが創造技術専攻でした。技術やデザインのバックグラウンドを持っていないわたしでも、その2つの領域を同時に学ぶことができる、というのが入学したきっかけの1つです」
外資系企業で働く関森裕子さんは、産業技術大学院大学創造技術専攻に入学した理由についてそのように話す。
技術(工学)やデザイン(感性)に興味を持っていた関森さん。社会人としてそれらのバックグラウンドを持たない人間でも、どちらかに偏ることなく、両方を学べるところはないだろうか、と「学びの場」を探していたときに創造技術専攻に出合ったという。
創造技術専攻で学ぶ
関森裕子さん
技術だけを学べる大学院や、デザインだけを学べる大学院はあった。だが、その両方をバランスよく学べるのが、産業技術大学院大学創造技術専攻だったのだ。
この大学院に決めた理由はそれだけではない。関森さんにとって、「感性と機能の統合デザイナー」を養成するためのカリキュラムは最適だった。関森さんは「発想力を養いたい」という思いと、「発想を『思いつき』に留めず、形にして人に伝えるための手法を身に付けたい」という思いの両方を持っていた。前者は「感性を学べる」という点で、後者は「感性を機能と統合し、新しい価値を具体化するための手法を学べる」という点で、まさに創造技術専攻のカリキュラム内容と合致していたのだ。
ものづくりに大切なのは機能だけではない、と関森さんは語る。細かなスペックの差だけではなく、使い勝手やデザインを重視するユーザーも多い。「ものづくりアーキテクト」はその両方をブリッジする人材だ。関森さんの考えに、「ものづくりアーキテクト」の理念は合っていたようだ。
さらに、関森さんは「バックグラウンドの異なる人と一緒に勉強して、刺激を与え合いたかった」とも語る。川田教授が話すように、創造技術専攻は多種多様な学生を受け入れている。関森さんの大学院でのグループも、さまざまなバックグラウンドを持った人が集まっているという。家庭用品メーカーの開発担当、システムエンジニア、ゲームメーカーや自動車メーカーのデザイナー……。
異なるバックグラウンドを持った者同士が集まってグループ演習を行うため、課題の進め方に違いが出てくる。「既存商品のイノベーションを考える」という授業でプレゼンテーションを行う際に、最終成果物を作り上げるまでのプロセスや考え方が大きく異なっていたと関森さんは振り返る。
「ユーザー目線で最終成果物のイメージを持ってからプレゼン企画に落とし込む、というのがわたしのこれまでのやり方でした。でも、業種や職種、所属、経験の異なるメンバーが集まっているので、みんな自分なりのプレゼンへの落とし込み方をもっているんですよね。そんな中で1つの成果物を作り上げなければならないので、プロジェクトマネジメント力や交渉力が非常に問われる演習です。日々の業務でも必要な能力ですが、普段のアイデア出しや企画立案は同じ会社の人や近しい業種の人と行うので、バックグラウンドのまったく違う人たちとグループで取り組むことになる大学院での演習は、それらとは別次元の困難さが伴います。そこが醍醐味でもありますね」
「ユニークな発想」が受け入れられる場所
会社には正式に報告しているわけではないが、上司や先輩、同僚たちは彼女の大学院通いを応援してくれているという。関森さん自身も、大学院の同期を会社の事業部長に引き合わせて新しい事業を模索し始めるなど、単に「学んだことを生かす」だけではなく、さまざまな活動を始めている。
もちろん、18時30分からの講義はビジネスパーソンにとっては非常に厳しい。17時45分に仕事を終え、タクシーで大学院に向かい、平日は授業後に残務をこなしている。短くなった業務時間では通常業務をこなせないため、平日早朝、深夜、休日の時間を使って対応している。限られた時間の中で業務をこなす必要があるため、集中力が高まり、仕事の生産性が非常に上がったという。「大変だけど、面白いから続けられる」と関森さんは語る。
「社会人になって企業に勤めると、日々の業務の中だけでは新しい発想が出にくくなる気がします。仕事でアウトプットを求められる一方、業務以外で新しいことをインプットしていく機会が激減するため、アイデアが枯渇して伸び代がなくなるからだと思います。日々、引き出しを増やす努力をしなければ新しい発想は出て来づらい。その点、この大学院ではある課題に対するアイデア交換の場が提供され、『正しいか、正しくないか』ではなく『ユニークな発想』と認められ、とても楽しい。自由な発想を受け入れてもらえて、しかも同期や先生からフィードバックがもらえるこの環境は、わたしにとってとても大切なんです」
企画業務であれば、自由な発想は欠かせない。自由な発想はビジネスの現場ではなく、学びの場だからこそ伸ばすことができるのだろう。関森さんは大学院での経験を通じて、学んだ知識を生かし、企画を「カタチ」にできるようになりたいと考えているという。
創造技術専攻に向いているのはどんな人だろうか。関森さんは「アイデアを出し合うのが好きな人」や「刺激を求めている人」、さらに「自分と違う発想法を持った人が、『なぜそう考えたのか』を知りたい人」と答えた。それは関森さん自身のことでもあるのだろう。
「この大学院は、技術を専門的に身に付けに来る、というのとは少し違うかもしれません。専門性を身に付けるのではなく、それぞれの専門を持っている人が、自分の幅を広げるために来ている、というケースが多いと思います。ビジネスに直結する専門性を身に付けたいのなら、会計や法律の大学院なり、技術・情報系の大学院に行けばいい。産業技術大学院大学の利点は、さまざまな学生が集まって発想を出し合う環境が整っていることです。技術プラスアルファを求める人が集まっているからこそ、自分と『違う』人の発想法を知りたい人には最適です」
「ものづくりに携わりたい人」「幅を広げたい人」 「自分の発想を人に伝えたり、人に対してフィードバックを与えるのが好きな人」 ――これらのキーワードに少しでも興味を引かれた人は、ぜひ産業技術大学院大学の説明会に参加して欲しい。創造技術専攻はまだできたばかりの研究科だ。この「学びの場」をどう生かすかは、あなた次第である。
提供:産業技術大学院大学
企画:アイティメディア営業企画
制作:@IT自分戦略研究所 編集部
掲載内容有効期限:2010年2月5日
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