弁護士 伊藤雅浩
2009/12/24
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2008年3月、スルガ銀行が日本IBMに対し、勘定系システムの開発が完成しなかったことなどにより、約111億円の損害賠償請求訴訟が提起され、現在(2009年12月現在)も係争中です。この事件のように、社会的に注目を浴びるような事件だけでなく、システム開発の分野では、以下のような多くの紛争が生じています。
◆ ケース1(契約締結前に開発が停止してしまった場合) |
SIベンダXは、ユーザー企業Yに、システム開発を提案した。XYの担当者ベースでは、YがXに開発を委託することがほぼ合意されたが、契約書はかわしていなかった。Xは、Yが提示する納期に間に合わせるため、契約書をかわす前に開発作業を開始した。しかし、結局、開発の範囲や、仕様について最終合意に至らず、契約書がかわされることはなかった。Xは、Yに対し、投入した工数に相当する費用の支払を求めているが、Yはこれを拒否している。 |
◆ ケース2(システムが稼働しないまま開発作業が停止した場合) |
ユーザー企業Yは、SIベンダXに、システム開発を委託した。Yは、システム完成前に数回に分けて委託費用の一部を支払った。しかし、納期までにシステムは完成しなかったため、何度か期限が延長された。しかし、結局システムは完成しなかった。Yは契約を解除し、これまで支払った委託費用の返還と、損害賠償を請求した。 |
◆ ケース3(納品されたシステムに不具合があるとして契約解除された場合) |
SIベンダXは、ユーザー企業Yに、システムを納品し、委託費用を受領したが、Yはその後の運用テスト中に「不具合がある」としてシステムの改善作業をXに求めた。Xは、「それは仕様である」として対応しなかったため、Yは契約を解除し、支払った委託費用の返還と、損害賠償を請求した。 |
仮に訴訟になってしまうと、勝っても負けても大変な時間と工数、そして費用がかかります。また、企業の信用にも影響をきたしかねません。そのため、ユーザー、ベンダどちらにとってもできれば訴訟は回避したいものです。
しかし、紛争が避けられない事態というのも確かに存在します。そんな場合に備えて、以下に、事前に注意すべきことを記しておきます。
●作業開始前
作業を開始する前であれば、開発案件の事情、性質に応じた契約スキームを考え、そのスキームに沿った契約書を作成しておくことが重要です。
大規模プロジェクトでも、杜撰な契約書のまま(極端な例では契約書も作成しないまま)進められることがあります。
●開発作業中
開発作業中であれば、将来生じうる紛争を意識して、自社に課せられた義務を適切に履行していることを示すエビデンスを残しておくことが大切です。
紛争になった後で、自らの正当性を過去にさかのぼって主張しても「水掛け論」に終わってしまいます。
●トラブル発生後
トラブルが生じた後であれば、事業全体、会社全体のリスクを考慮したうえで、適切な紛争処理戦略の立案をおすすめします。
担当者としての思惑だけで動くと、会社の方針から外れていたり、法的に不適切な行動をとってしまう場合があります。
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提供:内田・鮫島法律事務所
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掲載内容有効期限:2010年6月23日
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