エンジニアから根強い人気があるUML資格「UMLモデリング技能認定試験」。モデリングの意義や、近年の試験動向について、認定試験事務局に話を聞いた。 |
開発の品質向上に役立つモデリング能力
あなたはもう受験しただろうか? @IT自分戦略研究所が2009年に実施した読者調査において、モデリング技能認定試験はベンダニュートラル資格「取得済み」でドットコムマスターに次いで2位(6.4%)、「今後取得を目指す」では4位(10.3%)とエンジニアにとって関心の高い試験だ。
この人気は、エンジニアにとってモデリング能力がいかに重要であるか、広く認識されている証拠といえるだろう。
図1 ベンダニュートラル資格取得状況 2009年11月5日から11月16日にかけて、@IT自分戦略研究所が行ったWebアンケートより抜粋 有効回答数764件 |
特定非営利活動法人 UMLモデリング推進協議会(UMTP)にて事務局長を務める小林正博氏は、次のように語る。
「モデリングはシステムや仕組みにおいて対象物を把握し、抽象化し、関係性を図で表す作業です。静的な関係、あるいは状態の遷移などをモデリングで把握し、理解できるようになれば、エンジニアはより品質の高いプログラムを作ることができます。メンテナンスもやりやすくなります。モデリング能力はエンジニアの業務に役立つ能力です」(小林氏)
特定非営利活動法人 UMLモデリング推進協議会 事務局長 小林正博氏 |
開発の現場を思い浮かべてみよう。ちょっとしたプログラムならいきなりコーディングに着手する場合もあるだろうが、ある程度の規模のシステムを開発するなら、システムを図で示し理解をチームで共有するだろう。開発の過程において日常的な姿でもあり、必要な行為でもある。図式化すること、これこそがモデリングである。
「モデリングのメリットは目に見えないシステムを視覚化することです。プログラマだけではなく、デザイナーやアナリストなど開発の関係者間で理解を共有することは大切なことです。そこにモデリングのデファクトスタンダードといえるUMLを使うことは有益です」(小林氏)
モデリングは開発プロジェクトにおけるコミュニケーションに重要な役割を果たす。特にオフショア開発の現場ではモデリングが重要性を増す。一般的にオフショア開発では言語の壁があるが、図で示すことによりコミュニケーションの円滑化が可能になる。
「当会ではオフショア開発向けUML適用ガイドラインを策定し公開しています。利用者からは『レビューの効率が高まった』『手戻りが減った』と好評です」(小林氏)
のべ受験者数2万5000人、レベルは3段階実施
モデリング能力は論理的思考を軸として図式化する能力であり、特定のプログラミング言語や製品に依存することがないので陳腐化する心配もない。モデリングのなかでもデファクトスタンダードとなるUMLをベースとした試験がUMLモデリング技能認定試験だ。冒頭に述べたように、エンジニアからの注目度は高い。
あらためてUMLモデリング技能認定試験とはどういうものか見てみよう。元はオージス総研が実施していたモデリング能力のための認定試験が母体であり、24万人の受験者により評価されてきた。2003年にUMTPが設立され、オージス総研の試験を引き継ぎ、よりパブリックなものとした。2004年の試験開始以来、2010年5月末までにのべ2万5000人が受験した。エンジニアが受験する試験としては有数の受験者数を持つ。
試験はエンジニアと企業双方にとってメリットがある。エンジニアにとってはモデリング能力のレベルを証明し、レベルアップの目標を明確にできるようになる。一方、企業は優れた人材の採用を助け、自社の技術レベルをアピールすることができる。なお試験はグローバルな資格となっているので、国外でも有効だ。
現時点では試験は難易度や対象者に合わせてL1からL3まで3段階実施されている。
L1は簡単なUMLモデルが理解できるレベルだ。UMLやオブジェクト指向開発の初歩的な知識、文章読解力、モデル読解力が求められる。○×の二択なので難易度はそれほど高くない。
L2ではL1を発展させ、より高度なモデル読解力が求められる。UMLやオブジェクト指向開発に関する知識のほか、ビジネスモデリングの基本的な知識も必要とされる。また、モデル作成能力、基本的な要求分析、システム分析・設計能力が評価される。
さらにL3になると、読解力だけではなく実践力が求められる。ビジネスモデリングまたは組み込みモデリング、アーキテクチャ設計、分析のための専門知識、抽象化・一般化能力、要求定義能力などを必要とする。
「L1は他人が描いたのを読める、L2では自分でも描ける、というイメージです。L3は実務経験があるプロフェッショナルレベルですね。L1なら書籍からの知識習得でも合格可能ですが、L3になると3年程度の実務経験が必要となるでしょう」(小林氏)
現在はさらに上位のL4実施について「調査中」である。あくまで調査段階ではあるが、L4では実務者を超えてリーダーや指導者を想定している。モデリングの高度な能力はもちろん、モデリングについて指導した経験を必要としたものになりそうだ。順調に進めば2年後に試験開始となる予定だ。
中国進出やモデ脳検定、モデリングは広がる
試験の受験者層は、L1〜L2は20代から30歳前後までの若手エンジニアが中心で、L3となるとシステム開発を数年から10年近く経験した中堅エンジニアが多いという。
新人研修に組み込む企業もある。新人研修で基礎的なUMLやオブジェクト指向開発を教え、最後にL1試験に挑む。
近年のトレンドについて、小林氏は次のように話す。
「受験者数は年々伸びています。ただし2010年は不況の影響から新卒採用がひかえられたので、その分、新人の受験者数は減りました。しかし一方で、合格一時金や受験費補助を出すなど、人事のスキル支援制度に組み入れられるケースが増えてきています。高レベルの試験を目指し受験するエンジニアは増えています」(小林氏)
特定非営利活動法人 スキル標準ユーザー協会はITSSキャリアフレームワークと各種試験の関係を公表しており、その中にUMLモデリング技能認定試験も含まれている。例えばUMTP L1はITSSキャリアフレームワークならITスペシャリストやソフトウェアデベロップメントのエントリーレベルのレベル1に相当するといった具合だ。いい目安となる。
さらに、当試験は日本国内だけのものではなくなりつつある。まず注目すべきは中国進出である。2010年からUMTPは中国ソフトウェア産業協会と提携し、日本のUMLモデリング技能認定試験を中国語に翻訳して中国で実施するようになった。
ただし、中国ではまだモデリングという概念自体が新しいので、受験者数は現状、それほど伸びていない。現段階では普及啓発に力を入れている。その最初の取り組みとして今秋、北京でUMLコンテストが実施される。コンテストを機会にUMLへの関心を高めていこうという狙いだ。数年後にはモデリング能力を持つ中国人エンジニアが増えるかもしれない。
もう1つ、モデリングはエンジニアだけの特殊な専門スキルではなくなるかもしれない。2009年からUMTP経営委員会が新しい企画として「モデ脳検定」事業を検討している。システムではなく、より一般的な事柄について情報を俯瞰(ふかん)するためにモデリングを適用しようというのだ。UMLはソフトウェア開発者を対象としているが、モデ脳検定は各分野の専門家、経営管理者、技術者、学生を対象にしている。
例えば「赤字国債」にモデリングを適用するとどうなるか。国や投資家が存在し、それぞれの関係を図で示すことになる。図式化されると、より理解や説明がしやすくなる。ほかにも「漁夫の利」をモデリングで示すこともできる。これならエンジニアでなくてもモデリングを学び、楽しむことができる。
モデリングは日常の事象から新しい知識や体験を理解し共有するのに役立つ。エンジニアの業務にも役立ち、長期的に自身を支えるスキルとなることだろう。
● 認定取得者の声(認定試験Webサイトから抜粋)
宮崎崇さん(ムトーアイテックス株式会社) オブジェクト指向で設計できるというのは、具体的にはどのようなことなのか。 自分が初めてオブジェクト指向を勉強したとき、これが分からず悩んだ記憶があります。大抵の書籍には「もの」がどうのこうのとか、オブジェクト指向の3大要素である「カプセル化」「継承」「ポリモーフィズム」について説明があったりするのですが、正直理解できませんでした。なぜ良いのか、理論が飛躍しすぎて分からない。 これは今から考えると当たり前です。当時はソフトウェア工学のソの字も知らず、もちろん、モジュールの凝集度・結合度、POA(プロセス中心アプローチ)やDOA(データ中心アプローチ)も知らなかったためです。 さて、前置きが非常に長くなってしまいましたが、L3に向けて勉強したことで得をしたことは、特に試験範囲であるGRASPパターンを勉強していく中で、「なぜオブジェクト指向が良いのか」という基礎(わたしが初めてオブジェクト指向を勉強していて分からなかった点)が理解できたということだと思います。個人的には基礎はとにかく重要であると考えています。基礎が理解できないと、応用が利かない(その前に理解できないと思う)し、設計時、判断に迷ったときに間違った決断をしてしまう危険性があると考えているためです。 |
N.Yさん(ジャパンシステム株式会社) わたしがL3の資格を取得したのは、L1やL2の資格を取得してからかなりたってからです。 L2を取得したあと、実際の仕事でUMLの知識を生かそうとしましたが、ドキュメントの一部に試しに使ってみる程度で終わっていて、もっと良い使い方はないものかと考えていました。 そんな折、ある仕事でUMLを利用しているプロジェクトに関わる機会があり、その中で実際にUMLの有用性を感じることができ、自分の中でも使い方の指針を持つことができました。そこで、もっとモデリングの知識を深めることで、仕事に生かせるヒントを得られないかと思い、その手始めにL3の資格を取得しようと考えました。 L3の認定資格試験は対策用の本などが特にないため、Webなどで推奨されているモデリング関係の本を使いました。また、試験に出題されるOCLについては知らなかったため、これも勉強しました。この勉強が合格にそれほど役に立ったというわけではありませんが、勉強を通してモデリングに関する考え方の幅が広がり、UMLについてより興味を持てたことが良かったと思っています。 モデリングについて興味を持ってL1、L2の資格取得で終わっているような方は、何かしら得られるものがあると思うので、機会があればL3にトライしてみてください。資格でモデリングのスキルが測れるわけではありませんが、L3まで取得して初めて意味のある資格だと思います。 |
提供:特定非営利活動法人 UMLモデリング推進協議会
企画:アイティメディア営業企画
制作:@IT自分戦略研究所 編集部
掲載内容有効期限:2010年10月31日
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