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マイクロソフトがラーニングパスを体系化

IT企業にとって、人材育成は“コスト”ではなく“投資”である

厳しい現状を生き抜くために、コスト削減の対象となる「人材育成費」。しかし、人材育成をコストとみなさず「投資」と見なせばどうだろう? 「投資した分だけの効果が生まれる」人材育成計画の立て方を紹介する。

 IT企業が陥っている「人材育成のジレンマ」

 IT企業において、“人”は最も重要な経営資源である。設備や在庫を持たないIT企業では、プログラムを書き、システム設計を行い、プロジェクトを統括するエンジニアたちが商品を生み出す。人をどのように育て、どのようにビジネスに生かすか。これが、IT企業の競争力を決めるといっても過言ではない。

マイクロソフト パートナー戦略本部
パートナーレディネスグループ
辻野三郎氏

 「人材育成で、付け焼刃の対応をするのは賢いやり方ではありません。人材育成は経営に直結するため、計画的かつ十分な『投資』をすべきです」――こう語るのは、マイクロソフト パートナー戦略本部の辻野三郎氏だ。

 だが、実際のところ教育費用は「投資」ではなく「コスト」と見なされ、圧縮傾向にある。独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が公開する『IT人材白書 2010』によれば、IT企業全体の22.2%が、昨年度と比較して研修費が「減る見込み」、47.8%が「ほとんど同じ」と回答している。多くの企業は、2009年に不況の煽りを受けてコスト削減を行ったが、その状況がそのまま続いているといえる。特に、圧縮傾向の動きは、中堅・大企業において顕著である。1000名以上の従業員を抱える大企業の実に半数近くが、今年度の教育費を減らす見込みであるという。

 一方、多くのIT企業が「質の高い人材育成」を切実に望んでいるのも事実だ。「ハイレベル人材の育成」(59.6%)「育成の仕組みや研修の充実化」(53.1%)など、人材育成に対する課題意識は非常に高い(『IT人材白書 2010』)。

図1 IT人材に関するIT企業の課題(IPA『IT人材白書 2010』より)

 教育費はそれほど掛けられないが、質の高い人材を育てたい――。IT企業の多くは、このようなジレンマを抱えている。

 では、どうすればいいのだろうか。教育費を増やせばいいのだろうか? いや、話はそう単純ではない。企業の未来を見据えて、戦略的に人材育成の計画を立てなければ、費用ばかりがふくらみ、再び「コスト削減」の対象になるだろう。

 「しかし、人材育成が十分でないIT企業は、遅かれ早かれ、間違いなく競争力を落としていくでしょう」と、辻野氏は忠告する。

 経営計画と人材育成計画は、別々ではなく一緒に考える

 ここでポイントとなるのが「投資対効果」である。人材育成の結果は、IT企業の経営状況に重大な影響を及ぼすものだ。費用に見合うだけの人材が十分に育てば、経営陣は教育を「コスト」ではなく未来への「投資」と見なすだろう。経営計画と人材育成計画は、別々に考えるのではなく、一緒に考えるべきなのである。

 もし、「今後は仮想化ソリューションに注力する」という計画があるのなら、「ビジネスを成功させるために必要な人材の役割は何か」「人数はどれくらい必要か」「スキルセットは何か」「取るべき資格は何か」と、ドリルダウンして考えていけばよい。「まずはこのカリキュラムを受講してもらう」「この資格を取らせる」といったような“その場しのぎ”の対応をするのではなく、事業計画と結び付いた人材育成計画を立てることが、ジレンマから抜け出す道となる。

 キーワードは「体系化」――人材育成計画の策定法

 では、どうすれば「事業計画と結びついた人材育成計画」を策定できるのだろうか。辻野氏は、キーワードとして「体系化」を挙げた。

 「体系化」とは、事業計画を達成するための「リソースプランニング」から、それを実現するための「研修・資格取得計画」までをカバーしている必要がある。マイクロソフトでは今冬、人材育成のための「ラーニングパス」モデルを抜本的に再整備した。以下、マイクロソフトの「ラーニングパス」を活用した「事業計画と結びついた人材育成計画」の策定法を紹介する。

(1)リソースプランニング

 まず、事業計画を達成するためには、どれぐらいのプロジェクト数を獲得しなければならないかを想定する。例えば、中規模案件を年間10件受注しなければならないとする。プロジェクト1件あたりで必要な人員構成とプロジェクト期間が想定できれば、どのような種類の要員を育成しなければならないかが見えてくる。 下記は、サーバ仮想化案件で必要な人員構成の目安である。

ロール
大規模案件
中規模案件
小規模案件
プロジェクト統括
 1名
 0名
 0名
プロジェクトマネージャ
 1名
 1名
 1名
プロジェクトオフィサー
 2名〜
 0名〜
 0名〜
プロジェクトリーダー
 1名〜
(X サブシステム分)
 プロジェクトマネージャと兼務
 プロジェクトマネージャと兼務
アーキテクト
 1名〜
※ ホストするプロダクトにも考慮
 SEと兼務
※ ホストするプロダクトにも考慮
SEと兼務
※ ホストするプロダクトにも考慮
SE
 2名〜
(X サブシステム分)
 1名〜
 1名〜
構築メンバー
 2名〜
(X サブシステム分)
※ 対象サーバ台数を考慮
 2名〜
※ 対象サーバ台数を考慮
 1名〜
※ 対象サーバ台数を考慮
※ SEとの兼務も検討

表1 案件あたりに必要な人員校正の目安(サーバ仮想化案件)

(2)役割ごとのスキルマップ

 次に、担当分野ごとのスキルマップを規定する。「スキルマップについては、ITSSを参考にして定義している」という。ITSSは、IT企業における人材育成の際に参考とされる基準であり、スキルマップを規定するのに使用しやすいと考えているためだ。

図2 マイクロソフトにおけるロールとITSSのマッピング

 スキルを作成するにあたって行うことは非常にシンプルだ。リソースプランニングで検討した担当分野を、該当するITSSのロールに翻訳するのみである。

(3)役割ごとの研修・資格取得計画

 それぞれに必要なITSSの職種が決まったら、職種ごとに規定された研修計画を、マイクロソフトが提案するラーニングパスを基に組み立てていく。

 ラーニングパスに記載されている研修や資格は、必ずしもすべて取得しなくてはならないというわけではない。自社要員のスキルと、ラーニングパスで求められているスキルのギャップを認識することが重要だ。そのうえで、事業計画に合わせて、段階的な受講計画・資格取得計画を立てればよい。

図3 ラーニングパスの再整備(仮想化 構築メンバー)
※クリックすると拡大します

 このように、同じ仮想化案件であれば、構築メンバーやSE、アーキテクトといったそれぞれの役割に必要なスキルとラーニングパスが一目で分かるようになっている。構築メンバーがSEになる際のキャリアパスも分かりやすい。

 「『マイクロソフトの研修体系は複雑』というイメージがあったかと思いますが、今回の再整備はそのイメージを払拭(ふっしょく)するものです」と辻野氏は自信をのぞかせる。

 体系的な人材育成を行う3つのメリット

 マイクロソフトが提供する「体系的な人材育成」を導入するメリットとして、辻野氏は3つの点を挙げた。

 まず、「投資対効果が分かりやすい」ことだ。

 「これまでの研修・資格体系では『どこまで研修費に投資すれば適切か』が曖昧でした。経営陣が、人材育成を過不足なく行いたいと思うのは当然です。事業計画を成功させるために必要なモデルを提示したことで、経営陣が投資のための最適値を見つけやすくなると思います」

 もう1つが、「極めて実践的」であること。「わたしたちが目指しているのは『この役割にはこのスキルが必要らしい』といった形式的なスキルマップではありません。」と、辻野氏は強調する。

 ラーニングパスは、すべてマイクロソフトの技術をベースに体系化している。すぐに現場のプロジェクトで使える技術・ノウハウを習得することになる。マイクロソフトの技術は、幅広いソリューションに対応しているため、ほとんどすべてのソリューション分野において、ラーニングパスを適用することが可能であるという。

 SI企業がクラウドビジネスを始めるときでも、ラーニングパスは有効だ。マイクロソフトのクラウド技術は、従来の技術とベースが同じだ。従来の技術を知っていれば、簡単にクラウドビジネスに必要な技術が修得できる。これが3つ目のメリットだ。「現在の技術者のスキルをそのまま生かしてクラウドビジネスへの展開を図れるのは、SI企業にとって大きな利点となるのでは」と、辻野氏は語る。

 今後の展開

 ラーニングパスは、2010年末から2011年3月にかけて、主要なソリューション分野のものを順次公開していく。それに併せて、同社が認定しているマイクロソフト ラーニング パートナー(Microsoft Certified Partner for Learning Solutions、以下Microsoft CPLS)が、体系に基づいたトレーニングを提供する。

 Microsoft CPLSには、各企業のビジネス形態やプロジェクトに合わせた適切なラーニングパスモデルを作る相談ができる。講師陣も優秀だ。

 「受講者アンケートでは、5点満点のうち平均4.5点が当たり前となっているくらい、受講者の満足度は高いようです。多くのMicrosoft CPLSは、ヒューマンスキル教育にも長けています。育成計画全体を相談する際は、非常に頼れる存在でしょう」と、辻野氏は語る。

 人材育成は「コスト」ではなく「投資」である。人材育成にどう取り組むかが、IT企業の未来を左右する。「お金はないけど、質の高い人材が欲しい」と悩むなら、注力すべきは目の前の講習計画ではない。これからの事業を見据えた「経営戦略とリンクした人材育成計画」なのである。

参考情報
Microsoft Learning
技術者育成に役立つ情報や、効率的な投資を支援するキャンペーン情報等を紹介する、総合ポータルサイト。記事で紹介されたラーニングパスも随時掲載予定。
※例として、以下のような情報を掲載している。ラーニングパスで作成した技術者育成計画を実行する際の情報源として活用可能。
ITスキル標準(ITSS)サイト
独立行政法人 情報処理推進機構のWebサイト。ITSS詳細の説明が記載。

 

提供:マイクロソフト株式会社
企画:アイティメディア営業企画
制作:@IT自分戦略研究所 編集部
掲載内容有効期限:2010年12月23日