実践型の講義で得た経験を実務で生かす
向上心の強いエンジニアこそ、大学院で学ぶ意味がある
「常に新しいことに挑戦したい」――向上心の高いエンジニアが選んだのは、大学院進学という道だった。実践型講義で得た経験と人とのつながりを生かして、研究職のマネージャに転身したエンジニアに話を聞いた。 |
キャリアアップやスキルアップを目指すエンジニアが進む道はさまざまある。資格取得や勉強会、新しい技術への挑戦や転職活動……方向性は人それぞれだが、彼らには共通点がある。それは、活動の原動力が「向上心」であるということだ。
遠藤博樹氏
ワークスアプリケーションズ アドバンスト・テクノロジー&エンジニアリング本部 技術基盤開発グループ マネジャーの遠藤博樹氏は、「常に新しいことを学び続けたい」という強い思いを持つエンジニアの1人だ。遠藤氏は、「新しいことに挑戦する気概のあるエンジニア、向上心があると自負しているエンジニアこそ、大学院で学ぶ意味があると思います」と語る。
遠藤氏は、2006年春に産業技術大学院大学 情報アーキテクチャ専攻に入学し、2008年に卒業した。大学院で研究したテーマの成果発表がきっかけで、ワークスアプリケーションズに転職、同社の研究開発を担う部門で職を得たという。現在は5名ほど所属するチームのマネージャを務めている。
常に新しいことへの挑戦を求める遠藤氏が、大学院進学を勧める理由は何か。「向上心のあるエンジニアに大学院進学を勧めるポイント」を語ってもらった。
新たな知的欲求を満たすために、大学院進学の道を選択 | ||
遠藤氏のエンジニアとしての経歴は、まさに「新しいものに挑戦」し続けたというにふさわしい。遠藤氏が、エンジニアとして仕事を始めたのは大学生時代。友人と立ち上げたメール広告配信サービスの学生ベンチャー企業で、技術を担当していた。2年ほどして学生ベンチャーを辞めてからはそのままフリーエンジニアとして活動を開始、大学を卒業してからも1〜2年ほどフリーで働いていたという。
2004年、遠藤氏は保険関連の会社に社内SEとして就職。インフラ環境が十分でなかったため、遠藤氏は2年ほどかけて環境をほぼゼロから整えた。「フリーエンジニア時代は、ここまで大規模なインフラ構築を手掛けたことがなかったので、楽しみながら勉強、楽しみながら仕事をしていました」と、当時を振り返る。
ところがある程度インフラ環境を整備してしまった2005年末ごろから、新しいことを学ぶ機会がぐっと少なくなった。「新しいことを学びたい」という志向の強い遠藤氏はここで「社会人大学院に行こう」と思い立ったという。
新しいことを学べる期待が先行し、悩みは忘れていた | ||
大学院探しは、少々難航した。会社勤めをしながら勉強するとなると、選択肢は限られてくる。「夜間」という条件で探すと選択肢はぐっと減る。さらに、私学で学費が高かったり、会社から遠かったりと、なかなか遠藤氏が望む条件に合致する大学院を見つけられなかった。そんなとき、「こんな大学があるらしいよ」と周囲に教えてもらったのが、産業技術大学院大学だった。夜間で通えること、授業料が安価であること、そして会社から非常に近かったこと――条件はすべてクリアしており、遠藤氏は「ここだ」と直感的に感じたという。
さらに、PBL(Project Based Learning:問題解決型学修)型の授業を取り入れていることも、遠藤氏にとっては魅力だった。大学院で勉強することで知識を「体系的に学べる」メリットがあると遠藤氏はいう。だが、方法論だけでは意味がないとも訴える。
「ただ技術を学ぶだけでは十分でないと思っています。学んだ技術を実際の業務に近い形で使ってこそ意味があります。産業技術大学院大学では、座学で知識を身に付けるだけでなく、実践を通して学べるという点で、非常に魅力的でした。」
遠藤氏は、「産業技術大学院大学1校だけを受験する」という1本勝負で、見事合格した。大学院に進学するに当たり、何か不安なことはなかったのかと尋ねると、遠藤氏はしばし考えた後「いや、それが全然なかったんですよね。ただ、新しいことを学べるという期待ばかりがあって、不安や悩みはありませんでした」と明るく笑った。
当時の会社は遠藤氏の進学に協力的だった。仕事と勉強を両立してやる環境は整っていたから、あとは自分が頑張ればいいだけ――遠藤氏はこう考えていたそうだ。新しいことへ常にチャレンジする遠藤氏らしい答えである。
ポイント1 新しいことを“体で覚えて”経験にできる | ||
2006年春、遠藤氏は産業技術大学院大学に入学した。同級生は約50人。年齢層は20代半ばから50代までと幅広く、さまざまなバックボーンをもつ社会人ばかりだった。
当時の生活について、遠藤氏は「とにかく課題の量がすごかった」と振り返る。講義のうち半分近くは実践型で、多くの講義で課題があった。加えて発表も多かったため、土日はひたすら「勉強、勉強、勉強」だったという。理論や方法論の講義であっても、ほぼすべての授業でグループワークなど手を動かす作業が組み込まれているため、「ただ先生の話を聞く」という受け身の授業はほとんどなかったそうだ。
遠藤氏が、このような実践型講義のメリットとして考えているのは、以下の2点だ。
まず、実際に手を動かすことによって、知識を“経験”に昇華できたこと。そして、さまざまな立場の人と対等に意見をぶつけ合うことができたこと。
一例として、遠藤氏は「情報アーキテクチャ特別演習」(現在は「情報アーキテクチャ特論V」)を挙げた。この講義では、「大学の事務をシステム化する」という共通課題を、5〜6人のチームごとにこなしていく。ヒアリングや要件定義を行い、設計書を作成することがゴールだ。この講義での議論は、非常に白熱したという。それぞれバックグラウンドも年齢も違う社会人が集まるから、「事務のシステム化」についても、非常にいろいろな見方が出てくる。ある程度、実践経験を積んでいる人から意見が上がる一方、理論重視の意見を主張する人もいる。「ここまで、いろいろな立場の人々と対等に議論をしたことは、これまでの実務経験ではありませんでした」と、遠藤氏は語る。
トラブルも多々あった。仕事が繁忙期に入った人の作業が遅延してしまい一部の人に負荷が偏ること、多様な人が集まるが故に意見がなかなかまとまらないことなど、プロジェクトは課題が山積していたという。だが、遠藤氏はこのトラブルを前向きに捉えている。実際のプロジェクトでも、このようなことは起こり得る。講義で事前に経験できたことで、実際の業務でこのようなことがあっても冷静に対応できると思う――そう遠藤氏は語る。
また、「プロジェクト管理特別演習」(現在は「プロジェクト管理特別講義」)では、「いまの業務で生かせる経験を得られた」という。講義では、ミッションを細かいタスクに分ける作業、シミュレーションソフトによる人員配置などを実践した。このときに学んだ知識は、いま遠藤氏がマネージャとしてチームをまとめる上でも役立っているという。
「“この勉強が役に立った”とか“この知識が身に付いた”など、ピンポイントで説明するのは難しいですね。わたしにとっては、大学院での経験すべてが財産です」
ポイント2 企業内では得られない人脈、そこから得た新しい道 | ||
あっという間に2年が過ぎ、遠藤氏は2008年3月に卒業した。卒業前には「今後のコミュニケーションを円滑にしたい」と、生徒と教員のほぼ全員が使う大学のSNSをゼロベースで構築した。「わたしは、本当に大学が好きなんですよね」と語る遠藤氏の笑顔は明るい。
卒業後、遠藤氏は会社勤めに戻ったのだが、あまり変化のない運用・保守の仕事に、遠藤氏の知的好奇心は満足できなかった。「もっと新しいことがやりたい」と、2008年秋に遠藤氏は転職活動を始めた。
遠藤氏は、卒業してからも足しげく大学院に通い、PBLの手伝いや後輩の指導を行い、さまざまな研究会に顔を出していた。その際、転職活動について教授たちにアドバイスを求めていたという。
ここで思いがけない出会いがある。大学が主催する研究会で、遠藤氏は教授からワークスアプリケーションズのエグゼクティブフェローを紹介された。この出会いがきっかけとなり、2009年1月に遠藤氏は同社に転職した。
大学での研究内容に加え、「学術分野と実務分野の橋渡しができる」人材であることが評価されたという。
遠藤氏は、現在クラウド技術の研究をミッションとするチームを率いている。社内のあらゆる部門を巻き込み、現行の製品にクラウド技術を取り入れるべく研究開発を進めている。最先端の技術を扱う部署では、実務と学術どちらかの経験に特化した人が集まっており、意見が相反することも多い。その点、実務と学術の両面の経験を持ち、双方の視点を持つ遠藤氏は、それぞれの橋渡し役となり、また良きバランサーとして立ち回ることができた。
大学院で得た知識や研究内容を現場で実践する姿勢と成果が評価されて、1年のうちに遠藤氏はマネージャ職に異例のスピードで昇格した。
向上心が強い人こそ、大学院に進学する意味がある | ||
「大学院に興味がありながらも一歩踏み出せない人に、わたしはぜひ進学を勧めたい」遠藤氏はそう断言する。
「社会人大学院に興味を持つ人は、向上心が強いということです。高い向上心を持つエンジニアこそ、企業勤めでは得にくい知見や経験を得てレベルアップしてほしい。実務と学術の両面の視点を身に付けることで、ソリューションスペースは確実に大きくなり、IT業界全体にも良い影響を与えられるとわたしは思います」
第2期一般入試に向けた大学院説明会 | ||||
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提供:産業技術大学院大学
企画:アイティメディア営業企画
制作:@IT自分戦略研究所 編集部
掲載内容有効期限:2011年2月8日
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