外資系コンサルタントのつぶやき 第5回
技術スキルだけでは食えない
三宅信光
2001/10/31
技術に対する見方 |
今回は“技術”にまつわる話をします。私がいま働いているのは、ITコンサルタントと呼ばれる会社です。外資系コンサルタント会社の日本法人の中では規模が大きい方で、システムの提案だけではなく開発自体も行っています。しかし、技術力が高いか? と問われると、疑問です。
連載の第1回(「転職して戸惑うことは“企業文化”の違い」)で紹介しましたが、私は転職前にIT関連の知識をまともに学んだことがありません。それなのになぜ、いきなり現場に放り込まれても“機能”したのか? その理由は、放り込まれた現場のフェイズがシステム設計段階であったことにもあると思います。しかし、それよりも大きな理由として、私のいる会社があまり技術スキルの価値を認めていないことがあると思っています。これだと現場のメンバーも、それほど技術スキルは高くありません。それだからこそ、私の生半可な知識でも“何とかなるレベル”だったのです。
技術よりも交渉力などのスキルが高評価 |
私の会社では、技術スキルよりも交渉力、応用力、表現力、管理能力といったスキルの方が評価が高いようです。最低限の技術スキルは求められますし、部隊によってはより高度な技術スキルも必要とされます。しかし、仮に高い技術スキルを持っていても、「客と話せない」といわれた瞬間に、より"高いポジション"に就くことはできなくなってしまいます。その逆に多少技術スキルに難があっても、交渉力に優れた人は、どんどん高いポジションへと駆け上っていけます。
本来であれば、技術力はもっと評価されるべきだと思います。私がずっと現場にいるから余計そう感じるのかもしれませんが、OSやデータベースへの深い知識、カタログスペックからは分からないハードウェアの知識、ツール類の実践的な知識、高いレベルのコーディングスキル、それにさまざまなチューニングスキル、どれ1つとっても簡単には取得できませんし、提案書を書く能力と同様に高い評価を受けてしかるべきものです。もちろん、こうした知識やスキルは、それなりの深さを持っていればという前提があってのことですが……。ところが、そもそも会社の姿勢が技術力を高く評価していないため、当然のことながら高い技術を持った人が育ちにくい状況・文化になり、それによって高い技術力がなくてもなんとかなるといった悪循環に陥っているのです。
海外では評価される技術力 |
最初、はコンサルタント業界とはそういうものなのだろうかと思っていました。しかし、海外(私のいる会社の本社や支社)ではそうでもないのです。コンサルタントにも技術寄りの人もいて、しかも高いポジションにいる人もたくさんいるのです。このことから、技術力への評価ができないのは、日本法人が成熟していないせいなのだろうかと、疑問に思うときもあります。
もっとも、海外の技術寄りの人は極端な例が多いのですが……。例えば、あるプロジェクトで一時期いっしょに仕事をした人は、視野が狭く文書も書けずといった感じで、付き合うのに苦労しました。ちなみに、そこで書いた文書とは日本語の文書ではなく、彼らの母語である英語の文書です。当時、そのプロジェクトのトップは外国人で、プロジェクト内では英語でレポートする必要がありました。あるとき、そのトップが「なんだ、この英語は。文章になっていないから書き直せ!」と怒ったことがあります。さては私たち日本人スタッフの英語力が足りなかったのかと、指摘された文書をすぐさま確認すると、海外技術スタッフが書いた個所でした。「ネイティブのはずなんだけどなあ」とぼやきながら、日本人スタッフで手分けをして英文を手直しした記憶があります。しかし、そのくらいの欠点があっても、何か特技があれば、評価するということもできます。つまり、海外法人では、技術をきちんと評価しているのです。
日本法人では、そもそも社内で高いポジションにある人たちが、本当の意味で実践的な技術スキルにあまり重きを置いていません。また、入社してくるスタッフも、技術的なエキスパートになろうと考えて入社する人はごくわずかです。そのため、技術に対する評価が低くなるのも分からないわけではありません。もちろん、技術志向の人もいるのですが、どうしても理論的、表面的な知識に偏りがちで、現場で本当に役立つことを知らない人が多いのです。技術がいかに大切かということを身に染みて感じていない人が多いのです。
技術力がないのに好きな“新技術” |
技術を後で使うユーザーのことをあまり考えず、開発時に安易にさまざまな技術を導入する傾向が強いのも、私がいる会社の特徴です。私がかかわっているプロジェクトでも、「日本で初めて実装したケース」といわれているものがあります。当然、ほかに使用事例がないため、メーカーにもノウハウが少なく、バグも多いのです。あるパッケージでどうしても分からないことがあって、開発したメーカーに問い合わせると、「そこまで大規模な案件で利用しているのはそちらだけです。正直申しまして私どもにとっても初めてのケースです。ですから調査させていただかないと、何とも申し上げられないのです」といわれ、のけぞってしまったことがありました。そんな極端な例ではなくても、ある程度使ってみて初めて分かる仕様がいくらでもあります。
クライアントに「そんなことも知らないのか?」といわれることはつらいものですが、開発のプランニングを行った人たちは、こうした現実を知らないことがほとんどです。若いうちに少しだけプログラミングをし、あっという間にポジションを駆け上がっていってしまう人たちですから、地に足の着いた技術に無縁になるのもやむを得ないのでしょうか。
技術キャリアを目指せない |
このような会社の状況のため、きちんとした技術スキルが身に付けにくいことが、技術系キャリアを目指すメンバーにとっては大きな悩みになっています。以前私の部下の若いメンバーで、技術スキルに強い興味を持ち、順調にスキルを伸ばしていた者がいたのですが、会社の技術スキルに対する評価の低さに失望して、結局会社を退社してしまいました。データベース周りの多くの技術を取得していたので、何とか会社に残ってもらおうと思っていたのですが、「人と話せるだけで技術スキルの低い人が評価されて、高い技術を持っていても評価されない人がいる。このままでは自分も評価されないのではないか」といわれたとき、きちんと反論できなかったことは、いまでも悔やまれます。技術スキルを持つ人が会社に評価され、会社の高いポジションにいる例があれば少しは希望も見えるのでしょうが、ほとんど(皆無ではないようですが)周囲に実例がないのでは、説得のしようもありませんでした。
私のいるプロジェクトに、前のプロジェクトでまあまあ評価が良かったとされている人が入ってきました。中途入社組だったようですが、UNIXに関しては深い知識を持っていたようです。しかし、私がいるプロジェクトで与えられたポジションでは、客との交渉と文書作成が主な仕事で、彼が持っているスキルは発揮のしようがないところでした。結局、彼は3カ月もせずに会社を去りました。就けたポジションが悪かったと思うのですが、周囲の評価は、「客と話せないのではねぇ」の一言で済まされたことを覚えています。技術だけでは食えないのがコンサルタント会社なのかもしれません。
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