連載:知っておきたい人材会社の裏事情
第3回
人材紹介会社選択の3つのポイント
辻俊彦(@ITジョブエージェント担当)
2001/10/5
派遣会社での勤務経験がある筆者(現@ITジョブエージェント担当)が、人材ビジネスの“裏”を紹介するとともに、エンジニアがいかに人材会社と付き合えばいいのか、そのヒントを語る |
前回(第2回 生き残り策を見極めて派遣会社を選択する)は、人材派遣会社が自らの生き残り策として模索している育成型派遣の説明と、利用するエンジニアが選択する場合の“いい育成型派遣”の見分け方について書きました。今回は、人材ビジネスのもう1つの柱、人材紹介会社を取り上げます。
■人材紹介会社とは
人材紹介会社とは、求人企業と求職者の間を取り持って、職業の紹介を行う会社のことです。転職者の増加や中途採用や通年採用を行う企業が増加するに従って、一般的な認知度は上がってきました。しかし、人材紹介会社の仕事内容などに関しては、あまり知られていないようです。職業紹介といえば、失業者の救世主ともいえますが、人材紹介会社の収入は、法律上企業側からだけに限定されています。そのため、企業ニーズに沿って動く側面が大きいのが現実です。
人材紹介のサービスには2種類あります。1つ目は、求人企業と求職者(人材紹介会社の世界では、求職者のことを、よくアプリカントと呼びます)とのマッチングを行う人材バンク(登録型)です。そして2つ目は、企業の依頼を受けて適任者を探すヘッドハンティング(サーチ型)です。最近では、リストラ絡みで再就職支援を行うアウトプレースメント型を、第3のサービスとして掲げる人材紹介会社もあります。
登録型とサーチ型の大きな違いは、収入が成功報酬か否かにあります。求人企業側からすると、成功報酬の登録型の方が有利のように見えますが、緊急・重要な求人に関しては、サーチ型の方が適しています。また、サーチ型のサービスで採用できなかったとしても、求人広告と同じ程度のリスクを負ったと割り切ればいいのです。一方のサーチ型サービスを提供している人材紹介会社から見ると、採用成功に至れば次のオーダーにつながると考え(実際にそうです)、成功を目指して必死になります(基本的な成功率の目標は、70〜80%です)。そういう意味では、サーチ型の収入も成功報酬的な側面が強いといえます。
■成功報酬に依存した少人数共同経営モデル
つまり、人材紹介会社の収入は、どちらのサービスでも成功報酬的側面があるため、企業の運営も成功報酬に連動するようになっています。中でも人材紹介会社のコストで最も大きな割合を占める人件費は、その半分以上が成果に応じた報酬という会社が多いようです。より具体的にいえば、職業紹介を行う社員(カウンセラーやコンサルタントと呼ばれる専門の社員)の報酬は、固定月額30万円に、転職仲介実績1人当たり10万円といった形態が多いのです。この場合、年間24名(月平均2名)の転職を仲介できれば、年収600万円になるような報酬システムになっています。
次に、人材紹介会社の規模ですが、従業員が数十人もいる企業はまれです。たいていは、3〜5人ほどが対等の立場で共同で会社を運営していることが多いようです。社員が増えると、有能なカウンセラーは細胞分裂のように独立する傾向が多い業界です。その理由は、仕事の性質上、カウンセラー個人の能力に負うところが大きく、組織力や規模の経済は機能しにくい業界であることが挙げられます。また、少人数の企業であれば、成功報酬手数料(転職を仲介する人の年収の20〜30%)の分配が、より厚く行われることになり、企業が受け取る手数料のうち、30〜50%が個人報酬になるケースもあるようです。
例えば、あるカウンセラーが転職の仲介を24名成功させた場合を考えてみましょう(このときの24名はすべて、年収500万円と仮定します)。転職が成功したとき、会社が受け取る手数料は、アプリカントの年収の30%で、個人報酬への分配はその30%とすると、500万円×24名×30%×30%=1080万円となります。つまり、前述の年収600万円のカウンセラーの場合に比べて、固定部分の月額を入れずとも倍近い報酬になります。
■年収の高低と人材紹介会社の収益
登録型サービスの成功報酬は、何度も触れたとおり、アプリカントの年収に対する一定の比率といった形で、アプリカントの年収に連動しています。従って、なるべく高年収のアプリカントを扱った方が収入は増加します。また、実際の手間に関しても、高年収の人ほど高いスキルや明確なビジョンを持っているため、転職が決まりやすく、あまり手間もかけずに済みます。
ただし、最初は手間がかかる低年収=若者のアプリカントも、一度仕事を仲介すると次のキャリアアップ時にも相談に来ることが多いので、そういうアプリカントのライフタイムバリューは大きくなります。しかしその半面、転職経験がないアプリカントは、職務経歴書の書き方や面接の受け方など、自分をPRする方法に磨きをかける必要が生じます。しかし、こうした点こそ人材紹介会社の価値や差別化を生むポイントでもあります。
■人材紹介会社選択の基準
これまでのことを踏まえて、エンジニアが紹介会社を選定する基準としては、次の3点を押さえておきたいものです。
(1)豊富な仕事情報を持っているか
特にサーチ型サービスの人材紹介会社が豊富な仕事情報を持っているということは、それだけ過去に実績があることを表しています。そのため、より適切な職種・企業が見つかる可能性が高くなりますし、一般に公募していない求人情報が得られる可能性もあります。また、一般公募に書類で応募する場合より、求人企業の情報(人事方針など)を入手しやすくなります。
(2)カウンセリングに時間をかけるか
実際にベストマッチングとするには、アプリカントの職務経歴・スキルの棚卸しを行うとともに、人間としての特性などを把握したうえで、適職にマッチングさせる必要があります。そのためには、面談を中心としたカウンセリングが必要です。手間をいとわず、カウンセリングの時間をきちんと取る人材紹介会社は、信用できるでしょう。
(3)客観的な指標を持っているか
人材紹介会社の収益構造が、成功報酬依存型になると(成功報酬の割合が高くなると)、どうしても短期的な視点で判断しがちで、マッチング率自体がアプリカントの人生よりも優先されることになります。アプリカントの望む方向が常に幸福な人生とは限りませんが、アプリカントが転職を決める際に、納得させられるだけの客観的な指標を持っていることは必要でしょう。
最後に、人材紹介の成功はカウンセラー個人の能力に負うところが大きいため、カウンセラー個人と価値観などを共有できるかも重要です。候補者の発言を理解しきれなかったり、紹介企業側の理屈を押し付けてくるようなカウンセラーなどは、避けた方がいいでしょう。
筆者紹介 |
辻俊彦 ●2001年3月まで、エンジニア派遣大手企業で、事業企画に携わり、 企業のニーズに合わせた育成プロジェクトを立ち上げる。エンジニアの自己実現をサポートするというポリシーの下に、@ITジョブエージェントのサービス企画にも関与。 |
「連載 知っておきたい人材会社の裏事情」 |
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