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第2回
スキルより大切なものとは

吉川明広
2001/6/14

■スキルなんて要らない!?

 「基本的には、私はスキルだとは思っていないんですよ」と、竹田氏。これは、インタビューの冒頭で「キャリアアップのためにどんなスキルや資格が役立ちましたか?」と伺った直後に、彼が発した第一声である。正直いって、これには少々面食らってしまった。なにしろ、彼が代表取締役社長を務めるD Walkは、XMLの業界ではその名をよく知られた新進のハイテク企業。となれば、竹田氏自身や、D Walkの社員が現在持っている(あるいは将来必要となる)高度なスキルや資格について、具体的な内容や資格名などがぞろぞろと出てくると思っていたのだ……。

 「世の中には、XMLならわかる、Javaなら任せろというスキルの高い技術者はいっぱいいますよね。そういう“技術屋”さんは、生産性という観点から見ると、確かに非常に高いものを持っている。だから、指示を出せば何でも作ってくれます。ただし彼らの場合、指示を出さなかったら、モノができてこない。それじゃ困るんです」

竹田氏は「だから、ウチが求めているのは、ディレクションのできる技術者」と語る

 「だから、ウチが求めているのは、ディレクションのできる技術者です。つまり、顧客のやりたいこと、したいことをちゃんと聞ける人。そして、それを実際の制作者である技術屋さんにきちんと伝えられる人です。その人が本当に使えるかどうかは、実はこの“コミュニケーション能力”の有無にかかっているんです」

 ここまで一気に話した竹田氏は、D Walkの仕事のスタイルについて説明してくれた。D Walkは、モジュールレベルのコーディングなどを担当する、いわゆる“製造ライン”は抱えていないのだそうだ。まずは社長以下数名のスタッフがそれぞれ顧客企業に直接赴き、新しく作るシステムについての要望をしっかりと聞いてくる。続いて、同社SE部門の精鋭エンジニアたちが、それらの要望を基に最適なシステム設計を行う。出来上がった設計仕様書を、親会社である日本ユニテックやそのほかのパートナー企業に渡し、実際のプログラミングをしてもらう。そして最後に、それをD Walkから顧客に納品するのである。要するに、製造工程だけアウトソーシングしているわけだ。

 さて、これでやっと最初の話とつながってきた。つまり、竹田氏が期待する人材像には、D Walk独自の仕事のスタイルが反映されている。だから、プログラミングなどのスキルを持っているだけでは、D Walkの仕事は勤まらない、ということか……。しかし、彼の真意は、もちろんそんな単純なものではなかった。

■天井知らずの給料が欲しいのであれば

 「いつも、私が社員にいっていることがあるんです。技術オタクになるのは簡単だけど、それだといつか給料(のアップ)は止まる。もしそれがいやだったら、経営者かフリーランスになるしかないんだよ、と。つまり、組織の中で“高止まり”の給料で満足するか、それとも独立して“天井知らず”の給料を稼ぐか。2つに1つなんです」

 「技術オタクとして組織の中でやっていくのもいいのですが、いくらスキルを磨いても、他人に使われている限り、自分では給料を決められません。そもそも、技術者の寿命は短くて、使える技術レベルを維持できるのはせいぜい40歳くらいまでですしね」

 「だったら、やっぱり自分で自分の給料を決められる道を考えた方がいい。そのために絶対必要になるのが、初めにいったコミュニケーション能力なんです。実際、親会社の日本ユニテックからも、天井知らずの給料を目指して独立した人がいるんですが、そういう人はすべて、昔から“しゃべれる人”でしたね」

 まるで、自社の社員に独立をけしかけるかのような言葉にびっくりしたが、これで1つはっきりした。それは、竹田氏が自分の会社に必要な人材、という限定された観点から話をしているわけではなかったということ。むしろそれは、彼が自らの経験を通して得た、仕事で成功するための普遍的な“セオリー”とでもいうべきものだったのだ。

 「もちろん、40歳を過ぎて組織の中に残る人もいます。そんな人でも、例えばコーディングはできないけれども顧客との折衝をやらせたら抜群、ということであれば、定年まで十分食っていけると思うんです。私の会社でも、本当に“使える”技術者というのは、やっぱり“しゃべれる”SEですね。スキルが特段に優れているわけでもなければ学歴がすごいわけでもないSEでも、ちゃんと顧客と話ができるSE。しかも、そういう人の方が顧客からの評判もいい。こういうことが、給料の差になって出てくるんです」

 このように、竹田氏は必ずしも独立ばかりを勧めているわけではない。大切なのは、自分がどんな道を歩むにせよ、技術者としてのキャリアをどう設計するのかを真剣に考えること、というわけだ。竹田氏はさらに、近い将来、技術者の周辺に起こる可能性のある状況の変化について、興味深い指摘をしている。

 「もしコミュニケーションが必要ないなら、外国人技術者を使えばいい。彼らは非常に生産性が高いし、費用対効果もいいですから、製造工程をぜんぶ外国に出してしまえばいいんです。コストが高いだけの日本人技術者なんて、見向きもされなくなりますよ。そうなったとき、外国人との違いを出せるものといったら、やはりしゃべれるかどうか、コミュニケーションをうまくとれるかどうか、ということになるんです」

 「だから、これも社員にいっていることなんですが、とにかく話せる能力を培え、と。そのためには、話の上手な人の講演を聞きに行ったり、話の運び方やネタを研究したりするといいよ、とね」

■華麗なるキャリア

 普通の技術者とはひと味もふた味も違う独自の観点から、鋭い持論を展開する竹田氏。そんな彼は、やはりというべきか、少なくともIT関連の業界にはあまり見られないような一風変わった経歴の持ち主だった。

 若いころの竹田氏は、なんと野球の生中継ができるスポーツアナウンサーになりたい、と真剣に考えていたという(彼の、明快で爽やかな弁舌を聞いていると“さもありなん”という気にさせられることは確かだ)。そのため、放送関係の仕事を目指して立命館大学文学部に進学。ところが、当時の社会情勢の影響もあって同大学の就職実績があまり芳しくなかったため、志望の達成につながる道を模索するべく同大学を中退する。

 この時期、竹田氏はさまざまな苦労を経験するのだが、もちろん放送関係の仕事に就きたいとの思いが衰えることはなかった。そして、とうとう映画会社の「にっかつ」へ就職することに成功。同社CM部門を出発点に、やがてはドラマ部門アシスタントプロデューサーとなり、予算管理なども担当するようになる。その折、仕事の中で、大型コンピュータ会計システムに触れる機会を得る。

コンピュータとの出会いは、会社での帳票出力だったと語る竹田氏

 「当時、会計の帳票をバローズ(現日本ユニシス)のコンピュータで出力したら、なんと赤字(額)がちゃんと赤字(印刷)で出るわけですよ。しかもリアルタイムで。これには感激しましてね、あぁ、コンピュータって面白いもんだな、って。これが私の初めてのコンピュータ遭遇体験ですね」

 こうしてコンピュータに目覚めた竹田氏は、その後、知り合いを通じて日本ユニテックに入社。出版部に配属後、本格的なプログラミングの勉強を始めた。ところが、そこはアナウンサーを志望するような男である。結局、技術よりもその“しゃべり”を買われ、営業部に転身することに。その業務の中には、日本ユニテックが中心になって運営していた「SGML懇談会」の窓口担当の仕事が含まれていた(これが、後の彼の進路に少なからず影響を持つことになる)。しかし、不況に遭遇したこともあって、同社を3年で退社する。

 その後、ぴあ総合研究所(現文化科学研究所)やインテックなどの共同によるインターネットベンチャーである、未来編集株式会社の立ち上げにかかわることになる。

 「まだインターネットコミュニティという言葉すらなかった時代ですが、自分はその“走り”の時期に立ち会えたわけで、とても貴重な体験をしたと思っています」

 未来編集では、主にWebコンテンツ制作を手がけるが、仕事の中でWeb関連技術の必要性を痛感するようになり、その技術面を古巣の日本ユニテックに委託することになる。ちょうどそのころ、「XML」という新しい言語仕様が登場し、各方面で話題に上るようになった。竹田氏は、前述したようにSGMLに慣れ親しんでいたこともあり、XMLには敏感に反応。その将来性を敏感に嗅ぎ取り、未来編集の中でもXMLの活用を考え始める。

 こうして、XMLについての研究や仕事にかかわるようになった竹田氏は、いよいよその魅力にはまり込んでいく。そしてとうとう、XMLの可能性にかけるべくベンチャー起業を決意。未来編集のスタッフを数人引き抜いて、D Walkを設立する。1998年10月のことである。

 以後の躍進ぶりについては、最初に紹介したとおり。創業後間もないにもかかわらず、順風満帆の滑り出しを経験しているという。では次に、そのD Walkが現在どんな事業に取り組んでいるのかについて見てみることにしよう。

■D Walkのいま

 竹田氏から、“ビジネスドメイン”と題された事業内容のパンフレットを渡された。そこには、“わたしたちがお手伝いできること”という副題が付され、D Walkがどんな仕事をしているのかが具体的に説明されている。最初のページには、“他社を凌ぐ得意分野としまして、XMLを活用したシステム構築を挙げることができます”とのメッセージ。D Walkが、XMLの先端企業を自負していることがよくわかる。

システム開発
データベース(SQL Server、Oracle)を利用したXML求人情報システム、XMLデータ出力プリントサーバシステム、通信会社向けデータ分析コンサルティングとシステム提案
Web関連
eコマース(BtoB、BtoC)、コミュニティ(多機能電子会議室システム「デジタル報連相」の開発、販売)、Webサイトデザイン(ホームページ、iモード、J-SKY)、広告(インターネット広告の企画、製作)
放送関連
BSデジタルデータ放送(BMLを使用したコンテンツ政策:番組の企画・製作)
コンサルティング関連
XML導入コンサルティング(新規導入、現行システムからの移行)
セミナー関連
XMLセミナー(大阪市100%出資のインキュベーションセンター「iMedio」と全面提携)
D Walkの主な分野別の業務

 「当初、“Web系のXML開発会社”と銘打って営業をかけたんですが、なかなか仕事が入らないんですよ。HTMLのWebページ作成なら仕事があることはわかっていましたが、価格競争に巻き込まれるのがイヤだったので、それは避けたかった。そこで、ウチとしてはデータベースとの連携ができることをアピールして差別化を図ったわけです。つまり、SQL ServerやOracleのデータベースをバックエンドに置いて、フロントエンドにXMLを使うようなシステムですね」

 こうして他社との違いを出すことにより、次第に仕事が取れるようになっていったという。現在、D Walkの取引先には、リコーや岩崎通信機、NHKといった有名な大企業/組織が名を連ねている。この点は、竹田氏自身も指摘しているとおり、日本ユニテックという、長年の実績を持つ優良企業を後ろ盾に持っていることの強みが存分に生かされたようだ。

 とはいえ、やはりXMLを前面に出した形で仕事を実際に受注するのには、まだまだ困難がつきまとうようである。

XMLは非常に技術者層にウケがいいが、経営者層にリーチしていないという

 「システムを構築する場合、XMLを使っておくと、将来的には非常に都合がいい。しかし、その価値をわかる人がまだまだ少ないんです。“XMLです”というと、確かに技術者層にはウケがいいですね。でも、これが経営者層になると、理解を示してくれる方が十分にいるとはいえない状況です。企業で決済権を持っているこういった方々が、本当にXMLのよさを理解して、実際に受注スパンが短くなるのには、まだあと1年半から2年くらいはかかるんじゃないかと思いますね」

 実は、D Walkが第2期に赤字になったのは、現場の技術者のウケがよかったために、それが即受注につながるものと見誤ったことが原因だったそうである。竹田氏は、そのときの苦い経験を生かして、現在ではあえてXMLを前面に出さないような工夫をしているという。

 「現在、ウチは“XML専業”ではなく、普通のソフトウェア会社だとお客さんにはいっています。ウチはXMLが得意だけれども、別の言語を使うとか、ほかの方法でもできます、と。でも、XMLを使うと、最終的にはこういうことが可能になります、という夢を語っておきます。それで、“夢料をオン(上乗せ)してあるんですね”と問われれば、そのとおりです、と答えるわけです」

 「そこで、将来の設計もちゃんとしてあげて納品する。もしくは、“XMLでなくても同じことが(安く)できるのか、じゃあ悪いけどそっちでお願いします”といわれれば、そちらも喜んでやります、といってそのようにして納品する。でも、お付き合いしているうちにお客さんはXMLもやりたくなるんですよね。そうすると、2つ作ることになるからかえってウチとしてはうれしいわけです(笑)」

 それでも、D Walkが立ち上がったころに比べれば、世の中の事情がずいぶん好転していることは確かなようだ。D Walkでも、そういった流れをくんで、これからもXML関連事業を積極的に推進していく予定だという。

■やっぱりスキルも大切!?

 これまでの話からすると、竹田氏は“スキル否定論者”のように見えるかもしれない。実際、これまでの彼の言葉を読み返してみても、どこにもスキルそのものを礼賛しているような個所は見当たらないだろう。ところが、インタビューで彼は、こんなこともいっている。

 「XMLなら、そこいらの技術者には負けない自信があります」

 一見、彼の持論とは矛盾するかのような言葉である。しかし、逆説めくが、これこそまさに彼が「スキルではない」と言い切る自信の源泉となっているのではなかろうか。「周囲から、おまえはプログラミングに関しては使えない、といわれまして」などと笑わせる竹田氏だが、きっと彼自身は、猛烈にプログラミングやXMLの勉強をした時期があったはずだ。そして、そのときに培った素養があるからこそ、現在の高度なセールストークが可能になっているに違いないのだ。

 また、前述のとおり、彼は未来編集からユニテックグループに戻る形になったわけだが、そのときの経緯を次のように語っている。

 「技術の裏付けがないと、いかにコンテンツ制作の会社であっても、やっていけないということを痛感したんです」

 つまり彼は、コミュニケーション能力を自在に操るハイレベルな営業マンである以前に、(各論的に深くはないにせよ)技術の何たるかを知る一流の技術者なのである。だからこそ、技術の向こうにある何かを創造する力を発揮できるということなのだ。従って、少々不遜ではあるが、彼の第一声「基本的には、私はスキルだとは思っていないんですよ」を、その真意を含めた形で書き換えたとすると、次のようになるのではないだろうか。

 「基本的には、私はスキル“だけ”だとは思っていないんですよ」

■“放送”にかける夢再び

 最後に、竹田氏自身の今後の夢を語ってもらった。ここでも、“技術の向こうにあるもの”を大切にする彼のスタンスがにじみ出ていることがわかるだろう。

 「シンクタンクとか、コンサルティング専業の会社にはなりたくないんです。しゃべるだけでは商売にならないからです。そうじゃなくて、しゃべったことはちゃんとやれる会社にならなければいけない。ウチは、製造ラインを自前で持っているわけではないけれども、SEラインは確保していますし、実際の製造ができる人(会社)もぜんぶ知っていますから、それを実現できるんです」

 「できるだけ、コンテンツ寄りの仕事をしていきたいですね。ブロードバンド・インターネットの世界で動画のようなエンターテインメント系のコンテンツ制作を手がけたいんです。そういう意味では、自分自身がまたテレビ(放送)寄りの仕事に戻っていく感じですね。もちろん、コンテンツ制作をするだけじゃなくて、技術の開発もやる。一言でいえば、“エンターテインメントのことがわかる開発会社”になりたい、ってことですね」

 ちなみに、「ディー・ウォーク・クリエイション(D Walk Creation)」という社名の由来は、最初の“D”がDigital、Development、Document、そしてDreamを表し、“Walk”が竹田氏自身の名前(歩)を表しているのだそうだ。きっと、彼が若いころからあこがれていたという放送分野にかける夢(Dream)は、XMLの助けを借りることによって、インターネットという新しい“放送”の世界で花開いていくに違いない。

技術の本質を知る“真の技術者”というにふさわしい竹田氏。彼が紹介する技術者必読の“本”とは? その答えは「エキスパートに聞く ぼくのスキルを支えた本」に!

 

Index
最前線で必要なスキルとキャリアを知る!
  スキルより大切なものとは(1/2)
スキルより大切なものとは(2/2)

「連載 最前線で必要なスキルとキャリアを知る!」
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