第6回
転職だけじゃないエンジニアのキャリアアップ
遠竹智寿子
2001/11/7
IT企業に就職したのはプログラムを組んでみたいという、漠然とした動機だった |
■“プログラミングをやりたい”が入社の動機
「正直な話、コンピュータそのものに、特に興味を持ったことはなかったんです」と、学生時代を語る三木氏。大学進学時、本人は何となく経済学部を選んだという。卒業後の進路でも「プログラミングをやってみたい」と考えたが、それも特に理由はなく、軽い気持ちであったという。時代は、ちょうどバブルのはじける直前。就職先として、“コンピュータ関連企業”が一般の学生に定着したころである。当時のことを三木氏は、「文系理系を問わず、コンピュータ関連の職種を選択した人が多かった」と振り返る。だからこそ、コンピュータ関連企業に就職することには、何のためらいもなかったわけだ。
日立ハイソフトに入社後、集団研修を受け、希望した開発部に配属。配属された課の人員は、自分を含めたったの6人で、新人は彼1人。そこ(現場)では新人向けのトレーニングはなく、現場で先輩たちをサポートしながら少しずつ技術を習得していった。「グループ内の業務は、当時もいまも1〜3カ月規模で完成させる小規模プログラムの開発が主です。入社当時は、R:BASE(ビーコンシステムのデータベースシステム)やC言語を使って開発していました。プラットフォームがWindowsに移行するにつれ、Visual Basicを使用することが多くなりましたね」と三木氏。「何のバックグラウンドもなく、最初は何も分からず、自分がやっていけるかどうか不安もありました。でも、1人でソースコードがスラスラ書けるようになったらかっこいいな、という気持ちの方が強かったかもしれませんね。とにかく一生懸命でした」と、入社当時を振り返る。
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三木氏の主な配属先と業務 |
■自分ですべてを成し遂げる喜び
そんな三木氏も入社して1年6カ月ほどで、アシスタントではなく、自分自身でソフト開発を手掛けるようになった。その当時のことを三木氏は、「ありきたりの感想ですが、人に聞き、人にいわれて作業するのではなく、自分1人の力ですべてを成し遂げるという喜びを感じました。それはいまでも同じです」と語る。さらに1人のエンジニアとして、「納品先から完成したシステムで効率が上がったといった話を聞くと、本当にうれしいです」と、その熱い思いを語ってくれた。
何となく選んだ職業ではあったが「特に嫌だとかつらいとかいった思いはないです。(開発は)好きだし、やっぱり向いていたのかな」と話す。「1人で解決しなければならず孤独であり、納期に間に合わせるために苦しい経験をしたことも何度もあります。1人だと、責任を他人に転嫁できませんから」という。苦しみが大きいほど喜びも大きくなるのは、エンジニア共通の思いであろう。
「入社当時から現在まで、家に持ち帰って仕事をすることはまずありません。僕が入社前に想像していたエンジニアは、徹夜が多く、週末もプログラムを書き続けるようなイメージがあったのですが……。もちろん、納品日間近になれば忙しく残業がありますが、泊まり込みをするほどではありません」
■飛び込み営業での貴重な体験
システムを組んでいても取引先と打ち合わせることはあったが、思いっきり外へ出てみたいと考え、営業に異動したという |
しかし、三木氏は入社以来ずっと開発部門にいたわけではない。3年前に営業部門で新規開拓営業を2年間ほど経験した。それは、「外に出てみたいというのが大きな理由」で、自らの希望だったという。担当したのは、自社製品(ノーツのテンプレート製品)の販売。イベントなどに駆り出されたり、飛び込み営業をしたりと、これまでとは勝手が違った仕事ばかり。「呼ばれていないところに出向くわけですから、それなりに最初は勇気が要りました。ただし、業種に関係なく出向くので、飛び込んだ会社で興味深い話も聞け、いい経験になりました」と、そうした経験もしっかりと自分のモノにした。
実は、このころに初級システムアドミニストレータの資格を取得したのだという。実践を重んじる社風のためか、資格取得を無理強いされることはなく、仕事上でもそれほど必要性を感じたことはなかったが、試しに受けてみようという気持ちで受験した。延べ1カ月ほど参考書だけで勉強し合格したが、いまも資格の必要性は感じていないという。
しかし、社内組織の見直しで自社製品に特化した営業部門がなくなったため、再び開発部に席を戻した。
■大企業ならではの問題点
現在の仕事は、小規模システムの開発が多いそうだ。ただし以前と違うのは、まったくの1人というわけではない点だ。いまやSEとして顧客との直接打ち合わせ、システム設計から納品までをすべて手掛けている。営業ではないが取引先に出向く必要性が出てきた。もちろん、営業を経験したことが、彼のSEとしての成長に大きな影響を与えたようだ。ここで、“日立”という看板を背負っていることをどう思うかと、意地悪な質問を投げかけてみた。「確かに生活は安定しているかもしれません。ただ、本音をいえば、大規模な会社の場合、全体のパーツを手掛けているだけで、自分がどこの歯車となっているのか分からないことがあると思います」と本音を語る。それを実感するのが、顧客先などでベンチャー起業の開発者やSEと話すときで、「彼らの方が、ジャンルを問わずに仕事をする必要があるため、知識が豊富だと感じることがあります」という。
彼が新卒で入社したころは、採用人数は30名ほどいたが、現在は10名ほど。しかし、その代わりといってはなんだが、現在は開発部門で中途採用を随時行っている。社内で育てるよりも即戦力を求めているためではないかと、三木氏はいう。“新卒組”と“中途採用組”には、仕事ぶりなどが異なるのかと聞くと、彼が見ている限り、20歳代よりも30歳代半ば過ぎの転職者の方が、入社してじっくり腰をすえる感じらしい。しかしどちらにせよ、「違う環境で仕事をしてきた人の話を聞くのは面白いですよ」という。それによって仕事のやり方が、会社によっていかに違うかなどを学べるという。
■今後のキャリアプランは?
そんな彼に、転職をする気はないのかと、さらにいじわるな質問を向けてみた。しかし、転職をそれほど強く意識したことはないという。彼がその理由として挙げたのは、ちょっと変わった社風(?)であった。小さな案件を1人ないし小人数でこなすため、「この会社の中に何人もの“フリーエンジニア”がいる雰囲気なんですよ。SEごとに得意なシステムなどがあり、営業も案件によって、それ(システム)が得意そうなSEに声を掛けたり、逆にSEがこんな案件がないかと声を掛けたりと、意外に自由なんですよ。もちろん、仕事を選り好みできるわけではありませんが」という、社内の風通しの良さを紹介してくれた。すべてがそうではないとは思うが、社内がまるで“自由市場”のように、受注案件を営業とSEが交渉して決定していくのだろうか。さらに、「取りあえずやってみろという会社のポリシーかな。うちの会社ははやり好きなので、新しい技術を次々に取り入れています。となると、常に新しいもの(技術)に触れているわけですし、構築するシステムは似たようなものでも同じものは1つもありません。それを考えると毎回勉強しているようなものです」と付け加えた。会社が合わない、人が合わないといった問題で転職を希望する人にとっては、何ともうらましい話かもしれない。
転職しなくても不安はないという。新しい技術なども、対応する力さえあれば乗り切れると三木氏 |
エンジニアとして、現在興味があることを尋ねると、「できるできないは別として、ネットワーク分野を手掛けてみたいです。これは仕事ではなく個人的な興味なんですが。それから、LinuxやKylixにもすごく引かれています」との答えが返ってきた。「Kylixは、OSに依存しないところがいい。いまのところ最大の興味といってもいいかな」と、少し熱い口調になるのはやはりエンジニア気質を感じさせる。
技術の移り変わりの速いIT分野に身を置くこと、転職の経験がないことについて、どう思うかという質問をすると、「不安に感じたことはないですね。例えば、技術が移り変わって、どんな流れが来ようとも、自分のやってきたものがすべて無駄になるとは思えないんです。まあ、これは根拠のない思いですが(笑)。製品や技術が違っても、対応する力さえ持ち合わせていればいいわけですから」と三木氏。可能性を見いだすために多くの転職を重ねる人もいるが、彼の場合は、同社で積み重ねてきた1つ1つの経験が、自身のスキルでありキャリアであるという誇りを感じることができた。
彼には数年来、開発者、SEとして尊敬している先輩がいるそうだ。いまでも何かあるたびに相談をする相手だという。その先輩技術者は、何年か前に日立ハイソフトを辞めて独立し、何年かフリーで過ごした後、現在は知人が作った会社で取締役として働いているという。「先輩が退職したのがちょうどいまの僕と同じ年齢なんですよ。同じ職種で、ほかの会社にいくという考えは持ち合わせていませんが、もし新しい世界を開くとするなら、先輩のたどった道(フリー)には興味があります」と、目を輝かせて語る三木氏。
エンジニアといっても、スキルやキャリアを上げていく方法は、千差万別であろう。転職や独立をして新しい道を築くのも、1つの会社にとどまり技術を磨くのも、要は自分に合う環境と技術を見いだし、身に付けていくこと、それがエンジニアの王道だろう。三木氏は同じ会社にいながら部署を変え、常に新しい技術などに興味を持ち、それに挑戦していく。その王道を極める前提として、エンジニアにとって重要なのは、そうした前向きな姿勢、考え方、常に興味を持つといった、当たり前な意識かもしれない。
飽くことのない探究心と、旺盛なチャレンジ精神で自らの道を切り開いてきた三木氏。そんな彼のスキルとキャリアを支え続ける本とは? その答えは「エキスパートに聞く ぼくのスキルを支えた本」に! |
Index | |
最前線で必要なスキルとキャリアを知る! 第6回 | |
転職だけじゃないエンジニアのキャリアアップ(1/2) | |
転職だけじゃないエンジニアのキャリアアップ(2/2) |
「連載 最前線で必要なスキルとキャリアを知る!」 |
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