10年後も通用するキャリアパス
ステップアップし続けるための選択

第3回 いまのERPを取巻く
キャリアパスの真実に迫る!

南 和気 (みなみ かずき)
SAPジャパン株式会社 ソリューション本部
エンタープライズマネージメントHCM 部長
2008/11/5


ERPコンサルタントというと、業務とERPパッケージの経験とスキルが必須と言われる職種でしたが、現在はERPパッケージを取巻く環境の変化に伴い、さまざまな経験やスキルを持つスペシャリストが必要となっており、キャリアの入り口が大きく広がってきています。

   ERP導入の流れ

 なぜ、多くの企業がERPを導入するのか? その理由は、いままでもご紹介してきましたが、大きく2つあります。

 1つは、ERPは単に業務をシステム化できるソフトウェアというだけではなく、そこに「ベストプラクティス」と呼ばれる、さまざまなあるべき業務の姿が含まれていることです。これにより、企業はシステム検討において、「いまある姿」だけではなく、明確に「あるべき姿」を目に見える形でイメージしながら、業務の設計やシステムの仕様を決定することができます。また、無形なところから、スクラッチで開発するシステムでよく発生する「考えていたものと完成したものが違う」といった問題や、手戻りを回避し、システム導入の効果を最大化することもできるのです。

 もう1つの理由は、ビジネスや法制度の変化によってさまざまに変わりゆく「あるべき姿」またはベストプラクティスや、IT技術の革新を、ERPパッケージの保守サービスによって常に享受できることです。

 一度システムを導入した後にも、企業のビジネスモデルや組織の形は変化します。昨今はM&Aにより業態自体が大きく変化し、コンプライアンス、会計基準や年金、社会保険などの法制度の変化も頻繁に発生し、企業は常にその変化に追随しなければなりません。そのような状況で、毎回変化の度に仕様を調査し、1からシステムの設計、実装を行っていたのでは多くの時間、コストがかかるだけではなく、場合によっては違反行為につながるかどうかのリスクを常に自社で担わなければなりません。ERPパッケージを使用していることで、これらの変化についてのシステム変更をERPベンダに任せ、システム導入後も長期的に、コスト削減、またリスクヘッジすることが可能となります。

 よって、ERPコンサルタントの業務というと、どうしても導入や構築といったところに目が行きがちですが、実は導入後の保守というフェイズでの役割も非常に重要であり、ERP導入のメリットを最大化するためには、一度導入した後にも、顧客があらゆる変化に迅速に対応していくことができるように保守運用体制を設計することが重要なコンサルティングノウハウとなります。

 では、ERPパッケージの導入検討から、導入プロジェクトさらにプロジェクト後といった一連の導入サイクルを整理してみます(図1)。

図1 ERPパッケージの導入サイクル

 この図にありますように、ERPパッケージの導入においては、まず「あるべき姿」としての業務制度の設計やITデザインの設計が行われ、それに従って最適なERPパッケージの選定および、ERPパッケージ導入手法や導入する企業を選定し、その後導入、さらには運用、保守といったフェイズとなります。こういった一連のフェイズの全体を通じてコンサルティングサービスを提供できることがコンサルティング企業の理想形ですが、現状はなかなかそこまでできる企業は多くありません。よって、それぞれの企業の強みを生かしたサービスに特化しながら、各フェイズの中でさまざまなサービスを提供しています。ERPコンサルタントとしてキャリアを始めるに当たり、市場の中にどのようなサービスやビジネス形態があるのかを理解していただきたいと思います。

   ERPパッケージ導入に関わるさまざまなサービス

 先ほどの図でご紹介したそれぞれのフェイズに、一般的なサービス提供企業のサービス内容を重ねてみたいと思います(図2)。

図2 ERPパッケージの導入サイクルに関連するサービス群

 かつてのERPコンサルティングサービスは、いわゆる制度設計を行う「上流コンサルティングサービス」と実際のERPパッケージの導入と、導入後の保守を行う「導入コンサルティング」のほぼ2種類に分類することができました。

 しかし、ERPパッケージの活用方法や導入形態が多様化し、すでに多くの企業がERPパッケージを導入して数年が経過する中で、前述のような「運用を最適化する」というニーズが高まるようになりました。こうした動きにつれ、コンサルティングサービスが多様化し、コンサルタントに関しても種々のスペシャリストを必要とするようになっています。

 例えば、BPO(Business Process Outsourcing)サービスと呼ばれる、業務とシステムをアウトソーシングするサービスがあります。これは、BPOサービスを提供する企業が自社にERPパッケージを導入し、さまざまな顧客企業の業務およびシステム運用を代行するサービスです。こういったサービスを提供する場合、顧客企業の業務や制度へのアドバイス、さらにはERPパッケージの導入やハードウェア構成の設計までを大規模に行うため、単にERPの知識を持つコンサルタントだけではなく、データベースやOS、ハードウェアの技術者の方々も同時に必要としており、ERPの経験がないITエンジニアの方々がERPコンサルタントとしてキャリアをスタートさせやすい入り口の1つと考えられます。

 ASPやSaaSモデルのサービスを展開する企業においても同様のニーズがあると共に、ホスティングサービスを行う企業は、顧客のハードウェアを預かり、そのメンテナンスを請け負うため、ネットワークやセキュリティに長けたエンジニアの採用も積極的に行っています。

 また、プログラム開発サービスにおいても、そのサービス形態には大きな変化が見られます。かつては各ERPパッケージが使用しているそれぞれの言語によるプログラミングがほとんどで、プロジェクト内においても実際プログラムが利用される業務プロセスのつながりにはほとんど関わらず、単に詳細仕様の設計から開発、動作テストまでというのがその役割でしたが、現在のプログラム開発サービスは、その役割が大きく変化しています。

 SOAを基盤としてERPを導入する企業が増えてきたことにより、ERPで提供されるサービス(機能の部品)を企業内のほかのシステムや、ほかのERPパッケージ、または社外のネットワーク上に存在するさまざまなWebサービスや外部システムと連動させることで1つの機能を設計していくプログラムが必要となっています。

 このように、プログラミング開発サービスを提供する企業も、顧客企業のシステムの全体像を把握し、どのシステムとどのシステムをどのように連動させれば、最適な機能を提供することができるかを判断し、設計していく必要があるため、導入プロジェクト全体に対して関わり、Javaや、SOAPなどのWebサービスの知識をベースにプログラムを設計できるエンジニアの方々が、そのスキルを活用しながらERPに関わるキャリアを形成できるようになってきています。

 ERPコンサルタントというと、業務とERPパッケージの経験とスキルが必須と言われる職種でしたが、現在はERPパッケージを取巻く環境の変化に伴い、さまざまな経験やスキルを持つスペシャリストが必要となっており、キャリアの入り口が大きく広がってきています。

   いま、チャンスをつかむために必要な4つのこと

 上記のように、現在ERPコンサルタントは、多種多様なスキルセットの方々が存在し、各自の経験を生かしながら活躍され、実際ERPの経験のないITエンジニアの方々がERPコンサルタントとして転身なさるケースも非常に増えています。

 ただし、裾野は広がっているとはいえ、いまだ深刻に不足しているのは、プロジェクトマネージャです。

 ERP導入プロジェクトのプロジェクトマネージャは、知識の面でも、制度・業務、ITインフラ、ERPパッケージ機能と、網羅性が必要であると同時に、顧客との折衝やチームを統率する能力、また予算や収支の管理などのスキルも必要となります。またERPパッケージを導入した後の「あるべき姿」が顧客企業にとって本当に有効であったかといった導入効果についても、ある意味では責任を負う立場にあります。

 しかし逆に言えば、顧客企業の課題を解決し、成長に導くのもプロジェクトマネージャの舵取り次第です。この意味では、非常にやりがいのある立場であることは間違いありません。

 昨今コンサルティングサービスが多様化し、それぞれのサービスを提供するためのプロジェクトマネージャが数多く必要とされ、さらに中〜小規模の顧客プロジェクトの数が増大しています。これにより、中堅のコンサルティング企業でも、数多くのプロジェクトマネージャが必要とされているため、今後はより早いタイミングでプロジェクトマネージャを経験することができるチャンスに恵まれた時代であるといえます。

 このチャンスをつかんで頂くためにも、ITエンジニアの皆様には下記の4つをぜひ意識していただきたいと思います。

1. 専門性を持つ

 業務でも、ITスキルでも何でもよいので、何か1つキャリアの軸になるスキルをもつことが、ERPコンサルタントとしてのキャリアを開始する近道です。

2. 顧客が認識している課題だけでなく、本質的にあるべき姿を意識して現状とのギャップを把握する

 いま見えていることだけではなく、いまは見えなくとも、本来目指すべき姿をどれだけ強く意識できているかどうかが、コンサルタントの価値を決めます。

3. 相手を理解し、導くコミュニケーション

 あるべき姿に顧客を導き、変革を実行するのは容易なことではありません。まずコミュニケーションをするときは、ゴールを明確に意識した上で(コミュニケーションを)開始する必要があります。

4. 市場に広く浸透しているERPパッケージを選択する

 知識を発揮する場が広ければ広いほど、キャリアにとって有利になります。

 これらの意識や考え方は、ERPコンサルタントとしてだけではなく、プロジェクトマネージャとして必ず必要となるものです。今後ERPコンサルタントを目指される方々にも、普段の業務で頭の片隅において頂き、皆様のステップアップの一助としていただければと思います。

 次回は、実際にERPコンサルタントの方々がどのようなキャリアからERPコンサルタントとなり、どのようにキャリアを考えているのか、事例を交えてご紹介します。

筆者紹介
南 和気(みなみ かずき)
SAPジャパン株式会社 ソリューション本部
エンタープライズマネージメントHCM 部長


外資系ITベンダで、製品マーケティングにて多くのビジネスを立ち上げたのち、2004年よりSAPジャパン株式会社に入社。現在は、人事アプリケーションビジネスの責任者として、顧客の人事制度の見直し、人材育成の仕組み作りおよび人事システムの有効活用を支援している。

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