SAPコンサルタント インタビュー

アイ・ティ・フロンティア
システム開発 ERP開発本部 ERP基盤技術部
佐治良則

SAP基盤分野を通じて見えたスキルとキャリア

岩崎史絵
トレッフェ
2009/1/23


SAPの主力製品は、企業の基幹業務を担うアプリケーション・パッケージ「SAP ERP」である。このため、「アプリケーションや業務知識がなければ、SAPコンサルタントになれないのでは」と思うITエンジニアは非常に多い。本記事では、ITシステムの基盤構築を担当するSAP認定コンサルタントの実際の仕事内容を紹介することで、そんな誤解を払しょくする。

   SAP認定コンサルタントという目標で得たもの

 ITエンジニアが、SAP ERPに取り組むようになるきっかけはさまざまだ。スキル/キャリアアップを求めて転職し、SAP ERPプロジェクトを担当するようになったITエンジニア。新卒採用時の配属先が、たまたまSAP ERPを取り扱う部門だったというITエンジニア。アイ・ティ・フロンティア システム開発 ERP開発本部 ERP基盤技術部の佐治良則氏の場合、後者のケースだ。

アイ・ティ・フロンティア システム開発 ERP開発本部 ERP基盤技術部 佐治良則氏

 2005年、アイ・ティ・フロンティアに入社した佐治氏は、「当時は、IT業界のこともSAP ERPのことも、ほとんど知りませんでした」と率直に語る。それでも、入社後4年経たないうちに「SAP NetWeaver Web Application Server(SAP WAS)」「SAP NetWeaver Exchange Infrastructure(SAP XI)」(*注)という2つのSAP認定テクノロジコンサルタントの資格を取ったのは、「現部門の先輩はほとんどSAP認定コンサルタントの資格を持っており、自分もいつかは取るべきだという意識があったからです」という。普段の業務でのスキルアップはもちろん、セミナーに参加したり、同僚や先輩に資料を貸してもらううちに、業界の方向性や、SAPが目指している分野も見えてくるようになってきた。資格取得のためというより、技術トレンドを俯瞰(ふかん)できるようになったのも、非常に大きな一歩だったという。*最新バージョンは「SAP NetWeaver Process Integration(SAP PI)」

 そんな佐治氏が扱っているのは、SAP製品の中でも基盤系と呼ばれる部分だ。SAP製品は、一般的に知られているアプリケーション系(ERPやCRM、SCMなど)と、ミドルウェア系(SAP NetWeaver)と大まかに分けることができる。佐治氏が所属しているERP基盤技術部は、このミドルウェア群に関する開発全般を担当している。佐治氏はデータ連携を担うSAP XIと、ビジネスロジックの実行環境であるSAP WASに関するプロフェッショナルというわけだ。

   システムの中核・基盤系に必要な仕事とスキルを公開!

 具体的な仕事内容はどのようなものだろうか。佐治氏は「SAP ERPの新規導入やアップグレード、サーバリプレースに伴う形でプロジェクトに参画し、計画策定を練ったり、基盤側のチームを指揮する立場を担います」と説明する。アプリケーション担当と連携して、基幹システムに求められるパフォーマンスや可用性、バックアップ/リストアの計画など非機能要件を抽出し、アーキテクチャの設計や運用設計、開発計画の策定をする。さらには、開発したSAP ERP環境をアプリケーション担当に渡し、SAP ERPのモジュールのカスタマイズに対して技術的なフォローアップもする。

 これだけの仕事をこなすうえで大切なのは、「何をどう進めていくか」という確固たる自信を持つこと。「認定コンサルタントという資格を持っているのは、自信につながります。実際、名刺交換時にクライアント企業の方から信頼していただくこともある。資格があるからできる、というものではないのですが、自信を持って仕事を進められるというのは、大きな意義だと思います」(佐治氏)という。

 現在、佐治氏が携わっているのは、SAP ERPのアップグレードに関する案件だ。クライアントは、SAP ERPを導入している企業で、SAP ERP本体部分のアップグレードはもちろん、OSやデータベースのアップグレード、サーバリプレースまで含む大規模プロジェクトだ。このプロジェクトは、約1年の時間をかけて慎重に進めているという。なぜなら、アップグレードといえど、稼働している現基幹システムを完全停止させるわけにはいかないという制約があるからだ。実際、作業のために稼働を一時停止できる時間は、1年の中でも数日ほど。そのため、最初のアップグレード計画は非常に重要なものになる。

 「計画策定後、現システムからコピーをかけてアップグレード環境を構築し、アプリケーション担当にて検証やプログラム修正などの作業を行います。その後、ほかのシステムやツールと連携できるのかテストしていきます。社内には、最新版のSAP ERP6.0に関するノウハウが蓄積されていますが、やはりバージョンが変わることで、未知のエラーが起こる可能性があるので、慎重に進めなければなりません。これを繰り返し、本番移行の数カ月〜数週間前には、ダウンタイムを定め、手順を固めていく作業に入ります。同時にアップグレード環境での運用ジョブの設計やバックアップの計画などの運用設計を見直し、運用担当とともに本番移行にのぞんでいきます」(佐治氏)。

 これだけの多様な仕事を、円滑に進められるのはなぜか。「SAPよりSAP製品の導入方法論が提供されており、こうした方法論を軸にプロジェクトが動いているため、担当分野が異なっても、作業内容や管理手法などメンバー間で共通理解できる部分が多いのではないでしょうか」と佐治氏はいう。

 具体例として、オフショア開発チームとのやり取りを考えてみよう。佐治氏は開発チームのリーダーということで、オフショア開発チームとも密な連携を取る必要がある。言語は違えど、どの部分をどのように開発しないといけないか、どこまで進んでいるかは、SAPという軸があることで、的確に把握できるようになる。意思疎通もやりやすい。「SAPを介することで、コミュニケーションを取りやすくなるのは、プロジェクトを進める上で強いと思います」(佐治氏)。

   SOA時代のシステム設計・開発スキルをいかに習得するか

 将来の目標について、佐治氏は「インフラ分野を担当しているので実感するのですが、現在の基幹システムは1つで成り立つものでなく、周辺にあるストレージや帳票系システムまで含め、統合的に成り立っていると思います。将来的には、SAP製品のスキルをベースに、基幹システム全体を統合的に見られるスキルを身に付けたいですね」と語る。今後、SOA環境がより進んでくると複数のシステム間の連携が多くなるため、例えばパフォーマンスチューニング1つだけでも、関連するシステム全体でのチューニングが必要になると予想される。複数のシステムの自律性を保ちつつ、全体の動きも見据えてアーキテクチャを設計しないといけないからだ。

 そういう意味で、「SAP ERPを含めたパッケージを活用することで、こうした問題も効率的に解決できるようになるのではないか」と佐治氏は見ている。つまり、SOA時代になってくると、パッケージが持つ利点として、目に見える機能だけでなく、非機能要件の保証でも大きな効果を生み出す可能性があるということだ。

 こうしたことから、SOAアーキテクチャを実現しているSAP ERPに携わることで、得られるスキルは大きい。アップグレードプロジェクトに関していえば、SAP自体が持っている変更管理ツールやユーザー管理の仕組みを活用することで、より効率的にシステム全体を見ながらアップグレードを進めていくことができるという。「これだけをやっていればいい、というものではありませんが、少なくとも、パッケージを活用することで大規模システム刷新におけるモジュールやプログラムの管理手法が確立されているため、一から全部作っていくより効率的ですし、どういう情報をどのように管理していくべきか、理解しやすくなります」(佐治氏)

 佐治氏は、現在関わっているSAP製品をベースに、テクニカルな面で基幹システム全体を把握できるスキル習得を目指している。そのため、社内外の勉強会やセッションにはできるだけ参加し、知見を広める努力を続けているそうだ。「SAP製品のスキルをベースに1つひとつステップアップを図っていき、将来的にはエンタープライズSOAのアーキテクチャの設計に携わっていきたいと考えています」(佐治氏)。

自分戦略研究所、フォーラム化のお知らせ

@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。

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