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最新データで見る「エンジニアのキャリア事情」

第4回 理系出身vs文系出身のSE出世事情

Tech総研
2004/9/1

エンジニアの仕事は理系向きか。文系は不向きなのか。適性も出世も、突き詰めて考えれば個人の素養に帰結するのではと思いつつも、やはり気になる話題だ。大学受験時代の選択から浮かび上がる志向、学生時代に得た知識、何かどこかで関係するような気がする。エンジニアの出世における理系と文系の違い はあるのか、エンジニアの本音に迫る。(Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載)。

理系
 互いの意識
文系

■昇進スピードに違いはあるか?

 理系&文系のエンジニア各50人に昇進のスピードについて聞いたところ、過半数の人が「違いがない」という答えだった。しかし理系では3人が、文系では1人が「違いがある」と回答。その4人のうち3人は「技術力などで理系が有利」だと答えているが、理系出身者の1人が「文系の方が昇進が早い(工学部出身・30歳)」という回答だった。昇進のスピードに理系や文系の違いはなさそうだが、一部では差があると感じている人もいるようだ(図1参照)。

図1 昇進スピードに関しては、理系、文系ともに最も多い回答が差はないという結果

■給与や待遇に違いはあるか?

  昇進のスピードの回答に比べ、給与や待遇に関しては、「違いがある」と感じている人の数が理系では6人、文系では3人とやや上回った。文系側は「職種にもよるが理系に比べて給料が安い(哲学部出身・34歳)」「SEに関していえば仕事の質などに違いが必ずある(経営学部出身・33歳)」と、理系よりも給与や待遇が悪いことを指摘。理系側では「研修していて給料がもらえるなんて理系だけだと思う(工学部出身・31歳」「IT時代なので理系の方が仕事も多く給与もよい(理工学部出身・34歳)」などの意見が目立った。理系では25人が、文系では35人が違いはないと答えているが、昇進よりも給与などに違いを感じている人が多いようだ(図2)。

図2 給与や待遇も多くの人が理系、文系の差を感じてないようだ

理系
 実際の出世事情
文系

 昇進や給料、待遇などの質問で、大半の人が理系と文系の違いはないと回答したが、詳しく調査してみると、採用時から3年目くらいにかけて、その差を感じる人が多かった。それではいったいどんな部分で理系と文系の違いを感じていたのだろうか。具体的な意識をアンケートのコメントから探ってみた。

■採用時・入社時

 苦労せずに就職できたと理系。文系は入社後に頑張る人が多い。

理系
 「学校推薦での採用で就職活動に苦労しなかった(情報学研究科出身・28歳)」「ラクに就職できた(工学部出身・27歳)」などと答えた人が50人中21人。「パソコンや数学、プログラムなどができたことで仕事 にも余裕をもって対応できた」と答えた人が11人と、採用時や入社時に理系出身のメリットがあったことを語る人が目立った。その一方で、「英語力や文章力が足らない(理工学部出身・35歳)」と感じる人が4人。「融通が利かないと思われる(理学部出身・33歳)」「話し下手だと思われやすい(基礎工学部出身・27歳)」と、偏見を感じた人もいる。

文系
 50人中24人が「特に差は感じなかった」と回答。「経済や経営について話ができたのが好印象になった(経済学部出身・32歳)」「入社試験の最終は小論文だったので楽だった(法学部出身・29歳)」など、文系の利点を感じている人も4人いた。入社後に関しては、「技術コンプレックス」を感じる人が2人いたものの、「できなくて当たり前なので気負わないで研修ができた(文学部出身・29歳)」「専門知識がないことで頑張ろうという意欲がわいた(人文学部出身・31歳)」など、ポジティブな意見が上回った。

■入社1年目

 専門知識や技術面では理系が有利。語学やコミュニケーションは文系が有利か。

理系
 「業務を任されるのが早かった(情報システム学研究科出身・30歳)」「文系よりよい仕事が与えられた(工学部出身・29歳)」「仕事を覚える頭の受け入れ方が有利」「重要な仕事を任せてもらえた(理学部出身・35歳)」など、理系であることをメリットに感じた人が18人おり、「特に差は感じなかった」と回答した24人とほぼ並ぶ結果になった。逆に理系であることがデメリットに感じた点を聞くと、「英語ができない」ことや「文章力がない」ことを挙げる人が7人おり、そのほか「ITに関しては理解しているとして説明をされる(情報システム学研究科出身・30歳)」「過剰に期待される(工学部出身・31歳)」などと、3人が不満を述べた。

文系
 「業務要件ののみ込みは理系の人よりも上回っていた(農獣医学部出身・27歳)」「専門知識がない分、ユーザーの立場で考えることができた(家政学部出身・31歳)」「英語版のマニュアルしかなくてもなんとかなった(学芸学部出身・34歳)」など、15人が語学力やコミュニケーション能力が業務に役立ったと回答。その半面、「難しい計算式が分からなかった(総合情報学部出身・28歳)」など、専門知識や数学的要素に悩まされた人も同数の15人いた。中には「最先端のプロジェクトには参加できなかった(経営学部出身・33歳)」「会社の本流でないところに配属された(経済学部出身・28歳)」など、明らかに理系との差を感じた人も2人いた。

■入社3年目

 徐々に差がなくなってくる3年目。それぞれ適材適所で能力を発揮。

理系
  「同期190人の中で最も早くリーダーに昇格した(理工学部出身・35歳)」「技術面を高く買われて重要な地位に採用された(基礎工学部・27歳)」という人もいるものの、「特に差は感じなかった」と答える人が31人と、入社1年目の24人から増加。逆に15人が「職種が限定される(情報学研究科出身・28歳)」「文系の方が柔軟性がある感じがする(工学部出身・31歳)」「文章を書くことが苦手(工学部出身・30歳)」などを理由に、デメリットを感じると述べた。この回答は入社1年目の7人に比べると倍で、働き始めるとともに、徐々に理系と文系の差がなくなってきていることがわかった。

文系
 採用時・入社時に24人だった「特に差は感じなかった」と答える人が、26人と若干増えたものの、「設計書の日本語を添削する人材として重宝された(経済学部出身・30歳)」「プログラマやシステムエンジニアの人とユーザー間の橋渡しができるようになった(家政学部出身・31歳)」など、18人が文系ならではのスキルを生かした業務に就くことができたと答えた。専門知識や理数系の慢性的な苦手意識を訴える人も15人いたが、「技術面は追い付ける(経済学部出身・32歳)」「1年目以降は差を感じなかった(経済学部出身・28歳)」など、2人が技術面をばん回できたと答えている。

■転職時

 出身学部による偏見もなくはないが、ほとんどが転職に影響しなかった。

理系
 転職経験者15人中10人が「特に文系との差はなかった」と回答。「最低限の技術力みたいなものが明示できるのは有利(工学部出身・31歳)」「学生時代から培ったスキルがあるので同業であれば労せず転職できる(理工学部出身・35歳)」と述べる人もいるものの、「人づき合いが下手だと思われた(工学部出身・29歳)」「選択肢が技術系に偏った(鉱山学研究科出身・32歳)」などと、転職時に理系であることがマイナスの要因になってしまった人もいた。

文系
 転職経験者18人中11人が「特に理系との差はなかった」と回答。「受験できる会社が減った(経済学部出身・35歳)」「文系は理論的思考ができないと思われた(情報科学部出身・34歳)」とマイナスの要素を挙げる人もいたが、「営業から総務までいろんな使い道があると思ってもらえた(経済学部出身・31歳)」「文系出身 でも理系の同期に負けないように努力したことが好印象だった(文学部出身・31歳)」と、プラス要素を答える人もいた。

理系
 実際の給与事情
文系

 理系出身者の初任給が21.04万円なのに対して、文系出身者は19.98万円。最初は約1万円の差があるものの、理系の昇給金額が1万〜3万5000円なのに対して、文系は1万5000〜3万5000円とボーダーラインがやや高め。働き始めて3年目にして、理系と文系の給料の足並みがそろうだろう。とはいえ、5万円以上昇給した人は理系が5人に対して、文系はなんと16人も。そこで30歳以上の人の年収をチェックしてみると、文系は給与に幅があるものの、ほぼ理系と大差なく、600万〜700万円未満が多いことが分かった(図3)。

図3 個別には差があるが、平均するとだいたい同じような金額

理系
 管理職に出世したらどう見られる?
文系

 スキルに感心する声があるものの、不満の声も多く意見はキビシメだ。

理系から見て文系の上司をどう思う?
 「特に違いはない」という回答が15人。「柔軟性があると感じる(工学部出身・31歳)」「発想が豊か(情報システム学研究科出身・30歳)」などと感心する声はあるものの、「技術的にできること、できないことの区別ができなくて困る(工学部出身・29歳)」「最低限の知識は持ってもらいたい(工学部出身・31歳)」など、技術面で不満を感じる人が15人もいた。そのほか7人が、「文系の上司がいない」と回答したことに注目したい。

文系から見て理系の上司どう思う?
 「特に違いはない」という回答が18人。「かなりち密でデキる上司が多いと感じる(経済学部出身・28歳)」「専門性でかなわない。幅広い知識も持っている(経済学部出身・31歳)」と褒める声も若干あるが、「コミュニケーション能力や文章能力がない」ことを指摘する意見が9人。また、「頭が固い(外国語学部出身・27歳)」「理詰めで人を追い詰める(文学部出身・32歳)」「細かいことにこだわる(人文学部出身・31歳)」など、16人が不満を述べた。

理系
 一般的な昇進事情
文系

 コミュニケーションやマネジメントスキルがキーポイントになる。リクルートエイブリック コンサルタント(IT/通信業界担当)細井智彦氏によれば、

 「企業サイドで理系や文系の別を問われることは、ほとんどありませんね。ですので、採用の時点から違いや差があるということはありません。ただ上流工程になればなるほど、コミュニケーションスキルが求められるようになってきます。要は顧客の要望に対して最適なものをプロジェクトメンバー全体に正しく伝え、いかにカタチに落とし込めるか。このためのコミュニケーションスキルや企画・提案、マネジメントスキルなどは、一般的に文系出身者が有利だと思われがちな分野です。ですが、理系出身者がこれらのスキルを身に付ければ、さらにアピール度は高くなりますね。エンジニア経験を3〜5年経た後の昇進は、それぞれのヒューマンスキルがキーポイント。理系なら文系の、文系なら理系の利点を吸収して、両方の要素を兼ね備えられれば有望です」

という。

☆エンジニアを続けていけば理系・文系の違いはない
 今回の調査では、理系や文系で昇進や待遇に違いを感じる人は少ないと出た。一般的な感覚も概して同様とみていいだろう。だがよく見ると、文系の方が差が「ない」と答える人が理系をやや上回り、確信は文系の方が強そうだ。予想していた逆境を乗り越えた自負もあるのだろうか。

 違いがあるとしたら、1つは採用時や就職直後だ。特に理系は「苦労が少なく就職できた」と感じる人が多いが、いま就職活動中の学生にもその傾向が残るかどうか興味深い。なぜなら、調査対象は27歳〜35歳。就職事情が変化したこともあるし、学生時代のパソコン保有率も年々と理系・文系で差がなくなりつつある。また、調査対象は約5〜10年ほどエンジニアを継続している人だろうから、文系・理系で業界残存率に差があったのかどうかにも興味がわく。

 ただし採用から就職直後に差があるにしても、エンジニアを続けられれば数年以内には確実に収束していくようだ。学生時代の経験差は就職後の専門知識が溝を埋めるだろうし、むしろ業務でどれだけ学んだかが個人の実力となって現れてくる。経験を積めば専門技術だけではなく、顧客とのコミュニケーションや業務分析力も大いに求められるようになることも見逃せない。

 もう1つ、意外な違いが上司との関係から見いだすことができた。別系統の上司に対して「違いがない」という回答がどちらも3分の1ほどあるが、「不満」を述べる意見がどちらも同じく3分の1ほどある。やはり志向や傾向で違いは残るということなのだろう。同僚でも上司でも、別系統の人とうまく付き合うコツは心得ておきたい。

 細井氏が最後にまとめているように、 理系なら文系の、文型なら理系の利点を吸収して、バランスよい能力を持つことができれば理想だ。

(加山恵美)

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