Tech総研
2006/1/27
昨年冬のボーナスの額は、景気回復を裏付ける形になったようだ。アンケートでは6割が「ボーナスが増えた」と回答している。だが満足度調査では、まだ4割が「不満」という。なぜか。(Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載) |
PART1 |
■6割の人がボーナス「増えました」
Tech総研では、25〜39歳の500人のシステム開発、運用・サポートなどのソフトウェア・ネットワーク系、回路設計、機械・機構設計などのハードウェア系のエンジニアを対象に、2005年冬のボーナスについて調査を行った。
図1 2004年冬に比べてボーナスは増えた? 減った? |
それによると2005年冬のボーナスは、1人平均68.5万円(額面)となった。職種別ではソフトウェア・ネットワーク系が67.2万円、ハードウェア系が69.9万円で、若干ハードウェア系職種が高いという結果が出ている。
同時に2004年冬のボーナス支給額も尋ね、その平均額64.0万円と比べると、前年比7%増で平均4.5万円上がっている。2004年より「増えた」という回答は、ソフトウェア・ネットワーク系が56%であるのに対してハードウェア系は64%と、ここでもハードウェア系優位の傾向が見られる。全体で見ると6割の人が「増えた」と答えているが(図1)、その割合は国内大手企業が64%と最も高くなっている。
ちなみに、日本経済新聞社が2005年12月中旬にまとめた調査(830社)によれば、全産業の1人当たり税込み支給額は80万4458円で、94年冬実績に対して3.54%の伸びを示している。同調査によれば支給額は3年連続で前年実績を上回っており、景気回復のすそ野の広がりを反映する結果となっている。
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表1 2005年冬のボーナス・職種別に見た平均支給額 |
■相変わらず4割が「不満だ」
図2 不満派が満足派を上回る! 2005年冬のボーナス額・満足度 |
さて、ボーナスへの満足度はどうだろうか。回答で最多を占めるのは「普通」という感想だが、「非常に/まあまあ満足」が29%であるのに対して「やや/かなり不満」が39%と、不満が強く出ていることが分かる(図2)。この傾向はほぼ昨年と同様だ。
成果主義型の人事制度の浸透率は年々高まっており、今回の調査でも「今後導入予定」を含めると成果主義導入率は80%に達する。つまり年功序列ではなく、部署や個人の業績がボーナス額に反映される傾向が強まっている。
そのため「不満」と答える人の理由にも、大きく2つの傾向が出てくる。1つは同業他社、異業種と比べて支給額が少ないということだが、もう1つ、「正当な評価がされているとは思えない」という評価システム自体への不満も根強いものがある。アンケートでも65.4%が「正当な評価がされていない」と回答している。
PART2 |
冬のボーナスをもらったばかりのソフトウェア系エンジニア3人に集まってもらい、何が満足でどこが不満か、今後ボーナスをアップさせるためにはどうしたらよいか、本音を聞くことにした。
Oさん(29歳) 光学メーカー系システム会社/画像処理ソフトウェア開発/大学卒/勤務7年目/独身 |
Iさん(28歳) 医療器械メーカー/ソフトウェア開発/大学卒/勤務7年目/独身 |
Sさん(26歳) 総合電機メーカー系システム会社/金融システム開発/大学院修士/勤務3年目/独身 |
◎2005年冬のボーナス 50万1600円(額面) 41万1486円(手取り) |
◎2005年冬のボーナス 62万3530円(額面) 50万987円(手取り) |
◎2005年冬のボーナス 50万円(額面) 34万270円(手取り) |
■グループ連結で、個人、部署、会社の業績が吸収されてしまう
──2005年冬のボーナス、いかがでしたか?
O:月給換算でいうと、2004年冬が2.6カ月だったのが、今期は2.2カ月と大幅ダウンです。いいときは3.1カ月ぐらいありましたから、なんか絶望的。でも、まだ夏よりは良かった。だって、夏は一部現品支給ってことで、そんなに欲しくもなかった親会社の製品を支給されたんですよ。
私の会社はメーカー系のシステム子会社。業績は悪くないんだけれど、親会社の業績が良くない。連結経営だから、結局ボーナスもそれに連動してしまって……。親会社より多く支給できないってことは分かるんですが、こういうときだけは連結されちゃうのは困るなって思ったりしますね。
I:私の会社も前年に比べたらあまり良くないです。外国製品に追われて、いま苦しいんです。ボーナスも前年冬が2.4カ月だったのが、2.3カ月に減りました。先輩の話なんか聞くと、いいときには特別賞与が出たっていいますからねえ。
ただ、個人的には2005年春にベースの基本給が上がったんで、2004年冬よりもアップしています。2005年夏との比較だと、夏は額面で60万円を切っていましたから、今回少しはアップしたという感じです。
S:私のボーナスの構造は2つに分かれていて、本賞与が47万円、インセンティブ賞与が3万円で計50万円ジャストです。基本給の昇給分が反映されて、2004年冬よりは2万〜3万円アップしました。でも金融システム投資の好調で、部の業績はいいんだからもっと欲しいなあと。ちなみに手取りがこんなしかないのは、持ち株会への出資金や組合費など控除分が16万円ほどもあるためです。
うちの場合、年初に本賞与の年間支給額が決まってしまい、それを夏と冬で半分に分けるから、冬は夏とほぼ一緒の金額になります。インセンティブ給与というのは、0〜10万円まで幅があると聞いていますが、どういう基準で決まるのかはよく分からないところがあります。
■評価はされるが、それがボーナスに反映されない不満
──社内において、個人の成果がどう評価されるかとか、その評価がボーナスにどこまで反映されているのかとか、悩ましい問題がありますね。
I: 私は直属上司の評価はまあまあでしたが、その上の部長級の評価は非常に高かったんですよ。前回と比べると1.2倍ぐらいの評価点を付けてもらっています。ただ、ボーナスにそれだけの差はたぶんないと思います。
S:うちは私たちの上の30代のエンジニアの層が厚い。でも、彼らは基本的に年功序列なんですよ。これが一種の既得権みたいになっている。20代については、上司からの評価はもちろんあるけれど、その差が昇給昇格、ボーナスに反映されているかとなると疑問。ただ情報処理技術者試験などの資格を取らないと評価は上がらないとはいわれています。
インセンティブ賞与というのもあいまいで、誰が見ても明らかに仕事の出来不出来がはっきりしている人は差がつくけれど、そこそこ頑張っている人だと、会社も差がつけにくいようで、一律になってしまう。制度としてあまり意味がないような。
■ボーナスアップのためには、自分しかできない仕事を確立すること
──その中で、次のボーナスを確実にアップさせるためにはどうしたらいいでしょうか。
S:ほとんどが親会社経由の仕事だし、業績も結局は親会社に連動する。黙っていても給料はもらえるという半面、「このままでいいのか」という気持ちはありますね。もっと自社から技術を発信するという姿勢があってもいいと思う。だから私も、この温室みたいなところが嫌で、転職を考えています。
O:業績低迷の中で、自分1人だけ突出して評価を上げていくのは難しいですね。だから会社の業績を上げていく、そのために努力するしかないと思っています。いま自分がかかわっている新製品は試作品のユーザー評価が高い。これが売れれば来期は少しは良くなるかなと期待しています。
I:メーカー系の場合、やはり新製品が出て売れないとボーナスは上がらないという構造がありますよね。その中でいかに自分の評価をアップさせるかといったら、やはりプロジェクトの中で自分の発言力を高めていくことですね。自分のチームや部署の中で、自分にしかできない仕事をいかに数多く作っていくかだと思います。私の場合は組み込み系ですから、ハードウェアが分かっているということを強みにしていきたい。ハード仕様面からソフトウェア開発について意見をいっていくことが大切だと。
──最後に、冬のボーナスの使い道を聞かせてください。
I:そろそろ独身寮を出なくてはいけない年齢なので、来年の引っ越し資金。それと車のローン、国内旅行の準備、ですね。国内旅行はいまのプロジェクトが一段落しないと休みがもらえませんけれど(笑)。
O:私も引っ越しを予定しています。あとはせいぜい新しいPCを買うぐらいかな。
S:技術書をまとめ買いします。会社がなかなかこのあたりを支援してくれないので、仕方がありません。それと株式投資を少しやっているので、そのための軍資金補充。株は資産形成というより、ほとんど趣味のようなもの。今年は全体に負けが込んでいるものですから(笑)。
PART3 |
■連結経営のマイナス面がボーナスに出る?
景気回復は明らかになり、冬のボーナスは製造業が前年に続き高い伸びを維持するとともに、非製造業も伸び率が拡大している。しかし、同じ製造業でも業績はまだら模様で、ボーナスの企業間格差が広がっていることも確かだ。
たとえ一事業部の業績が良くても、会社全体の業績が伸びないと、なかなかボーナスに反映されない。グループ企業の中の子会社、孫会社に属している場合、会社で見れば業績がアップしていても、親会社への遠慮からボーナスを奮発することができないという構造も基本的に変わっていない。そうしたグループ経営・連結経営のマイナスの側面がボーナスに表れると、もらう方としてはモチベーション維持に苦労する。
■30代ではボーナスにもっと差がつく
企業はこの10年ほどの成果主義賃金体系への移行で、個人の支給額に格差をつける方向に進んでいるが、今回の座談会の様子を見る限りでは、20代ではまだ明確な差が表れていないようだ。そのことは人によって「安心」とも「不満」ともとらえられる。30代、40代に比べると20代は成果主義を徹底しにくいという面はあるものの、このあいまいさが不満の温床になっていることは否めない。
図3 30代は会社業績と個人の実績で評価が決まる? |
ただ、30歳に近づくにつれてその差がはっきりしてくることも事実。企業によっては、同期の大卒社員で3倍以上の格差があるという。
こうした「格差年代」に備えて、いまから準備しておくことが大切だ。幅広い技術知識、業務知識はもとより、その人でなければできない特化した技術を習得するだけでなく、そのアドバンテージを日常の仕事の中で絶えずプレゼンテーションし、証明していくという姿勢がこれからは欠かせなくなるだろう。
☆差が出るのは30代から? | |
2005年冬のボーナスがおおむね好調だったのは明白のようだ。Tech総研の調査によると平均支給額は前年比7%増、日本経済新聞社の調査では支給額は3年連続で前年実績を上回っているとある。 満足度を大ざっぱに見ると「満足」3割、「普通」3割、「不満足」4割となり、満足より不満足の方が目立つ。好景気といわれるが、4割もの人が「不満」を感じているのは懸念すべきことのように思う。座談会を見ても「増えたのは確かだが、もう少し増えてもいいのでは」というのが本音のようだ。 一部ではバブル時をほうふつとさせるような浮かれた話も聞くが、エンジニアには縁遠いということか。いや、座談会の参加者がまだ20代だからというのもあるようだ。努力した結果が正当に反映されないもどかしさもあるようだが、20代だとまだ明確な差は出にくいようだ。 本格的に差が出てくるのは30代以降とある。30代近くになるとボーナスの数字で個人の業績と会社の業績をずしりと実感することになるようだ。心の準備と対策はできているか? (加山恵美) |
この記事は、Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載しています |
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