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第28回 火事場エンジニアの武勇伝に赤信号

Tech総研
2006/6/22

火事場の何とやら。非常事態では気合いで普段の何倍もの集中力を出せるが、それが終われば反動がくる。自己犠牲型、負けず嫌い型、孤軍奮闘型それぞれの「燃え尽き」にどう対処すべきか。(Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載)

 

はじめに:
火事場が終わったとき、燃え尽きた感覚はありましたか?

激務が目に浮かぶ「燃え尽きの経験あり」が7割!

図1 激務の後、体調や気分の変化を感じたことがありますか?

 「火事場のばか力」はどのような場合に発揮されるのだろうか。エンジニア200人に行ったアンケートの結果、「納期に追いつめられた」「他人のために頑張った」「嫌味な上司や先輩などに負けじと頑張った」「自分以外に誰もやる人間がおらず、孤軍奮闘した」の4つのケースに大きく分類できることが分かった。つまり、「納期」「貢献したい気持ち」「意地」「孤独」が火種となってエンジニアは火事場に突入するようだ。

 また火事場を乗り越えた後、「仕事に集中できない」「やる気が出ない」など、いわゆる「燃え尽き」の状態を経験したことがあるかどうか聞いたところ、全体の69%がYESと答えた(図1)。エンジニアの厳しい仕事環境を物語る結果といえるだろう。

図2 激務の後の燃え尽き感はどれくらい続きましたか?

 その燃え尽き状態がどのくらいの期間続いたかを集計した(図2)。1日から1週間程度が大半を占めるが、1カ月程度が16%、2〜3カ月程度が13%、半年程度が6%、1年以上は7%と、燃え尽き状態が中長期にわたって続いたケースも少なくない。過酷な業務の後の数日間、心身の疲弊感に見舞われるのは仕方のないことだが、それが数週間以上続く場合は注意が必要だ。「燃え尽き(バーンアウト)症候群」が長期化すると「うつ病」に至る危険性もある。こうした状況に陥らないよう、以下、火事場ごとの対処法を参考にしてほしい。


 

納期の火事場:
どんなに時間がなくても間に合わせないと!

 開発競争の渦中にいるエンジニアは、いつも納期のプレッシャーと背中合わせ。ここではそんな納期と戦うエンジニアの姿から、納期ストレスとの付き合い方を考える。

■食事と睡眠と入浴以外はすべて仕事
少しずつの遅れが重なり、納期までの日程がぎりぎりに。PC上の評価は終わったものの、実機評価は何が起こるか予想できない。毎日朝8時に出社し、午前2時までバグチェックを続けた。とにかく体力の限界で、周りがまったく見えない。食事と睡眠と入浴以外は仕事だけの日々。でも、とても充実していたのも事実だ。(回路・システム設計 28歳 女性)

燃え尽き期間
気が抜けてしまい、何かエンジンがかからないような感じが続いた。
1週間程度


■海外出張先でも徹夜でバグチェック
携帯電話のプログラムを日本で開発し、現地でテストを行うことになっていた。いざ現地テストを始めると、まったく動かない。バグ修正だけに1カ月以上費やしてしまい、残り3週間のところで3日徹夜で3日帰るというスケジュールに切り替え、何とかテストを終わらせた。帰国後、体調を壊して2週間入院してしまった。ただ自分としては、やれば何でもできると自信のついた作業ではあった。(システム開発 34歳 男性)

燃え尽き期間
燃え尽きたように感じて、退院してもしばらくは仕事が手に付かなかった。
1週間程度

専門家からのアドバイス ライフバランスマネジメント 代表取締役社長 渡辺卓
納期に追われるエンジニアが心掛けておきたいこと

 企業の開発競争は激しく、エンジニアは常に納期のプレッシャーにさらされています。まじめで完ぺき主義のエンジニアほど、納期を死守すべく過酷な作業に埋没しがちですが、いくら頑張ってみても自分1人の努力には限界があります。1人で納期ストレスを抱え込まずにうまく他人を巻き込み、チームで分業しながら仕事を進めるように心掛けてください。

納期ストレスへの対処法

 立正大学の松原教授によって開発されたLAC法というカウンセリング技法があります。小さなカードや付せんに、仕事の案件だけでなく、家族の行事や恋人との約束、趣味や勉強など「やりたいこと」「やるべきこと」を書き出し、それを表組みシートの上に張って優先順位を考えてみるという手法です。カードに書き出すことで、漠然と思っていたことが視覚化され、頭の中が整理されます。

 企業で働くエンジニアにとって納期の厳しさはやむを得ないところがあるとは思いますが、あまりに納期のプレッシャーが強く、それが常態となっているような場合、職場自体に問題がある可能性もあります。そのような職場では燃え尽きだけでなく、うつ病や過労死の危険性も高いので、上司や人事などに相談しましょう。それでも改善されないなら、転職を考えるのも自己防衛のために必要なことだと思います。



 

貢献の火事場:
あなたのためなら自分はどうなってもいい!

 好意を抱く上司や先輩、同僚や部下のために、自分を犠牲にして頑張ってしまうエンジニアたち。ここではそんな他人思いのエンジニアの姿から、自己犠牲ストレスとのつき合い方を考える。

■約1カ月間、前任者が残したバグだらけのコードと格闘
前任者がダウンしてバグだらけのコードが残った。ほかの会社が作成したコードのバグ原因がどうしても分からない。「納期が迫っている」と嘆く上司のために、約1カ月間休みなしで毎日14時間労働を続けた。納品後、「何でも好きなものを食ってくれ!」と上司が中華料理屋へ連れて行ってくれたので、大好きなラーメンを食べた。肉体的にはつらかったが不思議と精神的には苦ではなかった。(システム開発 32歳 男性)

燃え尽き期間
朝どうしても起きられなくなり、何よりも睡眠欲が強くなった。
1カ月程度


■入社した人の失敗が続出! 2人分の作業を1人でこなす
お世話になっていた会社の総務部の人が当社にエンジニアとして採用された。ところがエンジニアとしては経験も力も不足していて失敗続出。フォローや手助けを通り越し、2人分の業務を1カ月ほど行うことになった。「命までは取られまい」と開き直ってからは信じられないほど効率的に仕事をすることができたが、納期の翌々日に電車内で倒れた。しかし、納期との戦いとは違い、どこか快い感触があったことを覚えている。(システム開発 36歳 男性)

燃え尽き期間
戦いの後の静けさというか、抜け殻のようになっていた。
1週間程度

専門家からのアドバイス ライフバランスマネジメント 代表取締役社長 渡辺卓
 他人のために頑張るエンジニアが心掛けておきたいこと

 自分よりも他人を優先しすぎてしまう、他人から頼まれると断れないといったタイプは、「本当はやりたくないのに断れない」という葛藤(かっとう)が心に蓄積していき、燃え尽きやうつ病の引き金になることもあるので注意が必要です。

自己犠牲ストレスへの対処法

 他人のために頑張ってしまう人は、自分に対する他人の期待を過剰に見積もり、その期待に応えられないことを思い悩む傾向があります。期待に応えられない自分を責め、「こうしなければならない」と思い込むと、そこにばかり注意が向いて悪循環に陥ってしまいます。あるがままの状態を受け止め、開き直ってしまうことも必要です。



 

意地の火事場:
お前にだけは負けたくない!

 気にくわない上司や口の悪い先輩、同僚などへの敵対心を燃やして頑張ってしまうエンジニアたち。ここでは、そんな負けん気の強いエンジニアの姿から、敵対心がもたらすストレスとのつき合い方を考える。

■週末、早朝から深夜まで休憩も取らずに実験に没頭
週末、日ごろから口の悪い先輩が「これ月曜の朝までに結果出して。まあ君にはできないと思うけど」といった。確かに相当な無理難題だったが、土曜も日曜も朝6時に出社し、夜11時まで休憩もほとんど取らず実験に没頭した。その結果、日曜の昼には結果を出すことができた。実は土曜の夜に上司がやってきて「おう、頑張ってるな」と声を掛けてくれたのだが、そのことにとても励まされた。(光学技術 30歳 男性)

燃え尽き期間
燃え尽きた感じはなかった。
なし


■計画していた旅行にいくために、毎週休日出勤
あまり人を信頼しない上司に嫌味をいわれるのが嫌で、通常は2カ月かかる開発試作を1カ月で終わらせた。毎週ほとんど休日出勤だったが、計画していた旅行に行けるようにと頑張った。周囲には助けてくれる人が多く、人とのつながりを実感することができた。(機械・機構設計 38歳 女性)

燃え尽き期間
あまり食事ができなくなり、10kgもやせてしまった。
半年

専門家からのアドバイス ライフバランスマネジメント 代表取締役社長 渡辺卓
負けず嫌いのエンジニアが心掛けておきたいこと

 負けず嫌いで頑張るのは必ずしも悪いことではありません。そうした意地があったからこそ、難しい技術開発を成し遂げられたというエンジニアも多いと思います。

 しかしストレスやうつに強いのは、「自分は自分、他人は他人」と考えることのできるタイプです。自分と他人を比較し、他人を強く意識しすぎるタイプは、勝ち負けに一喜一憂するのでストレスを感じやすく、うつにもなりやすい傾向があります。

敵対ストレスへの対処法

 ほかのストレスにも有効な、「ストレス日記」を付けるという方法があります。上司に怒鳴られて頭にきたとか、悲しい思いをしたという体験を5行程度の短い文章につづっておき、そこに「怒り90%」「無力感80%」というふうに評点を付けておきます。それを1週間後、1カ月後に見直して評点を付け直してみる。これを続けていくと、同じようなストレス状況が起きたとき「過去にも自分は何とか乗り切ったのだ」ということが感覚的に分かるようになり、ストレスをため込みにくくなります。書くのが面倒な人には「メンタフダイアリー」など無料で専用の自己カウンセリングができる日記サイトがあります。ブログやSNSなどを使うのも便利でしょう。



 

孤独の火事場:
頼れる人は誰もいない、自分がやるしかない!

 上司や先輩、同僚のサポートを受けられず、孤軍奮闘するエンジニアたち。ここでは、そんな孤独なエンジニアの姿から、孤立のストレスへの対処法を考える。

■上司の代わりに先頭に立ってプロジェクトを推進。連日の徹夜で胃潰瘍に
開発プロジェクトで、マネージャと2人のリーダーが全然仕事ができず、リリースが遅れてしまった。仕方なく、その下にいた自分が先頭に立ってプロジェクトを終わらせた。途中、マネージャは失そうし、リーダーは逃げ、自分は連日の徹夜作業で胃潰瘍になった。本気でやばかった。(システム開発 32歳 男性)

燃え尽き期間
何から手を付ければよいか分からなくなって、パニック状態に陥ることがあった。
1週間程度


■総指揮官として不眠不休で働いた。資金も立て替えたが……
プロジェクトに必要な人員の半分しか投入しない会社だった。そのためプロジェクトリーダーに負担が掛かり、次々と退社。気が付けば、私が社内で一番のキャリアになっていた。総指揮官として赴いた現場は悲惨な状況で、1カ月間、睡眠時間0〜3時間で働き続けた。しかも会社からは満足な資金も投入されず、私が貯金をはたいてスタッフの宿泊代やシステム運用の雑費を立て替えた。その後会社は倒産。立て替えたお金も一部しか返ってこなかった。(システム開発 37歳 男性)

燃え尽き期間
うつとパニック障害を発症し、長期の療養を行った。この業界から足を洗うことも考えたが、某研究所から共同研究を持ち掛けられ、納期に追われない開発を行うようになって、症状は出なくなった。
半年

専門家からのアドバイス ライフバランスマネジメント 代表取締役社長 渡辺卓

孤軍奮闘エンジニアが心掛けておきたいこと

 誰も助けてくれる人がおらず、自分が頑張るしかない状況に置かれている場合、グチをぶつけられる社外の友人をつくるなど、ストレスを発散できるセーフティネットを築いておくことが重要です。また、本当に人が不足していて、社員が次々と辞めてしまうような職場の場合は、労務管理上の問題になります。

 この点をしっかりと頭に置いて、自分だけで抱え込まず、人事や労働組合に改善の相談を持ち掛けることも1つの方法です。燃え尽きやうつに至るまで頑張ることは、広い視野からは会社のためにならないのですから。

孤軍奮闘ストレスへの対処法

 ストレスの軽減に、おしゃべりや笑いはとても有効です。また、メンタルヘルスの世界では、「ホンネでグチをいえる社外の友人を2人持っていると、燃え尽きやうつが少ない」ともいわれています。社内の先輩や同僚だとホンネを吐露しにくい部分もあるでしょう。1人で頑張るしかない状況から少しでも楽になるためには、そうした社外の友人、恋人や家族とのコミュニケーションの助けを借りることも大事なことですね。



燃え尽き症候群だと感じたら

ライフバランスマネジメント 代表取締役社長 渡辺卓(わたなべたかし)●1956年生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、コーネル大学で人事組織論を学び、ノースウェスタン大学でMBAを取得。その後、ペプシコ、AOL、シスコ・システムズなどを経て、ネットエイジに副社長として入社。2003年にライフバランスマネジメント設立。早稲田大学理工学部講師、認定産業カウンセラー。日本うつ病学会会員。メンタルヘルスの悪化に悩む企業向けに、MTOPなど予防・診断ツールの開発、各種研修・講演、コンサルティングなどを行っている。著書に『会社のストレスに負けない本』(大和書房刊)。

燃え尽き状態になりやすいエンジニアの環境

 企業で働く30歳前後のエンジニアは、非常にストレスの強い状況下にあります。企業の開発競争は年々激しく、納期は非常に厳しくなっています。仕事量が多い割に人員は少なく、昔は4〜5人でやっていた仕事を1〜2人でこなさなければいけません。派遣型のエンジニアの場合、職場の連帯感が希薄になっていて、孤立無援で頑張らなければいけない状況に置かれることも多いようです。

 エンジニアに多い、まじめで完ぺき主義といった性格特性もストレスに拍車をかけています。近年は上司と部下のコミュニケーションが希薄化しているため、過酷な業務に追われているにもかかわらず、ちゃんとした評価を得られないこともあります。そのため無力感や脱力感に見舞われてしまう。いわゆる「燃え尽き」の状態に陥ってしまいがちなのです。

燃え尽き状態が数週間続いたら赤信号

 むろん企業の側も、そうした状況を放置しているわけではありません。労働組合と協力してメンタルヘルスに力を入れる企業も少なくありません。今年の4月1日からは労働安全衛生に関する法律が変わり、1カ月で100時間以上残業した場合、産業医の診断を受けることが義務づけられました。

 ただ、急成長してきたIT業界の一部など、人員拡大に人事の力が追いついていない企業もあります。労働環境のひどいところほど人事は無関心という傾向も。こうした場合、転職の可能性を含めて、自己防衛の策を打っていく必要があるでしょう。

 特に燃え尽きの状態が数週間以上続くような場合は注意が必要です。過酷な業務の後、数日間脱力しているのは正常の範囲。しかも充実感があったのなら問題はありません。しかし、燃え尽きが数週間以上続いて会社に行けなくなるとか、睡眠や食欲に異常を感じるなど仕事や生活に支障をきたすようなら、うつ病の危険性もあります。心療内科による治療が必要です。気軽に相談してみましょう。

ストレスをため込まない日常的工夫を

 普段からストレスをためない工夫も必要です。まず、専門のストレステストを定期的に受けて、自分の状況をチェックしてみましょう。森林浴や釣りに行くなど、アナログの世界に浸る機会をつくる方法も有効です。

 ほかにも対処法としてしっかり睡眠を取り、娯楽や笑い、おしゃべりの機会を多くし、ヨガやめい想などでリラックスする。カラオケやゴスペルコーラス、音楽に合わせて腹式呼吸を行う音楽呼吸法などもお勧めですね。

 燃え尽きの症状が出ると食事や睡眠が不規則になってしまうことが多いので、バランスの良い食事と早寝早起きを心掛けてください。早寝は難しくても早起きは頑張ればできるでしょう。朝早く起きて日光を浴びると、うつなどを抑制するセロトニンという脳内神経伝達物質が活性化されます。燃え尽き状態が続くようなら、まずは早起きから始めて生活のリズムを取り戻してみてください。



☆ストレスとはうまく付き合おう

 働いて対価を得ることは、何らかの苦難を伴う。また誰もが最初から万能ではないので、困難に遭遇することもあるだろう。ある程度のプレッシャーがないと達成し得ないことだってある。まったくストレスを感じないとなると、よほどの実力者か鈍感な人か。それはそれでよさそうだが、あまりにものんびりと暮らしていると、成長の可能性を逃すことにもなりかねない。

 少しはストレスも必要だ。人間の体はよくできていて、ある程度までは自動的に調整する機能が備わっている。だが人間は不死身ではない。少年マンガのヒーローならどんなに攻撃を受けても気合いで復活してしまうが、生身の人間では無理だ。20代くらいまではある程度気合いで乗り越えられるかもしれない。だが年齢を重ねると、瞬発力の反動がいろいろな形で体や精神に現れてくる。

 だから、ストレスとはうまく付き合いたい。パフォーマンスを出すためのプレッシャーとして少しは必要だが、過剰なストレスは身を滅ぼしかねない。うまく制御するには自分がどれくらいストレスを受けているのかを客観的に知ることが必要だろう。体や心の変化を観測できるようになってほしい。そうすれば危険信号に早く気付き、早めにストレスを発散することもできるのだから。

(加山恵美)


この記事は、Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載しています


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