Tech総研
2006/7/13
CASE4 「開発センスのなさに自分の限界を感じて転職」…… COBOLシステム開発→情報処理営業Dさん |
文系の学部を卒業したDさんだが、ソフト会社に入社し、プログラマとして勤務することに。その後、どうしても乗り越えられないプログラムセンスの壁にぶつかり転職を決意。エンジニア経験を武器に同業種の営業職に就いた。
■エンジニア時代のプロフィール 私立大学の文系学部を卒業後、C言語などの知識がまったくないにもかかわらず、ソフト会社にプログラマとして入社。クライアント先に常駐し、COBOLシステム開発に6年間携わった。 |
■現在のプロフィール 大企業のシステム営業に転職。四国や北陸などでバーコードプリンタの販売に8年間携わる。その後PCとは無縁の事業部に異動になったことをきっかけに、再び転職を決意。現在、SES(システムエンジニアリングサービス)契約に基づいて社員を派遣する営業職に携わる。 |
エンジニアを辞めたワケ…… 「私は開発センスのなさに気付いて辞めました」 |
もともとエンジニアとしての知識はまったくなかったのですが、新しもの好きなので、最初のうちは言語や文法を必死になって覚え、プログラマとしての仕事を楽しんでいました。ゼロからモノをつくり上げ、人に使ってもらえることにやりがいを感じていましたね。
でもキャリアを積んでいく中、自分の開発センスのなさに行き詰まってしまったんです。理工系の後輩に先に出世されて、それを実感しました。私は大卒、彼は高卒でした。開発センスというものは、おそらく持って生まれた素養で、私にはどう頑張っても越えられない壁でした。開発センスがある人は、まず全体を見通してからトップダウン式のロジックを組むのですが、私はどうしても細部からロジックを組んでしまう。結果、とてもバグが多いものが出来上がってしまうんです。エンジニアに向いていないなと思った私は、いままでの経験を生かせるシステム営業へと転職することにしました。
営業になったいまのキモチ…… 「いまの仕事は、私にとっての天職だ」 |
エンジニア5年目にして自分の開発センスのなさに気が付き、進路変更を決意。次の仕事は何にしようと考えたとき、学生時代にしていた接客のアルバイトが好きだったことを思い出しました。もともと屋内にこもる仕事は苦手だったので、プログラマの仕事に閉塞(へいそく)感を感じていました。あまりにも人と話す機会がないので、ディスプレイに話し掛けることもあったほどです(笑)。
そこで、人と接する仕事で、かつエンジニアの経験も生かせる仕事はと考え、大企業のシステム営業に転職しました。出張が多い仕事でしたが、前職と比べ対人関係が一気に広がったので、とてもやりがいを感じました。その後、紙事業部に異動になり、技術的知識が生かせなくなったことをきっかけに再び転職を決意しました。周囲には猛反対されましたけれどね。大企業で興味のない仕事に就くよりも、小さい企業でもいいから、やりがいのある仕事をしたいと思ったのです。
そしていま、エンジニアを派遣する会社の営業職に就きました。私は、この仕事を自分の天職だと思っています。エンジニア時代の経験を生かして、新人のエンジニアにアドバイスをし、進路相談に乗り、個々人をプロデュースする仕事は本当に楽しい。より自分の理想に近い業務を展開すべく、5月から正社員をやめ、コミッション契約にチェンジしました。24時間365日、自分の時間はありません。それでもいまの仕事に夢中です。
エンジニア時代のメリット ・ゼロからモノをつくる楽しみ ・人に使ってもらえるものをつくる醍醐味 ・目新しい仕事に従事している満足感 エンジニア時代のデメリット ・人と話す機会がほとんどない ・向いていない仕事のため、非効率的 ・開発センスがないため、キャリアプランに不利 |
現在のメリット ・人脈が広がる ・エンジニア時代の経験を生かせる ・人の将来をプロデュースする醍醐味 現在のデメリット ・将来が未知数 ・安定性に欠ける ・他人のことで振り回される |
CASE5 「社内のエンジニアの扱いの悪さに見切りをつけて転職」…… 情報システム開発設計→新製品企画・マーケティングEさん |
ソフトウェア開発のコンサルティング会社に就職したEさんは、経営コンサルティング業務に携わりたかったにもかかわらず、開発部門に配属されてしまう。その後、社内で立場が弱いエンジニアに見切りをつけてマーケティング業に転職した。
■エンジニア時代のプロフィール ソフトウェア開発の大手コンサルティング会社にて開発部門に配属され、情報システム開発の設計運用に携わる。リース会社の会計システムや営業支援ツールの制作に従事。エンジニア歴は7年。 |
■現在のプロフィール 外資系企業にて、新製品の企画とマーケティング業務を担当。需要予測はもちろんのこと、新製品のプロモーション企画、他国における製造数の指示出しまで行っている。 |
エンジニアを辞めたワケ…… 「私は社内のエンジニアの扱いの悪さに見切りをつけて辞めました」 |
理系大学を出たから開発へ。そんな会社の偏見によって、入社当初はまったく考えていなかったソフトウェア開発部門に配属され、エンジニアとして働くことになったんです。
エンジニアの仕事にはすんなりと適応できました。顧客に感謝されるという醍醐味もありましたし、難しい物事を分解して分かりやすく顧客に説明する能力を体得できたのはとても良いことだったと思います。
しかし、私が従事していたのはシステム開発だったので、開発したものは目に見えませんし、やりがいは正直少なかったんです。そのうえ、社内におけるエンジニアの立場がかなり低く、発言力もまったくない状態。正社員にもかかわらず、同じ社員とは思えない扱いを受けていました。単にいわれたことを早くこなす人が重宝がられ、営業は仕事を丸投げしてきますしね。そういう状況を客観的に判断して、私はエンジニアを辞めました。
マーケティング担当になったいまのキモチ…… 「いまの仕事は、自分が主体となって動ける」 |
エンジニアを辞めて1年半休職し、その間にMBAの資格を取りました。その後、2年間ほどソフトウェアの営業に携わった後、現職のマーケティングに転職しました。この職種を選んだ理由は、営業っぽい仕事だけれど固定収入が得られ、営業よりは楽な仕事だと思ったからです。社内での発言力が強いという点も非常に魅力的でした。いままでの経験のすべてを生かせるなと思いました。
マーケティングのやりがいとしては、社内における発言力が大きいため、さまざまな場面で意思決定に携われることです。単にいわれたことをそのまま忠実にこなすだけではなく、自分の頭でさまざまな物事を考察し、アイデアを出していくことはやっぱり面白い。いろんな人と接する機会が格段に増えたことも良い点でした。
その半面、当然のことながら自分が提案した企画には責任を持たねばならないし、常に斬新な発想をアウトプットし続けることは大変なことです。
ちなみにエンジニア時代の経験は、現在もプロジェクト管理やスケジュール管理に非常に役立っています。システマチックに物事を考え、管理できること。これが“元”エンジニアの強みです。プロジェクト単位ですべきことを明確化し、常にメンバーに把握させ、あらゆる二度手間を防ぐためのドキュメント管理も得意なので、実際上司にも重宝がられています。
エンジニア時代のメリット ・顧客に感謝される ・責任があまり重くない ・難しいことをかみ砕いて説明する楽しみ エンジニア時代のデメリット ・発言力がない ・社内の地位が低い ・明るい将来を感じられない |
現在のメリット ・発言力が強い ・時間にゆとりがある ・会社に貢献しているという満足感 現在のデメリット ・責任の重さ ・周囲の仕事の進め方が非効率的 ・常に斬新な発想をしなければならない苦しみ |
まとめ |
以上、5人の“元”エンジニアのケースを見てきた。全員がいまの仕事に満足しているし、エンジニアの経験も決して無駄にはなっていないことが分かる。
エンジニアを辞めて他業種へと転職した100人を対象にTech総研が行ったアンケート結果からも同じ結果が見て取れる。約8割の人が転職を後悔しておらず、約7割の人がエンジニア時代の経験が何らかの形で役に立っていると考えているのだ(図1、図2)。
図1 エンジニア時代の知識・経験がいまの仕事に役立っている? |
図2 いまの仕事を選んで、どう思う? |
ただし注意してもらいたいのは、約3割の人がエンジニアの経験があまり役に立っていないと回答し、2割弱の人が転職に失敗したと考えていること。
誰しも自分の転職を正当化したいもの。にもかかわらず、失敗したと後悔している人がこれだけいる意味も、よくよく考慮する必要があるだろう。
アンケートで聞かれた声の多くは、エンジニアを辞めてほかの仕事を選ぶメリットとして、激務から解放されることと人脈が広がることを挙げている。半面、非効率的に物事を進めがちな人々と仕事を共にしなければならないことは苦痛であり、エンジニアとしての満足感、モノをつくる喜び、人にそれを使ってもらい感謝される喜びなどは、決して他業種では得ることができないという。
これらメリットとデメリットをきちんと把握しつつ、自分が本当にやりたいことを見つめ直して優先順位を決め、慎重に今後のキャリアプランを練ってもらいたい。
☆自分の決断を肯定するためには | |
IT業界では人材の流動化が進んでいるため、エンジニアの転職は珍しくない。とはいっても、エンジニアからまったく違う道へ転身するというケースはまれだ。今回紹介された体験談は、転職前がエンジニアという部分は共通しているが、転職後の職種はすべて異なる。どれもかなり特殊な事例といえるだろう。しかし普遍的な教訓も見いだせる。それぞれが確かな理由を持って決断し、現状を肯定しているからだ。 転職が当人にとって成功だったか失敗だったかは、あらゆる要素が影響するので判断しにくい。ただし今回の記事を通じてあらためて考えることがある。現在の仕事を辞めること、新しい道へ歩むこと、決断を下すことについてなどだ。いまの仕事を続けた方が正解の場合もある。どう歩めばいいかは当人のみ知ることだ。 転職は人生における大きな選択である。後悔するようであれば失敗だろう。続けるにせよ、再出発するにせよ、その後の当人の割り切りや前向きな心が現状を肯定することにつながる。いま状況を肯定できること、それが成功に必要な鍵かもしれない。 自分自身が現在の環境や心境をどれだけ客観的に分析できているか。転職の正否を分ける肝心な点について、この記事を読んで気付かされた。 (加山恵美) |
この記事は、Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載しています |
今回のインデックス |
最新データで見る「エンジニアのキャリア事情」(30) (1ページ) |
最新データで見る「エンジニアのキャリア事情」(30) (2ページ) |
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