第4回 独立、さらに起業が目標だった
加山恵美
2006/3/15
いま、現場で求められているキャリアやスキルは、どんなものだろうか。本連載では、さまざまなITエンジニアに自身の体験談を聞いていく。その体験談の中から、読者のヒントになるようなキャリアやスキルが見つかることを願っている。 |
■何かが足りなかった
その後も多種多様なプロジェクトにかかわりながら経験を積んでいった。チームの規模は1人から30人まで幅はあったが、多くは5人程度で組むことが多かった。その中でプロジェクトリーダーを務めることが多く、チームのスケジュール、品質、仕様変更への対応、さらにはメンバーのモチベーション管理からスキルアップまでも管理していた。
入社10年目を迎えるころには、独立の覚悟は揺るぎない決心へと固まっていた。機は熟した。当初の構想どおり、会社を卒業しようと上司に退職を相談した。だが上司は引き留めた。最終的には何とか承諾してもらえたが、退職前の仕事として長期のプロジェクトにアサインされた。これを片付けるまでに1年を要した。
(1) |
石炭搬送設備マネージメントシステム(中国) |
(2) |
タイヤ押し出しライン監視システム(韓国) |
(3) |
保険薬局システム |
(4) |
ガスコンプレッサー監視システム(マレーシア) |
(5) |
コージェネレーション監視システム |
(6) |
航空機組み立て設備の故障診断システム |
(7) |
半導体製造設備の薬液供給システム(台湾) |
(8) |
建築確認支援システム |
(9) |
コンプレッサー監視ログ収集システム(中国) |
(10) |
コンプレッサー監視システム |
(11) |
自動車メーカー部品表 内外管理・工程付与システム |
(12) |
国土交通省 河川監視設備 |
(13) |
電気通信事業 顧客料金システム |
(14) |
プラスチック押し出し機監視システム(アルジェリア) |
佐伯氏がこれまで手がけてきたシステムの一部 |
「当初の10年後という目標から1年多くかかってしまいました」
ただ当初から「10年後に独立」と構想を抱いていたとはいえ、目覚まし時計が鳴るように「時間がきたから」だけが退社や独立の理由ではないはずだ。どうして独立しなければならなかったのか。
「何かが足りなくなってきたのです。物足りない、飽き足らないといいますか……」
言葉を選びながら佐伯氏は当時を振り返る。会社に居座ることの違和感が内心で膨らんできたようだ。会社員であれば仕事でミスをしても1人に責任を押しつけられることはまずなく、実質的には当事者が「無罪放免」となるような立場を「ぬるま湯のようだ」と感じた。「これはいかんな」と、ぬるま湯状態の行く末を懸念するようになった。
会社に保護されている会社員の立場では責任や緊張が、「足りない」と思えたのかもしれない。または試練が「足りない」のか。少なくともこのままの状態で会社員を続けることは好ましくないように思えた。
では、転職という選択肢はどうか。環境を変えれば新たな刺激があり、足りない何かが満たされるかもしれない。だが考えた結果「転職では収入や立場が変化するだけ」と、やはり独立を選んだ。「誰かが取ってきた仕事をただこなしていくのでは飽き足らない」と思えた。
佐伯氏は同じ会社に11年勤務した後、どこにも転職することなく独立して新しいスタートを切った。
■個人事業主から法人化へ
会社を退職した当初は、元同僚ら3人とともに「pluSH(プラッシュ)」という名の下に個人事業主のユニットによる事業体を組み、協業体制を敷いた。pluSHという屋号は対外的には会社のような感覚であった。pluSHの中では佐伯氏が代表取締役を担っているが、メンバー各人が個人事業主であり、繰り返しになるがpluSHは屋号にすぎない。
pluSHの主要メンバーは3人でスタートしたが、時にはほかの個人事業主と協業することも多い。フリーのエンジニアだと営業と業務の兼ね合いが困難だといわれるが、意外とそれは問題にはならなかった。会社時代から培ったHMI開発(機械設備の監視画面など)やWebシステム開発など競争力の高い専門分野が確立しているせいだろう。仕事は人脈からの紹介が半分、残り半分はpluSHのサイト経由で申し込みが来たものだという。仕事の依頼にはあまり困らないという。
「SEO対策も念入りにしています。FA関連の用語では検索順位が高いため、Webサイト経由の問い合わせもけっこうあります」
とはいえ、佐伯氏にとって「独立」の真の目的とはフリーになることではない。起業することにある。法人化する必要性については、事業の受け皿としての目的以外にも、会計処理や保険などもあると佐伯氏は話す。
「細かいことですが、複数のフリーエンジニアで仕事を請け負い利益を分配するとなると、消費税の扱いなど厄介なものもあります」
あと守秘義務など責任を負うもの、実績や信用、雇用者への税金や保険の処理などを考えると、やはり法人という枠組みがあると好ましい。ほかにも法人化することで地方自治体から控除や助成が得られる場合もある。
これまでは法人化への準備期間だった。折しも会社法ができたばかりでもあり、新しい会社法や関係する制度についてじっくり学ぶ時間が必要だった。これまでは数年かけて調査し、会社法の導入後の様子を静観してきたが、そろそろ実行に移すめどが立ち始めた。
■これからは会社を軌道に
いままさに佐伯氏は新たな目標に向かい、一歩を踏み出そうとしている。佐伯氏にとって「独立は経過点」にすぎない。最初の目標「独立」をクリアした後は起業すること、さらにその事業を軌道に乗せることが次の目標になる。
具体的にはいま屋号となっている現「pluSH」をメンバーとともに法人化する。つまりpluSHの名で会社を興す。「今年中には」実行に移す予定だという。この先の構想について佐伯氏はこう話す。
「まずは最初の3年で組織を固め、5年後には事業を軌道に乗せることが目標です。社員は増やしていくつもりですが、10人くらいまでの少数精鋭集団を考えています。その中で優秀な人材が育ち、世に出ていけばいいですね」
当面の事業内容はこれまでのように請負開発を中心に据え、いつかはパッケージを開発したいと考えている。「いつかは収益がパッケージで7割、請負で3割」というのが佐伯氏の理想だ。とはいっても、パッケージで提供する範囲、カスタマイズで対応する範囲の切り分けが難しくなるだろうと踏んでいる。得意分野の実績を積んでいくなかで、時代の変化も見極めて模索していくことになるのだろう。
長期的な展望を掲げ、10年を節目に着実に目標を達成している佐伯氏。今後も得意分野の技術力やノウハウをいかし、着実に歩み続けていきそうだ。
今回のインデックス |
必要とされるキャリアとスキルを追う(4) (1ページ) |
必要とされるキャリアとスキルを追う(4) (2ページ) |
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