第1回 サイボウズ、「育児休業6年」の真意は
長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
2007/5/31
在宅勤務、短時間勤務、休職して復帰……。多様化するITエンジニアのワークスタイル。これらを支えている企業の取り組みを紹介する。今後の働き方を考える際のヒントとしてほしい。 |
2006年8月、サイボウズは最長6年間の育児・介護休業制度の運用を開始し、業界を驚かせた。同時に期間制限なしの育児・介護短時間勤務制度も導入している。
さらに2007年2月には、従来の成果重視型の人事制度に加え、年功重視型の人事制度を開始。どれも仕事とプライベートの両立を支援する、「ワーク・ライフ・バランス支援」に基づいた制度だ。
サイボウズ 人事本部 人事部 椋田亜砂美氏は、「こんなに人事制度を変える会社はあまりないですよね」と笑う。この柔軟さの根底にあるのは、人材が定着しないというイメージのあるIT企業において「より多くの人が、より長く働き続けられる会社でありたい。制度を通じてこのメッセージを社内外に発信し、社員の安心と優秀な人材の確保につなげたい」というサイボウズの思いだ。
■新制度導入の背景
椋田氏は、創業10年目のサイボウズは「第2ステージ期だと思っています」という。
サイボウズは少人数で始めたベンチャー企業であり、創業からしばらくは会社の成長を担う少数精鋭のメンバーで業務を行っていた。採用活動においても、そのような意識の強い人を募集していた。「会社の成長が個人の成長に依存する時期があり、それがしばらく続いていました」
サイボウズ 人事本部 人事部 椋田亜砂美氏 |
しかし、社員が増えていくに従って、「ベンチャーで一獲千金を狙うというような意識の人は、実はそんなに多くないということが分かってきた」という。それに伴い、社内の意識も変化した。「(会社の成長を担う)一獲千金の人たちをどんどん募集していましたが、その考え方が変わってきました。より多くの人により長く働いてもらえる会社の方が、より成長できるのではないかと考えるようになったのです」
人材市場の変化も要因の1つだという。「新卒採用を4年前から始めていて、若くてベンチャーで……というところを売りにしていました。しかし新卒採用の市場が活発化し、花形だったIT業界も3Kなどといわれるようにイメージが変わってきています。かつ、ここ2、3年は大手志向の売り手市場です」
このような社内の意識の変化、人材がいま求めている職場環境を考え合わせ、「多くの人が長く働ける会社」を目指した結果が、新制度の導入につながったということだ。
■育児休業制度のきっかけは、社員の出産
最長6年間の育児休業制度導入の直接のきっかけは、2年前にある社員が出産を迎えたことだそうだ。
「サイボウズの社員の平均年齢は30歳と若く、一番多いのが20代後半から30代前半の社員です。それくらいの年代は結婚・出産など、生活の変化が起きやすい。2年前に出産する社員が1人出てきて、どのように対応しようかと考えたのがきっかけです。その後同じように転機を迎える社員が多くなり、内容を熟考の末、制度化しました。
多くの人に長く働いてもらうため、いま転機を迎えている人に会社ができることは何なのか。それを考えて出来上がったのが育児・介護休業6年間という制度です」と椋田氏は説明する。
制度の詳細を決定するに当たっては、社内でもインタビューをしたそうだ。6年という上限の数字も、そういった調査によって決まったものだ。
「子どものいる社員にインタビューしたのですが、やはり小学校に上がるまでは病気をしがちだという話は多く出てきました。そこで休業期間は小学校就学時まで、最長6年間ということになりました。
ソフトバンクさんのような金銭面での支援も考えたのですが、社内には『お金より時間』という考え方があったのです。特に女性は、出産によって一度会社を離れてしまうとなかなか復帰がしにくいという現状がある。時間を自分でやりくりでき、安心して戻ってこられる環境をつくるということが、本人にとって一番いいことなのではと考えたのです」
出産を機に退職してしまう女性も少なくない中、育児休業制度の充実で、優秀な社員の流出を防ぐ狙いがあるということだ。「例えば30歳で、一番スキルが付いているときに退職してしまうと、そこまでの経験がゼロになってしまう。それはとてももったいないこと。会社の立場からすると、そのスキルを補うために中途採用するにもコストがかかります。すぐに採用することも難しいですし、採用できたとしても2〜3年の教育は必要です。それよりも、出産などで一度は休業した社員が、経験を持ったまま復帰してくれればと思ったのです」
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