人材紹介会社のコンサルタントが語る
第18回 転職時に陥りやすい「3つの落とし穴」
リーベル
石川隆夫
2004/3/24
求職者は、人材紹介会社のコンサルタントに転職相談だけではなく、職場の不満、自分の夢などを語ることが多いという。そうした転職最前線に身を置くコンサルタントだからこそ知っている、ITエンジニアの“生”の転職事情や転職の成功例、失敗例などを@ITジョブエージェントの各パートナー企業のコンサルタントに語っていただく。 |
今回は転職活動中や転職を決断するときに陥りやすい「3つの落とし穴」と、その対処法を紹介しよう。3つの落とし穴とは、以下のものである。
1自分の能力と企業の求める人材のギャップに気が付かない
2タイミング・時期を逃す
3年収を近視眼的に判断する
■自分の能力と企業の求める人材のギャップに気が付かない
三谷芳和氏(仮名・35歳)は、IT業界でブランド力のある会社に勤務していた。大学卒業後10年以上もその会社で働き、今回が初めての転職。会社の希望退職制度に応募し、退職日は1カ月後に迫っていた。その時点で私どもの会社に訪れ、転職活動の状況を聞いて唖然とした。応募社数を聞いたら、何と20社以上の名前が上がったからだ。
しかも、中には何の職種であるかを聞いてもよく分からないものもある。会社名を聞いただけで詳しく仕事内容を精査せずに、人材紹介会社にお任せして応募手続きを取ったというのだ。
三谷氏の仕事は、主にインフラ系のプロジェクトを設計構築するもの。プロジェクトリーダー、そして小規模ではあるがプロジェクトマネージャも経験している。自分の経験から強みを見極め、そうした経験を持つ人材を求めている会社を選べば必ず入社できる人である。
いままでの経緯を聞くと、2社はじっくり考えて応募したが、書類選考で落ちてしまったという。人材紹介会社で話を聞いて応募から内定までの確率を考えたら、「20社くらい応募しなければ内定が取れそうにない」と考え、それで半ば“やみくも”に応募したという。
コンサルタントの目から見ると、三谷氏の経験と照らして応募が妥当な会社は、20社のうち2社程度にすぎない。多くの会社に応募することは、まったく無駄な動きに近い。「自分の経験や希望と企業の求める人材をよく理解し、しっかり準備して応募すべき」と説明したが、そのときはなかなか理解してもらえなかった。これは、転職市場の実態が見えていない典型例といえる。
その後、次々と書類審査で落ち始めると、再度「転職活動をリセットしたい」との申し出があった。これは書類選考や面接で落ちたことにより、初めて「自分の価値と市場の求めているキャリア」とのギャップに気付いたのである。こうしたタイプは、日本の大企業や外資系に勤務し、30歳すぎで初めて転職する人に多い。それは「社内価値=社外価値ではない」ことを理解していないことが原因といえるだろう。
■タイミング・時期を逃す
次の落とし穴は転職のタイミング。これは2種類ある。1つは自分の「旬」の時期を知ることでである。それは最も高く売れる時期のことであり、「最も年収が高い条件で転職できる」ということではない。年齢と経験を比較すると、市場価値が最も高い時期のことである。
例えば、「27歳で2次請け企業で中規模システムの、ある部分の設計からテストまで一通りの経験をしてきた人」がいるとする。Javaやデータベースの資格も取り自信がついた。しかし、2次請けの社員であるためにワークスタイルは客先派遣。要件定義などの上流工程や顧客との打ち合わせ、折衝にはタッチできない。
この人にとっては、いまが「旬」の時期である。このまま、30歳すぎまで現職にとどまっていると、残念ながら旬の時期が過ぎてしまい、いい条件で転職することはかなり難しくなる。なぜならば、いまの立場で働いている限り、その会社では30歳になっても上流工程にかかわることや、年齢相応のリーダーシップを身に付ける経験を積めないからである。
仮に、こうしたギャップに気付いても、「次の仕事が入った」「忙しくて転職活動の時間が取れない」「もう少し資格を取ってから」……などという理由で転職に踏み切れないケースがある。意外と「自分にとっていつが旬の時期であるのか」を理解せずに、そのチャンスを逃してしまう人も多いのだ。
■タイミングが合うとは「縁がある」こと
もう一例紹介しよう。尾村稔氏(仮名・33歳)はある一流大学の大学院出身で、有名な金融会社の経営の中枢部門で働いていた。33歳のときにコンサルティングファームの戦略コンサルタントに応募した。人物的にも素晴らしい人で、ぜひ面接に進んでもらいたいと思っていた。
しかし残念ながら、書類選考すら通過しなかったのである。企業の人事からのコメントがすべてを物語っている。「この人がもう2年早く応募してくれたのなら、書類審査を通り必ず面接しました」。33歳の年齢で未経験者という場合、コンサルタントに転身するのは難しいということである。
タイミングのもう一方は、「縁」である。新規事業の立ち上げや日本法人の立ち上げに遭遇することは、その人が「転職を考えるタイミング」と「外部の事業環境」のタイミングが、偶然重なって起こるものである。このような機会に遭遇したら(もし望むのなら)、自分が目指すキャリアと大きくズレないときは、リスクを負う覚悟で果敢に挑戦すべきである。
■年収を近視眼的に判断する
3つ目の落とし穴は年収に関するものだ。年収は転職の最終判断時の重要事項だ。しかし、年収は1〜2年のスパンで近視眼的に判断すると間違ってしまうことがある。その事例を紹介しよう。
横田功治氏(仮名・28歳)は大学院を卒業し、ある金融系会社の情報システム子会社に5年間勤務している。収入は金融系の会社なので、同様の職種よりも高い収入を得ていた。しかし、上流工程であるシステム企画の業務は、親会社が行うために担当できなかった。長期的スパンで自分のキャリアを考えても、将来のポジションが見えてこない。このままこの会社にいても、今後の展望が開けないので、できればコンサルタントになりたいと考えていた。
そこで、転職で希望の仕事を探し始め、運良くERPコンサルタントのオファーをもらった。しかし、業務知識やポテンシャル面では高い評価を得られたが、コンサルタント未経験なので即戦力採用は難しいと判断され、現職より50万円ダウンの年収提示となった。結局年収面で折り合いがつかず、その会社のオファーを辞退。もう少し現職にとどまる道を選んだ。
さて、横田氏の判断は正しかったのだろうか。コンサルタントの目から見れば、50万円の年収ダウンを理由に辞退したことは、あまりに多くのチャンスを逃がしたといえる。せっかくERPコンサルタントに転身できるチャンスとめぐり合ったのにもかかわらず、みすみす棒に振ってしまったからだ。さらに、横田氏は即戦力でなく、幸運にもポテンシャル面を評価された。この2つの好機を見逃した“ツケ”は計り知れない。本人が重視する年収についても、その会社で成果を挙げれば3年後には現職の年収を上回る可能性が高い。
年収は年齢が上がるに従って、その差が大きくなってくることが多い。20代で100万円程度の年収差が生まれても、そのことをあまり重視する必要はない。転職するのならば、5年後10年後の年収を考えて判断するといいだろう。
年収よりももっと重要なことがある。それは「何のために転職するのか」ということ。「収入は後々ついてくるもの」と考え、業務内容を最優先するべきだ。中にはこうした「年収の落とし穴」にはまってしまう人もいるので、よく注意していただきたい。
最後に、ここまで説明した「転職における3つの落とし穴」にはまらないための方法を紹介しよう。転職する前に、もう一度確認してほしい。
A多少の犠牲は切り捨て、自分を客観的に評価する強さを持つ
B市場動向、企業動向など広い視野から情報の収集・分析を習慣づける
C目先の年収ではなく長期的視野で判断する
筆者プロフィール |
石川隆夫(いしかわ たかお)●1949年福島県生まれ。東芝入社後、コンピュータおよびその関連機器の設計・開発を経て、本社のコンピュータ・ネットワークの商品企画、海外事業の立ち上げ、マーケティング、広告、広報などを担当。幅広い業務経験と業界各社・動向の深い知識が強み。2000年にリーベルを設立、現在に至る。@ITジョブエージェントを通じて@IT読者の転職支援も行っている。 |
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