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ヒューマンエラーゼロでいこう

第2回 喜びの大型案件受注。が、崩れる信頼

加山恵美
2007/12/14

人間はしばしばミスをしてしまう。エンジニアなら「うっかりデータを消してしまった」なんてことはあるだろう。だがその「うっかり」が顧客のシステムを停止させ大損害を引き起こすこともあり得る。こうしたささいなミスで信用失墜を起こさないように、社員一丸となって対策を実践している会社の努力の軌跡を追う。

大型案件受注の喜びもつかの間、ヒューマンエラーが多発

 CTCテクノロジー(CTCT)は伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)グループのユーザーサポートを担う企業である。システムの導入設置から保守、運用、教育などを通して、幅広く顧客のIT基盤のライフサイクル全体をサポートしている。コンピュータシステムの運用管理は、完ぺきにこなさないと顧客のビジネスが滞ってしまう可能性があり、重い責任を抱えている。

 そんなCTCTが、ゼロ災運動(ゼロ災運動については、前回の「なぞのゼロ災運動、ITに関係?」ありを参照してほしい)になぜ取り組むことになったのか、そしてどう取り組んできたのかを紹介する。この取り組みを開発現場にそのまま適用することは難しいかもしれない。が、運用管理の現場など、参考にできるところも多々あるはずだ。そうした現場では、このCTCTの取り組みを、ぜひ参考にしていただきたい。

 CTCT 品質管理室 室長 橘博明氏が、ゼロ災運動に取り組んだ経緯を語った。

ヒューマンエラーゼロでいこう 各回のインデックス
第1回 なぞのゼロ災運動、ITに関係あり?
第2回 喜びの大型案件受注。が、崩れる信頼(本記事)

黎明期:それはゼロ災運動を知らなかった時代

CTCテクノロジー 品質管理室 室長 橘博明氏。これまでの同社のゼロ災運動をけん引してきた

 いまからさかのぼること10年前の1997年に、CTCとCTCTはある大型案件を受注した。その顧客は、それまでメーカー系の会社に発注することが多かったという。だから当時、CTCTが受注できたことは快挙だった。

 その裏には根気強いアピールや誠意など努力の積み重ねがあり、信頼関係が築けたことが大きかったのではないだろうか。さらに翌年、CTCとCTCTは同じ会社の別の大型案件も受注し、社内は喜びで満ちた。大きな仕事なので業務量は増え、徹夜もざら。忙しくてたまらなかったが、大型案件受注の喜びで仕事のつらさも、当初はあまり気にならなかった。

 そうはいっても、人間の体力には限界がある。しばらくすると社員の顔、顔、顔に、疲弊の色が浮かぶようになってきた。するとミスが増えた(以後、人的「ミス」のことを、CTCTの表現に合わせて「ヒューマンエラー」と呼ぶことにする)。

 例えば異常なサーバの電源をオフにするつもりが、正常なサーバの電源をオフにしてしまう。またはケーブルを間違ったところに接続してしまうなど。不注意で起きたヒューマンエラーであったが、それで顧客のシステムを全面的にダウンさせてしまうとあっては、大問題となる。

 ヒューマンエラーが起きるたびにCTCTは謝罪していたが、ついにヒューマンエラーは数十項目にも及び、それがシステムに大きな影響を与える大きな要因となった。

 当時、CTCTのプロジェクトの責任者であった橘氏が顧客に呼び出され、数時間にわたって説教を受けた。

 CTCT側のヒューマンエラーが原因なので、まったくいい訳ができない。必死にただ頭を下げつつ、これまで築いてきた「顧客企業との信頼関係が音を立てて眼前で崩れていく」のを感じたと振り返る。橘氏は謝罪の涙と絶望でがけっぷちの状態だった。

崖っぷち。CTCTが知らなかったKY

 そんな状況の中、顧客企業の担当者から「KY」を教えられた。KY……。いまでこそ「KY」という「空気(K)・読めない(Y)」や「空気(K)読め(Y)」のような表現が広まったが、このとき顧客担当者が口にしたKYとは、当然そんな意味ではなかった。

 KYとは「危険(K)予知(Y)」のことだった。前回説明したゼロ災運動において安全を確保するための対策や習慣などを指す。先に危険を予知して対策をしておくことで、ヒューマンエラーやそれに伴う災害を防ぐことができる(乱暴な比ゆで例えれば、プロジェクトマネジメントのリスクマネジメントに当たるだろうか)。早速CTCTは「KY研究会」を発足させ、KYについて徹底的に自力で研究した。このとき、1999年7月だった。

 KYでは「人間は誰でもエラーを起こす」という前提があり、作業時には指差し呼称で確認などをする。これで注意力や意識を高めることができる。KYを知れば知るほどCTCTは「自分たちに必要だったのはこれだ!」と確信した。これでKY活動の機運が一気に高まった。

 何よりもKYで大切なのは意識改革である。常に作業をする前からヒューマンエラーを起こすような危険が潜んでいないかという注意力を研ぎ澄ませる。そして「絶対にヒューマンエラーを起こさないぞ」という強い信念を持つことだ。この心構えだけでも、如実に違いが出る。現場のエンジニアだけではなく営業も含め、関係者全員でKY研修を行うようになった。

 効果は絶大だった。作業時に電車の車掌のように人差し指を立て、腕を動かして、声を出して作業を確認する。これだけでヒューマンエラーは1年で3分の1に減った。「素晴らしい成果だ」として、顧客にも褒められ、信頼は回復したかのように思えた。

再びヒューマンエラー連発。全社的活動へ直談判

 しかし2001年、壁に直面した。ヒューマンエラーの減少が頭打ちになってきたのだ。それに追い打ちをかけるように、2002年6月にヒューマンエラーによるトラブルが起きてしまった。橘氏は「2002年6月のトラブル発生で、危機感が高まりました。そこでKYを研究部署だけではなく、全社的な活動にしようと一念発起しました」と話す。

 全社的な活動にするには組織や予算も必要になる。KY研究会の中心にいた橘氏ら5人が立ち上がり社長に直談判した。「ヒューマンエラーによる作業ミスで重大なトラブルが起こっています。KY活動を全社的な活動として推進していきたいのですが」と社長に申し入れた。

 社長はすぐに実施の決断を下したものの、当初は「ヒューマンエラーは起こさなくて当たり前。当たり前のことになぜ組織や予算が必要になるのか」とKY活動の必要性には疑問を呈した。これまでのヒューマンエラーの詳細な内容を説明しつつ説得すると、取り組みの真剣さが伝わり、「まずは1年間、やってみなさい」と、KYの必要性に理解を示すようになった。

 この取り組みが功を奏したのか、それとも失敗したかは、次回で明らかに。

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