第2回 法人設立準備に奔走。お役所巡りは大変
ナレッジエックス 中越智哉
2006/9/5
■超アナログ、法務局
会社の設立を行うためには、必要な書類をそろえて法務局というところに提出しなければなりません。そこで、サラリーマンのままだったらもしかすると一生立ち入ることがなかったかもしれない法務局に行くことになりました。
会社を登記する場合、類似した商号がすでに存在していてはいけないため、事前に調査をする必要があります(現在の会社法では不要)。私が登記しようとしている地域の管轄の法務局の周辺には5〜10件ほど行政書士・司法書士さんの事務所がありました。なるほど、これはパスポートの発行所の隣に証明写真屋さんがあったりするのと同じ原理ですね。
類似商号の調査の申し込みをして、指示された場所に通されてみると、そこには数十冊のファイルがあり、管轄内の商号と住所がびっしりと書き込まれています。インターネットでの検索に慣れた身としては、紙の書類にくまなく目を通して調べるということに、とてもアナログな感じを受けました。
私の勝手な予想では、法務局には商号検索用の端末か何かがあり、キーワードを入れると部分一致検索などで似たような商号が一覧表示されるのではないかと思っていましたが、そんな設備はなかったのでした……。
Web2.0の時代に、自分の目ですべて調べるという作業をすることになるとは思ってもみませんでした。
■謎の公証役場
公証役場と聞いて、どんな場所で何をしてくれるところか、即答できる人は意外と少ないのではないでしょうか。
会社を設立するという観点からは、公証役場は「定款」という会社の憲法に当たる文書を認証してもらうための場所です。「役場」という名前から、区役所のような場所を想像される方も多いのではないかと思います。
かくいう私も、そういった想像をしていました。でも実際に行ってみるとお役所的な雰囲気ではなく、場所も雑居ビルの一角にあったりして事務所のような雰囲気です。ここで定款の認証をしてもらうと、認証料5万円、収入印紙代4万円、謄本交付手数料(1ページ当たり250円)が掛かります。
これから会社を設立しようと考えている方、資本金が1円でよくなったとはいっても、設立にはそれ以外にさまざまな手数料が掛かるので、ご注意を……。
■意外と時間のかかる銀行
銀行は役所ではありませんが、企業活動には必ずお金が伴いますから、役所の手続きには銀行での手続きがセットになっているものが結構あります。私の場合、資本金の払い込み保管証明を銀行に出向いて行う必要がありました(現在の会社法ではこの手続きは不要)。社会保険に加入するときも、強制ではないようですが口座引き落としの手続きが求められるため、やはり銀行に出向いて確認をしてもらう必要がありました。
お金が絡むことなので当然なのですが、審査や本人確認(個人の確認、法人の確認)には役所よりも時間がかかります。これから法人の設立を考えている方は、銀行の手続きには時間の余裕を持って臨んだ方がいいかもしれません。
■提出書類数は最多、税務署
役所関係の中でも提出書類の種類が多いのが税務署です。きちんと必要事項を記入していれば提出そのものはあっという間に終わりますが、とにかく種類が多いのです。「法人設立届出書」「給与支払事務所等の開設届出書」「青色申告の承認申請書」をはじめ、細かいものを含めると10種類弱あります。
この税務署や次に説明する社会保険事務所は、お金を納めてもらう役所だからなのか、役所関係の施設の中でも説明が丁寧で親切な印象を受けました。
これも自分の無知のなせる業なのですが、私は税務署関係では失敗してしまったことがあります。税務署関連の提出書類の様式は、ほとんどのものがWebにアップされています。これをダウンロードして印刷し必要事項を記入して持参すれば、税務署に一度出向いて書類をもらってくる手間を省くことができます。このこと自体は非常に良いことなのですが、ここに落とし穴がありました。私はこれらの書類を1枚ずつ印刷して記入し、提出したのです。
後で分かったことですが、税務署ではこれらの書類が一度受理された後では、その謄本を作成してもらうことができません。私は控えを要求すればいつでも出してくれるものだと思い込んでいたのですが、そうではなかったのです。つまり控えを手元に持っていないのです。何を思ったかそれらの書類はコピーも取っていなかったので、すぐに内容を確認するすべがありません。幸いにも税務署に申し出をすれば閲覧することは可能なのだそうですが、内容を確認するには税務署へ出向かねばならず、非常に手間がかかってしまうことになりました。
税務署に置かれている様式は複写式なので、そういった間違いがありません。面倒でも一度税務署に出向いて書類の書き方を相談すればよかったと後悔しています。
■最後に社会保険事務所
「自分で会社を作るのだから、自分で好きなときに好きな額だけ給料を払える」。半分は本当ですが、半分は本当ではありません。
もちろん、限られた予算の中から給与を支払うのですから、上限はおのずと決まってきます。そういう絶対的な制約以外にも、給与を支払うためには、当然ながら所得税を納めなければなりませんし、社会保険料、厚生年金も支払わなければなりません。社会保険や厚生年金(源泉所得税もですが)は給与の支払額によって金額が決まるので、給与を支払うことになり額が決まった時点で、事前に社会保険事務所に届け出をする必要があるのです。
内緒で給料を増やしたり減らしたりするわけにはいかないのです。
そんなわけで、大学を卒業して最初に就職して以来初めて、給与から社会保険料、厚生年金、源泉所得税までを自分で計算することになりました。あらためて、こんなに引かれているとは……という思いでした。サラリーマンのときは頭では分かっていましたが、給与明細を受け取っても「どうせそんなこと考えたって給料が増えるわけじゃなし、手取りがいくらかだけ見とけばいいや」と思っていました。
でも、今度は折半される保険料、年金の支払いを負担する側(=事業主)でもあるので、予算の兼ね合いなども考えると保険料や年金がいくらなのかは嫌でも気にしなければなりません。
正直、許されるなら自分の給料をできるだけ多くしたいところですが、そうすると保険料と年金の負担額も増えてしまうので、なかなか当初思っていたようにはいかないのでした……。
そして、社会保険事務所で手続きをする中であらためていろいろ知ることになったのが年金についてでした。
無知な私は、結婚すると妻(被扶養者)の年金受給資格が変わり、妻は夫(扶養者=自分)の年金保険料だけで自分の分も払ったことになる(第3号被保険者というそうです)ということをまるで知りませんでした。知らなかったのでもちろん何の手続きもしていなかったのですが、手続きをしないと受給資格は変わりません。私の妻は結婚するだいぶ前に会社を退職しており、自分で保険料を払う第1号被保険者だったのですが、結婚した後も本来払う必要のない保険料を払わないといけない身分のままだったのです。
それ以外にも、会社を辞めるとその時点で厚生年金(第2号被保険者)から国民年金(第1号被保険者)に切り替わる(切り替え手続きは自分でする)というごくごく基本的な事実も知りませんでした。
私の場合、もしかすると会社を辞めていなかったら、こんな基本的なこともずっと知らないままだったかもしれません。妻は私が前の会社を退職するまでずっと年金未納扱いで、将来は年金がもらえないという可能性もあったのかも……と思うとちょっとぞっとします。
■そして、設立
前の会社を退職したらすぐに仕事を始めたいと思っていた私は、退職日の翌日に、法務局に行って法人設立登記をしました。分からないことだらけでいろいろ苦労しましたが、ここまでは何とか順調にこぎつけることができました。
次回は独立前と独立後の心境の変化、現在のオフィスでの様子についてお話しします。
今回のインデックス |
ITエンジニア、その独立の軌跡(2) (1ページ) |
ITエンジニア、その独立の軌跡(2) (2ページ) |
筆者プロフィール |
中越智哉●北海道出身。北海道大学大学院電子情報工学専攻修士課程修了。在学中はJavaとLinuxに熱中。卒業後、Javaの仕事にあこがれ、1999年にテンアートニに入社。Java の受託開発案件や教育事業、コンサルティングなどを幅広く担当した後、2006年2月に同社を退社。同年3月にナレッジエックスを設立。 JavaをはじめとするIT開発技術の教育に奔走する。趣味は自転車と草野球、そして毎日欠かさない耳かき。 |
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