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〜自分戦略研究所 転職者インタビュー〜

転職。決断のとき

第13回 上流工程への思いから“無職”の道へ

中村京介
2004/4/7

 スキルを上げるため、キャリアを磨くため、給料を上げるため――。エンジニアはさまざまな理由で転職し、新しい舞台で活躍する。では、転職の決断をするのはいつなのか? そしてその決断に至った理由とは何だろうか? その決断のときを、今回は@ITジョブエージェントを利用して転職したエンジニアに尋ねた。

今回の転職者:斉藤彰さん(仮名・32歳)
プロフィール2次請け、3次請けの受託開発のエンジニアを経験後、資格を取得するために退社。その後10カ月間の無職の期間を経て、コンサルティング会社系のSIerにシステム・アナリストとして転職する

■無職となって資格取得に挑戦

 「もっと上流工程の仕事がしたい」――そう願うエンジニアは多い。その手段として「転職」を考えるわけだが、前職までのキャリアを採用の判断基準とする企業が多いのが実情ではないだろうか。その意味で、斉藤彰氏(仮名・32歳)の転職は、困難を乗り越えた“モデルケース”ともいえる。

 前職を辞めたのが2003年3月。それから現在の会社に転職するまでの約10カ月間、完全に“無職”となり資格取得のための勉強の日々を送ることになる。上流工程の仕事にステップアップ転職するために、自ら選んだ道だった。

 「無職になることにリスクがあることは分かっていました。人材紹介会社のコンサルタントも、『無職の期間があると企業から敬遠されることがある』と聞いていました。だからといって、焦って同じような職務内容の会社に転職したら、キャリアアップにつながらない、何の意味もない転職になってしまうと思ったのです」

■「業務系」か「技術系」のどちらかを究めたい

 前職の会社では受託開発が中心だった。そこで2次請け、3次請けの仕事をこなす中で、「下流工程については、それなりに技術的なスキルは身に付いた」という。しかし、それらはあくまで表面的な部分にすぎず、次第に「このまま自分はこの会社で働いていいのか」と不安を抱くようになった。

 「それまで流通系のシステム開発を手掛けていましたので、将来は購買・販売管理の業務スキルを身に付けて上流工程に携わるのか、あるいはデータベースを中心とした技術スキルを幅広く身に付けてシステム全体の設計に携わっていくのか。いずれにせよ、業務系か技術系のどちらかの分野を究めてからマネジメントのポジションに進むというキャリアビジョンを持っていました」

 技術も業務もどちらも分からないマネージャになり、メンバーのアサインや予算管理だけをするようなマネージャにはなりたくなかったというのだ。

 エンジニアとして実務の中で技術スキルを習得したいと思っても、当時の会社はそのような環境ではなかった。下請けの会社であるため、要件定義や基本設計に携わる機会はまったくない。

 「本番環境に移行する前の運用管理についても、元請けの会社が行うためにスキルや知識を習得する機会はありません。開発プロセスのあちらこちらに少しずつ携わる仕事でしたので、当然技術スキルのレベルに不安を感じました」

■元請けのSEと働き、将来への不安は最高潮に!

 こうした中、会社は規模の拡大を目指し、新卒を毎年350人ほど採用していった。必然的に社内のスキルレベルは下がり、中堅・ベテラン層の社員はどんどん辞めていく。

 そして転機が訪れた。約2年前のことだ。元請けの技術研究部門のエンジニアとJavaの開発プロジェクトで一緒に働く中で、彼らの技術への意識の高さを目の当たりにする。それ以来、漠然と抱いていた将来への不安は最高潮に達する……。

 「これ以上この会社にいても自分のスキルアップにはならない」――そう確信した斉藤氏は退職を決心する。すでにある程度の技術スキルを持っていたので、同じような職務内容の会社であればすぐにでも転職できた。しかし、彼が出した答えは「多少リスクを冒してでも、キャリアアップするための勉強期間を設けよう」ということだったのだ。

 「ただ、漫然と次の就職先を見つけるのではなく、上流工程のポジションで働けるのかが一番の課題でした。最悪でも、前職のような会社には転職できるという自信はありましたから。逆に、より上流工程にステップアップするには、最新技術の動向やシステム全体の設計の部分に関してまだまだ弱いと思っていました。そこで、少し仕事を休んで、徹底的に資格取得の勉強をしようと考えたわけです」

 最初にJava系ではJavaプログラマ認定資格、J2EEを取り、次いでLinux認定資格のLPIC Level1へと進む。退職前にORACLE MASTER Goldまで取っていたので、ORACLE MASTER Platinumを取得する。また、机上の勉強に終わらないようにするため、自宅に開発環境を構築する。さらに、業務知識を身に付けるために簿記の勉強も行った。勉強時間は1日7〜8時間に及ぶこともあったという。この間の生活費は、失業手当と貯金だけで賄ってきた。

 「在職しながらの資格取得も考えましたが、かなり忙しい会社だったので、現実にはなかなか勉強できませんでした。ORACLE MASTER Goldを取ったときは、開発プロジェクトの谷間でたまたまヒマな時期だったのです。もっとも、ORACLE MASTER Goldを持っていただけに、ORACLE MASTER Platinumも取れると思いました。この自信があったから、会社を辞めることができたのかもしれません」

■面接では「スキルアップへの意欲」を評価される

 会社を辞めてからしばらくの間は、人材紹介会社にも登録しなかったという。その理由は友人から、登録するとどんどん求人案件を紹介されて、落ち着いて勉強ができなくなるからだ。そういう話を聞くたびに、焦って転職活動を行うよりも、一定期間じっくり勉強しようという決心が固まっていく。

 斉藤氏の思惑どおり、実際転職するに当たって、資格は大きな武器となった。@ITジョブエージェントを通じて登録した人材紹介会社のアドバイスどおり、面接では離職期間が「スキルアップのためだった」ということを前面に押し出し、資格そのものへの評価に加え、「スキルアップの努力をしてきた姿勢が評価されたことが内定につながった」と振り返る。

 転職に際し、@ITジョブエージェントを通じて登録した人材紹介会社は4社。複数の会社に登録したのは、転職を成功させた友人から「人材紹介会社によって方針が違ったり、コンサルタントとの相性もあるため、最低でも2社か3社は登録した方がいい」というアドバイスを受けていたからだ。面接まで進んだ会社は8社。その中でヒューマンリンクで紹介された会社を転職先に選んだ。その決め手となったのが評価制度である。

 「面接のときに必ず質問したのが、『実力や実績はどのように給与に反映されるか』ということ。一番明確に回答してくれたのが現在の会社です。前職は成果主義ではなかったので、自分でほとんど勉強することのない同僚や後輩ともあまり給与が変わらなかった。面接で明確な成果主義の基準を提示されたときは『この会社に転職したい』と思いました」

■「自分の選択は正しかった」と実感

 現在の会社では、スキルに応じて社員が細かく等級分けされ、さらに同じ等級内でもランク付けされ、等級やランクが上がればそのまま給与に反映される。そして、年1回、その人が上のランクに上がれるかどうかを、上のランクにいる人が見て判断する。

 その際の基準も、「何ができれば上のランクに上がれるのか」が非常に明確である。大した仕事もせずに「その場にいさえすれば残業代がフルに出た前社」に対し、利益が出ていないプロジェクトでは“残業代ゼロ”という現在の会社では、年収が下がる可能性もある。転職で年収はアップしたが、それ以上に、評価制度の透明性はモチベーションを大いに高めているようだ。

 いまはSAP製品などのパッケージ部門に属し、技術部隊として親会社のコンサルタントとともに、プロジェクトに参加する。親会社のプロジェクトのメンバーという位置付けだけに、親会社のプロダクト事業部の中から、例えば「流通」など特定の事業部の仕事に集中的に携わることも可能だという。

 技術面ではERPパッケージの設計・実装などを追求しつつ、業務知識を蓄えることができる。斉藤氏が描くキャリアプランに沿った環境でエンジニアとして成長できるわけだ。今後は上流工程にも携わるようになり、クライアントと直接、システムの要件定義を詰めるような場面も増えてくることだろう。

 「それは楽しみであると同時に、クライアントの上層部の人との折衝も増えますので、プレッシャーでもあります(笑)。これからはコミュニケーションスキル、ビジネススキルをもっと磨いていく必要があると思います。この点、現在の会社ではユーザーにヒアリングするためのスキルを磨きたいですね。いまの会社にはそのための研修も受けられるので積極的に利用します」

 これまで求め続けてきた「スキルアップができる環境」と出合い、エンジニアとしての成長を加速させることだろう。“無職”というリスクと向き合い、資格取得のために勉強に明け暮れた10カ月。斉藤氏はいま、その選択が決して間違っていなかったことを実感している。

担当コンサルタントからのひと言
 斉藤さんは、いままでのスキルを生かして上流工程に携われる企業への転職を強く希望していました。こうした要望や仕事への意欲、人柄を踏まえ、大手SI企業とコンサルティングファーム系のSIerを転職先として提案しました。

 転職した企業は、入社が難しいといわれているだけに、エージェントとしても大きな喜びです。転職成功の理由はいくつかありますが、中でもその会社の業務に必要なスキルを身に付けていたことと、それを証明する資格を取得していたことが大きかったのではないでしょうか。

 また、経歴書の書き方や面接時の注意点など、私からのアドバイスをよく聞き入れてくれたことも有効だったと思います。


ヒューマンリンク 人材紹介事業部長 小野 昌成 




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