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転職。決断のとき

第37回 スキルアップを続ける充実感を求めて

加山恵美
2007/1/12


転職が当たり前の時代になった。それでも、転職を決断するのは容易なことではない。スキルを上げるため、キャリアを磨くため、これまでと異なる職種にチャレンジしたり、給料アップを狙ったり――。多くのエンジニアが知りたいのは、転職で思ったとおり仕事ができた、給料が上がった、といったことではなく、転職に至る思考プロセスや決断の理由かもしれない。本連載では、主に@ITジョブエージェントを利用して転職したエンジニアに、転職の決断について尋ねた。


今回の転職者:四條信太郎さん(30歳)
大学中退後、パッケージソフトウェアを開発する会社にアルバイトとして就業。ネットワーク通信やデータベースの知識を習得する。その後、受託開発メインの開発会社に転職。2年後東京勤務となる。もっとスキルを磨きたいという思いが強くなり、@ITジョブエージェントに登録。2005年7月にアルゴ21に転職。

学生時代よりも学んでいる

 「学生時代は勉強なんてちっとも面白くなかったのに、いまは技術を吸収することがすごく楽しいのです」

 四條さんにとってITエンジニアは天職かもしれない。だがその道のりは平たんではなかった。地元の北海道にある大学を中退し、アルバイトからIT業界にかかわり始めた。そこでみるみるうちにスキルを吸収した。一時は東京でITエンジニアとして働く話が来たものの、直前にキャンセル。慌てて就職した先ではスキルアップは望めそうになかった。そしてあらためてエージェントに相談して転職する。

 いま転職して約1年半が過ぎた。新しい会社では自ら勉強会を開くなど、スキルアップに積極的に取り組んでいる。彼にとって「スキルを磨く」実感が得られることが至極の幸せのようである。

2年越しの交渉でMSXを買ってもらった

今回話を聞いた四條さん。
つまらない仕事でも「給料を3倍にする」と言われたら、続けたか? という質問に「3倍じゃ……やらないですね」

 ITエンジニアの素養は早いうちからあったのかもしれない。小学校のときからコンピュータに興味があった。MSXが欲しくて仕方がなかったのだという。だが小学生にはぜいたく過ぎた。「2年越しで親に交渉しました。クリスマスプレゼントも、お年玉も、誕生日プレゼントも全部そこに回すという約束でようやく買ってもらえました」

 使い方を教えてくれる人はいない。小学生だから英語も分からないので、プログラムの単語や論理構造もまるで分からなかった。だが四條さんは雑誌にあるサンプルプログラムを1文字ずつ地道に入力していった。「ただのパンチャーでした」と笑う。

 MSXだけでは飽きたらず、次はファミリーベーシックにも手を伸ばす。ただしこちらは親におねだりする必要はなかった。友達で「購入したけど飽きた」と宙に浮いているものがあったからだ。

 意味が分からなくても、取りあえずプログラムを入力してみる。入力して動かなければ、頭から文字を見比べて確認する。ようやくプログラムが動くとうれしくてたまらなかった。

開発者には予想外の検証をする

 高校生になり、中古でMacintoshを入手した。「いまでもマックは好きです。マックだとどこか『遊び心』を感じます」と四條さんは話す。

 大学は経営工学を専攻した。「工学」と名が付くものの、あまりコンピュータには縁がなく、工学部というよりは経済学部的な雰囲気のある学科だった。正直いって「面白くなかった」。好奇心をかき立てられることはなく、結局大学は中退してしまう。

 アルバイト先は「マックに関するもの」で探した。そして見つけたのがマックでソフトウェア開発をしている会社だった。ただし開発のスキルがないので最初の仕事は検証だった。

 検証というと地道な作業が続く。だが小学生時代に意味も分からずプログラミングしていた四條さんである。根気の要る作業には強かった。正常系の検証を黙々とこなすが、四條さんはそれだけではなく独自の検証も行った。むしろ四條さんにはこの方が楽しみだったようである。「どうしたら開発者に嫌われるかなと考えていました」といたずらっ子のように笑う。

 だが四條さんは開発者への嫌がらせで独自の検証をしたのではない。開発者が予想もしない操作や状況ではどうなるのか純粋に興味があったからだろう。関係のないボタンを押す、プログラムが通信中にネットワークケーブルを外すなど、通常では起こり得ない状況を次々と思いつき、それを試してみた。もしかしたらファミコンで裏技を探すような感覚に近いのかもしれない。

 それでいくつか価値のある検証もできた。とはいえ四條さんは苦笑いをしながら正直に打ち明けてくれた。「一部の開発者には嫌がられました」

独学でORACLE MASTER 8i Platinum取得

 四條さんにとってアルバイト先は貴重な経験を積む場だった。アルバイトでありながらも、社員は四條さんにコンピュータの基礎を学ぶ機会を与えてくれた。アルバイト先の会社はMacintoshをベースにメールのパッケージを開発していたので、社員のITエンジニアはネットワークやメールの仕組みなどに強かった。だが懇切丁寧に教えてくれたわけではない。「RFCの原文を読むようにといわれました」

 初心者にRFC原文読破はちと難易度が高いかもしれないが、ネットワークやメールのプロトコルについては正統な資料である。一度は目を通すべきだろう。

 そのうちに独学でめきめきとスキルを向上させた。ネットワーク通信やメールの手順、SQLなどをマスターしていった。特に熱が入ったのはOracle Databaseだった。当時はOracle Database 8iの時代だ。アルバイト代からORACLE MASTERの受験費用も捻出(ねんしゅつ)し、8i Platinum(現在の資格制度ならGoldに相当)まで取得してしまったという。

 「アルバイト代をけっこうもらっていましたので」。けろりという。アルバイトで「そこまでやるか」というレベルだ。もっともアルバイトを始めて数年が過ぎ、ORACLE MASTERや各種のスキルを習得するころには会社から「社員として働かないか」と誘われることもあった。だが「会社員になりたい」という気は不思議とあまり起きなかった。

東京でのオラクルの仕事に誘われるが

 アルバイトを始めて3年目になるころ、アルバイト先にも変化が起きてきた。会社の経営方針が変わったことが大きい。パッケージから受託開発に主眼が置かれるようになり、四條さんが尊敬する「スーパーITエンジニア」らが何人か会社を離れていった。

 ふと四條さんは「潮時かな」と感じた。会社の方針転換やITエンジニアが去り、アルバイト先の魅力が減少した。だがそれだけではない。3年間という時間に節目を感じたのもあったのだろう。この3年間で四條さんは意欲的にスキルを吸収し、ITエンジニアとして飛躍的に成長した。

 「ここで学べることは一通り学んだ」。卒業するような感覚だろうか。アルバイト先を辞めると、失業手当をもらいながら職業訓練学校で学ぶことができた。それでしばし学校に通う日々を続ける。販売システムから色彩検定まで、幅広く手を伸ばし学んでみた。

 あるときに「東京でオラクルの仕事がある」という誘いがあった。これこそ四條さんが待ち望んでいたものだった。この会社と面接を進めながら、学校を辞める決断をした。だが学校を辞める手続きをした直後に、目当てだった東京でのオラクル案件は棚上げになってしまった。

 肩すかしである。ただし目当ての案件は流れたが、就職まで流れたわけではなかった。四條さんが望めばその会社に就職する見込みはあった。だが、あてがなくなってしまったショックが大きかったのかもしれない。また会社の社員からいい評判があまり聞けなかった。それでいまいち踏ん切りがつけられなかった。結局、この会社への就職は辞退した。

東京行きがついに決定

 とはいえ、学校を辞める手続きはすでにしてしまった。手当はもう止められてしまう。早急にどこか働き口を探さなくてはならなかった。それで慌てて地元の会社に就職した。ここは受託開発がメインの零細企業だった。

 業務はプログラミングとネットワーク管理が半々といったところ。プログラミングはVisual Basic、Java、Perlなどが中心だが、これまで得た知識があったのでスキル的にはまったく問題がなかった。

 2年後、その会社で「東京で仕事がある」といわれた。四條さんにとって東京で働くことは1つの目標だった。当時持っていた東京の印象を聞くと喜々として四條さんは話す。「だって日本一の街ですよ。優秀なITエンジニアもいるでしょうし、北海道にはないイベントにも足を運べますし」

 東京が日本一で魅力的なのはあくまでITエンジニアとして働き、スキルアップをする観点からのようだ。さすが四條さんである。では東京に来てからイベントには望みどおり足を運んでいるかと聞くと、苦笑いしてこう答えた。

 「仕事が忙しくてあまり行けていません。しかしOracle OpenWorldなど年に一度くらいは足を運んでいます」

スキルアップができないことに失望

 なんとか念願の東京勤務が決まり、取り急ぎ多摩に住居を構えた。だが最初の3カ月は栃木が常駐先だった。月曜日に移動し、平日は栃木に泊まり、週末多摩に帰るという生活だった。その後も常駐先は数カ月おきにころころと変わった。

 当初の期待とはうらはらに落胆が四條さんの心に広がってきた。暗い気持ちになってしまうのは、常駐先が変わるためだけではなかった。複雑な契約関係で名刺を何種類も持ち、開発以外の雑多なことで煩わされることも大きかった。

 「このままではスキルアップは望めそうもない」。おそらく四條さんにとって、ITエンジニアとしてステップアップが望めないのは苦痛だったのだろう。ITエンジニアとして、また四條さんの人生では、スキルを身に付けることこそが「前進」であり、それが実感できない環境では何か大事なものが欠けた状況だった。

エージェントに相談して希望どおりの企業に

 東京に来てから約1年、スキルアップが望めないということで本格的に転職を意識するようになった。常駐先を移るのはおよそ数カ月単位なので、毎回その前に確認がある。2005年6月に「次の常駐先を引き受けるか?」と確認されたとき、意を決して「引き受けない」と断った。同時に退職することも告げた。

 四條さんの就職活動はほぼこの段階からスタートする。つまり次の就職先が決まらないうちに退職を宣言してしまったのだ。しかし退職を告げなければチャンスは数カ月後になってしまう。いま、このチャンスを逃すわけにはいかなかった。

 前回の就職活動と同じく、今回も早急に決める必要があった。各種転職サイトに登録し、@ITジョブエージェントにも登録した。その中でイムカの宮脇氏が相談に乗ってくれた。結果的には就職先は2週間で決まり、2005年7月から新しい就職先に勤務するようになった。超短期の就職活動だった。

 次の就職先への要望として出したのは当然ながら「スキルアップが続けられる」会社である。結果的に就職先として決めた会社(アルゴ21)は社員の技術力を重視し、年配の技術者も多く抱えている。社内にスペシャリスト向けの資格制度があることも四條さんには魅力的に見えた。

 また「これまで小さな会社ばかりだったので、もう少し規模の大きな企業がいい」という希望も出した。アルゴ21は社員数約1000人、希望よりやや多いくらいだった。それよりも「東証第一部上場」企業であることは地元の家族や友達を仰天させたそうだ。

いまは仕事とプライベートに充実した日々

 転職してから約1年半、いまでもこの転職に四條さんは満足している。満足どころか、四條さんはとても輝いている。

 転職先では自らセキュリティについての社内勉強会を開催するほどだ。仲間と一緒にスキルを高めることが楽しいという。ORACLE MASTERの資格も更新した。前に取得したときはORACLE MASTER Platinum Oracle8i Databaseだったので、ORACLE MASTER Gold Oracle9i Databaseを経由してORACLE MASTER Gold Oracle Database 10gに更新した。

 「次はネットワーク関係にも力を入れていきたいです」

 そしていまでは自宅で本格的なルータが稼働しているという。

 それから四條さんが輝いているのはもう1つ別の原因がありそうだ。実は最近子どもが生まれて父親になったばかりなのだ。「おむつ代が高いんですよ。1カ月に5000円もするなんて」「先日ディズニーランドに出掛けたら服やおもちゃが高いこと」と話す様子は出費に悩まされているものの、喜びがにじみ出ている。

 いまこうして四條さんが職場環境やプライベートで充実感を満喫していられるのも、やはり技術志向ゆえだろう。自分にとって何が大事かを見極め、それを目指して職場を変えた。ここまで来る道が平たんではなかったからこそ、満足もひとしおだろう。

担当コンサルタントからのひと言

 四條さんに最初にお会いした際の印象は、「決してスマートではないけれど、実直でひたむきに何かに取り組んでいく方」というものでした。これまでのご経歴をお聞きしたところ、紆余(うよ)曲折があり、歩まれてきた道が平たんなものではないと感じました。

 それでも、JavaやOracleに強い点、独学でさまざまな勉強をされてきた熱心さなどがアピールポイントとなると感じました。企業の方も四條さんにお会いすれば、きっと仕事や技術に取り組む姿勢など、四條さんが持つポテンシャルを感じ取ってくれるのではと思い、現在の会社をご紹介いたしました。

 規模の大きな会社という四條さんのご希望と、私もいままでとはまた違うステージで技術を高めていただきたいという趣旨の2つを考えてご紹介しました。現在もご活躍されていらっしゃるご様子をお聞きして非常にうれしく思います。

 ぜひ、今後も持ち前のひたむきさで頑張っていただければと思います。


記事のためインタビューに出てくれる転職経験者募集中
本連載では、さまざまな理由で転職したITエンジニアを募集しております。なぜ転職したのかを中心にお話を聞かせてください。記事のインタビューに当たっては、実名、匿名どちらでも構いません。インタビューを受けてもいいという方がいらっしゃいましたら、次のアドレスまでお知らせください。なお、インタビューを受けていただいた方には、多少ではありますが謝礼を差し上げております。
連絡先: jibun@atmarkit.co.jp



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